不公平な人事評価とは、基準があいまい、人によって基準が違うなどの課題を抱えた評価です。ここでは不平等な人事評価が企業にもたらす影響や、改善するための心得について解説します。
目次
1.人事評価が不公平(不満)だと感じている人の割合
カオナビHRテクノロジー総研が2019年10月に発表した「人事評価の満足度や不満の原因に関する調査」によると、「人事評価に満足していない」と回答した人は41.3%。満足している人も19%と少数で「人事評価が不公平だ」と感じる人の割合は決して低くはないでしょう。
参考 知っておきたい、人事評価の3つの現実カオナビHRテクノロジー総研人事評価制度とは? 必要な理由、種類と仕組み、作り方を解説
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2.人事評価に不公平感を覚える理由
識学が発表した「人事評価のモヤモヤに関する調査」では、不公平感を覚える理由として以下6点を挙げています。
- 評価基準がはっきりしない
- 評価が報酬に反映されない
- 評価者によってばらつきがある
- 現場を知らない上司が評価をしている
- どう活用されるのかわからない
- 自己評価とズレがある
①評価基準がはっきりしない
人事評価に不公平感を覚える理由としてもっとも多かったのが「評価の基準があいまい」。次点の「評価が報酬に反映されない」の30%を大きく引き離す、48%もの回答者が評価基準の不明確さに不公平感を抱いているとわかりました。
評価基準があいまいだと、従業員は「自分は頑張ったのになぜ評価されないのか」「評価されないなら頑張っても意味がない」と感じてしまいます。
②評価が報酬に反映されない
「評価基準が不明確」に続くのが「評価が報酬に反映されない」という理由です。人事評価制度は従業員の昇格や昇進、報酬などの処遇を決める基準となります。
しかし人事評価の結果が報酬に結び付かなければ、従業員は「頑張っても処遇が変わらないなら無理に頑張る必要はない」「処遇と貢献が関係ないなら最低限の仕事だけでよいだろう」と考えてしまうのです。
③評価者によってばらつきがある
評価者によって評価にばらつきがある場合も不公平感を抱きやすくなります。人が人を評価する以上、どうしても評価者の主観が評価に影響を与えてしまうもの。しかしこれは従業員に不平等感を与え、モチベーションを低下させる原因になるのです。
「なぜ自分よりも実績の少ないAさんが自分より評価されているのか」と感じた従業員が離職につながる可能性もあります。
④現場を知らない上司が評価をしている
現場を熟知している上司と、現場の仕事内容を一切知らない上司。どちらの評価が適切かはいうまでもありません。仕事内容や成果を適切に把握、理解できていない上司による人事評価は、従業員に不公平感を抱かせやすくなります。
従業員に「評価者は自分たちの働きを分かってくれない」と感じさせないためにも、評価者は最低限現場に精通している必要があるでしょう。
⑤どう活用されるのかわからない
なかには評価基準があいまいどころか、まったく公開されていないケースもあります。前述の調査では「評価結果が給与や待遇にどのように反映されるか知っているか」という質問に対して、44%もの回答者が「知らない」と回答していたのです。
従業員は何のために人事評価を行っているのか、自分の処遇はどのように決められているのかまったくわかりません。モチベーションダウンや離職を考えるのには十分な理由です。
⑥自己評価とズレがある
自己評価とズレのある人事評価も、不公平感を抱かせる原因になるのです。ズレは前述した評価基準が不明確であるのにくわえ、従業員に納得感を持たせるための説明、フォローが不足している点からも発生します。
評価者は従業員自身が気づいていない事実を伝えましょう。そして本人に自覚してもらうためのコミュニケーションを密にとります。
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3.人事評価の不公平感が企業にもたらすもの
人事評価に対する不公平感は、企業にさまざまなデメリットをもたらします。それぞれについて見ていきましょう。
- 業務効率の悪化
- 離職率の増加
- 訴訟リスクの発生
①業務効率の悪化
人事評価に納得できない従業員がモチベーションを保ち続けるのは困難です。
