【導入事例アリ】スポンサーシップ制度とは? メリット

ここではスポンサーシップ制度が注目されるようになった背景やメンター制度との違い、導入のメリットなどについて解説します。

1.スポンサーシップ制度とは?

スポンサーシップ制度とは、社員のキャリア構築を支援するために本人とその周囲に働きかける制度のこと。とくに外資系企業やベンチャー企業などが先行して導入している取り組みです。

女性活躍推進に必要な制度

スポンサーシップ制度は、役員クラスが社員のスポンサーになってマンツーマンで指導し、社員のキャリアアップにつながる支援をする制度です。

スポンサーになった社員はスポンシー(支援される人)に助言や指導を行うだけでなく、社内の実力者にスポンシーを紹介する、成果につながりやすい仕事を与えるなどさまざまな働きかけをします。

とくに女性幹部や女性管理職の割合を増やしたい企業が注目している制度です。

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2.スポンサーシップ制度が注目される背景

国内でスポンサーシップ制度が導入されるようになったのは2010年頃から。その背景にあるのは、労働人口の減少や女性の社会進出に関する課題などです。

日本の労働人口の減少

総務省統計局では2021年の平均労働力人口(15歳以上のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)を6860万人と発表しています。これは前年に比べて8万人の減少です。

また厚生労働省からは、2012年から2020年にかけての60歳未満人口が583万人減少する一方、60歳以上人口が243万人増えるという少子高齢化の状況も報告されています。

このように労働力人口の減少、少子高齢化の状況をマクロ経済の視点で見たとき、労働力人口の減少をいかに阻止するか、が社会的な課題となっているのです。

女性の社会進出

スポンサーシップ制度が注目される背景には、女性の社会進出に関する課題もあります。女性が活躍できる職場づくりの重要性はすでに周知のもの。

経済産業省は、結婚出産期に離職したものの就業意欲のある女性は342万人、全労働力人口の5%にあたると報告しています。

この潜在する労働力が活用できた場合、国内GDPは約1.5%増加するという計算もあるほどです。このように女性の社会進出は単なる法令への対応というだけでなく、企業の成長戦略に欠かせない課題となっています。

女性活躍推進法の制定

2016年には、働くことを希望する女性が能力や個性を十分発揮できる社会の実現を目指し、「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」が制定されました。本法の原則は以下の3つです。

  • 女性の採用や昇進機会を積極的に提供する
  • 仕事と家庭の両立には本人の意思が尊重される
  • 仕事と家庭の両立に必要な環境を整備する

2022年4月の改正により、常時雇用する労働者が101人以上いる企業には「女性活躍状況の情報公表」と「行動計画の策定および届出」を提出することも義務づけられています。

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企業の取り組み

政府は「2020年までに女性管理職の比率を30%にする」という目標を掲げています。これに対応し、女性幹部や管理職の割合を増やす手段のひとつとしてスポンサーシップ制度が注目されているのです。

ドイツでは女性のシニアリーダーを増やすため取り組みとして、CEOが中心となって開始したスポンサーシップブログラムを実施。

女性社員に必要なキャリアに関する助言や昇進を勝ち取るためのサポートを行った結果、4年間で女性のディレクターレベルが全体の18%を占めるようになりました。

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3.スポンサーシップ制度とメンター制度の違い

スポンサーシップ制度と似た制度に「メンター制度」があります。ここではメンター制度の目的やスポンサーシップ制度との違いについて、説明します。

メンター制度とは

上下関係が発生しやすい直接の上司とは別に、ほか部署の先輩や年齢の近い年上の社員などが新入社員や若手社員をサポートする制度のこと。サポートする先輩社員を「メンター」、サポートされる社員を「メンティー」と呼びます。

メンター制度では仕事上の悩みや課題だけでなく個人的な悩みにも広く相談に乗って、社内の活性化や満足度向上を目指すのです。

新人や若手社員の定着を促す目的で取り入れられる制度で、近年、女性活躍推進を目的に、結婚や出産などを迎える女性社員に特化したメンター制度を実施している企業もあります。

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目的の違い

メンター制度を導入する目的として挙げられるのが、若手社員や新入社員の定着および離職率の低下。離職理由の大きなものに「仕事の悩みを相談できる先輩がいない」「困ったときに誰に助けを求めればよいのか分からない」という問題があります。

年功序列の制度がなくなりつつある現代、年下の社員や新入社員の後輩に追い抜かれてしまうこともめずらしくありません。

新入社員にライバル意識、競争意識を持ってしまった結果、若手社員の孤立を招いているとも考えられています。そこで精神的な悩みを解消し、社内のつながりや満足度向上を目的にはじまったのがメンター制度です。

担当者の違い

スポンサーシップ制度では、組織に影響力のある役職者が担当するのです。しかしメンター制度では社歴の近い先輩社員や似たキャリアの社員など、さまざまな社員が担当します。

これはメンター制度では若手社員の悩みを聞いて適切なアドバイスをすることが目的なのに対して、スポンサーシップ制度では昇進することが最終的なゴールであるためです。

強要できない

誰かのスポンサーになることを強要できないのも、スポンサーシップ制度の特徴。スポンサーがスポンシーの実績や人物性を理解していなければ、よりよい仕事にアサインする積極的な行動ができません。

