キャリアアップとは、知識やスキルを高めて地位や経歴を向上させること。キャリアアップの意味や転職、キャリアプランの立て方、助成金について解説します。
目次
1.キャリアアップとは?意味と使い方
キャリアアップとは、経験やスキル、知識を身に付け、特定の分野で地位を高めること。狭義では、現在より好待遇の会社に転職することを意味します。
前者は「昇進・昇給」「契約社員から正社員への登用」「より専門的な部署への転属」など、社内での実現が可能です。反対に後者は、自分が求める地位を他社で実現しようとします。
使い方
キャリアアップは、日常生活にて以下のように使われます。
- 同業他社へ転職してキャリアアップに成功した
- 今期、念願だった課長職にキャリアアップした
- キャリアアップのため資格を取ろう
- キャリアアップすることが夢だ
2.キャリアアップとスキルアップの違い
キャリアアップとスキルアップはともに「労働者が向上すること」を指す言葉です。しかし「向上する内容」が異なります。
- キャリアアップ:労働者の経歴や待遇が向上する
- スキルアップ:労働者の「能力向上」
キャリアアップにはスキルアップが必要不可欠。ただし新たなスキルを習得しても、キャリアアップしなければ意味がない場合もあります。たとえば「マネジメントスキル」を身につけても、管理職へキャリアアップしないのであれば活用する機会がありません。
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キャリアとは?
仕事との「かかわり方」のこと。
狭義としては「仕事の経歴」という意味で使われます。しかし本来はより広義に「仕事との関わり方」全般を指します。つまりキャリアという言葉には、仕事の経験や知識、スキルだけでなく、プライベートや人間性などの意味が含まれるのです。
キャリアについて考えることは、自分の生き方を考えることにほかなりません。
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スキルとは?
仕事をより良く進めるための力のこと。スキルがある労働者は、難しい仕事やさまざまな種類の業務を、高いクオリティで仕上げられるのです。
たとえばビジネスパーソンには交渉力や傾聴力、コミュニケーション力、企画力などが求められます。医師や弁護士、公認会計士のような特定の専門知識を要する資格もスキルです。アーティストやスポーツ選手のように生まれ持った才能もスキルといえます。
3.キャリアアップするなら転職と社内のどちらがよいか?
キャリアアップの方法は、転職と社内の2種類です。ここではそれぞれの概要とメリット・デメリットを説明します。
転職でのキャリアアップ
「同業他社への転職」または「異業種への転職」により、より好待遇の職場へ異動すること。達成すれば、以下のような成果が見込めます。
- 仕事の幅が広がる
- より大きなプロジェクトを担当できる
- 年収が上がる
- 休みが増える
なお「キャリアアップ」は同業のなかでも待遇が改善するケースを指します。異業種への転職は、「キャリアチェンジ」と呼ぶのが一般的です。
メリット
今とは異なる視点で評価してもらえること。
会社のニーズや風土と自らの特性や強みが合わなければ、正当な評価を受けられません。とはいえ一労働者が自社の風土などを変えるのはまず難しいもの。自分とマッチする会社に転職すれば適切に評価され、職務や役職などのキャリアも高めていけるでしょう。
デメリット
積み上げた評価や人間関係がなくなる、そして失敗時のリスクが大きいこと。
転職先の新しい職場には、これまで積み上げた評価や人間関係がありません。一から再スタートせねばならず、とくに人間関係の構築に時間がかかります。
また入社後に転職先の欠点に気がついても、かんたんに修正できません。安易に短期間での転職を繰り返せば、逆にキャリアダウンもあり得ます。
社内でのキャリアアップ
昇進や異動、配置転換や資格取得などをつうじて自分の経歴や待遇を向上させること。達成すれば、以下のような成果が見込めます。
- 仕事の幅が広がる
- より大きなプロジェクトを担当できる
- 年収が上がる
- 転職市場での価値が上がる
社内でのキャリアアップを達成する方法として、「仕事の成果を上げて抜擢を待つ」「自ら異動を願い出る」などがあります。
メリット
それまで積み上げてきた評価や経験、人間関係などをそのまま利用できること。
