人事管理では人材マネジメントが必要です。なぜ必要とされているのでしょう。また人材マネジメントとは何でしょうか。今回は人事にとって欠かせない人材マネジメントについて解説します。
目次
1.人事管理における人材マネジメント
人事管理における人材マネジメントとは、組織に属する人材の能力を最大限発揮させることに着目し、企業の目標達成を目指す戦略のこと。
人材マネジメントの構築をもとに、効果的な人事管理に注力したいと考える経営者や人事担当者が増加傾向にあります。なぜなら組織を構築しているのは人材で、人材の成長が企業そのものの成長につながるからです。
これまでは、経営資源である「ヒト」「モノ」「金」「情報」のうち、「モノ」と「金」の管理が中心でした。
しかし「モノ」と「金」の管理をしても、それらを扱い取りまとめる「ヒト」が成長しなければ意味がありません。そこで企業では、「ヒト」の確保や育成、つまり人材マネジメントを重視するようになったのです。
2.人事管理における人材マネジメントの要素
人材マネジメントは6つの要素で構成されています。具体的には人材の確保から退職に至るまでのプロセスです。ここではそれぞれの要素の特徴を説明します。
- 採用
- 教育
- 評価
- 報酬
- 配置・異動
- 退職
①採用
人材マネジメントのスタートは、企業の目標達成に向け、組織に必要な人材を外部から雇い入れるところから始まります。採用におけるポイントは、経営戦略やビジョンをもとに採用すべき人材要件を策定すること。
また自社のビジョンに共感できる人材はエンゲージメントが高い傾向にあります。このような人材を雇用できると、周囲の人材、ひいては組織全体のエンゲージメントを向上させる効果が期待できるでしょう。
②教育
人材を採用したのちは、従業員の職種や役職に合わせて教育します。ただし含まれるのは、業務に必要な技術やノウハウといった即時的な学習だけではありません。経営戦略や事業戦略にもとづき、中長期的な育成計画を策定することがポイントです。
そのためには、「どのような人材に成長してほしいか」や、「本人が将来的にどのようなキャリアを希望するか」などを明確にしましょう
③評価
人材マネジメントを進めるにあたり明確な目標と指標、それらにもとづく公平な評価は不可欠です。人事と従業員の双方が納得できる評価は、従業員のモチベーション維持や向上につながります。
「目標がどのくらい達成できたか」といった達成度(進捗度)に応じて、昇給や昇格などの報酬があると、モチベーションも上がりやすくなります。職種や役職ごとに客観的かつ公平な評価が行えるよう、評価制度や組織体制を整備しておきましょう。
④報酬
人材を評価したら従業員の職務内容に応じた報酬を付与します。報酬で一般的なのが、給与や手当、補助金など金銭的な報酬。金銭的な報酬以外では、福利厚生施設の利用や、インセンティブ報酬での旅行や留学などがあります。
適切な処遇を受ければ、従業員は「認められている」「評価されている」という実感が得られやすくなるため、労働意欲の向上や帰属意識も高まるでしょう。
⑤配置・異動
育成した従業員の適性や働きに応じて人材を配置します。従業員にとって、最初の配属先が最適なポジションとは限りません。より従業員のパフォーマンスを上げるためには、部署への移動や職種の転換も必要です。
配属先や異動部署を決める際は、従業員のスキルや特性、周囲の人間関係を考慮したうえで、都度判断しましょう。適材適所に人材を配置できれば本人のモチベーションやスキルアップにつながり、組織全体の成長や生産性の向上といった効果が期待できます。
⑥退職
組織内の新陳代謝を図りたいときは、従業員の退職も検討しなくてはいけません。たとえば中途採用や人事異動によって、「年上の部下と年下の上司」という組み合わせがおこりえます。
部下が「自分より年下の上司の指示は受けない」という考えを持っているとトラブルが生じるのです。このような部下は活躍や成長が見込めませんし、部署全体の業務効率の低下も招いてしまいます。
