PM理論とはリーダーシップの機能を表現した行動理論のことです。ここではPM理論の意味やリーダーシップの分類、各機能の伸ばし方などについて、解説します。
目次
1.PM理論とは?
PM理論とは、リーダーに必要な要素は「目標達成のP機能」と「集団維持のM機能」の2つで、さらにそれぞれを強弱に分類した4パターンであるとする理論のこと。
1960年代、日本の集団力学の先駆者ともいわれている社会心理学者の三隅二不二氏が提唱した理論です。
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別名は「パパママ理論」
PM理論は別名「パパママ理論」とも呼ばれています。これはP機能に目標達成して成果を挙げるための厳しい「パパ」の働きを、M機能にチームをまとめる優しさや包容力などの「ママ」の動きをなぞらえたものです。
パパのような厳しさで目標を達成させ、ママのような優しさでチームをまとめる人物こそが、理想的なリーダー像であると唱えています。
SL理論との違い
SL理論とは相手に応じてリーダーの姿勢や行動を変える理論です。
SL理論は、リーダーシップの発揮方法に絶対的な正解はなく、相手の成長や状況、スキルの習熟具合などによってリーダーシップの発揮方法を変えることこそが有効であると考えています。
PM理論はリーダーとして目指すゴール、SL理論は一人ひとりに対するマネジメントとして区別するのが一般的です。
SL理論とは?【わかりやすく解説】PM理論との違い
SL理論とは、部下の状況に合わせてリーダーシップを変化させる理論のこと。SL理論の特徴、メリット、PM理論との違い、SL理論の導入のポイントなどを解説します。
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2.PM理論のP機能とM機能の意味
PM理論のP機能とM機能は、次のような行動を指しています。
- P機能:「目標売上達成のために新規顧客を開拓する」「チーム統率のために厳しくメンバーを指導する」など
- M機能:「つねに円滑なコミュニケーションを心がける」「メンバーを気遣いこまめに声をかける」など
P機能:目標達成機能(Performance)
成果を挙げるために発揮されるリーダーシップのこと。英語表記ではPerformancefunctionになり、目標達成機能という意味になります。具体的には次のような行動がP機能に含まれるのです。
- 集団の目標達成や課題解決
- メンバーへの指示によって業績や生産性を高める
- 納期厳守に向けて進捗を細かく管理する
- 規則遵守のため、厳しくメンバーを指導する
いずれもいわゆる「リーダーシップ」の言葉から連想される行動です。
M機能:集団維持機能(Maintenance)
企業や組織などの集団をまとめるために発揮されるリーダーシップのこと。チームビルディングやメンバー間調整といった役割を果たします。英語ではMaintenancefunction、つまり集団維持機能という意味です。具体的には次のような行動が挙げられます。
- メンバー一人ひとりを気づかって積極的な声掛けをする
- 不満を持つメンバーに対して積極的にヒアリングをする
- メンバー間で対立が生じた場合には、解消に向けて積極的に関与する
- つねにメンバーとの円滑やコミュニケーションを心がける
3.PM理論におけるリーダーシップの4分類
PM理論ではP機能とM機能をそれぞれの強さによって4つに分類しています。リーダーシップは目標達成のP機能と機能維持のM機能、どちらの機能が弱くても組織に損失をもたらすと考えられているのです。
ここではPM理論におけるリーダーシップの4分類について説明します。
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PM型
P機能とM機能どちらにも強いリーダー像といえます。高い目標達成能力と集団維持能力の両方を持っており、計画力や管理力に優れている、チームビルディングに向いているタイプです。
