エンジョイメントとは、経験から意味を発見して楽しみを見つけること。経験学習サイクルのひとつです。エンジョイメントや経験学習について解説します。
目次
1.エンジョイメントとは?
エンジョイメントとは、経験から意味を発見することで、経験学習(経験をとおして得た学び、あるいはその学びを次へ生かすこと)に重要な3つのサイクル「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」のひとつです。
仕事のエンジョイメントを得る、つまり実務経験から意味を発見するためには、自ら仕事の背景を深堀りして仕事の面白みや喜び、やりがいなどを発見しようという姿勢で望む必要があります。
英語の「enjoyment」の意味とは?
エンジョイメントの語源となっているのは、英語の「Enjoyment」という名詞で、意味は「楽しみ」や「喜び」です。「ふんだんに持っていること」や「恵まれていること」といった意味で使われる場合もあります。
2.経験学習とは?
「実際に経験から事象から学びを得て、次へ生かす」という一連のプロセスを指す概念。
マネジメントの分野だけでも多くの理論があり、人材育成分野では、組織行動学者デイヴィット・コルブ氏が提唱した、「経験学習モデル」がよく知られています。
経験学習モデルでは、体系化された知識を受動的に習うトレーニングと、実践から学ぶ経験学習とを区別しているのが特徴です。人が学びを得るプロセスを「経験、省察、概念化、実践(経験)」の4ステップに定義しています。
経験学習とは? コルブの経験学習モデル、サイクル、具体例
経験学習とは、経験から学ぶ学習プロセスです。ここでは、経験学習についてさまざまなポイントから解説します。
1.経験学習とは?
経験学習とは、経験の中から学んだ内容を次に活かしていく学習のプロセスです...
3.経験学習のための要素とは?
「経験学習」に必要な要素は、次の3つです。
- ストレッチ:挑戦するための土台作り
- リフレクション:経験のフィードバックと学習
- エンジョイメント:経験を楽しんで意味を発見
それぞれの要素について解説しましょう。
①ストレッチ:挑戦するための土台作り
背伸びして新しいことにチャレンジする、およびそのための土台作りのこと。由来は英語の「Stretch(伸び)」です。
目標のレベルに合わせた足場、つまり組織の体制や制度が形成されていれば、チャンスが巡ってきた際、ひるまずにチャレンジできるでしょう。なお目標が高くなればなるほど足場を頑丈にする必要があります。
②リフレクション:経験のフィードバックと学習
現在進行形の体験のなかで同時に振り返りを行うこと。「Reflection(内省)」を意味しています。
目的は「反省」ではなく「内省」し、失敗も含めて経験を糧とすることです。よって自分で省みるだけでなく、ほかの人からフィードバックを受け、批判もオープンに受け入れる心構えが必要でしょう。
また上司やマネージャーは失敗をとがめる、あるいは必要以上に責任を追及するのは避けましょう。本人が萎縮する、あるいは意欲が低下する恐れもあります。
リフレクションとは? 意味や使い方、具体的なやり方を簡単に
人はさまざまな経験を通して成長していくものですが、その経験を大きな成長につなげるためには、自分の行ったことに対する「振り返り」をしっかり行うことが重要です。ここでは、企業の人材育成にとって大切な振り返...
