人事制度改革とは、企業の成長を目指すために既存の人事制度を大きく変えることです。人事制度改革の意味や目的、人事制度改革を実施するうえでのポイントについて解説します。
目次
1.人事制度改革の意味と目的
人事制度改革とは、企業における人事制度を改革すること。人事制度には社員一人ひとりが能力とモチベーションを発揮できるように人材管理を行い、企業の成長に結びつける役割があります。
人事制度改革の目的は、既存の人事制度を見直し、事業の促進とさらなる企業の成長を目指すことにあるのです。
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2.人事制度改革を行うべきタイミング
人事制度改革を行うべきタイミングは、「このまま現状の人事制度を運用すると支障が出る」と判明したときです。具体的なタイミングを3つ説明します。
企業の規模が拡大するとき
企業の規模が大きくなり、社員の数が増加したときは人事制度を見直すタイミング。社員が少ない時期に設定された人事制度の場合、多少手間がかかる業務があってもそのまま運用してしまうことも多いです。
しかし社員が増加したあともその作業を継続すると担当者の負担が大きくなり、人事部全体の業務が滞りかねません。その結果、社員に対する評価や教育などがおろそかになってしまうのです。
企業や社会の環境が変化するとき
社内・社外の環境が大幅に変化したときは、それらに合わせて人事制度改革を実施しましょう。社内環境の変化として挙げられるの新分野への進出や新事業の創設など、社外環境の変化として挙げられるのは政府の働き方改革です。
企業の方向性や理念、社員の働き方が変化したのに人事制度は古いままでは、適切な人材管理や人事評価は行えません。
人材育成や採用がうまくいかないとき
人材の育成や採用がうまくいかないときはすぐ、人事制度改革を実施しましょう。その理由はさまざまあり、人事制度の不十分さも理由のひとつです。既存の人事制度に問題があると、採用や配置のミスマッチなどが起こりやすくなります。
また評価制度に問題があれば、正当な評価を得られないという不満も生じるでしょう。このような企業では「採用してもよい人材に育たない」「入社しても早期に離職する」といった状況に陥りやすいのです。
3.人事制度改革実施のポイント
人事制度改革を実施する際、自社が抱える問題点や将来性を踏まえてルール作りをすることが大切です。またルール作りにおいては、社員から要望を聞くなどの配慮も忘れてはなりません。ここでは、人事制度改革実施時のポイントを5つ説明します。
- 評価基準の明確化
- 公平性
- 適切なフィードバック
- 人材データの可視化
- プロフェッショナル人材の採用
①評価基準の明確化
一人ひとりの社員を適切に評価するためには、評価基準を明確にすることが重要です。評価基準が明確になっていないと、社員は何を頑張ればいいのか、どこを目的にすればいいかがわかりません。
また「自分の働きが正当に評価されていない」という不満にもつながります。評価基準が明確になれば、このような事態を防げるでしょう。
②公平性
人事制度改革では、公平性のあるルール作りが必要です。特定の社員だけが優遇されるような偏ったルールは、ほかの社員がモチベーションを下げてしまいます。
職種や役職、経験年数などにかかわらず、社員一人ひとりの働きや成果を公平公正に評価し、適切な処遇を与える人事制度を構築しましょう。たとえば、個人の目標値や成果などから評価を行う「絶対評価」を取り入れるのもよい方法です。
③適切なフィードバック
企業の運用効果を高めるためには、社員に対するフィードバックが欠かせません。適切なフィードバックが行われると、社員の勤務態度や意欲、仕事への取り組み方が改善されやすいからです。
人事制度改革を実施するなら、「いつ誰がどのようなフィードバックを実施するか」を決め、フィードバックを行う上司への研修も進めましょう。
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④人材データの可視化
社内の人材データを可視化できれば、人事業務が捗ります。そのため人事制度改革で、クラウドシステムを導入する企業も少なくありません。クラウドシステムでは、社員のスキルや個々の成果、人事評価などを一元管理できます。
これらの情報を分析すれば、最適な人材育成や人員配置を行えるようになるのです。また社員の勤怠状況や健康状況なども可視化できるシステムならば、社員の変化や問題を早期に発見できます。
⑤プロフェッショナル人材の採用
人事制度改革の実施においては、プロフェッショナル人材の採用も重要なポイント。近年、経営力アップを目的としてAIやIoTなどの最先端技術を導入する企業が増え、専門的なスキルおよび知識を有する人材の採用が積極的に行われています。
人事制度を改革するなら、このようなプロフェッショナル人材の採用にも対応できる評価制度や報酬制度を取り入れましょう。
4.人事制度改革の失敗理由
人事制度改革を実施したものの、思うような成果が出なかったというケースも見られます。自社で同じ失敗を繰り返さないためにも、人事制度改革が失敗する理由を知っておきましょう。ここではよくある3つの理由を解説します。
- 評価項目の細分化
- 改革が長期化
- 社員の興味や関心が希薄
①評価項目の細分化
評価基準の作成で評価項目を細分化しすぎると、運用がスムーズに進まない可能性があります。たとえば7から8個の目標項目を設けた場合、すべて達成できる社員は多くありません。
達成できなければ評価も下がるので、社員のモチベーションが続かなくなる恐れもあります。評価管理も複雑化するため、業務の負担が増大しかねません。評価基準で目標を定める場合、重要度の高い項目から2から3個に絞ることをオススメします。
②改革が長期化
運用開始までに時間をかけすぎないことも重要です。改革の実施が遅れるほど、既存の古い人事制度を継続します。既存の人事制度に不満を持った社員は、新制度を待ちきれずに離職してしまうかもしれません。
