ニッチとは、市場の一部の顧客やニーズのことです。ニッチビジネス、成功させるポイント、ニッチマーケティング、成功事例など詳しく解説します。
目次
1.ニッチとは?
ニッチとは、「隙間」を意味する言葉で、語源は英語の「niche」です。経済やマーケティングでは、大手がねらわないような小規模で見逃されやすい事業領域の意味として用いられる言葉です。
ニッチ戦略によって提供されるサービスや商品はニッチ商品、ニッチサービスと呼ばれます。こうした商品やサービスを提供するビジネスをニッチ産業、あるいはニッチビジネスなどと呼ぶのです。
2.ニッチビジネス
ニッチビジネスとは、市場の大多数を占める顧客のニーズに対してではなく、市場の一部の顧客や特定のニーズに対して商品やサービスを提供するビジネスのこと。
多くのベンチャー企業は、まず特定の分野や限られた範囲に注目して、その領域で優位な市場地位を目指すことが多くなります。
ニッチビジネスは、当初はニッチであっても、提供する製品やサービスによってさらにニーズが増し、やがて巨大なビジネスへと成長する場合もあるのです。
3.ニッチビジネスのメリットとデメリット
巨大なビジネスへと成長するチャンスもあるニッチビジネス。メリットとデメリットについて、見ていきましょう。
メリット
限りある資源を有効に活用できます。分野を狭めるため、限りある資源を戦略的かつ有効に投入できるのです。
また狭い範囲を専門領域にするため、大手企業に負けない強みが持てます。より専門的な分野を掘り下げるので、大手企業が囲い込めなかったユーザーを顧客にするチャンスになるでしょう。
さらにニッチな分野に集中して戦略的に事業展開をすれば、その分野が人気分野になる可能性もあります。
デメリット
ターゲットが限られている分、見込める売り上げの規模も限られてしまうのが最大のデメリット。
限られた範囲であるため収益維持が難しく、ビジネス規模も小さいため、「供給業者や販売業者などの外部の業者」「社内の連携」など、関係者の協力をつなぎ続けるのが難点です。
また時代の移り変わりによりニッチなニーズそのものが消滅してしまう可能性もあります。ニッチビジネスを展開する前に、マーケットの動向を綿密に観察しましょう。
4.ニッチビジネスの事例
ニッチビジネスの成功例として挙げられるのは、コンビニエンスストアです。なかでもセイコーマートには特色があります。
北海道に特化したコンビニエンスストアで、セブン-イレブンやローソンなど大手チェーンを抑え、北海道ではトップのシェアを誇っているのです。
その背景にあるのは、店内で調理したお弁当やスナック類の提供など、当時、ほかにはなかったサービスの提供。また直営店舗を多く持って、迅速な新商品の提供を行える体制を取りました。
5.ニッチビジネスを成功させるポイント
いくつかの成功事例からニッチビジネスを成功させるための共通点が見えてきます。そのポイントを紹介しましょう。
- 流行を追わない
- リピーターを生み出せるか見極める
- 確実なニーズを見込めるか見極める
- 付加価値のある商品・サービスを提供する
- 競合他社のリサーチ
①流行を追わない
まず定番商品のなかにある隙間を見つけることが必要です。
多くの人が購入している定番商品のなかに、これまでの商品やサービスとは異なる特色を入れると、「実はこれこそが欲しかった」と思う人が予想以上に存在する可能性があります。
時代の流れに乗って今、流行っているものをそのまま看板商品とするビジネスは短絡的な思考に近いです。確かに一時的な売り上げは期待できるでしょう。しかし継続は難しくなります。
②リピーターを生み出せるか見極める
一度の購入だけで終わらないリピーターを獲得するのも重要なポイントです。
ニッチな分野でもコアなユーザーからの高い評価を得られれば、購入が継続する確率は高くなるでしょう。「この商品を買うならこのお店」といったイメージが定着すれば、SNSや口コミなどで顧客は増えていくはずです。
その分野でリピーターを生み出せるかどうか判断するのは難しいでしょう。時代の流れを見極めながら事業展開していくことが大切です。
③確実なニーズを見込めるか見極める
スキマ産業とはいえ、確実なニーズを見込めるかは重要です。たとえば高級なトースターで爆発的人気を得た「バルミューダ」がそのひとつ。
もともとの売りであったデザイン性に、プロも認める上質なトーストができあがるという機能性がくわわった商品開発でユーザーの心をつかみ、2万円以上もするトースターが大ヒットしました。
「サービスの継続」「事業展開のための足がかりとなる確実なニーズ」が成功へのポイントです。
④付加価値のある商品・サービスを提供する
品質やデザイン、アフターサービスの質が、ニッチなニーズを満たす水準にあるかも重要です。ニッチな商品を好む顧客は、その商品やサービスが持つ、ほかにはない特色を求めているもの。既存の商品との差別化は成功へのカギでしょう。
またニッチな商品やサービスを提供する企業や店舗も、専門的な知識や技術を身につけておくことが必要といえます。自身もニッチな存在として、ニッチな商品を求める人たちのニーズに応えられるからです。
⑤競合他社のリサーチ
ニッチビジネスとはいえ、競合他社は必ず存在します。現在参入している企業はもちろん、参入予定の企業についてもリサーチは必要です。
「競合他社と比較して自社はどれくらい優位か」「どういったポイントで自社の強みを生かせるのか」などについてチェックしておきましょう。
競合他社の規模が小さいからといって勝てるとは限りません。それぞれの強み、自社との類似性の有無などもしっかりと確認します。
6.ニッチマーケティングとは?