③エンジョイメント:経験を楽しんで意味を発見
体験自体に集中して面白さを見出すこと。そのためには「仕事をやりきること」が重要となります。やりきった際に生まれる達成感がエンジョイメントを高め、自らが成長しているという実感を得られるからです。
またエンジョイメントが高まると、仕事の背景まで考えられるようになり、仕事の意味を見出せるようになります。
今は楽しみを見出せない仕事でも、エンジョイメントを見出せる場合も少なくありません。「きっと、あとでわかる何かがある」と考えて取り組む姿勢を持ちましょう。
4.経験学習が持つ3つの要素を高める原動力
経験学習のストレッチやリフレクション、エンジョイメントといった要素は、「仕事に対する思い」つまり自分の内部から生じる原動力に応じて高まります。さらに効果を高めるには、「人とのつながり」、つまり外部からの働きかけが有効です。
- 思い
- つながり
- エンジョイメントが経験学習に与える影響
①思い
仕事に対する目標や価値観、信念やこだわりなどで、自分の内部から生じる原動力です。「思い」は2つの欲求で構成されていると考えられています。
- 他者に認められるために成果を生み出したいという欲求
- 自分自身が成長したいという学習への欲求
これらの欲求が満たされると、仕事に対するやりがいや達成感などをより大きく感じられ、経験学習サイクルを回す原動力となります。
②つながり
同期や先輩、後輩、異業種などさまざまな立場の人とのつながりのこと。これらの人々は、リフレクションに欠かせないフィードバックをもたらします。
またつながりがストレッチとなる経験をもたらすこともあるでしょう。さらに仲間と仕事の楽しさを共有すればエンジョイメントが高まります。
③エンジョイメントが経験学習に与える影響
経験学習にて、「エンジョイメントを得られるか」は、もっとも重視される要素。エンジョイメントを得られると経験学習への意欲が高まり、サイクルを継続しやすくなるからです。
ストレッチでは新しいことにチャレンジする楽しみがあり、リフレクションで教訓を得て自分なりの方法を導き出し、工夫を凝らして実行するという楽しみがあります。これらが仕事のやりがいや面白さにつながるのです。
さらに自分自身の成長を感じられると、より大きなエンジョイメントを得られるでしょう。
5.エンジョイメントを見失ったときにすべきこと
不慣れな仕事や難易度の高い仕事などに挑んだ際は、思うようにエンジョイメントへつながりません。ときには成長や成果が達成できず、いわゆるスランプ状態に陥ってしまうときもあるでしょう。
ここではスランプから脱却し、エンジョイメント取り戻すための方法について解説します。
スランプとは?
実力を十分発揮できない状況や成長が止まってしまったように感じること、あるいはそのような状況です。
経験学習でも、「うまくできない」や「成果が上がらない」などの状況が続くと、スランプに陥る可能性があります。とくに経験学習サイクルの要素のうち、エンジョイメントが得られなくなった場合、深刻なスランプかもしれません。
経験のなかに意味や面白みを感じにくくなってしまうため、経験学習サイクルそのものへの意欲が薄れてしまいます。このようなときはストレッチに立ち戻り、本人が興味を示す分野や職務に対して新たな挑戦を促すとよいでしょう。
スランプから脱却し、エンジョイメントを得るための対処法
「頑張っているのに成果が出ない」「成長している実感が持てない」といった感覚を覚えたとき、スランプに陥っている可能性があります。放置してしまうと、経験学習サイクルの継続自体が危ぶまれるでしょう。
ここではスランプに陥ってしまった際におすすめの8つの対処法について解説します。
- 気分転換
- ルーティンを大切にする
- 問題を手放す
- 比較しない
- 成功体験を積み重ねる
- 相談する
- 栄養、睡眠を十分にとる
- キャリアに合ったストレッチに挑戦する
①気分転換
スランプに陥ったら一度気分をリセットする、つまり気分転換が効果的です。仕事のことを考え続けて、不安になったりうまくいかないことを悩んだりするといった状態が続いて、スランプになる場合もあるからです。
たとえばいったんその経験学習を中断し、まったく別分野の経験学習を開始するという方法があります。プライベートでは仕事と関係のない趣味や、物理的に離れた場所で時間を過ごす旅行などを取り入れて、休日は仕事の悩みと距離を置くのも有効です。
②ルーティンを大切にする
スランプの内容や仕事の状況によっては、普段と同じことを続ける、つまりルーティンを継続したほうがよい場合もあります。ルーティン化している仕事を丁寧に続けていくと、自分の考え方のクセや苦手な部分が見えやすいからです。
むしろ自分のやるべき仕事を淡々と続けられるルーティンワークは、スランプの際、救いになるでしょう。ルーティンでスランプを脱したという経験となり、次にスランプに陥っていった場合にも落ち着いて対処できます。
③問題を手放す
スランプになって自分の判断や決断に自信が持てなくなった際、いったん考えるのをやめて問題を手放す方法もあります。決定権がなくどうしたらよいかわからない問題や自分だけではどうにもならない問題などが、スランプを引き起こしている場合もあるからです。
