カスタマージャーニーとは、顧客が契約にいたるまでのプロセスを旅に例えた概念のことです。ここではカスタマージャーニーを用いる分野やその目的、カスタマージャーニーを作るメリットなどについて解説します。
目次
1.カスタマージャーニーとは?
カスタマージャーニーとは、商品の認知にはじまり興味や関心、比較や検討を経て購入にいたるまでの一連の体験を旅に例えた考え方のこと。マーケティングにおける考え方のひとつです。
カスタマージャーニーの設定によって顧客が自社サービスや商品の購入にいたるまでの行動、思考プロセスなどが可視化できます。優先順位を見極めた効率的なアプローチにカスタマージャーニーを活用できるのです。
カスタマージャーニーマップとは?
顧客の感情や行動、商品との接点などを可視化したもの。作成する目的は、顧客が何を考え、どのような行動を経て購入にいたるのかを把握することです。
2.カスタマージャーニーを用いる分野
カスタマージャーニーという用語はおもにマーケティングの分野で使われます。ただし行動や感情、商品との接点などは人が何かを選択する際に生じるフェーズでもあるため、これ以外の分野でも幅広く使用されているのです。
マーケティング
フレームワークのひとつとして活用されています。カスタマージャーニーを設定すれば顧客の行動や心理状態が把握しやすくなり、購入につながるプランを立てやすくなるのです。
人事
求職者が自社を認識してから採用にいたるまでの経緯を指します。カスタマージャーニーの活用により、どこで自社とマッチした人材と接点を持てるか、この情報を提供するベストなタイミングはいつか、などを分析できるのです。
2.カスタマージャーニーの目的
カスタマージャーニーのおもな目的は次の4つです。
- 顧客理解
- 顧客に合わせたアプローチ
- タッチポイントの明確化
- 認識の共有
①顧客理解
企業が考える顧客と実際の顧客にギャップがあることも少なくありません。カスタマージャーニーを考えると、顧客のインサイトが深く理解できます。より顧客に寄り添った商品やサービスを開発するには、この顧客理解が欠かせません。
②顧客に合わせたアプローチ
同じ自社サービスへの申し込みがあっても、どのように認知されたのか、どのようなチャンネルを利用したのか、またどのようや目的で購買にいたったのかを把握できなければ効果的なアプローチができません。
カスタマージャーニーの設定によって顧客との接点が明らかになり、アプローチに優先順位をつけられるのです。
③タッチポイントの明確化
タッチポイントとは、企業が顧客と接する機会のこと。これまで顧客が商品を知る機会は新聞やテレビなどの広告がメインでしたが、インターネットの普及によりタッチポイントは多様化したのです。
カスタマージャーニーの理解はこれまで把握できなかったタッチポイントの理解につながります。どのポイントでどのようなアプローチが効果的なのか、明確になるでしょう。
タッチポイント例
タッチポイントは「デジタル」「アナログ」の2つです。デジタルには自社ホームページやWeb広告、SNSなどが、アナログには店舗での接客やパンフレットなどの紙媒体、営業担当者の商談シーンなどが挙げられます。
④認識の共有
カスタマージャーニーの設定には多角的な視点が必要です。少ない視点で作成したカスタマージャーニーはどうしても一方的な視点になってしまうもの。
ニーズ認識における自社と顧客のずれは、会社にとって致命的なダメージとなる恐れもあります。自社に都合がよいだけのものを作り上げないためにも、会社と顧客の認識をそろえておく必要があるのです。
3.カスタマージャーニーを作るメリット
カスタマージャーニーを作るメリットは次の4つです。
- 多様なニーズをつかみやすい
- 時系列に沿って施策を検討しやすい
- CX(カスタマーエクスペリエンス)が向上する
- 施策に一貫性を持たせやすい
①多様なニーズをつかみやすい
カスタマージャーニーが必要な背景のひとつに、購買行動の多様化が挙げられます。先に触れたとおり、これまではテレビCMや雑誌広告を見た消費者が店舗に来店して商品やサービスを購入するのが一般的でした。
しかし現代では来店前にインターネットで情報を集めたり、店舗で実際の商品を確認したあとにECサイトで購入したりと、購買行動が複雑化しています。よって一人ひとりのニーズに合わせたマーケティングを行わなければなりません。
そのためカスタマージャーニーを作成することによる顧客理解が、現代のマーケティングにおいてメリットになるのです。
②時系列に沿って施策を検討しやすい
カスタマージャーニーの作成によって顧客が商品購入にいたるまでの段階、またそれぞれの行動が明らかになります。これにより、どの時系列にどのようなアプローチが必要なのかを整理できるのです。
