みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず一定時間労働したとみなす制度です。
ここでは、みなし労働時間制について解説します。
目次
1.みなし労働時間制とは?
みなし労働時間制とは、実際働いた時間の長短に関係なく、一定時間働いたとみなす制度です。労働基準法の第38条の2に定められており、実際の労働時間を把握するのが難しい場合などに用いられます。
たとえば、みなし労働時間制では、所定労働時間が8時間の場合、実労働時間が7時間であっても8時間働いたこととみなします。
この場合、
- 見なし労働時間
- 実労働時間
の差である1時間分は減給対象にはなりません。
みなし労働時間制の導入状況
みなし労働時間制の導入状況について、厚生労働省による調査があります。
常用労働者30人以上の民営企業約6,400社を対象にした、令和3年「就労条件総合調査」によれば、みなし労働時間制を導入している企業は全体の13.1%(前年13.0%)です。
数はまだ少ないものの、一定の割合企業がみなし労働時間制を導入しているあることがわかります。
2.みなし労働時間制と他の制度との違い
みなし労働時間制のほかに、労働時間に関する制度の一例として、
- みなし残業制度
- 固定残業代制度
があります。
ここでは、みなし残業制との違いについて簡単に解説します。
みなし残業制度との違い
みなし残業制度とは、実際行った残業時間にかかわらず、みなし残業時間とされている一定の時間分の残業代が支払われる制度です。
みなし労働時間制との違いは、
- みなし労働時間制は、所定労働時間にかかわる、みなし労働制度である
- みなし残業制度は、残業時間に関するみなし労働制度である
という点です。
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固定残業代制度との違い
固定残業代制度とは、
- 時間外労働
- 休日労働
- 深夜労働
の有無を問わず、一定時間分の割増賃金を定額で支払う制度です。
みなし労働時間制との違いは、固定残業代制度が残業代を固定した制度である点です。
固定残業代制度では、
- 想定内の時間内残業には追加の残業代は無い
- 想定外の時間を超えた残業には、追加の残業代が出る
ことになります。
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3.みなし労働時間制の種類
みなし労働時間制には3種類あります。ここでは、
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
- 事業場外みなし労働時間制
について簡単に解説します。
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専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、
- 業務遂行の手段や方法
- 時間配分
などを労働者の裁量にゆだねる必要があると定められた業務で、
- 対象業務を労使で定める
- 労働者をその業務に就かせた
場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
対象業務には、
- 情報処理システムの分析又は設計の業務
- 弁護士の業務
- ゲーム用ソフトウェアの開発の業務
など19種類があります。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、事業運営の、
- 企画
- 立案
- 調査
- 分析
などに携わる業務に適用されるみなし労働時間制です。
労働者が、仕事の進め方や時間配分について主体性を持って働くためのものです。
- 労働時間を実労働時間で管理しない
- 労使間で定めたみなし労働時間を1日8時間以内とする
限りにおいて、使用者は残業代の支払いが不要になります。
事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制とは、
- 営業職など従業員の業務が会社の外で行われる
- 会社が従業員の実労働時間を把握することが困難である
場合、所定労働時間働いたとものみなす制度です。
ただし、事業場外みなし労働時間制は、
- 労働時間の管理をする者がグループ行動の中にいる
- 事業場で当日の訪問先や帰社時刻など具体的指示を受けたのち、指示どおりに働き、後に帰社する場合
などの条件に該当する場合には適用外となります。
テレワークでの導入基準
テレワークでのみなし労働時間制の導入基準があります。
ここでは、厚生労働省のガイドラインにおける導入基準について解説します。
業務が自宅で行われている
テレワークでみなし労働時間制を導入する際は、業務が自宅で行われていることが基準になります。
テレワークを行う労働者が、自宅に仕事部屋を確保していない場合、
- 労働時間
- 日常生活時間
の見分けがつかなくなります。
業務が自宅で行われている場合は、労働時間の算定が困難になる可能性があるため、みなし労働時間制を導入します。
情報通信機器が常時通信可能な状態におかれていない
テレワークでみなし労働時間制を導入する際、次に基準になるのは、情報通信機器が常時通信可能な状態におかれていないことです。
常にインターネットに接続できる状態であれば、労働者は使用者からの指示に随時、対応しなくてはなりません。
インターネット環境がなく、指示に即応する義務を課さないことがみなし労働時間制導入の条件となります。
当該業務が随時使用者の具体的な指示で行われていない
当該業務が随時使用者の具体的な指示で行われていないことも、みなし労働時間制の導入基準です。