「実績を生み出しても納得できない評価になるなら、必要最低限の仕事しかしたくない」「新たに効率の良いシステムを開発しても正当に評価されない。ならば無理に新システムを開発する必要はない」と考えるのも仕方ありません。
②離職率の増加
自分が正当に評価されていないと感じる従業員は「もっと納得感のある人事評価をしてくれる会社があるのではないか」と考えます。これは実際に転職先を見つける力のある、優秀な従業員から始まるのです。企業の戦力は大幅にダウンしてしまうでしょう。
また近年、会社に対する口コミをまとめたサイトも増えています。書き込みを見た求職者が敬遠する可能性も十分に考えられます。
③訴訟リスクの発生
不公平な人事評価が損害賠償を争う裁判へと発展したケースは、過去にいくつもあります。これは言うまでもなく、企業にとって大きな損失です。
万が一民事訴訟を提議された場合、会社は賠償金を支払うだけでなく社会的評判や社外イメージを大きく下げてしまいます。こうしたデメリットを発生させないためにも、評価基準を明確にした不公平感のない人事評価が必要なのです。
4.評価者が不公平な人事評価をしてしまう理由
評価者はなぜ不公平な人事評価をしてしまうのでしょうか。これには評価者の好き嫌いや主観によって評価が揺れる「人事評価エラー」が影響していると考えられています。代表的な人事評価エラー3つについて説明しましょう。
- 極端化傾向
- ハロー効果
- 対比誤差
①極端化傾向
評価が最高あるいは最低にかたよる極端な評価になってしまうこと。「評価差をつけなければ」という意識が評価者に強い場合、この傾向に陥りやすくなります。
極端化傾向では評価が両極端に分散するため、一見正しく評価しているように見えるでしょう。しかしこの評価結果では正しくフィードバックできません。定量的な目標を定めて評価基準を明確にしておく必要があります。
②ハロー効果
目立つ特徴に引きずられて他の評価が歪められる現象のこと。たとえば自己紹介で「英語が堪能」とPRした従業員に対して「英語が堪能なのだから国際的にも通用するレベルを備えているはず」と思い込んでしまうような現象です。
これを防ぐには、「被評価者の客観的な言動に注目して評価する」「評価基準や項目を明確にする」「評価項目をひとつに絞らずできるだけ多くの項目で評価する」などが重要になります。
ポジティブハロー効果
人事評価を行う際、ある特定の評価が高いと感じた場合に別の項目も事実に関係なく高く評価してしまう現象のこと。
「有名大学を卒業しているのだから、ビジネスパーソンとして優れているに違いない」と評価してしまうような現象です。ポジティブハロー効果は人事評価だけでなくマーケティングや恋愛など、日常のさまざまなシーンで見られます。
ネガティブハロー効果
被評価者が何かひとつでも望ましくない面を持っているだけで、全体にマイナスの評価をしてしまう現象のこと。
実際の状況を見ていないにもかかわらず「言葉づかいが乱暴な従業員は素行も悪く暴力的に違いない」「接客態度の悪い販売員が薦める商品は品質のよくない商品だと思う」といったネガティブな評価をしてしまう現象です。
③対比誤差
評価者が自身の能力やスキルを比較対象として過大評価あるいは過小評価をしてしまう現象のこと。自分が得意な分野では厳しい評価を、苦手な分野や専門外の分野では甘い評価をつけてしまいます。
英語をまったく喋れない評価者が、TOEIC900点台の部下に対して「部下は自分より優れている」と感じたとき対比誤差が生まれるのです。防ぐためには「評価基準を明確にする」「評価者がそれを正しく理解する」とよいでしょう。
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5.人事評価への不公平感を改善するための心得
人事評価への不公平感を改善するためには、以下のポイントを押さえておく必要があります。
- 評価基準の社内周知
- 積極的なコミュニケーション
- 丁寧なフィードバック
①評価基準の社内周知
まずは人事評価制度について丁寧に説明し、従業員全体からの理解を得ていきます。
「会社はどのような理念にもとづいて事業を行っているのか」「理念を達成するためにはどのような評価基準があるのか」「どのような行動が評価のアップにつながるのか」などを明文化し、社内に周知するのです。
これにより、仮に低評価になっても改善点が明確になり、次の目標が見えてきます。
②積極的なコミュニケーション
