燃え尽き症候群とは、それまで熱心な仕事に取り組んでいた人が突然労働意欲をなくしてしまう様態のことです。ここでは燃え尽き症候群の症状や要因、発症しやすい環境などについて解説します。
目次
1.燃え尽き症候群とは?
燃え尽き症候群とは、それまでひとつの物事に没頭していた人が、心身の疲労によって突然熱意や意欲を失ってしまう様相のこと。
1970年代に精神心理学者のハーバート・フロイデンバーガーによって提唱されたものです。WHOが発行する「疾病および関連保健問題の国際統計分類(国際疾病分類)第11版(ICD-11)」では「バーンアウト」という名称で分類されています。
「突如疲れ果てる」「急に手抜きが増える」「無気力状態になる」「急な欠勤が増える」このような場合、燃え尽き症候群の可能性が高いです。
うつ病との違い
燃え尽き症候群の症状を見て「うつ病」を思い浮かべる人も多いでしょう。うつ病とは、精神的あるいは身体的ストレスなどにより日常生活に支障が出るほどの強い気分の落ち込み、意欲の低下が続く状態のこと。
うつ病はおもに根拠のない悲観的な思考によって発症しますが、燃え尽き症候群は「努力に見合う結果が得られなかった」「大きな目標を達成したあと打ち込めるものがなくなった」ときに発症するという違いがあります。
2.燃え尽き症候群の症状
燃え尽き症候群は誰にでも起こり得る様態です。代表的な症状として下記の3つが挙げられます。
- 情緒的消耗感(Emotional Exhaustion)
- 脱人格化
- 個人的達成感の低下
①情緒的消耗感(Emotional Exhaustion)
仕事を通じて情緒的に力を出し尽くした結果として消耗してしまった状態のこと。単なる疲労感ではなく「情緒的」と付くのが特徴で、消耗感の原因が情緒的なエネルギーの枯渇であると定義しています。
「心身ともに疲れ果てたと思うことがある」「自分の仕事がつまらなくてしかたないと思うことがある」などの症状が見られるのです。
②脱人格化
非人間的な態度を取ってしまう状態のこと。情緒的消耗感によってエネルギーが枯渇してしまうと、それ以上の消耗を防ぐための防衛反応として「同僚や顧客の顔を見るのが嫌になる」「顧客や同僚と何も話したくない」などの行動が表れます。
相手の人格を無視して思いやりのない態度を取ってしまう状態です。
③個人的達成感の低下
ヒューマンサービスの職務に関わる有能感や達成感のこと。「情緒的消耗感」や「脱人格化」によってヒューマンサービスが低下し、望むような成果や達成感が得られなくなる状態です。
「自分にはこの仕事にふさわしい能力が備わっていない」「この仕事は自分に向いていない」など自身に対する否定的な感情から、休職や離職につながるケースもあります。
3.燃え尽き症候群の要因
燃え尽き症候群は誰にでも起こり得ます。しかし何が要因となって発症してしまうのでしょう。ここでは燃え尽き症候群の要因を個人と環境の視点から説明します。
個人要因
燃え尽き症候群になりやすい人の特徴として挙げられるのが、「完璧主義」「何事にもひたむきに取り組む」人です。この「ひたむきに取り組む人」は、多くの仕事を達成しようとしてできなかった場合に深く悩みやすいといわれています。
顧客を喜ばせようとしてマニュアルにない独自のサービスに没頭してしまう人、クレーマーのような顧客の無謀な要望にまで答え続けてしまう人も、燃え尽き症候群に陥りやすい傾向にあるのです。
ほかにも若い人や業務経験が少ない人なども燃え尽き症候群に関連すると報告されています。仕事ヘの期待が高く、成果が得られなかった際に大きな落差を感じてしまうためです。
環境要因
長時間労働や重労働などの環境要因も、燃え尽き症候群を発症させる要因といえます。人手不足による長時間労働を余儀なくされるサービス業や、重いノルマを課されて達成できなかった際、精神的なストレスを負う営業職などが具体的な例です。
とくに過重負担を自ら意思ではなく他者から強要されている場合、より深刻な影響を与えます。会社には上下関係をはじめさまざまな人間関係が存在するもの。自らの意思に反した負担が過度に増えると燃え尽き症候群を発症しやすくなります。
4.燃え尽き症候群になりやすい職場の環境要因
燃え尽き症候群をになりやすい職場環境とは、どのような環境でしょうか。ここでは以下4つの視点から燃え尽き症候群を発症させやすい職場の環境要因について説明します。
