GビズIDとは、ひとつのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムのことです。ここではGビズIDの種類やe-Govとの違い、GビズIDの申請方法やメリット、デメリットなどついて解説します。
1.GビズIDとは?
GビズIDとは、ひとつのアカウントで複数の行政サービスを利用できる認証システムのこと。そもそもGビズIDとはどのような目的で、またどのような背景で誕生したシステムなのでしょう。e-Govとの違いとあわせて、GビズIDの概要を説明します。
目的
法人向けのオンライン行政サービスにはさまざまなものがあり、いずれもシステムごとにIDやパスワードを作成しなければなりません。そのため利用者は管理が煩雑になるという問題がありました。
そこでアカウントを統一し、手続きシステムの構築コスト削減を目的に誕生したのがGビズIDです。アカウント作成時に一度だけ代表者の身元を確認すれば、その後社会保険手続や補助金申請、各種認可申請の際、本人確認書類を提出する必要はありません。
背景
GビズID誕生の背景にあるのは2020年4月から始まっている電子申請の義務化です。
日本年金機構は特定の法人事業所が社会保険に関する一部の手続きを行う場合、必ず電子申請で行わなければならないと義務づけています。電子申請の義務化対象となるのは以下に該当する法人です。
- 資本金や出資金または銀行などの保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える
- 特定目的会社
- 投資法人
- 相互会社
e-Govとの違い
GビズIDと同じくオンラインで各種申請できるシステムとして「e-Gov(イーガブ)」があります。「電子政府の総合窓口」と訳されるとおり、オンライン申請や届け出を行う窓口サービスを提供するのです。
違いはe-Govが行政のポータルサイトであるのに対し、GビズIDは行政手続きを行うアカウントである点。
またGビズIDは無料で取得できるものの申請できる行政サービスの種類が少ないです。一方、e-Govは申請可能な種類が多いものの取得や手続きに手数料が発生する可能性もあります。
2.GビズIDの種類
ひとつのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできるGビズIDは3種類あります。
- GビズIDエントリー
- GビズIDプライム
- GビズIDメンバー
①GビズIDエントリー
3種類のなかでももっともかんたんにつくれるアカウントです。書類の提出や審査は不要で、メールアドレスを持っていれば誰でもすぐアカウントを作成できます。
GビズIDエントリーはオンライン申請によってアカウントの即日発行が可能です。スマートフォンや携帯電話がなくても発行できますが、使用可能な行政サービスに制限もあるため確認が必要です。
②GビズIDプライム
印鑑証明書と登録印の提示、本人確認を行ってから作成するアカウントです。法人代表者もしくは個人事業主用のアカウントで、取得は無料。GビズIDプライムはおもに次の行政サービスで使われています。
- 社会保険手続きの電子申請
- IT導入補助金2020
- 令和元年度補正事業承継補助金
- 事業継続力強化計画電子申請システム
- DX推進ポータル
③GビズIDメンバー
GビズIDプライムのアカウント利用者が組織の従業員用として発行できるアカウントです。個人では取得できません。
GビズIDプライムを取得した代表者が、従業員用のアカウントとしてGビズIDメンバーのアカウントを作成したのち、その権限を付与する形で使えるようになります。GビズIDメンバーが利用できるサービスは、GビズIDプライムが許可したサービスのみです。
3.GビズIDでできること
GビズIDはひとつのアカウントで複数の行政サービスを利用できます。社会保険手続きだけでなく、補助金申請サービスも利用可能なのがGビズIDの特徴です。
- 利用できる主な行政サービス
- 委任登録
- 社会保険の申請
- 雇用保険の申請
- 補助金の申請
- 営業許可の申請
①利用できる主な行政サービス
