デジタルツインとは、実在するものをデジタル空間に表現したもの。ここでは、デジタルツインについて解説します。
目次
1.デジタルツインとは?
デジタルツインとは、実在するものをリアルタイムでデジタル空間に表現したもの。
機械類は作動による摩耗・振動によるズレ・経年劣化などが生じます。デジタルツインがあれば機械類にトラブルが生じても、「原因究明の現状調査」「トラブル時の状況再現」「正常な状態とはく離した際の予防システム構築」などに利用できます。
意味
デジタルツインを直訳すると、デジタルの双子です。現実世界・リアルタイムで作成するデジタル空間上のコピーを双子にたとえています。
起源
デジタルツインの起源は、1960年代のNASA(米航空宇宙局)による宇宙開発です。物理的に触れられない場合の複製による対処法として利用されました。現在、NASAでは、次世代探査車の開発に活用しています。
2.デジタルツインとそのほかの違い
デジタルツインとそのほかの違いについて、見ていきましょう。
シミュレーションとの違い
デジタルツインとシミュレーションとの違いは、下記のとおりです。
- デジタルツイン:現実空間にあるものをリアルタイムでデジタル空間に再現する
- シミュレーション:現実空間で起きていることをほかの場所で再現する。ここには現実空間だけでなく仮想空間も含まれる
デジタルツインはシミュレーション技術のひとつとして位置づけられています。特徴は、ほかの技術より精度の高さやスピードの速さなどに優れている点です。
3Dとの違い
デジタルツインと3Dとの違いは、下記のとおりです。
- デジタルツイン:実在するものだけをリアルタイムでデジタル上に再現する
- 3D:実在するものや架空・想像上のものを立体的にデジタル的に表現する
メタバースとの違い
デジタルツインとメタバースとの違いは、下記のとおりです。
- デジタルツイン:物理空間情報をデジタル空間上にリアルタイムでコピーする
- メタバース:アバターを使用し、デジタル空間上で仕事や日常生活、遊びや他人との社会交流などを楽しむ
デジタルツインは現実世界のデジタル化であるのに対し、メタバースは現実目線でデジタル空間を利用します。
3.デジタルツインの活用事例
デジタルツインの活用事例を、下記の分野から解説します。
- 製造業
- 建設業
- 都市開発
- 医療
①製造業
製造業では、ダイキン工業と旭化成の事例があります。
ダイキン工業は、2020年からデジタルツイン機能搭載の新生産管理システムを本格活用しました。センサーから取り込んだデータにより、設備異常やライン停滞予測を2次元マップ化し、迅速な対応を実現したのです。
また旭化成は水素製造プラント内部を仮想空間に再現し、ベテラン技術者による設備異常に対する迅速な対応に生かしています。
②建設業
大成建設は、建設現場をデジタル上で再現。そして建機や現場作業員の配置を把握して、接触防止効果の高い警報発信などの安全管理に生かしているのです。蓄積したデータは、安全管理教育や最適な現場の施工方法、カーボンニュートラルへも応用できます。
③都市開発
シンガポールでは住宅やビル、道路や公園、自然環境、人や車の流れなどさまざまな都市データを3Dデータ化しています。デジタル空間にできた3D都市でシミュレーションできるアプリを使って、渋滞緩和・工事の効率化などに役立てているのです。
日本は「Project PLATEAU」に着手
日本では「Project PLATEAU」と呼ばれる3D都市モデルの整備活用やオープンデータ化事業がスタートしています。2020年4月より国土交通省が、まちづくりのDX推進プロジェクトとして主導しました。
日本全国の3D都市モデルに整備により、都市計画や防災・減災、都市サービス創出の実現を目指しています。
④医療
医療分野では、正確かつ精密な人体モデルの開発にデジタルツインの活用を目指しています。医療技術のシミュレーションや病気の予防、ヘルスケアなどへのデジタルツインによる技術の向上が期待されているのです。
また病院施設のデジタルツイン化により、医療や医療事務の最適なオペレーション化にも期待が集まっています。
人間のデジタルツイン
人間のデジタルツインとは、下記のようなものです。
- 心臓疾患など高難度手術への応用
- 日常的な生体データを用いた生活習慣病などの早期発見、予防
- 画像診断における医師の診断補助
- DNAの解読といったオーダーメイド医療
DNAの解読といった取り組みをとおし、デジタル空間内の仮想モデルを使って患者一人ひとりに最適な治療を探求しています。
病院のデジタルツイン
医療施設全体をデジタル空間でシミュレーションすること。部署やリソースのモデル化、オペレーションの最適化により安全性向上を実現できます。
医療機器の配置やフロア設計、スタッフのスケジュール管理や財務処理などをデジタルツイン化すると、短ければ数日で最適解を導き出せるのです。
