エンプロイーエンゲージメントとは、従業員が企業に対して持つ愛着や思い入れのこと。ここではエンプロイーエンゲージメントについて詳しく解説します。
目次
1.エンプロイーエンゲージメントとは?
エンプロイーエンゲージメント(Employee Engagement)とは、従業員が自社に対して抱く愛着や共感、思い入れなどを指す造語のことです。
この概念は1990年代初頭にアメリカの「ゼネラル・エレクトリック社」が提唱し、日本では「従業員エンゲージメント」とも呼ばれています。
企業に対して抱く愛着とは、具体的にいうと企業理念に対する共感や帰属意識などです。またそれにもとづく事業への貢献意欲や職務に対する満足感なども、エンプロイーエンゲージメントに含まれます。
エンゲージメントとは?
エンゲージメント(Engagement)は、「約束」や「雇用」、「深いかかわり」といった意味を持つ英語です。意味は使用される分野によって変わり、たとえば人事にかかわる分野では、「(自社への)愛着」や「愛社精神」という意味で用いられるのです。
従業員のエンプロイーエンゲージメントが高い企業は、企業と従業員の良好な関係を築けているといえます。
2.エンプロイーエンゲージメントに類似する言葉
エンプロイーエンゲージメントと混同しやすい類似する言葉には、何があるのでしょう。類語の意味とエンプロイーエンゲージメントとの違いを説明します。
- ワークエンゲージメント
- 従業員満足度
- モチベーション
- ロイヤルティ
①ワークエンゲージメント(Work Engagement)
「個人が仕事に対して抱く愛着」や「熱意」のこと。
広義では仕事に対して持つポジティブな気持ち全般を指し、仕事をしているなかで湧き上がってくる活力なども含まれます。ただしワークエンゲージメントで注目しているのは、あくまでも個人と仕事との関係性です。
一方、エンプロイーエンゲージメントは従業員と企業の関係性を示したもので、仕事内容だけでなく理念や風土、待遇や人間関係などさまざまな要素が含まれています。
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②従業員満足度
従業員が与えられた仕事や企業内での境遇に対する満足度合いのこと。表面的な部分だけを見るとエンプロイーエンゲージメントに似た言葉に見えます。
しかし従業員満足度の基準はあくまでも「従業員側が満足している」こと。よって従業員は現状に満足していても、企業側は「もっと成長してほしい」など不満を持っている可能性もあるのです。
なおワークエンゲージメントとも意味が異なります。従業員満足度に「愛着にもとづく企業への忠誠」といった意味は含まれていません。
③モチベーション
「動機づけ」や「刺激」、「意欲」といった個人の内部に生じる感情のこと。従業員のモチベーションは、仕事内容や評価、待遇や人間関係など、さまざまな要因で左右されます。
一方、エンプロイーエンゲージメントは企業と従業員の関係性なので、根本的な意味合いが異なるのです。ただしモチベーションが高まった結果、企業への愛着や忠誠心につながるときもあるため、まったくの無関係というわけではありません。
④ロイヤルティ
「忠誠心」「帰属意識」などのこと。従業員と企業の関係性を示す言葉として使われる場合もあり、その際は「(企業への)忠誠」という意味合いが強くなります。
エンプロイーエンゲージメントと似た意味であるものの、ロイヤルティは企業と従業員が「主従関係」にあり、従業員が企業側へ尽くす状態になっています。
一方、エンプロイーエンゲージメントでは企業と従業員の関係は対等に近く、両者が一体となってともに成長を目指す状態です。
3.エンプロイーエンゲージメントが注目を集めている理由
提唱されてから30年以上が経過したエンプロイーエンゲージメント。すでに広く知られており、今日の企業経営でも注目を集めています。エンプロイーエンゲージメントという言葉が注目を集めている理由について、説明しましょう。
- 組織と個人の価値観の多様化
- 労働市場の流動性の高まり
①組織と個人の価値観の多様化
組織では従来型の雇用形態が限界を迎え、終身雇用や年功序列が通用しなくなってきました。一方、従業員の価値観も変化し、昇給や昇進に対する意欲の低下、「働きがい」やワークライフバランスが重視される傾向にあります。
多様な価値観を持った従業員が自社への愛着を持つには、両者の価値観を一致させる、つまりエンプロイーエンゲージメントへの取り組みが必要なのです。
②労働市場の流動性の高まり
終身雇用制度が崩壊した今日、「入社したら退職まで勤続する」という意識は薄れました。
