36協定届とは、法廷時間外労働や法定休日労働について届け出る書類のこと。36協定届とは何なのか、届出先や3つの届出方法、電子申請や注意点、必要なケースなどを解説します。
目次
1.36協定届とは?
36協定届とは、労働者の法廷時間外労働や法定休日労働について、使用者が労働基準監督署に届け出る書類のこと。正式名称は「時間外・休日同労に関する協定届」です。労働基準法第36条にもとづいていることから、「36協定届」という通称で呼ばれています。
労働者に法廷時間外労働や法定休日労働をさせる場合、使用者はあらかじめ労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは労働者の過半数の代表者と書面による協定を締結しなければなりません。
この使用者と労働者の協定が36協定、そしてそれにもとづいた届出が36協定届です。
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2.36協定届の様式
36協定届では、どのような形式をとらねばならないのでしょう。36協定届の形式について、ほかの書類との違いや変更点なども含めて説明します。
36協定届と36協定書の違い
36協定届と36協定書は、一文字しか違わないためよく混同されます。36協定届と36協定書の違いについて説明しましょう。
36協定届
36協定について労働基準監督署に届け出るための書類のこと。使用者は定められた対象期間の前に、36協定届の提出が必要です。違反した場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金という罰則が科せられます。
注意したいのは、36協定届は「労働基準監督署に届け出るための書類」に過ぎない点。36協定届はあくまで、36協定とそれにもとづく36協定書の後に存在するものです。そのため36協定書なしで36協定届は成り立ちません。
36協定書
使用者と労働者代表が36協定を結ぶための書類のこと。労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは労働者の過半数の代表者が、使用者とともに36協定の内容を確認し、合意して署名と押印をします。
36協定届と異なり、労働基準監督署に提出する必要はありません。様式に明確な定めはないものの、時間外労働や法定休日労働について、以下の事項を記載するよう義務づけられています。
- どのような労働者に適用されるか
- 36協定が適用される期間
- どのような場合に可能になるか
- 1日や1カ月、1年、それぞれの期間で何時間、あるいは何日間させられるのか
- 厚生労働省令で定められた事項
3.令和3年4月から36協定届が新様式に変更
2021年4月から、36協定届の様式が新しくなりました。ここでは36協定届の新しい様式、古い様式からの変更点について説明します。
- 押印廃止について
- 新たなチェックボックスの創設
- 本社一括届出の取扱い
①押印廃止について
ここでは36協定届の押印廃止について説明します。
36協定届と36協定書と兼ねる場合
36協定届が36協定書を兼ねるならば、押印が廃止された2021年4月以降でも、使用者と労働者代表の署名と押印が必要です。36協定届はあくまで労働基準監督署に届け出るための書類ですが、使用者と労働者代表の署名と押印があれば36協定書と兼用できます。
ただし厚生労働省が新しくした36協定届に、労働者代表の署名と押印の欄はありません。36協定書を兼ねる場合、労働者代表の署名と押印の欄を自主的に追加する必要があります。
36協定届と36協定書を別々に作成する場合
36協定書を別に作成する場合、36協定届に以下の3点は不要です。実際に厚生労働省が新しくした36協定届には、労働者代表の署名と押印の欄がありません。
- 社印の押印
- 労働者代表の署名、あるいは記名
- 労働者代表の押印
こうした36協定届の押印廃止は、新型コロナウイルスへの緊急対策ならびに行政手続きの見直しの一環として行われました。36協定届のほかにも、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」の押印が同時に廃止されています。
②新たなチェックボックスの創設
新しい36協定届の様式では、労働者代表が適切に選出されたことを確認するため、チェックボックスがつけくわえられました。チェックボックスで確認するのは、以下のような内容です。
- 協定を結んでいるのが労働者の過半数を代表する者、あるいは全ての労働者の過半数で組織する労働組合である
- 労働者の代表者が監督、管理の地位にある者でない
- 労働者の代表が使用者の意思によらず、適切なやり方で選出されている
チェックボックスにチェックが入っていない36協定届は、要件を満たしていないとみなされます。
③本社一括届出の取扱い
新しい36協定届の様式では、事業場ごとに労働者の代表が違っていても、電子申請を使用して本社一括届出ができます。たとえば労働組合を持たない中小企業が事業所を複数展開していても、本社で36協定届を一括で作成、提出できるのです。
ただし本社一括届出ができるようになったのは、あくまで36協定届のみ。36協定届が36協定書を兼用する場合、これまでと同じく事業所ごとに作成が必要です。
