職業病(業務上疾病)とは?【簡単に】具体例一覧、対策

職業病(業務上疾病)とは、職業上の業務に起因する病気や障害のことです。ここでは職業病の種類や原因、予防方法などについて解説します。

1.職業病(業務上疾病)とは?

職業病(業務上疾病)とは、労働条件や環境など職業上の業務に起因する病気のことです。労働基準法では「業務上疾病」、医学用語では「職業性疾病」といいます。労働災害として認定される職業病の治療費は、全額労働保険が負担することになります。

職業病の代表的なものとして、騒音による難聴や化学物質を扱うことによる中毒症状、手を使う業務で生じた頸肩腕障害などが挙げられます。いずれも職業特有の衛生上好ましくない労働条件が主な原因となって起こる病気です。

労働災害との違い

「労働災害」とは、業務上または通勤途中の負傷や疾病、傷害および死亡などのことです。同じ職業上の業務に起因する疾病であっても、おもに突発的な事故であるものを「労働災害」といいます。

発症のタイミング、また疾病の原因が継続的な業務にあったかどうかで「職業病」と「労働災害」を区別します。

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派生した別の意味合い

派生的な意味合いとして、世間一般から見れば非常識な事象や不思議に見える様子を「職業病」と表現する場合もあります。

飲食店に長く勤務しているうちに、私生活でもつい両手で金銭の受け渡しをしてしまう。店頭で人とすれ違う際に「いらっしゃいませ」と声をかけそうになる、などの様子を指して「職業病」と呼ぶこともあります。

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2.職業病の種類と例

ひとことで職業上の業務に起因する病気や傷害といっても、その種類はさまざまです。厚生労働省では「職業病一覧比較表」を公表し、職業病の種類と原因を定めています。

業務上の負傷に起因する疾病

職業病の原因として想定されるのが、業務上の負傷による疾病です。仕事の途中で怪我や病気になってしまった場合がこれに該当します。

なお、業務上の負傷として認定されるのは業務と傷病などのあいだに一定の因果関係が認められる負傷です。これを「業務起因性」といいます。

またこの業務起因性が認められるためには、労働者が労働契約にもとづいて事業主の支配下にあるという「業務遂行性」が認められなければなりません。

物理的因子による病気

紫外線や放射線などの物理的因子による疾病も、職業病の代表例といえるものです。

気圧の低い場所における業務による高山病や、寒冷な場所における業務による凍傷、暑熱な場所における業務による熱中症などがこれに含まれます。

ほかにも潜水作業に係る潜水病や赤外線にさらされる業務による白内障など、業務上で物理的因子に接触したことが原因の疾病を「物理的因子による次に掲げる疾病」といいます。

身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する病気

労働者の身体に過度な負担がかかる作業などに起因する疾病も、職業病として認められます。

代表的なものが、重激な業務による筋肉や関節の疾患、腰に過度の負担を与える作業姿勢による腰痛、削岩機やチェーンソーなどの振動による神経障害などです。

近年ではパソコンや電子機器への入力を反復して行う業務による頸部や後頭部、前腕や手指などの運動器障害も増えてきました。

化学物質が原因の病気

大量の化学物質にさらされたあとや、長期間慢性的に化学物質のばく露を受けたあと、不快な臨床症状などがみられる「化学物質過敏症」も、職業病の一種です。

原因は合成樹脂の熱分解生成物や木材の粉じんのほか、排気ガスや防虫剤、洗剤や住宅建材など多岐にわたります。

微量の化学物質だったとしても、さまざまな種類の化学物質に反応して、頭痛や吐き気、皮膚の赤みや粘膜刺激症状などの症状が出ます。

粉じんを吸い込むことが原因による病気

粉じんの吸入ばく露による健康障害も後を絶ちません。労働現場では古くからトンネル建設工事や金属などの研磨作業、鋳物業などにおいて、大気中に飛散した「粉じん」による重篤な健康障害を引き起こしてきました。

粉じんを吸い込むことで発症する職業病として「じん肺」が挙げられます。ひどくなると咳や痰、息切れなどの症状を起こしますが、初期症状がほとんど見られないため注意が必要です。