その結果、正社員であってもキャリアアップや働きがいの追及や待遇の改善を目的として転職をするケースも、多く見られます。優秀な人材ほど労働市場での需要が高いため、流出を防がなければなりません。
人材確保方法のひとつとして自社への愛着を高める、つまりエンプロイーエンゲージメントの向上に注目が集まっているのです。
4.エンプロイーエンゲージメントが職場に与える影響
エンプロイーエンゲージメントの向上は、企業と従業員の双方にとってメリットがあります。そのため今日では、エンプロイーエンゲージメントを高める取り組みを推進する企業が増えているのです。ここではそれによって得られるメリットについて説明します。
エンプロイーエンゲージメントが高い職場
企業理念や目標、方針などが従業員間と共有できていて、なおかつ従業員がそれらの考え方に同意している職場は、エンプロイーエンゲージメントが高い傾向にあります。
また企業としての考え方や価値観を従業員と共有するには、コミュニケーションが欠かせません。
エンプロイーエンゲージメントが高い職場では、従業員同士や上司と部下、経営層と一般の従業員の間で意見交換や提案などを行う機会を積極的に設けている場合も多いです。
高いエンプロイーエンゲージメントのメリット
エンプロイーエンゲージメントが高い状態を維持すると、企業や従業員にさまざまなメリットがもたらされます。エンプロイーエンゲージメントが重視されるのはこのメリットを得るためでもあるのです。
この考え方のもと具体的な行動を起こす際は、期待できるメリットを理解しておきましょう。
- チームの団結力
- 生産性の向上
- 離職率の低下
- 顧客エンゲージメントの向上
①チームの団結力
エンプロイーエンゲージメントが向上している、つまり企業としての理念や方向性などが従業員間にも共有されていると、従業員同士での団結力が強まります。
同じ目標の達成を目指してお互いをサポートするようになり、目標達成までの期間短縮や成果の増大化などの効果が期待できるのです。
また社内で意見の違いが生じたとき、解決能力が高まります。団結力が高いと、単に反対するだけでなく、お互いの意見を尊重したうえでよりよい解決方法を探そうとする意識が生じるからです。
②生産性の向上
エンプロイーエンゲージメントの高い従業員が多いと、生産性が向上しやすくなります。このような従業員はモチベーションや主体性、貢献性などが高まっているため、担当する業務はもちろん、課題解決にも自主的に取り組むからです。
アメリカのGallup社による2017年の調査では、エンゲージメントスコア上位25%の企業は、下位25%の企業よりも生産性が17%、利益率が21%も高いという結果が出ました。事業縮小の割合も大きく下がっており、これも生産性の向上による効果と考えられます。
③離職率の低下
エンプロイーエンゲージメントが高いと、離職率の低下につながります。働き方に対する個人の価値観が変化し、昨今、転職を目的とする離職も増えました。
エンプロイーエンゲージメントが向上した従業員は自社への愛着や仕事に対するやりがいが高まっているため、自社で働き続けようという気持ちになりやすいのです。アメリカのGallup社による2017年の調査では、エンゲージメントスコアの高い企業は、そうでない企業よりも離職率が24%低いという結果が出ています。
また定着率の高さは企業イメージの向上にもつながるため、優秀な人材の確保がしやすくなるという副次的なメリットも期待できるでしょう。
④顧客エンゲージメントの向上
エンプロイーエンゲージメントの向上は、顧客エンゲージメントの向上に直結します。エンゲージメントの高い従業員は与えられた仕事に対する意欲も高く、顧客に対して質の高いサービスや対応、製品などを提供できるようになるため、顧客満足度も高まるのです。
実際にアメリカのGallup社による2017年の調査では、エンゲージメントスコアの高い企業は、そうでない企業よりも顧客評価が10%高く、品質上の欠陥が40%少ないという結果が出ています。
5.エンプロイーエンゲージメントを高める方法
エンプロイーエンゲージメントを高める方法はさまざまで、企業によって最適なものは異なります。ときには制度や設備を変える検討も必要でしょう。ここではエンプロイーエンゲージメントを高める5つの方法について説明します。
- サーベイの積極活用
- 理念や目標の共有
- 適切な人事制度の導入
- オフィス環境の改善
- ワークライフバランスの実現
①サーベイの積極活用
エンプロイーエンゲージメントを高めるには現状分析が不可欠です。このときサーベイ(調査するためのツールで、アンケート配信機能や回答の集計機能、スコアリング機能などが搭載されている)を利用するとよいでしょう。
