完全歩合制は違法? バイト、営業、インターン、業務委託

完全歩合制を従業員に適用するのは違法です。ここでは完全歩合制の意味や歩合給を採用する際の注意点、最低賃金との関係について解説します。

1.完全歩合制が違法とは?

労働基準法には「出来高払制の保障給」という考え方があります。これは出来高払制およびその他の請負制で使用する労働者に対して、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金を保障しなければならないという取り決めです。

完全歩合制には固定給が一切ありません。たとえば歩合給の営業職に対して「営業成績がまったくあがらなかったことを理由に一切の給料を支払わない」場合、この規定に反しているため、違法と判断されるのです。

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2.完全歩合制とは?

そもそも「完全歩合制」とはどのような制度なのでしょう。ここでは「完全歩合制」の意味と業務委託契約について説明します。

完全歩合制の意味

毎月固定で支払われる報酬の設定がなく、報酬はすべて成果に応じて決まる形態のこと。「フルコミッション制」とも呼ばれており、成果をあげればあげただけの報酬が得られる一方、たとえ1日10時間働いたとしても成果があがらなければ報酬は得られません。

完全歩合制は極端に実力主義的な制度で、とくに報酬と成果が連動する働き方に適しています。高い成果を生み出れば、一般的な会社員では得にくい高額な報酬も得られるのです。

完全歩合制の場合、業務委託契約となる

労働基準法では労働者に対する賃金保障について定めています。よって一般的な雇用契約のもとで雇用している従業員に対して「完全歩合制」を導入できません。したがって完全歩合制で働けるのは「業務委託契約」でパートナーシップを組んだ個人事業主のみです。

不動産や保険の営業、タクシードライバーなどに、この完全歩合制が多く適用されています。

業務委託契約

会社内部で行っている業務の一部を、外部の企業や個人に委託する際に結ぶ契約形態のこと。委託された側は単に労働力を提供するのではなく、具体的な仕事の成果を提供しなければならないのです。

業務委託契約では会社員や派遣社員などと異なり、会社と直接雇用契約を結びません。また会社側から具体的な進め方や指揮命令を受けず、対等な立場で委託された業務を行うのです。

報酬は成果物を完成させた対価として支払われ、契約関係はそこで終了します。もちろん契約内容によっては一定期間続けて業務を委託するのも可能です。

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請負契約

業務を請け負った人が仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬を支払う契約形式のこと。成果物の納品に際してどのような業務を行ったか、何時間働いたかといった過程は問われず、成果物が不備なく完成、納品されたかのみ問われます。

請負人には成果物を完成、納品する義務があり、これらがない場合、報酬を請求できません。

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委任契約

当事者のどちらかが法律行為を相手に委任し、承諾することで生じる契約のこと。目的は成果物の完成ではなく、業務の遂行です。したがって報酬は仕事の完成ではなく、業務を行った時間や工数にもとづいて支払われます。

請負契約では業務の完成後に注文者が報酬を支払うのに対して、委任契約では成果物の有無を問いません。

請負契約を結んだ製造業はどれだけ労務を提供しても商品が完成しない限り報酬は発生しませんが、委任契約を結んだ弁護士が訴訟に敗訴しても、一定の報酬が発生します。

準委任契約

業務を行った行為そのものに報酬が支払われる委託契約のなかでも、法律行為ではない事務を相手に委託する契約。

コンサルティングやシステム保守、セミナー講演などが準委託契約にあたります。税務顧問や訴訟代理人、不動産の賃貸などの法律行為をともなう場合、委任契約になるのです。

またかつて「瑕疵担保責任」と呼ばれていた「契約不適合責任」は、「請負契約」には発生しますが、「準委任契約」には発生しません。

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3.完全歩合制の雇用契約は違法

完全歩合制の場合、労働者は基本、企業に属さず業務委託契約を結びます。したがって正社員や契約社員として企業に属している労働者には、完全歩合制を適用できません。

これについては労働基準法第27条「出来高払制の保障給」で「労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならない」と定められています。労働者を雇用する会社は、仕事の成果を問わず労働時間に応じた最低賃金を保障しなければなりません。

完全歩合制は会社と独立した個人事業主のあいだで契約を結ぶもので、会社員やアルバイトなど雇用契約を結んだ労働者に対して完全歩合制を適用させるのは違法です。

完全歩合制のバイトは違法?

「出来高払制の保障給」が適用されるのは正社員だけではありません。先に触れたとおり、会社と雇用契約を交わしている契約社員やアルバイトに対しても、労働時間に応じた一定額の賃金を保障する義務があります。

「アルバイトには単純労働が多いから」「正社員ほど仕事に対する責任が重くないから」といってアルバイトに完全歩合制を適用させるのは違法です。

完全歩合制を適用させる場合、業務委託契約の締結が必要です。「成果があがらないから十分な報酬を支払わない」「期待する成果が得られたから十分な報酬を支払う」という完全歩合制を導入したい場合、労働者と業務委託契約を結ぶ必要があります。

完全歩合制のインターンは違法?