使用者がテレワーク中の労働者に対して、
- 業務の目的
- 目標管理
- 期限
- 業務の遂行方法
といった指示が必ずしもできるとは限りません。
このように具体的指示が行われていない場合も、みなし労働時間制が導入できます。
4.みなし労働時間制での残業の扱い
みなし労働時間制での残業の扱いについて、
- 原則
- 例外
のそれぞれについて簡単にポイントを解説します。
原則残業はない
みなし労働時間制での残業の扱いは、原則として残業はないと考えます。
みなし労働時間制では、所定労働時間が1日8時間以下に設定されている場合、原則として残業代が支払われません。
たとえば、所定労働時間が8時間以下の場合、実働が7時間と短かったとしても、8時間労働したと見なされます。
このように、労働時間に対する考え方が通常の労働時間とは異なるからです。
残業扱いになるケース
みなし労働時間制での残業は、原則残業扱いになりません。
しかし、みなし労働時間制での残業が、残業扱いになるケースがあります。
たとえば、
- 労働時間が法定労働時間を超えている場合
- 休日労働の場合
- 22時~翌日5時までの深夜労働
には、見なし労働時間制を導入している場合でも残業扱いになり、所定の割増料金の支払いが必要です。
労働時間が法定労働時間を超えている
労働時間が法定労働時間を超えている場合は、みなし労働時間制のもとでも残業代が発生します。
法定労働時間は、1日8時間です。
みなし労働時間制では、法定労働時間の超過時間を残業扱いとし、割増賃金を支給します。
深夜や休日に労働をする場合
深夜や休日に労働をする場合、みなし労働時間制を適用していても残業代が発生します。
- 休日出勤
- 22時~翌日5時までの深夜労働
を行った場合には、これらの時間を残業扱いとし、割増賃金の支給が必要となります。
5.みなし労働時間制のメリット
みなし労働時間制にはメリットがあります。
ここでは、みなし労働時間制のメリットを5項目あげて簡単に解説します。
時間に縛られない働き方が可能になる
みなし労働時間制の1つ目のメリットは、時間に縛られない働き方が可能になることです。
みなし労働時間制では、
- 始業時刻
- 終業時刻
- 休憩時間
などの時間が固定されていません。そのため、労働者は時間に縛られない働き方を実現できます。
使用者の勤務時間管理が楽になる
みなし労働時間制の2つ目のメリットは、使用者の勤務時間管理が楽になることです。
みなし労働時間制では、所定労働時間に対して給与が支払われます。賃金の計算作業が簡素化でき、使用者の勤務時間管理が楽になります。
発生する賃金を固定化できる
みなし労働時間制の3点目のメリットは、発生する賃金を固定化できることです。
みなし労働時間制は、個々の労働者の実働時間ではなく、所定労働時間に対して給与を支払います。
そのため、発生する賃金を固定化できます。
従業員のモチベーションアップにつながる
みなし労働時間制の4点目のメリットは、従業員のモチベーションアップにつながることです。
みなし労働時間制を導入すれば、
- 始業時刻や終業時刻
- 休憩時間
を自分で自由に設定できます。これにより従業員のモチベーションも高まることが期待できます。
生産性が向上する
みなし労働時間制の5点目のメリットは、生産性が向上することです。
みなし労働時間制では、従業員ができる限り少ない労働時間で成果をあげようとするため、制限時間の中で効率的に仕事をするようになるため、生産性が向上します。
6.みなし労働時間制のデメリット
みなし労働時間制にはデメリットもあります。
ここでは、みなし労働時間制のデメリットを3項目あげて解説します。
導入手続きが面倒
みなし労働時間制の1つ目のデメリットは、導入手続きが面倒であることです。
みなし労働時間制を導入する場合、
- 労使協定の締結する
- 労使協定を労働基準監督署長宛に遅滞なく届け出る
といった面倒な手続きがあります。
ただ働きを生み出す可能性がある
みなし労働時間制の2つ目のデメリットは、ただ働きやサービス残業を生み出す可能性があることです。
みなし労働時間だけでは終わらないほどの仕事の量を抱えた場合、労働者はみなし労働時間を超えた時間分、ただ働きをする可能性も否定できません。
未払賃金が発生することもある
みなし労働時間制の3点目のデメリットは、未払賃金の発生です。
みなし労働時間制の適用要件に、「労働時間を算定し難いとき」があります。
個別案件によっては、みなし労働時間制を導入できず、未払い賃金が発生することもあります。
7.みなし労働時間制の導入方法
みなし労働時間制の導入方法には要件があります。
ここでは、
- 就業規則の変更
- 労使協定の締結
- 労働基準監督署への届け出
について解説します。
就業規則の変更
みなし労働時間制の導入には、就業規則の変更が必要です。
- 就業規則に記載がない場合には就業規則の変更
- 労働者が10人未満の事業場で就業規則が制定されていない場合には、労働契約書への記載
が求められます。
労使協定の締結
みなし労働時間制の導入には、労使協定の締結も必要です。
ただし、事業場外労働のみなし労働時間制では、みなし労働時間が法定労働時間内の場合、労使協定の届出の義務はありません。
その場合でも、労使間の実情を踏まえた上で丁寧な協議が求められます。
労働基準監督署長への届け出
みなし労働時間制の導入には、労働基準監督署長への届け出が必要です。
みなし労働時間では、労使協定で定めるみなし労働時間が8時間の法定労働時間を超過する場合、当該労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。