ベストプラクティスとは、「最善の方法」「最良の事例」などの意味を持つ言葉。ベストプラクティスのメリットや活用の注意点、活用事例などを解説します。
目次
1.ベストプラクティスとは?
ベストプラクティスとは、ある特定の工程や実践または実例にて、「最も優れている」と評価される手法に使われる言葉のこと。
主にビジネスで用いられる言葉で、多くは「最善の方法」「最適な方法」などを指します。「最も効果的な方法」「成功事例」「業界標準」といった派生的な意味も多数あるのです。
ただしベストプラクティスはあくまでも「現時点におけるベストな方法」。のちに新たな手法がベストプラクティスとなるケースも少なくありません。
ベストプラクティスの語源
ベストプラクティスの語源は、英語の「BestPractice」です。「best」(最善の、最良の)と「practice」(実行、実践)を合わせた語で、直訳すると「最善の取り組み」「最善の措置」になります。
2.ベストプラクティスと混同しやすい言葉
ベストプラクティスと混同しやすい言葉がいくつかあります。そのうち4つについて解説しましょう。
- バッドプラクティス
- ベストフィット
- ベンチマーキング
- セオリー
①バッドプラクティス
「悪しき方法」「悪しき実例」を意味する言葉。ビジネスのなかでは、とくにIT業界において、プログラミングやコーディングの「悪い見本」「多くの人がやりがちな失敗例」として使われます。
場合によっては、「改善しなければプロジェクトの遅延や停滞につながる」「悪影響を及ぼす」といった強い意味を持って用いられるのです。
②ベストフィット
「最適任」「最良適合」を意味する言葉。たとえば「貴社にベストフィットする人材」といった使い方をします。「ベストフィット・アプローチ」という語もあり、これは「企業環境や経営戦略に合わせて望ましい人材を選ぶこと」を指すのです。
③ベンチマーキング
ビジネス手法などのベストプラクティス(最良の事例や成功事例)を分析して自社に取り入れる方法のこと。なお分析対象は、競合他社だけでなく、他業界の企業や自社の業務なども含みます。
4P分析やバリューチェーン分析などをとおして対象企業を分析し、自社の問題点や弱みなどを把握するという流れが一般的です。
④セオリー
「理論」「定石」「確立された方法」を意味する言葉。ビジネスシーンでは「効果的な方法」「そうすべき方法」という意味合いでも用いられるのです。
たとえば「プロジェクトをセオリーどおりに進める」「このプロジェクトはセオリーを無視して進められない」「新たなセオリーを確立する」といった使い方が挙げられます。
3.ベストプラクティスが持つ意味と使い方
ベストプラクティスという言葉は、シーンや業界によってさまざまな意味を持ちます。4つの意味と使い方を説明しましょう。
一般的な意味:最も効率のよい手法
一般的な会話での意味として挙げられるのが、「もっとも効果的な方法」「最善の方法」です。たとえば打ち合わせの際に「現時点でのベストプラクティスはなんだと思う?」「この方法がベストプラクティスだと思います」といった使い方をします。
作業における「今現在でもっとも効率的な方法」を指す場合もあるのです。
技術分野における意味:業界標準
技術分野では、「業界標準」という意味で用いられるケースが多く見られます。業界標準とは、特定の業界においてもっともよく使われる規格や製品のこと、あるいはその業界で標準かつ最適であると認められているもの。
規格が複数競合している場合、より優れたものをひとつ選んで「ベストプラクティス」と指定する場合もあります。
成功事例
「成功事例」「よいアイデアや取り組み」という意味でも使われ、そのような事例を集めたときに「○○のベストプラクティス集」などと表記される場合があります。
ビジネスで成功するには、自社のノウハウだけでなく他社の成功事例やその手法を研究・分析して積極的に取り入れるのも重要です。公開されている他社のベストプラクティス集を大いに活用しましょう。
業界による意味の違い
特定の業界によっては、ベストプラクティスという言葉に特殊な意味を持たせる場合があります。たとえば医療業界やIT業界では、用法が異なるのです。
医療
医療業界におけるベストプラクティスは「最善の対処法」を指します。具体的には「患者に対するより効果的な治療法」「治療・看護におけるより実践的な方法」です。
医療では、個々の患者さんに対して適切な診断と治療法を実施する必要があり、つねにベストプラクティスが求められます。また同じ医療業界でも、その意味は同じではありません。