スランプに陥っている人は、どうしても問題の負の部分に目がいき、悪いほうに引き寄せられてしまいます。スランプを深刻化させないためにも、急がない決断は後回しにすることも大切です。
④比較しない
スランプのとき、他人と自分を比べるのは避けましょう。自分ひとりだけ仕事ができないように感じてしまうからです。他人と比べて「勝った」「負けた」と考えるクセのある人は周りに左右されやすく、自分がこの仕事で何をしたいのか、を見失いやすくなります。
このような場合、他人と比べるのではなく、過去の自分と今の自分がどう違うかに着目しましょう。自分がどれだけ成長したのか実感でき、スランプを抜け出すきっかけとなりえます。
⑤成功体験を積み重ねる
大きな成功体験が自信を高めてくれるのはもちろん、小さな成功体験の積み重ねでもスランプを打開できます。成功体験を積むと成長を実感でき、自信につながるからです。自信がつけば新たな挑戦への意欲が沸き、経験学習サイクルを回しやすくなります。
大きな課題に挑戦してつまずいてしまった際は、ステップを多くしてハードルの低い目標を立ててみましょう。このときどの仕事が無事に終わったかわかるようなチェックシートやリストを作成すると、成果や成長を実感しやすくなります。
⑥相談する
スランプに陥ると人との連絡が億劫になってしまいがちですが、信頼できる人やその分野に強い人の助言を受けるのは非常に重要といえます。
その仕事を長年担当している人は経験が豊富で、どこでスランプに陥りやすいかを把握している可能性があるからです。「相談したらあっけないほど簡単に解決した」というケースも少なくありません。
相談する前には、自分が「どこが分からないのか」や「何に迷っているのか」を明確にしておきましょう。この事前作業をするだけでスランプから抜け出せる場合もあります。
⑦栄養、睡眠を十分にとる
スランプから抜け出すためには、ベストな体調を保つのも重要です。スランプに陥っている人は、闇雲に仕事を続けてしまったり、悩みすぎて眠れなくなったりしがちといえます。
食事や睡眠といった生活のリズムを一定に保つことは、体調を整えるための基本的な対策です。生活のリズム自体をかんたんなルーティンと捉え、「○時になったら食事を取る」や「○時になったら寝る」と決めて実行してみましょう。
十分な睡眠とバランスのよい食事をとると集中力や持久力が上がりやすくなるので、問題解決にじっくり取り組めます。
⑧キャリアに合ったストレッチに挑戦する
スランプの時期、ストレッチを見直すのも有効です。チャレンジの足場となるストレッチが難しすぎるとスランプの状態を長引き、ストレッチがかんたんすぎると新しい気づきが得られないからです。
キャリアとスランプの状況に合わせて、ストレッチの分野やレベル、責任の大きさなどを再考し、高い関心を持って取り組めるテーマを選びましょう。伸び悩みが原因となっているスランプには、少しがんばればできそうなストレッチを選びます。
6.エンジョイメントを知るための参考書籍
大学では経験学習に関するさまざまな研究や調査、考察などがなされており、関連書籍も多数発行されています。エンジョイメントをより深く知るのにおすすめな経験学習の参考書籍を紹介しましょう。
職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門
著者は日本における経営学習の第一人者である松尾睦氏。経験学習の3要素である「ストレッチ」や「リフレクション」「エンジョイメント」の概要と、3要素を高める原動力となる「思い」と「つながり」について、述べています。
また経験学習の3要素は、自分が持っていない知識やスキルの獲得につながるため、新入社員だけでなくベテランやマネージャーにも推奨しているのです。
実践に役立つチェックリストやカルテ、キャリアシートなどの「学ぶ力を高めるツール」も掲載しているので、すぐに経験学習に取り組めます。
最強の経験学習
著者は「学習する組織」の推進に取り組んでいるケイ・ピーターソン氏。この本では、経験学習をさらに細分化した9つの学びのスタイルから、人生を変える方法について、紹介しています。
目的は自分の学びのスタイルがどのタイプなのかを知り、自分の特性に合わせた学習スタイルを柔軟に選ぶこと。自分はもとより、同僚や部下などのタイプを知っておくと、より機能的なチーム作りにつながります。
これから初めて経験学習に取り組む人はもちろん、経験学習の効果をより高めたい方へおすすめです。
部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ
著者は前述の松尾睦氏で、こちらは部下を育てるための経験学習の視点から人材育成をおこなうためのテキストです。経験学習の基本プロセスから始まり、強みを探って成長ゴールによって仕事を意味づける方法などを紹介しています。
ストレッチのための仕事の創り方や、成長を促すための振り返りを支援するスキルを詳細に解説しているのも特徴です。付録として強みのリストや自己診断チェックリスト、育成ワークシートなどが付いているので、ぜひ社内で活用しましょう。