4.36協定届届出先と3つの届出方法
労働者を雇用する使用者にとって欠かせない書類である36協定届。ここでは届出先と3つの届出方法を説明します。
36協定届の届出先は労働基準監督署
36協定届は、該当の事業所を管轄する労働基準監督署に届け出ます。本社一括届出を行う場合、本社を管轄する労働基準監督署に届け出てください。
労働基準監督署
法律にもとづいて労働者を保護する公的機関のこと。厚生労働省の出先機関として全国に設置されており、都道府県労働局の指導監督のもと、以下のような業務を行います。
- 使用者の監督
- 労働者の申告や相談への対応
- 労働災害保険の給付
- 家内労働者の福祉向上
- 労働衛生や労働契約にかかわる事項
労働基準監督署を構成するのは、監督課と労災課、安全衛生課の3つ。労基署や労基、監督署といった略称で呼ばれることもあります。
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36協定届の届出方法3つ
36協定届の届出方法は、下記の3つです。それぞれの届出方法について説明しましょう。
- 窓口
- 郵送
- 電子申請
①窓口
管轄の労働基準監督署に行き、窓口で36協定届を直接提出する方法です。厚生労働省や労働基準監督署の公式ページ、または窓口でもらえる届出用紙に記入し、控えを残して原本を提出します。労働基準監督署への事前連絡といった特別な手続きは必要ありません。
労働基準監督署は土日祝日と年末年始を除いて、9時半から17時半を目安に開庁しています。時間は各労働基準監督署によって異なるため、確認して平日日中に届け出ましょう。
②郵送
管轄の労働基準監督署に、36協定届を郵送で提出する方法です。控えを必要とする場合、以下の4点を同封してください。
- 36協定届の原本
- 36協定届の控え
- 切手を貼り付けた返信用封筒
- 書類の内容と枚数を記入した送付状
社会保険労務士が提出を代行する場合、36協定届の原本と控えに社会保険労務士の記名と押印が必要です。返信用封筒には社会保険労務士の氏名と住所を、送付状には改めて依頼元の会社名を、それぞれ記入しておきましょう。
③電子申請
e-Govというシステムを利用して、オンライン上で36協定届を提出する方法です。e-Govにアクセスして必要な項目を入力し、そのまま管轄の労働基準監督署にオンラインで送信します。入力する項目と内容は、届出用紙と変わりありません。
以前は社会保険労務士の代行に「事業主の電子証明書」が必要で、その手間からあまり活用されてきませんでした。現在は「提出代行証明書」の添付のみにルールが改正されており、よりかんたんに提出できるようになっています。
5.36協定届の電子申請
窓口や郵送のほか、電子申請もできる36協定届。ここでは電子申請の特徴や、具体的な手続きの流れについて説明します。
「 e-Gov(イーガブ)」
日本政府が運営するオンライン窓口のこと。行政情報の検索や案内のほか、各種申請がオンラインで行えます。e-Govは24時間どこからでも利用できるため、これまでのように限られた時間内に窓口まで行く手間がかかりません。
自宅や会社からいつでも簡単にアクセスでき、申請後はマイページで処理状況や提出先機関の通知も確認できます。
手続きの流れ
e-Govで36協定届を電子申請する際の流れは、以下のとおりです。
- 要件を満たすパソコンとブラウザソフトを用意
- Javaのインストールやポップアップブロックの解除など、動作環境を確認
- 電子証明書の取得
- 電子申請用プログラムをインストール
- e-Govトップページから「時間外労働/法定休日労働に関する協定届」を検索
- 「申請書を作成」をクリックして36協定届の内容を入力
- 「署名して次へ進む」をクリックして電子署名手続き
- 作成した36協定届をパソコン内の任意の場所に保存
- 続紙や特別条項が必要な場合は、「引き続きこの手続のほかの申請届出書を作成します」にチェック
- 続紙や特別条項がこれ以上必要ない場合は、「これまでに作成した申請届出書をe-Govに保管します」にチェック
- 申請届出書預かり票をダウンロード
- 申請書預かり票を読み込んで、作成した36協定届を呼び出し
- 申請者の氏名や住所などの基本情報を入力
- 提出先と添付書類を選択
- 「チェックした申請届出書を提出」をクリックして36協定届を提出
- のちほど処理状況を見るため「パーソナライズに登録」をクリックし、到達番号と問い合わせ番号を確認
36協定届の入力を一旦中止する場合、作成画面の「ファイルに保存」をクリックして保存できます。作成を再開する際は、画面の「ファイルから読込」をクリックしましょう。
6.36協定届についての注意点
36協定届を提出する際、単位や有効期限、提出期限などに注意が必要です。ここでは36協定届についての注意点を説明します。
事業所単位で届出を行う
36協定は原則、事業所単位の届出が必要です。事業所とは、一つひとつの店舗のこと。複数店舗を展開する会社であれば、店舗ごとに届出が必要となるわけです。すでに本社が36協定届を提出していても、店舗ごとの提出がなければ違法となります。
ただし2021年4月以降は、電子申請に限り本社が一括で届け出られるようになりました。36協定書はそれぞれの店舗で作成しますが、36協定届は本社を管轄する労働基準監督署にまとめて提出できます。