サーベイツールを活用すれば、各従業員の自社に対する愛着度や信頼度などを可視化できます。迅速かつ定期的に測定できるうえ、改善対策にもすばやく取り組めるでしょう。
②理念や目標の共有
研修をとおして、企業の理念や目標を従業員と共有するのも重要です。これらが従業員間と共有されていなければ、エンプロイーエンゲージメントの向上につながりません。具体的には以下の項目を伝えるとよいでしょう。
- 自社のミッションや企業理念、ビジョン
- 自社が社会や顧客へもたらす価値
- 各業務や各従業員と上記項目との関連
理解して受け入れた従業員はエンプロイーエンゲージメントが向上しているといえます。さらに自分の業務や行動に落とし込めた従業員は、エンプロイーエンゲージメントがより高い状態といえるでしょうす。
③適切な人事制度の導入
適切な人事や評価は従業員の信頼やモチベーションを向上させます。そのためエンプロイーエンゲージメントの要素には評価や報酬も含まれているのです。
たとえば従来型である年功序列のような人事を行うと、キャリアアップしたい若い従業員は不満を感じるでしょう。仕事に対する意欲や向上心の低下を招き、最悪な場合は離職につながります。また正当な評価を得られない、あるいは評価が高くても報酬が連動しないといった場合も同様です。
エンプロイーエンゲージメントの向上を目指すなら適切な人事制度や評価制度、報酬制度などの導入を検討しましょう。
④オフィス環境の改善
オフィス環境を改善して働きやすさを向上すると、エンプロイーエンゲージメントが高まります。従業員が働きにくいと感じた際、オフィス環境に由来しているケースも多いからです。現在の設備や制度を見直し、より働きやすい環境整備に努めるとよいでしょう。
具体的な取り組みは下記のとおりです。
- 個人または少人数で使用できる専用スペースの設置
- フリーアドレス(個人席を固定しないレイアウト)の導入
- リフレッシュスペースの設置
- 気軽にコミュニケーションが行えるツールの導入
- テレワークやWebミーティングなどの導入
同時に従業員がオフィス環境に関する不満を口にできる制度や雰囲気作りも、行いましょう。
⑤ワークライフバランスの実現
ワークライフバランスの実現は、エンプロイーエンゲージメントの向上に効果的です。
自社の制度や取り組みで仕事とプライベートが充実する、つまり従業員のワークライフバランスが改善すると自社に対する信頼や満足が高まり、愛着や貢献意欲が高まりやすくなります。たとえば以下のような制度や取り組みです。
- 育児休暇や介護休暇、有給休暇を取りやすい人事体制
- 残業を減らす制度
- 仕事やプライベートで利用できる福利厚生
ワークライフバランスの取れた企業はイメージもよくなるため、優秀な人材が集まりやすくなるといったメリットも期待できます。
6.エンゲージメントサーベイとは?
従業員が企業に対して持つエンゲージメントを可視化するツールのこと。
従業員の考えや感情などを問うWebやメールのアンケートなどを配信し、集めた回答の集計はもちろん、愛着や信頼などを数値で表示するスコアリングやランク付けといった分析まで行えます。
年代や性別、部署などのセグメント分析ができるツールを選べば、自社が高めるべきエンプロイーエンゲージメントの要素を把握しやすくなるでしょう。
エンゲージメントサーベイができること
エンゲージメントサーベイを活用すると従業員の本音を把握でき、それらを分析すれば自社のエンゲージ課題を発見できます。
従業員の本音を聞き出す
エンゲージメントサーベイには従業員の本音を聞き出すという重要な役割があります。従業員の本音には、取り組むべき課題が隠れている可能性も高いからです。
自社に対する要望や不満などが発見できれば早期に対策を取れるため、エンプロイーエンゲージメントの向上につながります。
上司と部下が対面する面談などではなかなか本音が言いにくいという従業員も多いので、エンゲージメントサーベイのWebアンケートやメールアンケートなどを活用しましょう。
問題の可視化と解決
エンゲージメントサーベイは、企業における広義の課題を可視化し、それらを解決するために役立ちます。組織としての課題を多くの従業員が共有し、協力して解決を図るためには、だれが見ても課題が分かる状態になっていなければなりません。
たとえば離職率や生産性、顧客満足度などが課題となっていた場合、実はエンゲージメントサーベイの低下が関与している可能性もあるのです。
エンゲージメントサーベイで自社に対する従業員の愛着度合いを計測すれば、人事や経営の課題を見つけやすくなるでしょう。それにより解決施策の考案や実行も、スムーズに進みます。