細菌やウイルスが原因の病気

細菌やウイルスなど、病原体が原因の職業病もあります。患者の診察や看護による伝染性疾患、動物を取り扱う業務によるブルセラ病や炭疽そ病、湿潤地における業務によるレプトスピラ症などです。

2020年から世界的に流行した新型コロナウイルスの感染も、業務に起因した感染であると認められるものは職業病として労災保険給付の対象となります。

がん原性物質による病気

職業病のなかには作業環境や作業で取り扱う発がん性物質によって引き起こされるものもあります。こちらも初期症状がない場合が多く見逃しやすい病気ですが、ほかの部位に転移する可能性があるため早めの対策が必要です。

厚生労働大臣は労働安全衛生法にもとづいて、がんを起こすおそれのある化学物質を公表しています。労働者にこれらを取り扱わせる事業者は、ばく露を低減させるための措置を講じる必要があります。

長時間労働による病気

職業病には、労働の負荷を大きくして休養時間や余暇時間を不足させ、さまざまな健康問題を引き起こす原因となる「長時間労働」による病気も含まれます。脳や心臓疾患による過労死、精神障害や自殺などは深刻な社会問題となっています。

過去 1か月の週労働時間が61時間以上の労働者は、週労働40時間以下の労働者に比べ、心筋梗塞のリスクが1.9倍にもなるという調査結果もあります。

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人の生命にかかわる事故への遭遇

人の生命にかかわる自動車事故や、作業用機械を使用しているなかで生じた事故も、広い意味では職業業に含まれます。

業務上の交通事故が労働契約にもとづいた雇用主の支配下にある場合や、業務上で怪我や病気を負った場合などは労災として認められ、労災保険が使用できます。

ただし通勤途中で寄り道をしていた場合やプライベートな用事の途中に発生した交通事故などは、労災として認められません。

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3.職業病の原因

仕事が原因で発症する病気または障害を指す職業病の原因は、大きくふたつに分けられます。「職場の労働環境」あるいは「職場の衛生環境」です。

職業病の6割は「腰痛」が占める

前述のとおり、職業病には業務上の負傷に起因する疾病や物理的因子による病気などさまざまな種類がありますが、そのなかでも特に多いのが「腰痛」です。

厚生労働省は、腰痛は4日以上の休業を要する職業性疾病の約6割を占めると報告しています。

なかでも看護職や介護職などの保健衛生業や医療保健業が多く、ほかにも重い荷物を取り扱う業務や長時間のデスクワークなどの仕事が発症しやすいとされています。

職場の労働環境

長時間労働や安全面での工夫がされていないなどの労働環境は、職業病の原因となります。

労働安全衛生総合研究所過労死等調査研究センターの調査によれば、2010年1月から2015年3月までに労災認定された事案の9割以上が、長期間の過重業務であったと報告されているのです。

また仕事内容の変化や人間関係をきっかけとした精神障害も多数報告されており、職場の労働環境を整えることが職業病を防ぐ第一歩であることが分かっています。

職場の衛生環境

職業病のもうひとつの原因が、職場の衛生環境です。労働衛生環境は労働安全衛生法によって規定され、さまざまな取り決めが義務化されています。

労働衛生管理の基本となる考え方を「労働衛生の3管理」といいます。事業主は

  • 作業環境管理
  • 作業管理
  • 健康管理

の3つを管理して、危険物や粉じんなど健康に害をもたらす要因を排除しなければなりません。

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4.職業病の疑いがある場合

職場の労働環境や衛生環境を管理していたにもかかわらず、従業員に職業病と疑われる事案が発生した場合、企業はどのような対応をすればよいのでしょうか。

職業病リストで思い当たる症状がないか確認

まずは厚生労働省が発表している「職業病リスト」を参考にして、該当する従業員の仕事や症状に一致するものがあるかどうかを確認します。労災補償の対象となるのは、この「職業病リスト」に記載されている業務内容や就業環境です。