GビズIDは、公募から事後手続きまで全プロセスをデジタル化した申請システム「jGrants」をはじめ、「保安ネット」や「農林水産省共通申請サービス」などさまざまなサービスで利用できます。GビズIDが利用できる代表的な行政サービスについて説明しましょう。
②委任登録
GビズIDは自社が利用者として登録申請するほか委任登録もできます。社会保険労務士や税理士に行政手続を委任している場合、委任先を登録できるシステムです。
委任登録は、委任する側がGビズIDのアカウントを持っていなくてもできます。しかし社会保険労務士や税理士など委任を受ける側は、「GビズIDプライム」を保有している必要があるのです。
③社会保険の申請
GビズIDを取得していれば、各種社会保険の申請を簡略化できます。対象は以下の申請です。
- 健康保険、厚生年金保険:被保険者賞与支払届や被保険者報酬月額算定基礎届など
- 労働保険:概算保険料申告書や確定保険料申告書など
④雇用保険の申請
雇用保険の各種申請にもGビズIDが活用できます。対象となるのは以下の届書です。
- 被保険者資格取得届
- 被保険者転勤届
- 被保険者資格喪失届
- 育児休業給付支給申請
- ⾼年齢雇用継続給付支給申請
これまで電子申請には、送信する電子データの安全性を証明する電子証明書が必要でしたが、GビズIDではその電子証明書がなくても申請ができるようになったのです。
⑤補助金の申請
GビズIDは各種補助金を申請する際にも必要になります。
- jGrants:デジタル庁が運営する補助金申請システム。小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金などの補助金を申請する際に利用する
- IT導入補助金:ITツールの導入にかかる経費を一部申請できる
- ミラサポplus:中小企業向け補助金や支援に関する電子申請サイト
GビズIDの取得には2、3週間程度時間がかかります。また申請期限が近づくにつれ、混雑も予想されるでしょう。余裕をもって申請しておくと安心です。
⑥営業許可の申請
営業許可申請や食品リコール情報の公開などができる「食品衛生申請等システム」にもGビズIDを利用できます。厚生労働省は営業者が食品などの自主回収(リコール)を行う際、自治体を通じて国に報告するよう義務づけているのです。
また食品事業者を把握できるよう営業の届出制度を創設。これらの申請、報告を届け出る際にGビズIDを利用して、オンライン手続きができるようになりました。
4.GビズIDのメリット
GビズIDのメリットは3つです。
- いつでも手続きが可能
- 手続き時間が短縮
- 申請に必要なコストが削減
①いつでも手続きが可能
GビズIDは原則24時間365日稼働しているため、受付時間を気にせずいつでも申請を行えます(ただしメンテナンスで停止する場合がある)。急に申請手続きが必要になっても、行政機関に足を運ばず好きな時間に手続きできるのは大きなメリットです。
ただしGビズIDの利用にはインターネット接続環境が必要になるため、その準備は各自で整えなければなりません。
②手続き時間が短縮
GビズIDを利用した電子申請なら、窓口の受付時間を気にせず各種申請手続きが行えます。
これまでのように直接窓口に出向いたり、順番が回ってくるまで役所で待っていたりする必要もないため、時間を有効に活用できるでしょう。過去に申請した情報を入力する手間も省けるため、業務も効率化します。
③申請に必要なコストが削減
何度も同じ窓口に出向けば交通費がかかりますし、場合によっては書類の郵送に費用がかかるでしょう。GビズIDを利用すれば、これらのコストが削減できるのです。
ひとつのアカウントで複数サービスが利用できるため、これまでサービスごとに使い分けていたアカウントやパスワードの管理も不要となります。
5.GビズIDのデメリット
GビズIDの利用には24時間利用可能や手続き短縮化などのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。
- 手続きできるのは一部のみ
- 申請にSMS受信用電話番号が必要
- アカウント発行まで時間がかかる
- 種類によって印鑑証明書が必要
①手続きできるのは一部のみ
