WBGT値とは、暑さ指数のことです。ここでは、WBGT値についてさまざまなポイントからわかりやすく解説します。
目次
1.WBGT値とは?
WBGT値とは、暑さ指数のことで、「Wet-Bulb Globe Temperature」の頭文字をとったものです。ISOといった形で国際的規格化されており、暑熱環境下における「労働の目安」「運動時の熱中症防止」の指針に用いられます。
WBGT値は下記3つの数値から測定するもので、単位は℃です。
- 湿度
- 熱環境(日射、輻射)
- 気温
2.WBGT値と熱中症との関係性
WBGTは、熱中症の原因となる環境を数値化できるのです。たとえばWBGT値が28℃を超えると、熱中症発生率が急増します。こうした熱中症の原因は下記の3つです。
- 気温や湿度などの環境
- 乳幼児や高齢者、寝不足、低栄養状態などのからだの状態
- 屋外作業、激しい運動などの行動
WBGT値の要素と割合
WBGT値には、以下3つの要素が関係しています。
- 湿度
- 熱環境(日射、輻射)
- 気温
それぞれを測定し、人体が受ける暑熱環境下の熱ストレスの評価を行っています。また、3つにくわえ、風(気流)も指標に影響しているのです。高温・多湿で無風の状態になりやすいところでは、冷房や大型扇風機を設置するとWGBT値を低くできます。
WBGT値の割合を計算する式は下記のとおりです。
- 屋内、屋外で太陽照射のない場合:WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
- 屋外で太陽照射のある場合:WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
3.WBGT値の数値と注意事項
WBGT値の数値を扱う際、知っておきたい注意事項が2つあります。それぞれについて解説しましょう。
- 作業着着用の補正値を含めた日常生活のWBGT基準値
- 外作業(運動)のWBGT基準値
①作業着着用の補正値を含めた日常生活のWBGT基準値
日常生活のWBGT基準値は、日本生気象学会により以下4つに分類されています。
- 強い生活活動でおこる危険性がある注意の25未満は、一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある
- 中等度以上の生活活動でおこる危険性がある警戒の25以上28未満は、運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる
- すべての生活活動でおこる危険性がある厳重警戒の28以上31未満は、炎天下の外出を避け、室内では室温の上昇に注意する
- すべての生活活動でおこる危険性がある危険の31以上は、高齢者は安静状態でもリスクが発生し、外出は避け涼しい室内に移動する
作業着着用の補正値
作業着では衣類の種類によって、WBGT値にくわえるべき補正値があります。それは下記のとおりです。
- 二層の布製服は3
- SMSポリプロピレン製つなぎ服は0.5
- ポリオレフィン布製つなぎ服は1
- 限定用途の蒸気丌浸透性つなぎ服は11
②外作業(運動)のWBGT基準値
外作業(運動)のWBGT基準値は、日本体育協会により以下5つに分類されています。
- ほぼ安全の21までは、適宜水分の補給は必要である
- 注意の21~25は、運動の合間に積極的に水を飲むようにする
- 警戒の25~28は、積極的に休息をとり、水分を補給する
- 厳重警戒の28~31は、激しい運動や持久走など熱負担の大きい運動は避け、運動時には積極的に休息をとって水分を補給する
- 31以上は、特別の場合以外の運動を中止する
4.今日のWBGT値の調べ方
今日のWBGT値を調べるには、環境省の熱中症予防情報サイトが便利です。その際、下記の2点をおさえておくとよいでしょう。
- 屋内外で異なる値
- 多少の誤差
①屋内外で異なる
WBGT値は屋内外で異なるため、下記から算定します。作業が行われる現場の状況に応じてWBGT値を使いわけるとよいでしょう。
- 気温
- 湿度
- 輻射熱
②多少の誤差がある
WBGT値は、気象庁の観測データに準拠して推定する値です。そのため観測方法や観測場所周辺の環境によって多少の誤差が生じます。また雨晴予測が難しい梅雨時期では、誤差が大きくなるのです。
5.WBGT値の測定方法
WBGT値はどのように測定するのでしょう。また測定で使用する機器の使い方にはポイントがあるのです。それぞれについて解説しましょう。
- 計測器の選び方
- 使用方法
- 保管方法
①測定器の選び方
測定器の選び方は、JIS規格を目印にします。たとえば、黒球が付いていない測定器は、JIS規格の適合になりません。なぜならこのような測定器を選ぶと、屋外環境や輻射熱のある環境で、適正な測定結果が得られないからです。
