アスピレーションは、医療や車など幅広い分野で使われています。アスピレーションが注目される理由や高める方法、アスピレーションを重視した人材育成などについて解説しましょう。
目次
1.アスピレーションとは?
アスピレーション(Aspiration)とは、強い思いや志、向上心の意味合いで用いられる単語のこと。ビジネスにおけるアスピレーションは企業によって「アスピ」とも呼ばれています。
医療用語のアスピレーションとの違い
医療業界におけるアスピレーションとは「誤嚥」という意味で使われます。誤嚥、つまり本来であれば食道に入るはずの食べ物や水分が誤って気管に入ってしまった状態です。
誤嚥にはむせるものとむせないものがあり、むせない誤嚥を「サイレントアスピレーション」といいます。
車用語のアスピレーションとの違い
自動車業界では自然吸気エンジン、つまり過給器を使わず大気圧をそのまま呼気するエンジンを指して「ナチュラルアスピレーション(Natural Aspiration)」といいます。
スーパーチャージャーや排気ターボと呼ばれる装置を用いた方法と区別して「NA」と呼ばれる場合もあるのです。
2.アスピレーションが注目される理由
ここからはビジネスにおけるアスピレーションについて説明します。従来、日本企業にアスピレーションを表明する文化は多くありませんでした。しかしこれからの社会ではチャンスを得るためにアスピレーションが必要になってくるといわれています。
産業構造の変化
かつての日本企業ではアスピレーションは注目どころか毛嫌いさえされていました。会社側が自社の都合にあわせて人員配置や能力開発を行っていたため、アスピレーションはかえって不要ですらあったのです。
従業員は会社にいわれるまま働いていればよかったため、自立性や志は必要ありませんでした。しかし産業構造が変わった現代、個人の志や情熱が会社にとっても大きな意味を持つようになっています。
これは起業家だけでなく、すべてのビジネスパーソンに当てはまります。
常識の掛け違い
従来のビジネスパーソンが抱いていた「頑張って成果を出すからこそ幸せ」という常識は通用しません。
現代では「自分のやりたいことができると幸せ、その幸せがあるから大きな成果が出せる」という考えにシフトしています。
現代の主流は「根底に自分のやりたいことがあるからさまざまな試練に立ち向かえる、また失敗しても挑戦し続けられる」というこれまでの常識とは180度異なる考えです。
会社としても、社員のアスピレーションと経営ビジョンのベクトルを合わせることで企業価値が高まると考えています。
3.リクルート用語としてのアスピレーション
「アスピ目標」「キャリアアスピレーション」など、就職活動時や転職時にアスピレーションという言葉が用いられる場合もあります。
アスピ目標とは?
実際にできる、できないは別として、これだけの目標をクリアするという意思を表示した目標のこと。扇動や促進などのプラス思考を示した言葉で、気合目標に似た意味を持ちます。
たとえばチームや個人が早々に目標を達成していても営業部全体として達成していない場合、「まだまだ貢献するぞ!」という気持ちを込めて目標に上乗せしたのがアスピ目標です。
キャリアアスピレーションとは?
昇進に向けた願望のこと。従来の日本企業では昇進、キャリアアップを会社がデザインしていました。しかし現代では「自己実現とは何か」「キャリアの成功イメージはどのようなものか」を自身で考えなければなりません。
チャンスを得るためには自身の長期、短期的なキャリアデザインを描き、伝えることが重要です。
4.社員のアスピレーションを高める方法
社員一人ひとりのアスピレーションが重要と叫ばれてはいるものの、自社におけるアスピレーションを高めるための取り組みに満足している企業は多くありません。会社として社員のアスピレーションを高めるためには、どのような取り組みが必要なのでしょう。
- 成長意欲を持つ
- 向上心を高める
- 対話を積み重ねる
- 「好き」の気持ちを高める
- 仕事に高い意欲を持つ
①成長意欲を持つ
強い成長意欲を持っている人ほどアスピレーションも高い傾向にあります。とりわけコンサルタントや新進気鋭のベンチャー企業などはつねにはしごを上り続けなければならず、自分の成長がそのままクライアントの付加価値につながるもの。
より成長したい、強い向上心がある社員はおのずとアスピレーションも高まります。会社は社員の成長意欲を高めるアプローチを検討するとよいでしょう。
②向上心を高める
向上心の高い人は幅広い人脈作りが得意です。上司や目上の先輩、社外のクライアントなどと信頼関係を築きやすいため、そこから新たなチャンスが生まれる可能性もあります。
この向上心を高めることが、社員のアスピレーションを高めるひとつの方法になるのです。向上心のある人は明確な目標から逆算して行動できるため、具体的な目標に向けてアスピレーションを高められます。
③人材評価に取り入れる
情報システム構築のクラウドサービスやソフトウエアなどを手がける日本オラクルでは、社員のポテンシャルを評価する基準に「ケイパビリティ」「コミットメント」そして「アスピレーション」を導入しています。
具体的な達成数値や行動、チームメンバーや顧客からの反応などを評価する際にアスピレーションの基準をくわえて、チーム全体としての目線をあわせ、評価の納得性を高めた事例です。