「出来高払制の保障給」は、学生が実際の業務をとおして業務内容や働くことへの理解を深める「インターンシップ」に適用される場合もあります。インターンシップに関する直接的な法規制はありません。

しかしインターンシップで、社員と同様の業務を遂行するときもあるでしょう。この実態が労働契約であると判断された場合、「出来高払い制の保障給」すなわち「労働基準法」の適用を受けるのです。

また数は少ないものの、業務委託として長期インターンを導入している企業もあります。企業が直接雇用しているわけではなく、会社に出勤したり、毎日決まった時間に労働したりする必要もないため、講義の多い大学1、2年生や地方学生に適しているでしょう。

完全歩合制の営業は違法?

保険の営業やタクシードライバー、太陽光発電のセールスなど、完全歩合制は営業職に多く見られる働き方です。完全歩合制では具体的な営業方法や1日のスケジュールは本人の裁量に任されており、受注を得られれば得られるほど高収入が見込めます。

しかし反対に営業ノルマがこなせなかったり成績が思うように伸びなかったりした場合は当然、報酬がダウンします。

業務委託契約を結んだ個人事業主にはこの働き方が適用できるものの、雇用契約を結んでいる労働者には、どれだけ営業成績が悪くても最低時給以上の給与を支払わなければなりません。

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4.雇用契約で歩合給を採用するには?

雇用契約を結んでいる労働者に対して「完全歩合制」を導入できませんが、労働者の成果に応じて給与を支払いたいという企業は「固定給+歩合給」で完全歩合制に近い給与形態を採用できます。

雇用契約では一定給与を保障した歩合給となる

労働者保護の観点から、労働基準法における「出来高払制の保障給」では企業が労働者として雇用するかぎり、一定の給与支払いを保証しなければならないと義務づけています。

そのため出来高や成果によって報酬を決めたい場合、「完全歩合制」ではなく固定給に「歩合給」をくわえた給与体制を検討したほうがよいでしょう。

歩合給

個人の業績や成果に応じて給与を支払う給与体系のこと。「売上額の1%」「契約1件の成立につき1,000円」のように、売上や販売数量、契約件数などによって給与額が変動します。

歩合給と固定給の割合は会社によって異なるもの。歩合給の割合が高ければ業績の良さから支給額が増え、業績が下がれば減額となります。反対に固定給の割合が高ければ業績が良かった場合の見返りは少ないですが、毎月の支給額は安定するのです。

完全歩合制と歩合制との違い

「出来高や成果に応じて報酬が決まる」という意味では、完全歩合制も歩合制も同じです。しかし歩合制には一定時間働くことで支払われる「固定給」が加算されるため、基本給は0円になりません。

しかし完全歩合制の場合、「固定給」がないため、成果がまったくあげられなかった場合無給になる可能性があるのです。

歩合給が多い職種

歩合給は特に、労働者個人の能力が会社の業績に大きな影響を与える業種で多く導入されています。具体的な業種は下記のとおりです。

  • タクシーの運転手
  • 不動産業の営業職
  • 美容師や理容師
  • 保険業の営業職
  • 自動車ディーラー

「時間を柔軟に使える」「仕事に対する意欲を高く保てる」といったメリットがある一方、「収入が安定しにくい」「若手社員が育ちにくい」などのデメリットがあります。

労働基準法第26条

労働基準法第27条では「出来高払制の保障給」について以下のとおり明文化しています。「出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、使用者は労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならない。」

ここでいう「一定額の賃金の保障」が、労働者の責任がない事由にて給与額が低下するのを防ぐ保障給、すなわち「出来高払制の保障給」になります。会社は雇用している労働者に対してこの保障給を支払わないと違法と判断され、罰則の対象となるのです。

「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」

「一定額の賃金の保障」について、具体的な金額は法令上定められていません。行政からの通達では「通常の実収賃金とあまり隔てのない程度の収入」と規定されており、具体的には以下2点を踏まえた金額とするのが一般的です。