提出期限は、起算日が始まる前まで
36協定には労働時間を数えるための対象期間があり、36協定届はその起算日より前の提出が必要です。起算日を過ぎても届出はできるものの、未提出期間の法定時間外労働と法定休日労働はすべて違法とみなされます。
たとえば2023年4月1日を起算日とする36協定届を、2023年4月10日に提出するケースを考えてみましょう。36協定届に記された起算日とは関係なく、4月1日から10日までの法定時間外労働と法定休日労働はすべて違法となります。
36協定の有効期間
36協定には1年から3年の有効期間があり、切れる前に更新しなければなりません。有効期間が切れてからも更新はできますが、有効期間外の法定時間外労働と法定休日労働はすべて違法と判断されます。
36協定の有効期間は使用者と労働者との話し合いによって決定され、期間内の一方的な破棄は認められていません。
有効期間は最長3年まで設定できますが、厚生労働省は「定期的な見直しが必要」であり「1年が望ましい」と述べています。なお労使協約という形で36協定を結ぶ場合、有効期間を設定する必要はありません。
36協定を締結しなかった際の罰則
違反すると罰則の対象にもなる36協定。ここでは36協定を締結しなかった際の罰則について説明します。
- 是正勧告
- 刑事罰
- 企業名の公表
①是正勧告
36協定を締結しなかったり違反したりすると、労働基準監督署から是正勧告を受けます。是正勧告は使用者に対して、36協定の理解やそれにもとづく改善を求めている段階です。それを受けた状況の改善が認められれば、具体的な罰則は下されません。
逆に是正勧告を無視したり重大な事故が起こったりすると、悪質と判断され刑事罰や会社名の公表へと進んでいきます。労働基準監督署から36協定の是正勧告を受けたら、早急に対応して状況を改善しましょう。
②刑事罰
労働基準監督署からの是正勧告を無視したり、重大な事故が起こってしまったりした場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科されます。
刑事罰の対象は基本、違反を犯した使用者本人で、会社全体ではありません。たとえば36協定を超えて残業させた場合、その指示を出した管理監督者が刑事罰の対象となります。
③企業名の公表
36協定を締結しなかったり違反したりして書類送検された会社は、「労働基準法違反について送検事例」により名前が公表されます。一度名前が公表されてしまえば、その後の自社イメージの悪化や社会的信用の低下は避けられません。
新しい労働者を雇いにくくなったり消費者の購買意欲が下がったりと、さまざまな悪影響が考えられるでしょう。
届出済みの36協定届の内容を変更したいとき
一度提出した36協定届の内容を変更するには、36協定書の作成からやり直しが必要です。まず使用者と労働者代表の話し合いからやり直し、合意した内容で36協定書を再び作成。その後、労働基準監督署に36協定届を再提出します。
正式な手順を踏めば法律的な問題はないものの、ひんぱんな変更は労働者に不信感を抱かせかねません。繁忙期も考慮したうえで話し合いを進め、できるだけ変更の必要がない内容を練っておきましょう。
7.36協定届が必要なケース
通常の労使契約だけでなく、さまざま労働形態の制度に適用される36協定。ここでは36協定届が必要なケースについて説明します。
- フレックスタイム制度の場合
- 裁量労働制の場合
- 一年単位の変形労働時間制の場合
①フレックスタイム制度の場合
フレックスタイム制を導入していても、一定期間内に法定労働時間の上限を超える場合、36協定の届出が必要です。たとえば以下のようなケースで36協定届が必要となります。
- 清算期間の週平均労働者時間が40時間を超える
- 1カ月の週平均労働時間が50時間を超える
清算期間とは、労働者が自由に労働時間の長さを調節できる期間のこと。3カ月を最長として、自由な長さで設定できます。
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②裁量労働制の場合
裁量労働制を導入していても、みなし労働時間が1日あたり8時間を超えるケースでは、36協定の届出が必要です。
裁量労働制とは、実際の労働時間に関係なく、みなし労働時間分の働きを認める制度のこと。実情とかけ離れたみなし労働時間は設定できず、また1日8時間を超えるみなし労働時間は法定時間外労働として扱われます。
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③一年単位の変形労働時間制の場合
1年単位の変形労働時間制を導入していても、法定時間外労働が発生する場合、36協定の届出が必要になります。具体的には以下のようなケースです。
- 1年の労働時間が2,085時間(閏年は2,091時間)を超えるケース
- 労働協定で定めた1日あたり、1週あたりの労働時間の上限を超えるケース
- 労働協定で労働時間を定めていない期間において、1日8時間または1週40時間を超えて労働するケース
また変形労働時間制における36協定の労働上限は、そのほかの労働者よりも短く設定されています。
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