そのためスポンシーの能力やポテンシャルを見える化する取り組みが必要になるのです。

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4.スポンサーシップ制度のメリット

スポンサーシップ制度のメリットは2つです。

  1. 人的ネットワークの構築
  2. 企業ブランディングの向上

①人的ネットワークの構築

スポンサーシップ制度のメリットとして特に大きいのがリーダー層への露出や役職者との人的ネットワークの構築による「つながり作り」。

スポンサーシップ制度では社内の実力者にスポンシーを紹介したり、スポンシーの能力や実績を保証して周囲の説得を行ったりします。それによりこれまでのように黙々と業務をこなしていたのでは身につきにくい、ネットワークやキャリアが構築できるのです。

②企業ブランディングの向上

スポンサーシップ制度には企業ブランディングの向上というメリットもあります。リーダーにふさわしいポテンシャルを見出せれば、スポンシーの定着はもちろん、組織の生産性向上、利益の増加にもつながるでしょう。

これは採用候補の人材にとっても魅力的なポイントです。スポンサーシップ制度によりブランドの価値を身近に感じてもらえるため、結果として競合他社との差別化を図れます。

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5.スポンサーシップ制度の導入事例

国内でも多くの企業がスポンサーシップ制度を導入したり、人材育成にスポンサーシップの考え方を取り入れたりしています。

スリーエムジャパン

世界的な化学電気素材メーカースリーエムジャパンでは2015年、女性の登用に向けてスポンサーシッププログラムを開始。

アジアでのジェンダーダイバーシティを重視しており、「すべての社員に成長の機会を提供すること」「多様性のあるタレントの割合を2015年から2025年までに5倍にすること」を目的としているのです。

ポテンシャルのある女性に部長への昇進を加速する2年間のプログラムを実施。取り組みの結果、すでに候補者18人のうち4人が部長に昇進しています。

アクサ生命保険

フランス発祥の生命保険会社アクサ生命保険では、役員や営業局長がスポンサーとなってポテンシャルのある女性を育成し、管理職登用を支援するスポンサーシッププログラムを実施しています。本取組におけるおもな目的は以下の4つです。

  1. 育成の文化をトップマネジメントから促進させる
  2. 女性の昇格を加速させる
  3. 管理職や役員に成長するモチベーションのある女性を育成する
  4. 管理職や役員になる人材のパイプラインを強化する

スポンサーが取り組みの結果に責任を持たなければならないという意識から、着実な成果があげられています。

日本IBM

女性の管理職登用度ナンバーワンを誇るのが、日本IBMです。1998年からはじまった女性社員による社長直轄の活躍推進プロジェクトが功を奏し、2019年には女性役員級比率が16%、過去最高の41人にまで増えました。

ほかにもキャリア継続を支援する柔軟な働き方の推進や、出産育児に関する支援、在宅勤務など柔軟な働き方制度も導入。役員が女性社員の登用を積極的に意識、関与して「しなやかに、自分らしく」成長を望む女性を応援する企業風土を作り上げた事例です。

新生銀行

SBIホールディングス傘下の新生銀行でも、2019年からスポンサーシップ制度を導入しています。

同社では昇格させたい女性社員を「プール人材」として選び、それぞれの人材に仕事の評価に直接かかわらないスポンサー役員を配置。スポンサー役員はプール人材を社内に宣伝する役割を果たします。

さらにプール人材にかわって、直属の上司やオーナー役員にキャリア希望や能力を伝えることもスポンサー役員の務めです。本取組によって、わずか1年でプール人材59人のうち21人が管理職あるいはそれ以上の役職に昇格しました。

パーソルキャリア

総合人材サービス会社、パーソルキャリアの目的は2023年度中に女性管理職の割合を30%以上にすること。

目的に向かって、管理職直前層を対象としたキャリア開発や、経営層が女性管理職のキャリア支援をサポートするスポンサーシッププログラムなど、さまざまな取り組みを実施しています。

この結果、女性活躍推進に関する取り組みが優良な企業に与えられる「えるぼし」を取得。また「働きがいのある会社(Great Place to Work® Institute Japan実施)」の女性ランキングではベストカンパニーに2度選出されました。

ダイキン工業

空調機と化学製品のメーカー、ダイキン工業では、2011年から経営トップ直轄の女性活躍推進プロジェクトに取り組んでいます。おもな目的は女性社員と管理職の意識改革、女性リーダーの早期育成や男性社員の育児参画促進などの拡充です。

スポンサー、メンター制度にも継続的に取り組み、管理職やリーダーを目指す意識と行動を変える機会を提供してきた結果、2020年度末の女性社員は71人(6.0%)に。本取組を本格始動した2011年の20人(2.1%)に比べて約3倍に増えました。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス

コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスは、女性活躍推進に優れた上場企業に与えられる「なでしこ銘柄」の「準なでしこ」を3年連続で取得。

同社では管理職向けのスポンサーシッププログラムをはじめ、役職を問わず次世代のリーダーを育てる育成研修プログラムなどを実施しました。

いずれも出産や育児など、本人の能力や意欲とは関係のない要因によってキャリアを諦める女性社員の現状を省みた取り組みです。2021年には2025年の女性管理職比率6%を前倒して達成しました。