医療機器のデジタルツイン
最高の安全性や安定性が求められる医療機器に、デジタルツインの技術を活用すること。たとえばデジタルツインに医療機器についてのIoTデータを連結させると、機器の故障をあらかじめ予測したり、データを根拠とした機器のメンテナンスを行ったりできます。
製品例
製品の活用事例は、手術に用いる医療機器のデジタルツイン化です。コニカミノルタでは、2018年よりデジタルツインアプリケーション「Plissimo XV」を提供しています。
コンピューター断層撮影装置や磁気共鳴画像装置の画像を読み込むと、内視鏡による脊椎切削手術を3次元でシミュレーションできるのです。
4.デジタルツインが注目される理由
デジタルツインはなぜ注目されるのでしょう。下記の視点から解説します。
- IoTや5Gの普及
- DX推進
①IoTや5Gの普及
デジタルツインに必要なデータ収集の手段はIoTです。そしてIoTが収集した大量のデータを送信するのが、「高速・大容量・多数同時接続・超低遅延・超高信頼性」で構成されている5G。
5Gはデジタルツインそのものであり、IoTや5Gの普及はデジタルツインに欠かせません。
②DX推進
デジタルツインでは、IoTでデータを収集し、5Gでデータを送信してデータをAIで解析します。DXを効果的に推進するには、設計から実際のサービスまでの流れをデジタルツイン化することが欠かせません。
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5.デジタルツインのメリット
デジタルツインにはどのようなメリットがあるのでしょう。それぞれについて解説します。
- コスト削減
- 保安
- 品質向上
- リスク回避
①コスト削減
試作品製造には、多くのコストがかかるもの。デジタルツインを活用すれば、試作品の製造やテストなどをデジタル空間で行えます。また製品流通後のデータは、「製品が市場でどのようなニーズがあるか」といったマーケティング戦略にも応用できるのです。
②保安
センサーデータをデジタルツイン化すれば、故障やエラー対応の検討がリアルタイムでできます。保安面のノウハウを蓄積できるため、機械学習と組み合わせながらアラート発動といった予兆保全も可能です。
③品質向上
デジタルツインでは、現実世界の製品をリアルタイムでデジタル化します。デジタル化すれば、仮想空間内で何度でも試行錯誤を繰り返せるのです。製品にIoTセンサーを組み込めば、ユーザーの感想もビッグデータとして収集・蓄積できます。
④リスク回避
製品の製造には、さまざまな工程があるもの。デジタルツインを活用すれば、工程の改善や新製品テストなどを仮想空間で進められます。実行前にデジタル上で試算や予想ができるため、「コストがかかりすぎる」「システムの停止」といったリスクを回避可能です。
6.デジタルツインを支える技術
デジタルツインを支える5つの技術があります。それぞれについて解説しましょう。
- IoT
- AI
- 5G
- AR
- VR
①IoT
「Internet of Things」の略称で、モノをインターネットに接続する技術であるため、「モノのインターネット」と訳されているのです。IoTの対象物にはセンサーやカメラ、無線機などを搭載します。
搭載機器から収集したデータをインターネット経由で伝送し、遠隔地からの操作・モノ同士の通信を実現するのです。
②AI
「Artificial Intelligence」の略語で、日本語では「人工知能」と訳します。コンピューターの性能向上により、推定・探索・知識習得・ディープラーニングといった機械学習能力が高まりました。
AIは、「翻訳」「音声解析」「映像解析」「自動運転」「医療画像診断」などさまざまな分野で利用されています。
③5G
「5th Generation」のことで、日本語で「第5世代移動通信システム」と訳す次世代の通信規格です。5Gの特徴は、「高速で大容量」「超高信頼で低遅延」「多数同時接続」など。
さらに5Gは、「通信速度は4Gの20倍」「遅延は4Gの10分の1」「4Gの10倍のデバイスを同時接続可能」といった特徴があります。
④AR
実際の画像、映像とCGを合成して、現実世界で仮想空間を作り出す技術のこと。「Augmented Reality」の略で、日本語で「拡張現実」と訳します。
現実を拡張するイメージです。紙の上にカメラを向けると特定の情報がデータとして表示されます。実在しないものを実在するように見せる世界を作り出せるのです。
⑤VR
「Virtual Reality」の略で、日本語で「仮想現実」と訳します。専用ゴーグルをつけると、自分の周囲360度の映像を映せるため、まるでその空間にいるような感覚になれるのです。
最新技術では、場所移動・モノの移動・振動の体感などが自由にできるVRも誕生しています。