「ヒト」の効果的な活用や組織の成長を実現するためには、やむをえない退職も必要となるのです。
3.人事管理における人材マネジメントのメリット
人材マネジメントは、人材のエンゲージメントを高め、自立的な思考を養います。そして企業の成長にもつながるのです。ここでは人材マネジメントのメリットを3つ説明しましょう。
- 企業成長の加速
- 人材の成長
- 自立型組織人の育成
①企業成長の加速
適切な人材マネジメントは組織力の強化につながり、企業の成長スピードを加速させる効果が期待できます。ただしそのためには組織と従業員の目指す先を共有しなければなりません。
企業の理念やビジョンと現場の従業員の目標や育成方針などがマッチしている人材マネジメントは、組織の成長ひいては企業の成長を加速させるのです。
②人材の成長
人材マネジメントでは、管理者やリーダー、技術者などの育成にくわえて一般従業員の育成も促進します。たとえばエンゲージメント(企業への貢献意欲)の高い人材の育成においては、全従業員が対象となるからです。
エンゲージメントを高めるには、従業員自身の役割や責任と、企業のビジョンと接続させるとよいでしょう。そのためにも経営戦略にもとづいた人材マネジメントを実施し、従業員と企業のビジョンや現状を共有するための仕組みを構築します。
③自立型組織人の育成
適切な人材マネジメントを行うと、指示を待つことなく自身の裁量で行動できる「自立型組織人」を育成できます。企業のビジョンを正確に把握した従業員は、自分に求められている役割と、達成するための行動を考えられるようになるからです。
自立型組織人が増えるほど業務の効率化や生産性の向上が実現でき、課題やリスクへの早急かつ適切な対応が可能になります。さらに人材マネジメントで自立型組織人を適材適所へ配置すれば、そのパフォーマンスは高まるでしょう。
4.人事管理における人材マネジメント実施の手順
人材マネジメントを行うには、どの段階で何をするべきなのでしょうか。ここでは具体的な人材マネジメントの実施手順を説明します。
このとき「管理職やリーダーに適した人材がいない」「プロジェクトに携わる技術者が不足している」「従業員のモチベーションが低い」など、課題を明確にしましょう。
課題を解決できる人物像が固まったら、スキルや特性、解決できる課題などを文章で記述します。人材育成にかかわる全ての人が、見て同じ人物を想像できるようにするためです。
選択肢によって人材マネジメント計画の内容が大きく変わります。既成概念に縛られず、検討で出てくる選択肢から自社の現状に適したものを選びましょう。
- 人材を確保するための手法
- 社内研修や教育の内容や担当者
- 評価制度や報酬制度などの見直しや整備
- 役職と権限、能力などをふまえた人材配置計画
いずれにおいても、予算やスケジュールもふくめ細かく決めていく必要があります。
また実行後は結果や成果を評価し、明確になった改善点に対する取り組みを始めます。たとえば新卒採用を実施したとき、今年度に発生した反省点や教訓をまとめておくと、次年度で新卒採用を再度行うときに役立つのです。
5.人材マネジメントを成功させるポイント
人材マネジメントを取り入れていても、ポイントがずれていると十分な効果につながりません。ここでは人材マネジメントを成功させるためのポイントを説明します。
- 自社の理念と一貫性を持たせる
- 従業員に目標を設定させる
- 公平性を意識する
- 従業員と情報を共有する
- 現場に協力をあおぐ
①自社の理念と一貫性を持たせる
企業の理念やビジョンをもとに計画し、経営のトップからアルバイトやパートまでの全従業員が同じ方向を目指すことが重要です。
人材マネジメントの目的は、従業員のパフォーマンスを向上させて経営戦略を達成すること。しかし企業の経営戦略やビジョンと人材マネジメントの方向性が合致していないと従業員が混乱してしまい、パフォーマンスを低下させかねません。
費用や時間をかけたのに、希望の人材が確保できないという状況に陥ってしまうのです。