たとえば認知のフェーズでは広告を増やす、興味関心のフェーズではSNSを通じて接点を増やすなど、時系列に沿って具体的な施策を検討しやすくなります。
③CX(カスタマーエクスペリエンス)が向上する
カスタマージャーニーにはCXの向上というメリットもあります。CX(Customer Experience)とは顧客体験のこと。商品やサービスそのものの価値だけでなく、購入前後の体験を含めて価値とみなすのです。
CXの向上は顧客満足度の向上、他社との差別化につながります。顧客の愛着や信頼が高まればリピート率の向上、購入単価の向上が期待できるのです。
④施策に一貫性を持たせやすい
カスタマージャーニーを設定すると、マーケティング施策に一貫性を持たせやすくなります。顧客の購買行動を可視化して社内で共有すれば、多くのメンバーが統一認識を持てるのです。
しかしカスタマージャーニーが設定されていないと、部門ごとに異なるマーケティングを施策してしまうでしょう。結果、必要以上にコストがかさんだり、会社全体としての方向性がわからなくなってしまったりするのです。
4.カスタマージャーニー作成の注意点
カスタマージャーニー作成の注意点は4つです。特にカスタマージャーニーの作成自体が最終的な目的ではない点に注意しましょう。
- 初期段階から作りこまない
- ほか部署と連携する
- 作成が最終目的ではない
- 顧客を優先する
①初期段階から作りこまない
カスタマージャーニーは「一通り仕上げること」を第一の目標として、シンプルなものから作成していきましょう。作り始めから詳細に作り込むと時間だけがかかり、完成しない可能性も高いです。
大きな骨組みから作ると、詳しい担当者に聞いたり、情報収集から始めなければならないとわかったりするため、完成度の高いカスタマージャーニーができあがります。
ツールやテンプレートを活用する
認知や想いなどのフェーズを縦軸、各フェーズで起こるユーザーの行動や課題の仮説、戦略などを横軸に置いたテンプレートを活用すると、それぞれの段階に必要な要素が明確になります。
なかには会員登録不要で使えるテンプレートや、BtoB用とEC用2種類のテンプレートを用意しているものもあるので、活用してみましょう。
②ほか部署と連携する
カスタマージャーニーの設定には多くの意見と複数視点からの見解が必要です。ほか部署と連携して複数人で意見を出し合うと、情報の抜け漏れや重要な要素の見落としを防げます。
ひとつの部署内で作成しようとすると、情報の漏れや見落としが生じやすくなるもの。一般的に、ひとつのプロジェクトがひとつの部署のみで完結することはありません。
プロジェクトに参加するすべての部署が連携すれば、より具体的なカスタマージャーニーを作成できます。
③作成が最終目的ではない
カスタマージャーニーの作成自体が最終的なゴールになっていないでしょうか。顧客の行動や消費行動はトレンドや季節、競合他社の新製品発表など時勢によって変化するもの。
カスタマージャーニーが実際の顧客に近いほど、考案できる施策の質や現実性が高まります。しかしカスタマージャーニーの作成は、顧客行動を理解するためのツール作成に過ぎません。完成しても満足せず、定期的に見直しましょう。
④顧客を優先する
失敗原因として多いのが「顧客目線で作っていなかった」というもの。企業や作成担当者の願望を強く反映したカスタマージャーニーになってしまうと、本来の目的が果たせなくなってしまいます。
カスタマージャーニー作成の目的は、あくまでも顧客理解と顧客に合わせたアプローチの施策です。「こうなってくれるといいよね」といった担当者の理想を反映させないよう注意しましょう。
5.カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップ作成の基本となるのは「ペルソナ」「時系列」「ユーザーの動き」の3つです。ここではカスタマージャーニーマップの作り方を5つの段階に分け説明します。
- ペルソナを明確化
- ゴールと指標の設定
- 行動の検討と整理
- 感情の分析
- マッピング
①ペルソナを明確化
はじめに旅の主人公「ペルソナ」を明確化します。このペルソナを軸に顧客の行動や感情の動きをイメージしていくため、ペルソナ設定が非常に重要です。
「よく運動する人」「痩せたいと思っている女性」など大まかな分類でペルソナを設定すると、具体的な行動が読みにくくなってしまいます。
ここでは「スポーツジムに週2回以上通っている20代の男性」のように、具体的なユーザー像を設定しておくとよいでしょう。
ペルソナとは?