たとえば感染管理におけるベストプラクティスは「感染対策における重要な部分のリスク分析を行い、科学的根拠を明らかにした解決策の作成と実践」を指すのです。
IT
IT業界の場合、事業内容の違いでベストプラクティスの意味が異なります。
たとえば同じクラウドサービスでも、「AWS」であれば「クラウドサービスにおける最適なインフラ、ネットワーク、ストレージなどの提供」を指し、「salesforce」であれば「顧客管理システムの低コストかつ効果的な実施」という意味になるのです。
4.ベストプラクティスを活用するメリット
ベストプラクティスを活用すると、どのようなメリットが得られるのでしょう。
- 業務効率の向上
- 優れた手法を取り入れられる
①業務効率の向上
「現時点での最善の方法は何か」「どのような方法がベストか」を考えるのはビジネスにおける基本思考です。そこでベストプラクティスを参考にすると早期に改善策の実行に移れるため、よりスムーズに業務効率化が図れます。
プロジェクトなどの大きな業務はもちろん、日次業務でも有効です。
②優れた手法を取り入れられる
自社で一からノウハウを作り上げて手法を編み出しても、必ず成功するとは限りません。すでに成功している他社の手法なら、根拠やプロセスが明確になっているため、成功率が高まります。コストや時間も大幅に節約できる点もメリットです。
5.ベストプラクティスを活用するときの注意点
ベストプラクティスの活用はメリットがある一方、いくつかの点に注意しなければなりません。ベストプラクティスを活用する際の注意点を説明します。
- 最新のベストプラクティスを活用する
- これまでのやり方がよい場合もある
- 人材育成のベストプラクティスは存在しない
①最新のベストプラクティスを活用する
ベストプラクティスはつねに変化するので、最新版を活用しましょう。
社会やビジネス環境、技術などは刻々と変化しているため、将来新しいベストプラクティスが生まれる可能性もあります。もしかしたら既存のベストプラクティスがいずれ通用しなくなるかもしれません。
ベストプラクティス集を参考にする場合は、公開や実施された時期をよく確認しましょう。
②これまでのやり方がよい場合もある
場合によっては、従来の方法がよかったという結果になります。たとえば新しい手法を取り入れたが、自社の戦略や人材にはマッチせず業績が下がってしまったといったケースです。
長年築き上げてきた自社固有の手法やノウハウの転換には、時間とリスクをともなうもの。新しいベストプラクティスを採用する際は、その手法が本当に自社に最適かどうかを十分に検討し、実施するタイミングを見極めましょう。
③人材育成のベストプラクティスは存在しない
人材育成において共通するベストプラクティスは存在しません。なぜなら従業員の人間性や性格は個々異なるため、同じベストプラクティスでも人ごとに差が出るからです。
人材育成のやり方は心理学をベースにしたもの、脳科学をベースにしたものなどさまざま。「このやり方がベストだ」と言い切れるものはありません。
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6.行政によるベストプラクティス集
さまざまな業種やサービスにおけるベストプラクティス事例が公表されています。ここでは行政によるベストプラクティス集をご紹介しましょう。
ソーシャルメディア活用 ベストプラクティス
経済産業省による「ソーシャルメディア活用ベストプラクティス集(企業事例集)」では製造や食品、流通や通信、旅行や金融などの業界におけるSNSを活用したベストプラクティス事例を、多数掲載。
顧客の獲得やカスタマーサポート、ブランディングなど活用の目的はさまざまあるため、自社の課題に近い事例を探せるでしょう。
働き方改革ベストプラクティス
各都道府県の労働局による「働き方改革ベストプラクティス事例集」では各都道府県内企業における年次有給取得や残業時間の抑制、定年延長といった改革の好事例を掲載。
紹介されている業種は農業や建設業、製造業や情報通信業、宿泊業や飲食サービス業などさまざまです。なお優良な取り組み事例を紹介するフォーラムも、定期的に開催されています。
働き方改革とは? 実現に向けた取り組み方や施策事例
今、多くの企業が国際競争力の低下や人手不足による採用難などのさまざまな課題を乗り越えるため、長時間労働の見直しやテレワークの推進といった「働き方」の見直しを始めています。
国としても企業のフォローアッ...