特定の市場をねらって事業を展開し、収益につなげる戦略のこと。たとえば「大企業が手をつけなかった」「需要の開拓がなされていない」分野に着目して戦略的にねらうのです。
ニッチマーケティングによって提供されるサービスや商品は、ニッチサービスやニッチ商品と呼ばれます。ニッチマーケティングでいち早く参入した企業は、他社の競争による体力の消耗もなく、スムーズな事業展開を図りやすいでしょう。
7.ニッチマーケティングのメリット
ニッチマーケティングのメリットは何でしょうか。それぞれについて解説します。
- 高い収益性が期待できる
- 競合が少ない
- 企業の知名度が上がる
①高い収益性が期待できる
ニッチマーケティングの市場には、競合する製品やサービスが存在しません。そのため価格を高く設定しても市場でのシェアを独占しやすくなるのです。顧客が競合他社に流れることがほとんどなく、収益を独占し高い収益性が期待できます。
なぜなら一般向けの販売戦略と違って、顧客の細かいニーズを満たす商品やサービスを開発、販売するからです。スーパーマーケットよりも高い価格設定でも成功しているコンビニエンスストはそのひとつといえます。
②競合が少ない
競合が少ない分野で商品やサービスと提供するため、他社との価格競争にならず、商品やサービスの価値向上に集中できます。また競合が参入できない市場で、大きなシェアを獲得することが期待できるのです。
競合が多い市場で事業を展開すれば、同じような商品やサービスを提供するため、販売価格を極端に下げる必要が出てくるでしょう。また他社との違いや自社の魅力をアピールするための莫大な広告宣伝費も発生してきます。
③企業の知名度が上がる
ニッチ市場での事業展開に成功した場合、企業はその分野での先駆者となり、顧客やメディアなどから注目を集め、高い知名度を得られるでしょう。知名度の向上は、ブランドイメージの浸透や新規取引先の獲得にもつながります。
8.ニッチマーケティングのデメリット
続いてニッチマーケティングのデメリットについて、見ていきます。
- 先行事例がないのでコストがかかる
- 参入する市場が成長しない可能性も
①先行事例がないのでコストがかかる
他社が参入した先行事例がないため、「情報収集や市場調査」「開発する商品やサービスの選定」「流通方法やプロモーション」などマーケティングにコストがかかってしまうのです。
また事業展開して、売り上げが伸びなければ「原因の調査や分析」「改善策を練って再度実践する」といった流れを繰り返します。ニッチマーケティングを行う段階で、余裕のある予算や期間を設定し、計画的な運用や戦略を検討しておく必要があるでしょう。
②参入する市場が成長しない可能性も
ニッチマーケティングである程度売り上げを出しても、企業に十分な利益が残るほど市場が成長しない可能性もあります。
競合が少ない市場で事業展開するからといって、ニッチマーケティングが成功するわけではないのです。投資した資金を回収できなければ大きな損失を抱えてしまいます。
ニッチマーケティングを成功させるためにも、アンケートやヒアリングなどで市場のニーズを調査しましょう。そこから計画的に事業展開します。
9.ニッチマーケティングの事例
ニッチマーケティングに成功した国内企業の事例として、ファスナーを製造販売する企業を紹介します。
この企業はファスナーを作る機械を自社製造し、他社に依存しない生産ラインを構築して、ファスナーの世界シェア45%と、圧倒的な地位を獲得しました。
厚さ約1mmの部品でつくられたファスナーや伸縮性のあるファスナーなど、他社が想定していないような顧客のニーズを満たす商品を開発し、シェアの拡大に成功したのです。
10.ビジネス用語としてのニッチ
ここではビジネス用語として使われている、さまざまなニッチを解説します。
- ニッチ商品
- ニッチ企業
- グローバルニッチトップ
①ニッチ商品
特定の客層や限定的なニーズを満たす商品のこと。ニッチマーケティングによって提供される商品はニッチ商品と呼ばれています。ニッチ商品の具体例をあげてみましょう。
- ウエディング用品
- こども用品(七五三やランドセル、入学祝い用品など)
- 記念品(赤ちゃんの髪の毛で作る筆やランドセルを使った革細工など)
- 墓石
- スポーツ用品
- 専門職が使う業務用品
- 趣味の品物
- 消火器
- 不動産
- 高級着物
- 暖炉
②ニッチ企業
隙間市場で優位な地位を築いている企業のこと。ニッチャーとも呼ばれます。ノースウェスタン大学のP.コトラー教授は、企業の競争上の地位を下記4つに分類し、それぞれの地位に応じた戦略が望ましいと述べているのです。
- リーダー
- フォロワー
- ニッチャー
- チャレンジャー
ニッチャーの理想は、大手が本気で参入してこないような市場を発見し、そこに限られた経営資源を集中させ、高い専門性やブランド力を維持して他社の参入を防ぐやり方です。
③グローバルニッチトップ
世界全体の市場を見渡してもなお、ニッチと呼ぶべき事業分野にて大多数のシェアを獲得している、その分野におけるトップ企業のこと。
経済産業省は2013年に、グローバルニッチトップを「国際市場の開拓に取り組んでいる企業のうち、ニッチ分野において高いシェアを確保し、良好な経営を実践している企業」と定義し、代表的グローバルニッチトップ100社を選出しています。
11.7年ぶりのグローバルニッチトップ企業100選
2020年、経済産業省は7年ぶりに、「グローバルニッチトップ企業100選」を選定しました。選定するうえで重視されたポイントは、下記の4つです。
- 収益性
- 戦略性
- 競争優位性
- 国際性
選定された113社の平均は世界シェア43.4%、営業利益率12.7%と非常に優秀な数値です。また選定された企業のうち、地方の中堅・中小企業で2020年度の新卒採用を継続する企業は、経済産業省から地域の魅力ある「新卒採用継続企業」として公表されています。