該当地点まで持ち運びやすく、JIS B 7922やJIS Z 8504などのJIS規格がある測定器を選ぶとよいでしょう。
②使用方法
使用方法および注意点は以下のとおりです。
- 屋内では熱源に最も近い位置で測定する
- 測定位置は、床上0.5~1.5m
- 屋外では乾球に直射日光が当たらないよう温度計を日陰に置く
- 自然湿球温度計は、自然気流中で測定する
- 黒球温度は、15分以上放置後に測定する
- 基準値超過が予測されるときは、作業中に測定する
③保管方法
測定器は日陰で保管しましょう。そのほかにも下記のような注意点があります。
- 濡れたら水分をこまめに拭き取る
- 電子回路のため衝撃を与えない
- 水洗いやアルコールなどの有機溶剤で汚れの除去を行わない
- 保管時は乾電池を取り出す
- 大型スピーカーといった強い磁気のあるものの近くで保管しない
- 極端な高温や低温になる場所で保管しない
6.WBGT値の計算方法
WBGT値は、「大気中の温度である気温」「大気中が含む水分の割合である湿度」「建物や地面などにこもる放出される時の熱である輻射熱」をもとに計算します。また実際の計算では、下記のような考え方を用いるのです。
- 湿度は、高いと汗で熱を発散しにくいため、WBGT値において重要な要素になる
- 屋内では待機中の温度を除外する
それではWBGT値の計算方法として、下記2つを解説します。
- 屋内での計算式
- 屋外での計算式
①屋内での計算式
屋内での計算式は「WBGT値=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度」です。ここで用いられている言葉は、以下のように解釈します。
- 湿球温度は、濡らしたガーゼを巻いた温度計で測定し、乾球温度との相対的な差で湿度を計算する
- 黒球温度は、銅製の黒い玉の中にある温度計で、輻射熱の影響を測定する
たとえば「屋内で気温27℃」「湿度85%(湿球温度28℃)」「無風」であれば、「0.7×27℃+0.3×28℃」でWBGT値は27.3℃になるのです。
②屋外での計算式
屋外での計算式は「0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)」。屋外は気温の影響も受けるため、屋内におけるWBGT値計算式にはなかった乾球温度を計算式に用いるのです。
たとえば「気温32.5℃」「湿度85%(湿球温度28℃)」「輻射熱28℃」「無風」であれば、0.7×28℃+0.2×28℃+0.1×32.5℃で、WBGT値は28.45℃になります。
7.WBGT値を使った熱中症対策
WBGT値は、熱中症対策を講じる基準や目安にできます。そもそも熱中症では、どのような症状が出るのでしょうか。それは下記のとおりです。
- 一時的に意識が遠のく
- めまいや立ちくらみ
- 顔のほてり
- 失神
- 手足のしびれ
- こむら返り
- だるさ
- 吐き気や嘔吐
- 頭痛
- 発汗異常
- ひきつけ
ここからは、熱中症対策の具体例について解説します。
- こまめな水分と塩分補給
- 休憩所の確保
- 社員の声がけで体調管理
- WBGT値の低減対策
- 健康管理と作業管理
①こまめな水分と塩分補給
暑いと人は大量の汗をかきます。よって、汗として体の外に出ていってしまった分の水分の補給が欠かせません。ただし水分だけを過剰摂取していると、血液中の塩分濃度・ミネラル濃度が低下してしまうのです。
目安として1ℓの水に対して食塩1~2gを一緒に補給するとよいでしょう。
②休憩所の確保
熱中症は、屋内でも屋外でも、場所を問わず起こるもの。なかでも、屋外における作業時は熱中症リスクが一段と高まります。高温多湿作業場所の近隣には、下記のような休憩場所を整備、確保しましょう。
- 飲料水や塩分補給ができる場所
- 体を休められる場所
- 冷房や氷、水風呂などで体を冷やせる場所
③社員の声がけで体調管理
熱中症に気をつけていけるよう社員同士で水分補給・健康状態の確認などについて、声がけするとよいでしょう。なぜなら熱中症は、下記のようにわかりにくい点も多いからです。
- 人によって暑さの感じ方が違う
- 気が付かないうちに症状が進行する
- 外から症状が見えにくい
- 症状が進行すれば具合が悪いと伝えられなくなる
④WBGT値の低減対策
WBGT値の低減対策は、熱中症対策としても有効です。
- 大型扇風機を設置する
- ドライミストを噴霧する
- 散水する
- 足場に遮光ネットを設置する
またWBGTが高くなったときに自動警告メールを送信するといった注意喚起もあります。
⑤健康管理と作業管理
健康管理と作業管理を併用して実施するとよいでしょう。たとえば連続作業・高温場所での作業といった熱中症リスクの高い作業の方法をWBGT値に合わせて変更すれば、社員の健康、安全管理につながります。
WBGT値・代謝率レベルによる身体作業強度を照合させた作業管理も有効です。