すべての手続きにGビズIDが対応しているわけではありません。社会保険に関する手続きのうち「労働保険年度更新」や「雇用保険高年齢雇用継続給付申請」「雇用保険育児休業給付申請」はGビズIDだけでは申請できないため、別途手続きが必要です。
②申請にSMS受信用電話番号が必要
GビズIDを利用するにはIDとパスワードのほか、携帯電話番号宛にSMSで送信されたワンタイムパスワードを使った二要素認証が必要です。
「会社としてスマートフォンが準備できない」「個人のスマートフォン利用を禁じている」場合、注意が必要です。なおGビズIDエントリーの場合、IDとパスワードの一要素認証でログインできます。
③アカウント発行まで時間がかかる
アカウント発行には2週間程度の時間がかかります。また申請期限が近づくと、問い合わせや申請件数が増え、3週間以上の時間を要する場合もあるのです。GビズIDのアカウント作成は、余裕をもって進めておくとよいでしょう。
④種類によって印鑑証明書が必要
GビズIDアカウントはすべての事業者が取得できますが、GビズIDプライムの申請には印鑑証明書あるいは印鑑登録証明書が必要です。
登録印鑑を押した登録申請書と印鑑証明書(または印鑑登録申請書)を運用センターに郵送しなければならないため、これらを別途用意しておく必要があります。
6.GビズID取得の申請方法
ここではGビズIDの登録に必要なものや、取得完了までの流れについて説明します。種類によってはメールアドレスと操作端末のみで登録可能です。
登録に必要なもの
GビズIDの取得に必要なものは、種類によって異なります。すべての種類で必要なのは「メールアドレス」と「操作端末」です。
このほか、GビズIDメンバーにはSMSメールが使用できる「スマートフォンあるいは携帯電話」が、プライムにはさらに登録申請書を印刷するため「プリンター」と「印鑑証明書」「登録申請書」が必要となります。
取得までの流れ
GビズIDを取得する流れは下記のとおりです。GビズIDエントリーは即日作成が可能ですが、GビズIDプライムの場合は登録完了まで2、3週間ほど時間がかかります。
申請書の作成
まずはGビズIDのウェブサイトにアクセスし、規約同意のうえ必要事項を入力します。入力した情報が印鑑証明書の記載と異なる場合、書類不備とみなされるため注意しましょう。入力内容を確認のうえ、自動生成された申請書をダウンロードして印刷します。
申請書を郵送
続いて印刷した申請書に作成日を記入して押印します。押印するのは法人の場合「印鑑証明書」の代表者印、個人事業主の場合は「印鑑登録証明書」の実印です。
申請書と3カ月以内に発行された印鑑証明書(個人事業主の場合は印鑑登録証明書)を、GビズID運用センターに郵送します。
本パスワードの設定
郵送後、書類に不備がなければ2週間程度で登録受付完了のメールが届きます。
メールに記載されたURLを開き、登録した携帯電話のSMSでワンタイムパスワードを受信しましょう。ワンタイムパスワードでログインしたあと、実際に使用する本パスワードを設定して登録完了です。
7.GビズIDでよくあるトラブル
GビズIDの申請や利用に関してトラブルが発生したら、「GビズIDヘルプデスク」に問い合わせましょう。問い合わせはメールあるいは電話で受け付けています。ここではGビズIDの利用に際してよくあるトラブルを紹介しましょう。
ログインできない
GビズID利用で特に多いのが、ログインに関するトラブル。「パスワードが分からなくなったためログインできない」「スマートフォンや携帯電話を解約あるいは紛失したがどうすればよいか」などの問い合わせが多く挙げられています。
サイト上の操作やヘルプデスクへの問い合わせで解決するものがほとんどですが、なかにはGビズIDの不具合によるトラブルも。Webサイトに掲載されているお知らせや、登録メールアドレス宛に送信されたお知らせメールなどを確認してみましょう。
ワンタイムパスワードが届かない
IDとパスワードの流出による不正利用防止の観点から、GビズIDプライムとメンバーではワンタイムパスワードの受信による二要素認証を利用しています。
ワンタイムパスワードが届かない場合「SMS受信用電話番号が間違っていないか」「受信拒否設定が行われていないか」などを確認します。なおGビズID認証用アプリを使用すれば、ワンタイムパスワードの入力を省略可能です。