ダイバーシティ経営のベストプラクティス
経済産業省が推進する「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業のベストプラクティス集です。
ダイバーシティ経営企業のなかから特に優良な企業を「100選プライム」として選出。多様な人材を活用して事業の発展や拡大、組織風土の改革、働き方改革などが実現した事例を紹介しています。
ダイバーシティ経営に取り組む企業をサポートするために、リーフレットや「ダイバーシティ経営診断ツール」も提供しているのです。
事業や雇用を支援するベストプラクティス
経済産業省が公表している「雇用維持・失業対策」「販路拡大」「支援策PR」に関するベストプラクティス集。全国の自治体・商工団体・支援機関・金融機関などが行った取り組みから好事例を集めて紹介しています。
紹介されている取り組みの事例は「人材マッチング」「キャッシュレスポイント付与」「補助金・助成金」「クラウドファンディング」などです。
下請取引のベストプラクティス
中小企業庁による「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」内に掲載されたベストプラクティス集。
「適正な取引価格の決定」「下請代金の支払条件の改善例」「親事業者と下請事業者の協力関係」などのカテゴリーにわけ取引価格や支払条件などに関する「望ましい企業間取引事例」を掲載しています。
あわせて消費税転嫁対策特別措置法や下請代金支払遅延等防止法における留意すべき取引事例も、紹介されているのです。
7.ベストプラクティスの事例
ベストプラクティスの事例は、公的機関が公表したものにとどまりません。民間企業のベストプラクティスの事例をご紹介します。
ゼネラル・エレクトリック
アメリカの総合電機メーカーであるゼネラル・エレクトリックは、ほか大企業のベストプラクティスを幅広く取り入れて成長を遂げた企業のひとつです。
当時のCEOであったジャック・ウェルチ氏は、好業績をあげていた他企業の手法やノウハウを徹底的に分析し、良い部分をどん欲に自社に取り入れ続けました。結果「世界最高の経営システムを持つ企業」とまで呼ばれるほど、大きな成長を実現したのです。
プロパティデータバンク
プロパティデータバンクは、不動産管理をメインとするASP/SaaSサービス事業を展開する清水建設グループの企業です。清水建設のノウハウやネットワークなどを活用し、予行演習(仮想ビジネス)を創出しました。
またブラン検討段階から国土交通省や日本郵政、東京海上日動など官民問わず協力を要請し、ノウハウを吸収したのです。
鈴木薬局
鈴木薬局は、医薬品販売と調剤薬局、さらにフィットネス事業を展開する企業です。
自社の働き方改革に取り組み、「欠勤した従業員の穴埋めのために店舗配属ではないスタッフを常駐させる」「部長・事務スタッフも欠勤時に対応する」「人員が足りないときは社長自ら店舗に勤務する」などの施策を実行。
その結果、有給取得率の上昇・退職者の減少・若く優秀な人材の入社率上昇などを実現しました。
滝川ガス
滝川ガスは、北海道滝川市にあるエネルギー供給会社です。長年長時間労働が自社の課題であったため、対策に取り組みました。
「労働時間短縮を目的とした作業工程の見直し」「一年変形労働時間制の採用」「RPA導入による事務作業の効率化」「夏場の有給休暇の取得促進」などを実施。労働時間短縮や社員の精神的ストレスの軽減など多くの効果が出ています。
京都産業貨物
京都産業貨物は、一般貨物自動車運送事業を営む企業です。深刻なトライバー不足、長時間労働による既存ドライバーの心身負担などの課題を抱えていました。
労働環境の改革を実施し、「完全週休2日制の導入」「有給休暇の取得促進」「IT機器を活用した労務管理の実践」などの取り組みを遂行。従業員満足度も上昇し、離職率も大幅に低下しました。