そのため人事制度の策定は期間を決めて行い、改革を実施する日もあらかじめ決めておきましょう。これらによって改革をスピーディに進めます。
③社員の興味や関心が希薄
社員が人事制度改革そのものに関心がないと、企業の成長や活性化につながりません。社員全体が「この人事制度改革は自分にとっても自社の発展にとっても有益だ」と理解すれば、より精力的に仕事に取り組むようになるからです。
社員へ興味や関心を持たせるためにも、経営層と社員でコミュニケーションできる環境を作りましょう。制度設計の段階から社員と直接対話し、出た意見や批判、要望などを聞き出していくと、社員の興味や関心を高められます。
5.人事制度改革の手順
人事制度改革は、計画から運用までに複数のステップが発生します。順番を誤ると大きな手戻りが生じかねません。ここでは人事制度改革の手順を詳しく説明します。
- 現在の経営理念を再確認
- 現状を把握して、方針を決定
- 各制度の再設計
①現在の経営理念を再確認
策定する人事制度改革の内容が、経営理念と合致したものであるか、確認します。人事制度の目標は、この経営理念を実現するために人材を管理することだからです。
経営理念とは、企業の使命(ミッション)や未来像(ビジョン)、価値観(バリュー)などをまとめたもの。これらとそぐわない人事制度では、社員が定着しないでしょう。
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②現状を把握して、方針を決定
経営理念の確認後は、現状を把握します。経営理念が明確でも、現状の問題点を無視しているようでは、効果的な人事制度になりえません。企業における現状の課題を丁寧に洗い出し、そのうえで改革内容を決めていきます。
課題の洗い出しでは、客観的なデータを集めるためにコストや賃金相場の調査、社員へのヒアリングなどを実施するとよいでしょう。
③各制度の再設計
人事制度で基本となるのが「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つ。人事制度改革では、これら3制度を再設計します。
等級制度
社内における等級および各等級に求められる役割や能力を評価基準とする制度のこと。各等級は社員のスキルや能力、役割、実績などの違いによって設定され、その基準に沿って個々の社員を当てはめていきます。
人事制度改革では等級制度の評価基準を見直す必要があるでしょう。同時にそもそも等級制度を用いるべきかも考慮します。
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評価制度
社員一人ひとりの企業への貢献度を評価する制度のこと。評価制度の再設計では、評価基準や評価項目の変更および改善を進め、社員を適正に評価する仕組みの構築を目指します。
高い評価を得た社員は等級が上がり、それにともなって給与や手当もアップするのが一般的です。評価制度の改善は、社員のモチベーションにも大きくかかわります。
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報酬制度
社員の報酬額や算定基準などを定めた制度のこと。企業における報酬は、給与や賞与などの「金銭的報酬」と、権限付与や機会の提供などによる「非金銭報酬」の2種類にわかれます。
いずれの報酬でも、その良し悪しが社員のモチベーションを大きく左右するのです。社員の納得度(満足度)や報酬格差などを考慮した再設計が必要でしょう。
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4.改革後のシミュレーション
人事制度の再構築とあわせて、新制度への移行シミュレーションを実施します。シミュレーション時に重視すべきポイントは、社員の個別賃金と総額人件費。人事制度改革によって等級制度や報酬制度が変わると、社員一人ひとりの賃金も変化するからです。
個別賃金の増減と総額人件費が必要以上に増減しすぎないかを検証し、制度を調整しましょう。
5.新制度の運用開始
シミュレーション終了後、新制度の運用を開始します。運用前は社員に対して丁寧な説明を行い、変更の趣旨や目的を知ってもらいましょう。社員の理解なく新しい人事制度を実施すると、社員の不満や不信が増大し、離職にもつながりかねません。
運用中に社員へのヒアリングも定期的に行いつつ、課題があればそのつど改善を実施しましょう。
6.人事制度改革の企業事例
働き方改革が推進された昨今、人事制度改革に着手する企業も少なくありません。人事制度改革を実施し、成功を収めた企業の事例を紹介します。
ラック
セキュリティサービスを提供するラックでは、「働き方改革を推進する組織」を設置してさまざまな改革を実施しました。
具体的には、「社員に対する働き方改革アンケートの実施」「テレワーク環境整備と推奨」「社内複業奨励制度」「主要労働指標の可視化」など。ほかにも働き方改革を推進する社内イベント(啓蒙活動)や、社外での訪問ランチトークなども行われています。
ZOZO
ファッション通販サイトを運営するZOZOは、人事制度改革の一環として「福利厚生・制度の充実化」を図りました。たとえばあるエリアでは、福利厚生では「リモートワーク手当」「自学手当」「家族手当」などの手当を導入。
ほかにもスキル習得をサポートする制度として、「社内公募制度」「セミナー参加支援制度」「クラウドトレーニング費用補助制度」などを取り入れています。
メルカリ
フリマアプリを運営するメルカリは、新たな人事制度改革において「グレードを軸に据えた評価制度」を採用。この評価制度は、メルカリが社員に期待する貢献度を「グレード」として定義し、このグレードを基準にして社員の成果や行動を評価するのです。
具体的には「ノーレイティング」と「絶対評価」を取り入れており、個人のパフォーマンスを重視する評価制度といえます。