- 仕事を強要してくる
- 評価が実感できない
- 仕事とプライベートの境界線がない
- 優秀な社員ほど仕事の量が多い
①仕事を強要してくる
他者から仕事を強要される、自立性を保てない職場では充実感が得られず、疲労感だけが残ります。
同じ「会議に出席する」という行為でも「興味関心がある、業務に関係のあるミーティングに自ら出席する」のと「日々の業務との関連性が低いミーティングに出席を強いられる」のとでは心身への負担が違うでしょう。
後者では「押し付けられた」という感覚が強く残り、充足感が低くなってしまうのです。
②評価が実感できない
努力に対する評価が実感できない職場も、やりがいが感じられず疲労や不信感から燃え尽き症候群を発症しやすくなります。自分がどれだけ努力しても具体的な評価が得られないような職場で、モチベーションを高く維持したまま働き続けるのは困難です。
もちろん上司は評価しているつもりでも、本人がそれに価値を感じられないのでは意味がありません。
③仕事とプライベートの境界線がない
仕事とプライベートの境界線がはっきりしていないと、強いストレスを生んでしまいます。
「いつ呼び出しが入るかわからない」「いつでもトラブルに対応できるよう準備していなければならない」状態では、緊張状態をつねに維持するため心身に強いストレスがかかるのです。
「ワークライフバランス」が定着しているとおり、仕事とプライベートをしっかりと切り替えて十分な休息を取ると、燃え尽き症候群を防げます。
④優秀な社員ほど仕事の量が多い
「全ての社員に対して均等な扱いを」と考えていても、やはり仕事のできる社員には多くの仕事が振りわけられます。それらの業務が本人のキャパシティを超えていなければ問題ありませんが、限度を過ぎると燃え尽き症候群を発症する原因になるでしょう。
上司は部下に割り振られている業務量が適切であるかをつねに管理、調整する必要があります。
5.燃え尽き症候群の予防策
実際に燃え尽き症候群になる前に、予防できないのでしょうか。ここでは燃え尽き症候群の予防策5つについて説明します。
- 時間管理体制を整える
- 仕事での役割を分担する
- 共感と思いやりのある職場文化を作る
- 社員の変化に気づく支援体制を設ける
- 評価や明確な目標・支援があると示す
①時間管理体制を整える
長時間残業や休日出勤などの過重負担は、燃え尽き症候群を発症する原因のひとつ。防ぐために、まずは社内の時間管理体制を強化して、長時間残業や休日出勤を減らしていく必要があります。
「仕事をきちんとこなしているか」を見ることだけが管理職の仕事ではありません。「休憩をしっかりと取っているか、無理をしていないか」を十分に見極めるのも重要です。
②仕事での役割を分担する
燃え尽き症候群を防ぐためには、業務の負担を見直すのも必要です。特定の社員に業務が集中しているときはチーム全体で協力して業務を分担し、一人あたりの業務量を減らすよう改善していきましょう。
ひとつひとつの業務をさらに細分化すると、大きな仕事も分担しやすくなります。
また困った際にお互いがフォローできる体制を整えておくのも効果的です。ストレスをため込みやすい人も従業員同士のコミュニケーションによってストレスが発散できるほか、燃え尽き症候群の兆候に気づきやすくなります。
③共感と思いやりのある職場文化を作る
つねに緊張感に溢れて落ち着かない職場環境のなか、心身的疲労を回復させるのは困難です。情緒的な消耗感を増やして燃え尽き症候群を発症させないためには、相手に対する敬意や共感、思いやりをもった職場文化づくりが重要になります。
リラックスした状態で業務に集中できれば、個人のパフォーマンスが上がり、今まで以上の成果を生み出せるかもしれません。
共感と思いやりのある職場文化は仕事に対する無力感を予防できるうえ、社員のモチベーションやエンゲージメント向上の効果も期待できます。
④従業員の変化に気づく支援体制を設ける
燃え尽き症候群の兆候に周囲が気づける体制になっていれば、事態の重症化を未然に防げます。とりわけ責任感の強い人は自分の不調に気付かないまま頑張り過ぎてしまう傾向にあるもの。
