納得できない人事評価は、従業員のモチベーション低下や離職率の増加などさまざまなリスクをもたらします。納得できない人事評価の要素や、納得感を高めるポイントについて解説しましょう。
目次
1.人事評価に納得できない人は多い
2018年にアデコが実施した「人事評価制度に関する意識調査」では、62%が「人事評価に不満を感じている」と回答しています。これは「満足している」と答えた37%を大きく上回る数字でした。
不満を感じる理由のトップは「評価基準が不明確」の62%。そしてに「評価のばらつきがある、不公平だと感じる」の45%が続きます。「過半数以上の労働者の評価基準があいまい」「業務を数値化しにくい」などから、適切な評価がなされていないと感じているのです。
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2.納得できない人事評価がもたらす影響
納得ができない人事評価が続くとさまざまな影響がもたらされます。
- 従業員のモチベーション低下
- 退職率の増加
- 訴訟のリスクが発生
①従業員のモチベーションが低下する
人事評価に納得できないと、従業員は仕事に対するモチベーションが保ちにくくなります。
「どれだけ実績を生み出しても正当に評価されないなら、頑張るのをやめたい」「何をしても納得できない評価になるなら必要最低限の業務しかやりたくない」と考える従業員のモチベーションを戻すのは難しいでしょう。
またモチベーションの低下は当該従業員だけでなく周囲にも伝染します。モチベーションが低下した従業員が増えれば、当然生産性も下がるでしょう。
②離職率が増加する
納得できない人事評価を受けると、従業員は「この会社は自分を正当に評価してくれない」「納得感のある人事評価をしてくれる会社を探したい、転職したい」と考えます。
これは多くの場合、実際に転職先を見つける力のある、優秀な従業員からはじまります。会社にとっては大幅な戦力ダウンとなりかねません。
また近年、会社に対する口コミをまとめたサイトも増えています。人事評価に納得できないという口コミが書かれ、それを見た求職者が敬遠する可能性もあるでしょう。
③訴訟のリスクが高まる
人事評価は基本的に使用者の裁量にゆだねられます。しかし裁量の逸脱や濫用が認められ、損害賠償を争う裁判に発展したケースは過去にいくつもあるのです(マナック事件や住友生命保険事件、コナミデジタルエンタテインメント事件など)。
これは企業にとって大きな損失といえます。仮に民事訴訟を提議されると、会社は社会的評判や会社のイメージを大きく下げてしまうでしょう。
3.従業員が納得できない人事評価の要素
従業員が納得できない人事評価には、どのような要素があるのでしょうか。ここでは納得できない人事評価の理由を以下5つの視点から説明します。
- フィードバックが不十分
- プロセスへの評価が皆無
- 評価基準が明確ではない
- 自己評価との不一致
- 報酬への反映
①フィードバックが不十分
従業員は十分なフィードバックを受けられないとき、納得できない人事評価だと感じます。フィードバックがないと、従業員はなぜ高い評価にならなかったのか、理解できません。フィードバックがあれば、今後の改善点や評価が上がるポイントなどを見直せます。
②プロセスへの評価が皆無
評価基準が成果のみでプロセスへの評価がないときも、従業員にとっては納得できない人事評価になります。近年、日本企業で能力やスキルを評価する「成果主義」が見られるようになりました。
成果主義は目に見える結果を評価しやすいというメリットがあるものの、目に見えない、過程の部分は評価されにくいです。成果主義を導入する場合、プロセスへの評価を補助的に導入するとよいでしょう。
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③評価基準が明確ではない
納得できない人事評価の理由として特に大きいのが、評価基準が不明確である点。
「評価基準が上層部の暗黙知となっている」「明文化はされているものの従業員に開示されていない」と、従業員は何を目標にしてどこに力を注げばよいか、判断できません。
従業員はどのような理由で評価されたのかわからないため、納得感は下がってしまいます。
④自己評価との不一致
従業員の「なぜこの評価になったのか」という問いに納得感のある答えを伝えられないと当然、納得できない人事評価になります。
事実「人事評価制度に不満を感じる理由」として「自己評価よりも低く評価され、その理由が思い当たらない」と回答している従業員も多く存在するからです。食い違いを防ぐためにも、普段から細かくフィードバックするとよいでしょう。