②従業員に目標を設定させる
従業員自身に、企業の理念やビジョンに沿った自己の目標を設定させるのも効果的といえます。従業員自身が目標を設定すると、達成へのモチベーションが上がる効果も期待できるからです。
従業員が目標を策定できるよう、企業の理念やビジョン、事業内容や経営戦略がわかる資料を改めて配付するとよいでしょう。企業が求めている人物像を把握できるため、従業員自身が目標や指針を決めやすくなるからです。
③公平性を意識する
従業員の評価は、公平性を保たなければなりません。不公平な評価は従業員の不信や不満につながり、モチベーションが低下しやすくなるからです。
年齢や性別、評価者などで評価や報酬が変わってしまわないよう注意しましょう。数値で実績を測りにくい部署や業務内容の場合、評価基準に成果や実績にくわえて結果に至ったプロセスも含める方法もあります。
④従業員と情報を共有する
人事評価について、情報を正しく共有するのもポイントです。人事評価に対する基準や考察といった情報が不明瞭では、従業員の理解や信頼を得られないからです。
評価結果だけを共有するのではなく、勤務態度や現在のスキル、目標に対する行動プロセスなども従業員に公開すると、評価の透明性や客観性が高まります。
⑤現場に協力をあおぐ
人材マネジメントの運用には、実際に採用や教育などの業務を遂行する現場の協力が必要不可欠。人事担当が一方的に人材計画を決定して推し進めてしまうと、現場の従業員から反発の声があがる可能性も高いです。
よい意味で従業員を巻き込んでいくためにも人材マネジメント計画策定の段階から、意見交換会やアンケートで現場の意見を吸い上げるといった工夫をしましょう。
6.人事管理における人材マネジメントの企業事例
適切な人材マネジメントは、企業に大きな効果をもたらすもの。ここでは人材マネジメントを成功させた大企業の事例を紹介します。
- 楽天グループ
- オリエンタルランド
- ヒューレット・パッカード
- 武田薬品工業
①楽天グループ
インターネット関連のサービスを多数提供している楽天グループでは、人材マネジメントの一環として新しい評価制度を導入。「パフォーマンス」と「コンピテンシー(能力の高い人に見られる行動特性)」の2軸から従業員を評価する仕組みを取り入れました。
評価項目には「チャレンジ」「スピーディーな判断」「仕組化」など実績や成果以外の項目が多数あります。これにより上司は部下の成長状況や課題状況を詳しく把握できるのです。
②オリエンタルランド
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドでは、「ファイブスタープログラム」という人材マネジメントの制度を確立。内容はキャストと呼ばれるスタッフがよい行動をした際、上司がその場でカードを渡して褒めるというもの。
自分の行動を認めてもらったキャストはモチベーションが向上し、いっそう質の高いサービスを提供するようになります。
③ヒューレット・パッカード
電子機器メーカーのヒューレット・パッカードは、グローバル化に対応した人事マネジメントを実施。
そのひとつが全従業員に発信されている「HP Way(創業者のひとりであるビル・ヒューレット氏の信念をもとにした行動規範)」という行動規範です。
HP Wayには5つの価値観と7つの目的が含まれており、国籍や性別にかかわらず従業員がよい仕事をするための経営指針となっています。
さらに多様性を受け入れる基盤として、世界共通の人事制度と地域別の指数評価を導入。勤務する国が異なる従業員でも、公平かつ明確な評価が行えるようになりました。
④武田薬品工業
製薬会社の武田薬品工業では、昨今のグローバル化に対応すべく、将来性のある若手人材の育成に注力した人材マネジメントを実施。目的は新卒入社といった若手の段階からスペシャリストを育成することです。
そのため世界中から優秀な若手を確保し、早い段階でキャリアを積ませて早期に昇進させています。