④対話を積み重ねる
社員のアスピレーションを高めるには、社員間の対話を積み重ねる必要があります。きめ細かな対話と採用コミュニケーションが、入社予定企業に対する納得度に寄与していたというケースも少なくありません。
企業のイノベーションを担い、競争力を高められる人材を育成するには、キャリアアスピレーションの観点から対話を積み重ねることが重要です。
個人の志や幸せ、キャリアプランなどを意識した対話を重ねて自立性を高めます。この動きは今後もますます注目されるものと考えられているのです。
⑤「好き」の気持ちを高める
アスピレーションの高い人は、寝食を忘れて集中できるくらい「好き」という気持ちを持っています。
「好きこそものの上手なれ」という言葉のとおり、純粋に「やってみたい」「この仕事は面白いから好き」と前向きな気持ちでチャレンジする人ほど成功するもの。
反対に「それほど好きではない」「意に反してこの仕事をやらされている」と思った瞬間にアスピレーションは低下します。社員自身の根底にある「好き」こそが最高のスタート地点になるのです。
⑥仕事に高い意欲を持つ
変化の激しい現代では、前提条件が変わってしまったとき、どれだけ俊敏に対応できるかが問われます。単なる勤続年数や過去の経験だけで問題が解決できない場合でも、アスピレーションの高い人はプライドを捨てて素直に新たな戦略を習得できるのです。
仕事に対する「好き」の気持ちや向上心、成長意欲があるからこそ、高い意欲を持って環境の変化に対応できる人材になっていけます。
5.アスピレーションを重視した人材育成
変化の激しい現代のビジネス市場にて必要なのは、強いリーダーではなく本音を語り合える信頼関係。めまぐるしいスピードで変化していく現代で生き残るためには、社員一人ひとりの自律性を高めることが重要です。
- ハイポテンシャル人材
- 女性やシニア
- キャリア
①ハイポテンシャル人材
人事またマネジメントの側面から見た際、将来有望な潜在的な力を高く備えた人材のこと。彼らはより高い次元を目指す欲求と上昇志向を持っています。
その欲求を刺激するような役割や職務を与えられれば、たとえ困難な仕事でも意欲的に取り組みます。その反面、下働きや単純作業を長く強いられる環境では、意欲を失うばかりか離職につながる恐れもあるのです。
②女性やシニア
今や女性やシニアにもアスピレーションが求められる時代です。かつてどれだけ高い志を持っていても、女性や高齢というだけで諦めざるを得ない時代がありました。
ダイバーシティの推進が叫ばれて久しい現代、いまだ「男性は外で働き、女性は家庭を守る」「女性やシニアは働き盛りの男性の次」という思想が根深く残っています。しかし労働力不足の解消には女性やシニアの活躍が欠かせません。
③キャリア
自身の人生においてどのような経験を詰むか、どのようなスキルを得たいのか描くことを「キャリア形成」といいます。このキャリア形成の方針を決めるために必要なのがアスピレーションです。
目の前の業務に追われ、本来望んでいたものとは違うキャリアが作られてしまうと「私はこのような人生を送りたかったのか」「何のために何十年も仕事をするのだろう」という問題に突き当たります。これを解決するために必要なのがアスピレーションなのです。
6.アスピレーションの活用事例
従来の日本企業では会社が成長機会を用意してくれたため、社員一人ひとりが自律性を持つ必要はありませんでした。
しかしモノを作れば売れる時代は終わり、今や個人が持つ情熱や志が事業に大きな意味をもたらす時代です。ここでは実際にアスピレーションを活用した企業の事例について説明します。
- P&G
- All About
- アシックス
①P&G
世界最大の消費財メーカー、P&Gでは「成功を収めるためには何をして何をしないか明確に判断する必要がある」と考えています。これを同社では「勝利のアスピレーション(憧れ)」と呼んでいるのです。
適切なアスピレーションを設定するには「顧客は誰か」「誰がライバルになり得るのか」を明確にしなければなりません。
これらを分析して適切なアスピレーションを立てると、難しい判断に迫られた際も「アスピレーションに必要か否か」の基準で取捨選択できます。
②All About
生活総合情報サイト「All About」を運営するオールアバウトは「高度経済成長期に作られた古い社会システムから脱却したい」「国や企業に依存しない自立した社会システムの樹立を目指したい」というアスピレーションにもとづいて作られたのです。
専門家による生きたコンテンツを提供し続けるには、どうしてもコストが問題になりました。そこで「AllAbout」を専門家にとっても発信の場となるような構造にし、良質なコンテンツを増やしたのです。
③アシックス
スポーツ用品の製造、販売を手がけるアシックスでは、キャリアアスピレーションとその実現に向けた能力開発を振り返る「CDP(Career Development Plan)シート」の作成を義務づけています。
昇格時や入社3年目など、節目のタイミングで自身のキャリアを棚卸しする機会を設けました。ここで合意した能力開発プランには会社も継続的に支援し、育成や成長を後押しするカルチャーを作り上げたのです。