商品やサービスにとって重要な顧客モデルのこと。マーケティングでは、自社商品やサービスの架空ユーザーを指してペルソナと呼ぶのです。
ペルソナと同じくユーザー像を指す言葉に「ターゲット」があります。ターゲットでは年齢や性別、職業などを大まかに設定するのに対し、ペルソナでは趣味や家族構成、ライフスタイルやSNS利用状況など、より具体的な項目を設定するのです。
②ゴールと指標の設定
ベルソナを明確化したら、そのカスタマージャーニーのゴールを設定しましょう。顧客行動のどのフェーズに焦点を当てるかによって、具体的な情報や施策が変わってきます。具体的なゴールの例は、下記のとおりです。
- 短期的な売上増を達成する
- 新しいターゲット層に訴求する
- 既存客を維持しつつ、新規客を取り込む
- 顧客との関係性を高める
- CLV(顧客生涯価値)を最大化する
- ブランドの若返りを実現させる
③行動の検討と整理
続いて顧客の行動を検討して整理を進めます。大まかな段階は以下の4つ。ステップごとに詳細な行動や意識、感情などを整理していきましょう。
- 初期接点:顧客調査や営業担当者のヒアリング
- 事前の情報収集から購入検討:自社サイトの閲覧履歴を調査する
- 実際の購入および利用:比較サイトなどのデータを参照する
- 購入および利用後:ECサイトや比較サイトのレビュー、SNSの発言やカスタマーアンケートなどを参照する
④感情の分析
行動の検討とあわせて、顧客の心理状態や感情の起伏も分析しましょう。感情の起伏をグラフ化したり、テキストだけでなく絵文字を使ったりすると、直感的に感情の動きを分析できます。たとえば次のような感情の動きを分析するのです。
- 初期認知:「おしゃれなバッグ!数量限定なら特に欲しいなぁ」
- 情報収集と検討:「もっと安くて似たブランドはないかな。口コミはどうだろう」
- 購入および利用:「持っている服と合わせてみるとやっぱりかわいい!」
- 購入および利用後:「友達からも評判いいし満足!ほかの商品もほしいな」
⑤マッピング
ここまで洗い出した情報をマッピングして完成です。ここでも作成担当者の主観でマッピングしないよう、組織横断のワークショップ形式で進めるとよいでしょう。
マッピングには最終目標までのプロセスに設定する中間目的「KPI」の設定が効果的です。これにより各プロセスの課題解決に必要な優先順位が明確になります。
6.カスタマージャーニーの活用事例
カスタマージャーニーはさまざまな業界で活用できます。ここではカスタマージャーニーを活用した企業の事例について説明します。
株式会社パソナ
パソナキャリアカンパニーは「新規事業を創出できる人材の獲得」をゴールに設定したカスタマージャーニーマップを作成しました。
就職活動のはじまりから入社が決まるまでを3つのフェーズに分け、それぞれの段階で生まれる思想や行動、課題を洗い出して「就活生は入社したい企業について、十分な情報を得られていない」という課題を見つけた事例です。
日本ロレアル株式会社
世界最大級の化粧品会社ロレアルでは、スマートフォンを顧客体験の中心に置いたカスタマージャーニーを設定しています。同社のスマートフォンアプリにはバーチャルメイクで気に入った商品をそのまま購入できる機能を搭載。
顔をスキャンすると自動的に顔の特徴が分析され、それにあわせて自社の商品を施したイメージが表示される仕組みです。このアプリによって、カスタマージャーニーにおける顧客の位置を、初期の認知段階から次の購入段階へシームレスに前進させています。
株式会社リクルートキャリア
リクルートキャリアはCX(顧客体験)の向上に向けてカスタマージャーニーマップを作成しています。お客様満足度の行動評価から推奨度や改善ポイントを可視化するため、事業本部だけでなく実際に現場で働くスタッフも巻き込んで作成を進めました。
その結果、顧客に対する共通認識を持つことに成功。さらにCX向上に向けてどのような行動を取るべきかを全社的に意識するようになり、サービスの活性化につながりました。