積極的なコミュニケーションも、人事評価の不公平感を改善するうえで重要なポイント。「実績を生み出しても上司が正しく評価してくれない」「上司が仕事内容を理解してくれない」などの不満はコミュニケーション不足によるものもあるからです。
コミュニケーションを密にとり、お互いの状況を把握できれば業務の進捗具合も把握しやすくなります。成果以外の見えない部分を評価したりフィードバックしたりするのにも有効です。
③丁寧なフィードバック
不十分なフィードバックも人事評価の不公平感を生む要因のひとつ。従業員には評価結果だけを伝え、その評価に至った経緯を共有していない人事評価も少なくありません。
適切なフィードバックがないと、従業員はどこを見直すべきなのかわかりません。不当な評価を受けたという印象のまま終わらせないためにも、丁寧にフィードバックしましょう。
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6.人事評価への不公平感を改善するための対策
人事評価への不公平感を改善するための具体的な対策として「評価者研修の実施」「コンピテンシー評価の導入」「360度評価の導入」などが挙げられます
- 評価者研修の実施
- コンピテンシー評価の導入
- 目標管理制度(MBO)の導入
- 360度評価の導入
①評価者研修の実施
人事評価を行う評価者に向けた研修制度のこと。目的は「人事評価制度の仕組みと評価基準、評価方法などに関する理解を深める」「評価者の評価スキル向上」です。
2016年に産労総合研究所が発表した「評価制度の運用に関する調査」によると、評価者教育を実施している企業は約71%。多くの企業が「評価者が正しい評価スキルを身につけることの重要性」を意識しているとわかります。
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②コンピテンシー評価の導入
高い業績を残している従業員の行動特性(コンピテンシー)を基本にして、評価基準や評価項目を設定する評価制度のこと。理想的な行動特性を評価項目として設定するため、従業員にとっては具体的な行動をイメージしやすくなります。
評価者の主観が入りにくい、また評価のポイントが明確になるのがコンピテンシー評価の特徴です。またその公平さから従業員の不公平感を生み出しにくい評価制度としても知られています。
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③目標管理制度(MBO)の導入
従業員一人ひとりに個人目標を決めてもらい、進捗や達成の度合いに応じて人事評価を決めるマネジメントのこと。
会社の経営・部門目標と個人目標を連動するため、個人と組織の成長を同時に達成させられます。また従業員にとって不公平感の少ない評価を行えるのです。
従業員は個人目標を達成すれば組織に対する貢献性も味わえます。会社や上司からも高い評価を受けられるため、モチベーションアップにもつながるのです。
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④360度評価の導入
ひとりの従業員に対して関係する複数の従業員が評価を行う人事評価制度のこと。これまで人事評価といえば、上司が部下に対して一方的に行うのが主流でした。しかしこれには公平さに欠ける、不公平感が生まれやすくなるといった課題があったのです。
360度評価では、上司だけでなく部下や同僚などさまざまな立場から多面的に評価します。そのため客観性が担保できたり、公平かつ納得度の高い評価が期待できたりするのです。
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7.人事評価への不公平感を改善するポイント
人事評価に対する不公平感を改善するためにも、定期的に以下のポイントをチェックして制度や運用を都度見直しましょう。
- 人事評価の制度について
- 人事評価制度の運用について
①人事評価の制度について
- 人事評価制度の目的は明確になっているか
- 評価基準や評価方法は明確であるか、また全社的に公開されているか
- 人事評価制度の規定やマニュアルに不備はないか
- 評価項目は役職や等級、部署に見合った内容であるか
②人事評価制度の運用について
- 評価結果とともに今後の改善点アドバイスなどが適切にフィードバックされているか
- 評価者を監督する人材はいるか
- 評価者の教育やトレーニングは実施されているか