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⑤報酬への反映
人事評価制度は従業員の昇格や昇進、処遇などを決める基準になります。したがって評価に応じた処遇、報酬への反映がないと納得感の低い人事評価となり、従業員のモチベーションを低下させてしまうのです。
ただし報酬反映のみを目的として人事評価を行うと、「評価結果さえよければよい」「報酬に反映されない業務は努力しなくてもよい」と考える原因にもなるため、慎重な判断が求められます。
4.納得できない人事評価は制度に不備がある可能性も高い
従業員が納得できない人事評価は、評価制度そのものに不備がある可能性も高いです。ここでは納得できない人事評価を防ぐためのポイントを下記2つから説明します。
- 「人材育成」という目的の抜け落ち
- オンラインに対応した評価制度の必要性
①「人材育成」という目的の抜け落ち
人事制度は「賃金制度」「等級制度」「人事評価制度」の3つから成り立っています。このうち人事評価制度は従業員の賞与や昇格、つまり賃金制度や等級制度にも影響する重要な要素です。
人事評価制度には「査定」「育成」という2つの目的があります。しかし査定のみにしてしまうと人事評価制度は十分な機能を果たせません。「人材育成」を強化するため、評価結果を育成につなげる仕掛けが必要になります。
②オンラインに対応した評価制度の必要性
働き方改革の推進やコロナ禍の影響もあり、リモートワークを導入する企業が増えてきました。しかし仕事ぶりを直接目で見て評価できないリモートワークでは、業務のプロセスを十分に評価できず、適切な人事評価ができないといった事態が想定されます。
後述する人事評価の納得感を高めるためのポイントや、具体的な施策をおさえた人事評価制度の構築が重要です。
5.人事評価の納得感を高めるための心得
人事評価の納得感を高めるには、以下3つのポイントをおさえておく必要があります。いずれも評価制度の信頼性や妥当性を高めるために欠かせないポイントです。
- 評価対象を明確化する
- 評価者自身が評価の重要性を知る
- 評価エラーに注意する
①評価対象を明確化する
はじめに「何を評価するのか」という評価対象を明確にします。代表的な評価対象は以下の3つです。
- 能力:職務を遂行するうえでのスキル
- 業績:組織や目標達成への貢献度
- 情意:仕事に対する態度や姿勢
評価対象があいまいなままだと、評価者と被評価者の間に認識のずれが生じやすくなり、納得感を下げる原因となります。数字やレベルなどの具体的な指標を用意して、人事評価の納得感を高めましょう。
②評価者自身が評価の重要性を知る
納得感の高い人事評価が行えるかどうかは、評価者による点が大きいのも事実です。評価者は評価の重要性を認識したうえで個人的な推測や思いこみではなく、事実にもとづいて客観的な評価を行いましょう。
納得感の高い人事評価には自らの主観を排し、被評価者の言動や数字に表れた実績などを正確に把握できる人物が求められます。
③評価エラーに注意する
人が人を評価する以上、どうしても評価の誤りや認識のずれが生じてしまいます。これを「人事評価エラー」あるいは「評定誤差」と呼ぶのです。
人事評価エラーは無意識のうちに発生するため、完全に防ぐのは難しいもの。しかしどのような人事評価エラーがあるのか事前に把握しておけば、評価時のエラーに気付ける可能性も高いです。
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6.納得できない人事評価を改善する対策
納得できない人事評価を改善するためには、次のような施策も効果的です。ここでは具体的な施策とその事例について説明します。
- 目標管理制度(MBO)の導入
- コンピテンシー評価の導入
- 360度評価の導入
- ノーレイティングの導入
- 評価者研修の実施
①目標管理制度(MBO)の導入
従業員一人ひとりに個人目標を決めてもらい、その進捗や達成度合いに応じて人事評価を決めるマネジメントのこと。会社の経営目標や部門目標と連動した個人目標を立てるため、個人と組織の成長を同時に達成させ、相互に納得感を高める効果があります。
本制度により従業員が目標を達成すれば、会社としての経営目標にも近づけるため、上司からの賞賛を得られます。評価に対する納得感が高まるのと同時に自尊心が満たされ、モチベーションアップにもつながる制度です。
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ゲームを主軸としたエンターテイメント事業で活躍するグリーは、目標管理を人事評価と結び付けすぎない目標管理制度を導入しています。