組織では非常に重要な人物となり、チームやプロジェクトを成功に導く、理想的なリーダーシップのタイプです。またPM型の下で働くメンバーは高い成果を挙げる達成感や働きやすさも実感しやすい傾向にあります。
Pm型
短期的な成果は出しやすいものの、長期的なチームワークやモチベーションに弱点を抱えるタイプです。目標達成行動のP機能に長けているため、緻密な計画や進捗管理、徹底した指導によって短期的な成果を挙げやすくなります。
一方、集団を維持、強化する力が弱いため、メンバーに気を配ったり、メンバーのモチベーションアップにつながるアクションを取ったりするのが苦手です。
pM型
P機能に課題を抱えるものの、M機能には強いタイプです。集団をまとめることには長けていますが、成果を挙げる力が不足しています。
いわゆる「仲良しクラブのリーダータイプ」で、目標達成に向けたプランニングや確実な成果に導く指導力やマネジメント力に不安が見られるのです。生産性を高めるための取り組みについて、検討する必要があるでしょう。
pm型
P機能とM機能のどちらにも不安を抱えるタイプです。集団として目標を達成する能力も、集団を統率する能力も低いため、PM理論においてはリーダーに不向きなタイプといえます。
このタイプは業務に対する関心も低く、組織からの人望も厚くありません。リーダーとしての能力を高めるには目標達成機能と集団維持機能の両方を高める必要があります。
4.PM理論における各機能の伸ばし方
目標達成のP機能と集団維持のM機能、どちらか一方だけ高くても理想的なリーダー像とはいえません。ここではPM理論における各機能の伸ばし方について説明します。
P機能向上には方向性の明確化
P機能を高めるにはゴールの明確化が必要です。目標達成には明確なゴールの設定と達成までのイメージが欠かせません。
組織が一丸となるためには、リーダーからの発信が必要です。「自分自身が今何をするべきなのか」「チームとしてどこに向かっていきたいのか」を明確にしたうえで、そこに向けた道筋をメンバーに説明し、チームとしての方向性を浸透させていきます。
M機能向上にはチームマネジメント力
M機能の向上にはチーム全体としての雰囲気をはじめ、士気の向上や円滑な人間関係の構築など、チームのマネジメント能力が必要です。
P機能ばかり高くても、集団維持能力が低ければメンバーの入れ替わりがひんぱんに発生するうえ、安定した結果を出せません。定期的に面談の場を設けたり、チーム内の人間関係に配慮したりして組織としての良好な状態を維持する力が必要です。
チームマネジメントとは?【意味をわかりやすく】研修、事例
チームマネジメントとは、メンバーの育成や生産性の向上に取り組むプロセスのこと。単にリーダーが指示・命令してメンバーを動かすのではなく、メンバーが主体的に考えて動けるチームを作ることが重要です。
今回は...
理想のリーダーはPM型
理想的なリーダー像は目標達成機能と集団維持機能の両方を備えたPM型です。PM型はチームをまとめて的確な目標設定ができるタイプ、適切な人材育成により確実に成果を出せるタイプです。
ここでは各タイプがPM型リーダーになるためのポイントについて説明します。
pM型の人
集団維持能力には長けているものの、目標達成機能に不安を感じるpM型がPM型になるには目標達成に向けた道筋を明確にすることが重要です。
「組織としてどこに向かうのか」「そのためには具体的に何をすべきか」をメンバーと確実に共有して、行動を促します。リーダーがチームの道筋を明確に示し、メンバーがそれに賛同してゴールをイメージできれば、おのずと目標達成につながるでしょう。
Pm型の人
どちらかといえば効率を重視して人間関係を二の次に考えてきたPm型はまずメンバー一人ひとりを尊重するようにしましょう。目標達成や効率を重視するあまり、必要最低限のコミュニケーションと機械的な仕事になっていた可能性も高いです。
PM型を目指して、仕事上だけではない信頼関係をメンバー間に作ります。お互いの理解が深まれば、より積極的な意見交換もできるようになるでしょう。
pm型の人
目標達成機能と集団維持機能のどちらにも乏しいPm型はP機能とM機能をバランスよく伸ばす必要があります。