そこで有効なのが、1on1ミーティングやメンター制度の導入です。1on1ミーティングを定期的に実施すれば、上司は部下の状況を見る機会が増えます。それにより燃え尽き症候群になる前、原因を取り除けるかもしれません。
またメンター制度によって上司以外が社員の状況を見られる体制を整えておくと、変化に気づきやすくなります。
⑤評価や明確な目標・支援があることを示す
目標があいまい、評価の基準が明確ではないという場合でも燃え尽き症候群は発症しやすくなります。「頑張っても正当に評価されない」「そもそも何のために頑張るのか分からない」という状況でモチベーションを上げ、生産性を高めるのは難しいでしょう。
会社の評価制度や昇格、昇給の基準は明確に定められており、それらは正しく社員に伝えられているでしょうか。
ほかにも「大きな目標のほかに短期的に実現できる小さな目標を設ける」「個人の成果を発表する機会を設ける」なども、燃え尽き症候群の発症を抑える効果があります。
6.従業員が燃え尽き症候群になったときの回復に向けた対応策
万が一自社の従業員が燃え尽き症候群になったとき、どのように対応すればよいのでしょう。従業員が燃え尽き症候群になってしまった場合の対応策について説明します。
- 職場復帰支援
- 休職者の窓口となる担当者を明確にする
- 試し出勤制度の導入
- 職場復帰後のバックアップ
①職場復帰支援
燃え尽き症候群は事態が重症化する前に原因を改善し、未然に防げるのが一番です。しかしもしも発症してしまった場合は、産業医などの医療機関と連携して治療を行う必要があります。
症状改善のため治療を行い、医師が復帰可能と判断したら職場復帰日と職場復帰後の計画を立てていきましょう。
その際は人事労務管理上の対応や産業医などによる医学的見地からみた意見も加味しなければなりません。医師と会社、本人が協力して無事に職場復帰できるよう進めることが大切です。
②休職者の窓口となる担当者を明確にする
休職者の相談窓口を明確にしておくと、休職中の疑問や復職に必要な条件などについて確認しやすくなります。
休職者は燃え尽き症候群になり、ただでさえメンタルに打撃を受けています。そこで「誰に聞けばよいか分からない」「会社にさらに負担をかけたくない」という状況になれば、さらなる負担を与えるでしょう。
人事や総務、産業医などが担当窓口を務めるのが一般的です。
③試し出勤制度の導入
燃え尽き症候群やうつ病など、メンタルヘルスの不調によって休業している従業員の職場復帰を支援する方法として「試し出勤」という制度があります。完璧な状態で復帰することが難しい場合、この制度を利用して少しずつ出勤に慣れていくとよいでしょう。
模擬出勤
直接会社にいかず、仕事に近い模擬的な軽作業を行う出勤制度のこと。出勤時間と同様の時間帯に図書館やカフェ、リハビリ施設などで過ごし、職場復帰をイメージします。
燃え尽き症候群の原因となっていた職務にいきなり触れさせると、症状の悪化を招くおそれも高いです。復帰後の仕事再現度は高くありませんが、職場復帰のリハビリ活動として少しずつ心身を慣らしていけます。
通勤訓練
通常の出勤時間にあわせて自宅から職場近くまで移動し、出勤をシミュレーションする制度のこと。これには通勤に必要な体力を確認したり、生活のリズムを整えたりする効果があります。
燃え尽き症候群になった社員が通勤途中にパニックを起こしてしまう可能性も考えられるでしょう。通勤訓練にはこのような事態を防ぎ、再発を防ぐ狙いがあります。
試し出勤
模擬出勤や通勤訓練を問題なくクリアできるようになったら、本復帰はまもなく。とはいえいきなり本業務に復帰させず、様子を見ながら業務量を調節して、少しずつそれまでの仕事の形に戻していく「試し出勤」にトライしましょう。
具体的な施策として挙げられるのは短時間勤務や交替勤務の制限、軽作業や定型業務への従事などです。
④職場復帰後のバックアップ
「試し出勤制度を利用して無事職場に復帰できたからそれで終了」ではありません。燃え尽き症候群になったそもそもの要因が改善されなければ、再びメンタルヘルスの不調が生じるおそれもあります。
発症の原因が個人にある場合は業務改善や再発防止のサポートを、環境要因の場合は会社として抜本的な改善を行わなければなりません。
業務内容の見直しはもちろん、部署の変更、復帰後のケアなどを十分に行うなど、次の燃え尽き症候群発症者を出さないための取り組みが求められます。