  • 労働者が休業した場合に支払われる「休業手当」を参考にした金額(平均賃金の6割以上)
  • 最低賃金を下回らない金額

この保障給を支払わない場合、会社には労働基準法120条1号にしたがって30万円以下の罰金が科される恐れもあります。

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5.歩合制と最低賃金との関係

歩合制を検討する際は「最低賃金」に関する知識も必要です。ここでは歩合制と最低賃金、割増賃金の関係について説明します。

最低賃金

雇い主が労働者に最低限支払わなければならない賃金のこと。「低賃金労働者の生活を改善・安定させる」「労働能率の増進や事業間の公平な競争を確保する」のが狙いです。

同じ「最低賃金」でも「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。

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地域別最低賃金

その都道府県で働くすべての労働者に適用される最低賃金額のこと。産業や職種、雇用形態などを問わず、すべての労働者と雇い主に適用されます。令和3年度のおもな地域別最低賃金は以下のとおりです。都市圏の賃金は高く、地方の賃金は低い傾向にあります。

  • 東京都:1,041円
  • 神奈川県:1,040円
  • 大阪府:992円
  • 愛知県:955円
  • 北海道:889円
  • 福岡県:870円
  • 沖縄県:820円

特定最低賃金

地域別最低賃金より水準の高い最低賃金を定めることが必要だと認められた産業に対して設定される、最低賃金のこと。「特定(産業別)最低賃金」とも表記され、2022年1月現在全国で226件の特定最低賃金が定められています。

特定最低賃金の対象およびその賃金は、以下のとおり各都道府県によって異なるのです。

  • 東京都:鉄鋼(871円)、一般機械(832円)、輸送機械(838円)
  • 北海道:乳製品、糖類製造業(922円)
  • 岩手県:百貨店、総合スーパー(800円)
  • 愛媛県:製紙(951円)

歩合制でも最低賃金を下回れない

先に述べたとおり、歩合制には労働基準法第27条「出来高払制の保障給」により、どれだけ成果があがらなかったとしても労働時間に応じて通常賃金の6割以上を保障するための「固定給」が加算されます。歩合制でも最低賃金を下回れません。

たとえば月に150時間働いた場合の通常賃金が30万円の場合、歩合制でも30万円の6割、つまり18万円は固定給として支払わなければならないのです。なお地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合、高いほうが最低賃金の額になります。

歩合制と割増料金との関係

時間外労働や休日出勤、深夜労働など法定労働時間を超えて労働した労働者には、歩合制であっても割増賃金を支払わなければなりません。たとえば歩合給19万円の労働者が時間外労働18時間を含める190時間労働していた場合の計算式は、以下のとおりです。

  • 基本時給額:19万円÷190時間=1,000円
  • 1時間あたりの割増賃金額:1,000円×0.25=250円
  • 当月の割増賃金額:250円×18時間=4,500円
  • 支払う賃金:歩合給19万円+割増賃金4,500円=194,500円

固定残業制における割増賃金の考え方

歩合制を導入している企業のなかには「固定残業代制度」を導入している企業もあります。これは企業が一定時間の残業を想定し、あらかじめ月給に残業代を固定して支払う制度のことで「みなし残業」とも呼ばれているのです。

なお固定残業代を定めていても以下の場合、固定残業代のほかに割増賃金を支払う必要があります。

  • 固定残業時間以上に残業した場合
  • 法定休日に働いた場合
  • 深夜(22時から朝5時)に働いた場合

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6.完全歩合制や歩合制に関するおすすめの書籍

完全歩合制また歩合制に関する知識を深めたい場合、以下の書籍を参考にするとよいでしょう。ここでは完全歩合制および歩合制に関する3冊の書籍について説明します。

改訂版 マネジメントに生かす 歩合給制の実務

本書では歩合給制の歴史からはじまり、これまでの裁判例を踏まえた歩合給の適用判断や制度設計の実務について解説しています。

著者はビジネスリンク代表取締役の西川幸孝氏。経営の視点から人事を考える「経営人事コンサルティング」に取り組む西川氏が「歩合給制の本質とは何か」について論じた一冊です。

改定版では同一労働同一賃金の影響や最高裁判決の事例などについても解説しています。

運送業の未払い残業代問題はオール歩合給で解決しなさい

運送業の未払い残業代問題にフォーカスし、歩合給制度に理解を得るための説明や経過措置設計の方法、運用のポイントなどについて、具体的な例を交えてわかりやすく解説したのが本書です。

運送業の割増賃金支払いをめぐるトラブルは、同一労働同一賃金への対応、2022年4月以降の賃金の消滅時効延長により今後さらに増えると考えられています。そのようなときこそ「オール歩合給制度」が有効であると述べた一冊です。

タクシー事業のための 労務管理一問一答

本書はタクシー事業における労務管理の疑問事項や必要とされる配慮について、一問一答形式で簡潔にまとめた一冊です。

歩合給制が中心となっているタクシー事業では、変形労働時間制や社外での単独業務など、独自の労務問題に対応できる人材が必要になります。

本書では、業界の実情を踏まえた労務管理問題を200問掲載。図表を使い、具体的な計算例や規定例などをわかりやすくまとめています。