人事評価の目的を強くすると、どうしても数値化できる項目の重要度が高くなるもの。同社では人事評価とのつながりをあえて緩くして、数値にあらわれない定性的な面をフォローしています。これが納得度の高い人事評価につながっているという事例です。
②コンピテンシー評価の導入
高い業績を残している従業員の行動特性(コンピテンシー)を基本にして、評価項目や評価基準を設定する人事評価制度のこと。評価項目そのものが行動指針になるため、従業員にとっては具体的な行動をイメージしやすくなるのです。
評価のポイントが明確になり、評価者の主観が入り込みにくいコンピテンシー評価は、その公平さから従業員の納得感が得やすい評価制度としても知られています。
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東京都港区にある虎の門病院では、看護管理者の質を高める目的でコンピテンシー評価を導入。同病院では看護師長や部長など管理職のコンピテンシーを6カテゴリー16項目設けて、それぞれ6段階で評価しています。
特徴は6段階を職給と照らし合わせ、各職級に必要なレベルがわかるよう明文化している点。これにより各看護管理者は具体的な行動がイメージしやすくなり、評価の納得性も高まるようになりました。
③360度評価の導入
一人の従業員に対して上司だけでなくさまざまな関係者が評価を行う制度のこと。それまで人事評価といえば上司が部下に対して行うのが一般的でした。しか、その評価は一方的で公平さに欠け、本人の納得感が得られないという課題を抱えていたのです。
360度評価では上司だけでなく同僚や部下など多面的な立場から評価します。そのため一方的な評価に比べて客観性を担保しやすく、被評価者が納得しやすいのです。
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導入事例
生活用品の企画や製造、販売を行うアイリスオーヤマでは「自身の強みや弱みを客観的に評価して、自己成長につなげる」という目的で、360度評価を導入しました。
社内の調査結果によると、360度評価に対する納得度は5点満点中4.2と非常に高い数字を出していました。一般社員だけでなく幹部社員や社長にも徹底した360度評価を実施して、納得性・客観性の高い人事評価制度を実現している事例です。
④ノーレイティングの導入
等級や階級によるレイティング(rating、評価)をしない人事評価制度のこと。従業員に「S」「A」「B」「C」などのランクを付けるのではなく、ひんぱんなフィードバックを行って評価の積み上げ、目標の軌道修正を重ねる方法です。
本制度では評価者と被評価者の対話を重視するため、相互のコミュニケーションが活性化します。つねに認識をすり合わせているため、互いに納得のいく評価ができるのです。
ノーレイティングとは? 評価制度のメリット・デメリット、事例
ノーレイティングを導入しても、人事評価は必要です。
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導入事例
総合コンサルティング会社のアクセンチュアは、ノーレイティングを活用した「パフォーマンス・アチーブメント」という評価制度を実施しています。
被評価者がキャリアに沿った目標をみずから設定し、その目標に対して会社としてできることをサポートする制度です。目標達成に向けた適切なフィードバックやコーチングへの参加なども積極的に行い、人事評価の納得性を高めています。
⑤評価者研修の実施
人事評価を行う評価者に向けた研修制度のこと。目的は人事評価制度の仕組みや評価基準、評価方法などに関する理解を深めて、評価者の評価スキルを向上させることです。
どれほど立派な人事評価制度があっても、評価者にそれが浸透していなければ十分な効果は得られません。
産労総合研究所が発表した「2016年評価制度の運用に関する調査」によれば、評価者教育を実施している企業は全体の約7割。多くの企業が「評価者が正しい評価能力を身につけることの重要性」を意識しているとわかります。
評価者研修とは?【必要な理由】目的、具体例、実施ポイント
評価者研修とは、管理職や人事部の担当者など、人事評価の評価者を対象とした研修です。人事評価の仕組みや評価方法、評価に必要な知識・スキルを体系的かつ実践的に学べます。
評価は人材戦略の重要な要素であり、...
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また日本能率協会マネジメントセンターでは、映像教材や評価面談のロールプレイングをとおして実践力を養う研修を実施。ほかにもさまざまな企業が評価スキル向上の重要性を説いた研修を実施しています。