P機能だけが強くてもチームはまとめられず、長期的な成果を生み出せません。またM機能だけが強くても、雰囲気がよいだけで目標を達成できない仲良しチームになってしまいます。
P機能を高めるために組織としての具体的な目標を掲げ、さらにM機能を高めるためにメンバーの強みを引き出すマネジメントやサポートを行うのです。
自分のリーダーシップタイプを知る
リーダーに4つのタイプがあるように、リーダーシップにも6つのタイプがあります。自分がどのタイプなのか知っておけば、リーダーとして不足している能力や強みが見えてくるでしょう。
- コーチ型:メンバーの性格や長所、短所などを把握してモチベーションアップにつなげる
- 関係重視型:メンバーと信頼関係を築き、居心地のよい環境づくりに長けている
- ビジョン型:明確なビジョンに向かってメンバーを導く
- ペースセッター型:リーダーが手本を見せてメンバーに成功イメージを与える
- 民主型:チーム全体の意見や提案を取り入れて組織に反映する
- 強制型:権力や圧力を行使して短期間で決断する
5.PM理論の活用例
リーダーの性質ではなく行動に着目したPM理論は企業をはじめ、教育や医療現場などさまざまなシーンで活用されています。先生のリーダーシップがいじめの発生に関わるという考えから、いじめ防止にも活用できるという意見もあるほどです。
ここではビジネスシーンに絞って、各企業のPM理論活用例について説明します。
本田技研工業
P機能とM機能、どちらか片方は強みを発揮できるがもう片方は苦手、というケースも少なくありません。本田技研工業は複数人が協力してリーダーシップを発揮する「コ・リーダーシップ」という発想で世界規模の企業に成長しました。
創業者の本田宗一郎氏が業務遂行能力、つまりP機能に集中し、参謀の藤沢武夫氏が経営やマネジメント、つまりM機能に集中して互いを補った事例です。
日立
世界的な総合電機、インフラ企業の日立製作所にはもともと課題理解力の高さや人間関係に強みを持つpM型リーダーが多く、その一方で課題設定力の低さや業績を重視した動きなどに課題を抱えていました。
この問題を受けてはじまったのが、目的意識や影響力、リーダーシップを身につけさせる社内研修コンセプト「志」です。PM型リーダーの育成に取り組んだ結果、グローバルに戦える社員が育ち、国家プロジェクトの輸出に成功しています。
6.PM理論の活用方法
PM理論を活用すると、リーダーとしてどのような行動を取ればよいか、メンバーとどのようなコミュニケーションを取ればよいかが明確になります。PM理論の活用は組織全体の課題把握にも効果的です。ここではPM理論の具体的な活用方法について説明します。
不足する部分を分析
PM理論を自己分析に活用すれば、自らの強みや反対に不足している機能などが見えてきます。分析の結果、たとえば自分がM機能に不安を抱えているとわかったとしましょう。
それにより「1on1ミーティングでメンバーと対話する」といったコミュニケーションの質を高める行動をとっていけます。
目標達成に向けたリーダーの姿勢がメンバーの意識にも影響を与え、各機能が向上する可能性もあるでしょう。
体制を強化
自己分析だけでなく、組織の分析にもPM理論が活用できます。組織のリーダー陣をPM理論の4タイプにマッピングすると、組織全体としてどの型に強いのか、どの型が手薄なのかが見えてくるのです。
たとえば組織全体としてP機能が弱いとわかれば、互いに指摘することを避けた「なれ合い組織」に陥っているのではないかという課題が見えてきます。PM理論を活用すれば自社組織体制の強化、改善につなげられるのです。
理想的なリーダーシップへ
PM理論は自分がどのタイプかを一度知ればそこで終わりというものではありません。リーダーシップは短期間の実践で変化するものではなく、具体的な行動の積み重ねによって変化するもの。
理想的なリーダーシップの実現には、具体的な目標を立ててそれを実践し、その後も定期的に振り返る必要があります。リーダー同士でディスカッションを行い、本気で実践しているメンバーから刺激を受け、理想的なリーダーシップを磨いていきましょう。