保険給付を受けるためには、症状が「職業病リスト」に記載された職業病によるものと認められる必要があります。

参考 職業病リスト厚生労働省

労災指定病院で報告する

「職業病リスト」に該当し、職業病の可能性が高くなってきたら労災病院あるいは労災指定病院を受診しましょう。

労災病院では傷病や怪我の原因が仕事であることを報告します。職業病と診断されれば、診察代や治療費は病院から労働基準監督署に請求するため、窓口での支払いはありません。

「もしかしたらただの風邪かも」と労災指定病院以外の病院を受診した場合でも、その後労働基準監督署に請求手続きを行えば医療費は還付されます。

労災認定を行う

事業主には労災の防止と同時に

  • 労災事故による労働者への補償
  • 労災事故の報告

の義務があります。そのため従業員からの報告があった際はすみやかに労災認定を行い、労働基準監督署に必要書類を提出しなければなりません。

また労働者の死亡もしくは4日以上の治療による休業が発生する場合は、管轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出することを覚えておきましょう。

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休職の手続きを行う

労災認定された職業病の症状によっては、休職してしっかり治療することも必要です。労働者は医師の指示に従って治療に努めます。

従業員が職業病治療のために仕事ができない期間は、労災保険による「休業補償」を支給しなければなりません。また業務上の怪我や病気の療養のために休業している期間とその後の30日間は、その従業員を解雇することはできません。

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5.職業病の対策

職業病は認定された後の対応も重要ですが、何よりも職業病にならないための予防が肝心です。事業主は職場環境の改善や職場の巡視などさまざまな対策を講じて職業病を予防しなければなりません。

職場環境を整える

職場環境の改善には業務上のストレス削減や健康状態の改善、生産性の向上などさまざまな効果があることが分かっています。事業主は作業内容の見直しや衛生環境の改善などを行い、職場環境を整える必要があるのです。

なかには時差出勤制度を導入して時間外労働と休日労働時間を削減した結果、一人あたりの時間外労働時間を10%も削減できた事例もあります。

健康診断を行う

万が一従業員が過重労働や劣悪な労働環境によって心身の不調を引き起こした場合、生産性が落ちるだけでなく事業主が負担する医療費が増える可能性もあります。労働力不足の問題が叫ばれる昨今では、欠員の補充も容易ではありません。

企業は定期的な健康診断を実施して、従業員の心身に異常がないかチェックする必要があります。

職場を巡視する

職場環境や衛生環境を改善するためには、作業環境を実際に見て安全衛生上の問題点を見出す必要があります。

前述した「労働衛生の3管理」である作業環境管理と作業管理、健康管理を有機的に結び付けるために有効なのが、産業医による職場巡視です。職場巡視は安全衛生上の課題を見つけるだけでなく、従業員の適正配置や職場の風土理解にもつながります。

ストレスチェックを行う

従業員がストレスに問題を抱えていないか確認することも、職業病予防の効果があります。労働安全衛生法の改正にともない、労働者が50人以上いる事業場は2015年以降毎年1回以上の「ストレスチェック」を実施することが義務付けられました。

これにともない、ストレスチェック後に面接指導などを受けた場合、その費用を助成する制度も作られています。またメンタルヘルス対策促進員の助言にもとづいた「心の健康づくり計画」を作成して対策を実施した場合、費用の助成が受けられる制度もあります。

ストレスチェックとは?【実施方法を簡単に】義務化、目的
ストレスチェックは、労働安全衛生法の改正によって50人以上の労働者がいる事業場で義務付けられた検査です。 定期的に労働者のストレスをチェックすることで、労働者が心身の状態に気付き、メンタルヘルスの不調...

残業時間を削減する

職業病の予防に長時間労働の改善、残業時間の削減は欠かせません。だれが作業しても同じ時間で同じ品質のものができる「作業標準化」や、仕事を定時内に終わらせる「ノー残業デー」などを実施して、残業時間を削減します。

このほか、勤怠管理システムの導入や退社時間の事前共有など、労働時間を把握できる仕組みを作ることも残業時間削減の効果があります。