社内でのキャリアアップは転職と異なり、社風やニーズ、職場環境や仕事の流れなどが変わりません。そのためキャリアアップしたのちも、成果を出しやすいのです。
また部署や支店が変わった場合、キャリアアップ以前の評価や人間関係がよい影響をもたらす可能性もあります。
デメリット
会社によって難易度が変わること、そして環境の一新が難しいこと。
「上のポジションに空きがない」「社内異動制度がない」といった会社では、社内でのキャリアアップが見込めません。また社内での異動では、望む変化が得られないケースもあります。
社内でのキャリアアップが難しい、または望む変化が得にくい場合、転職でのキャリアアップが必要かもしれません。
4.キャリアアップを成功させるポイント
キャリアアップを成功させるには、自分や周囲に対して積極的に行動する必要があります。キャリアアップを成功させるポイントについて、説明しましょう。
- ビジョンの明確化
- 周囲への発信
- 自己理解と自己分析
- スキルアップ
①ビジョンの明確化
自分が望む将来像、つまりビジョンを明確にします。最終的なゴールを決めたうえで、そこから逆算して長期、中期、短期の目標を決めましょう。たとえば「家族と幸せな老後を送る」のがゴールであれば、以下のような目標が設定できます。
- 「老後資金として○万円貯める」という長期目標
- 「年収○万円を超える」という中期目標
- 「家庭と両立しながら成果を上げる」という短期目標
これらのビジョンから具体的なアクションを検討し、スケジュールへ落とし込んでいきます。
②周囲への発信
自分のキャリアプランを周囲に発信すると、それに沿ったチャンスを与えてもらいやすくなります。
目の前の業務を黙々とこなすだけでは、キャリアアップのチャンスはなかなか掴めません。キャリアプランに沿って自らをブランディングし、周囲にプロモーションしましょう。チャンスを与えてもらいやすくなり、キャリアアップの可能性が高まります。
経験やスキルのアピール
自らをプロモーションする際、相手のニーズにあった経験やスキルをアピールしましょう。
周囲への発信は大切ですが、自分主体の願望ばかり口にしていてはいけません。相手のニーズにあった経験やスキルをアピールすれば、チャンスをもらえる可能性はさらに高まります。
たとえば転職面接では、「御社で○○の経験を積みたい」ではなく「私の○○というスキルを活かして、御社に貢献したい」と伝えてみましょう。
③自己理解と自己分析
自己理解と自己分析ができていれば適切な目標を設定でき、自己アピールに活用できます。
自己理解や自己分析は、自分の強みや弱み、スキルを知っておくこと。これらを知ったうえで目標を設定すると、「高すぎる目標に挫折する」「目標が低すぎて意味がない」といった失敗を避けられます。
転職の面接でも、「自分の人間性や強みを御社でどのように生かせるか」というアピールに使えるのです。
④スキルアップ
資格やポータブルスキル(どの職場でも共通して求められるスキル)の習得は、キャリアアップに欠かせません。たとえば「コミュニケーション力」や「論理的思考力」「問題解決能力」「プレゼン能力」「マネジメントスキル」など。
キャリアアップに役立つ資格とともに習得を目指しましょう。
5.キャリアアップに必要なキャリアプランの立て方
キャリアアップには、明確なキャリアプランとそれにもとづいた実績が欠かせません。ここではキャリアアップの基礎となる、キャリアプランの立て方を説明します。
- 過去の振り返り
- 現在の分析
- 未来のビジョンをイメージ
- 理想と現実のギャップを整理
①過去の振り返り
これまでの仕事について書き出し、過去を振り返ります。具体的に以下のような内容を書き出しましょう。
- 業務内容
- 実績
- 得られたスキル
- これまでの目標
- 感じたやりがい
- 最も辛かったことや嬉しかったこと
自分をよく知るためにも、状況や思いなど細かい部分まで詳しく書き出しましょう。ひとりでの振り返りが難しい場合、同僚や上司、友人など信頼できる相手を頼っても構いません。
②現在の分析
書き出した過去をもとに、現在の自分を分析します。まずは仕事における「好きと嫌い」「得意と苦手」を見つけてみましょう。それがわかれば、自然と自分の強みや弱み、こだわり、価値観が見えてきます。
ただし「好きな仕事=得意」とは限りません。「嫌いだけど得意」なことも強みになり得るからです。「やりたいこと」だけでなく「できること」を見逃さないよう注意しましょう。
③未来のビジョンをイメージ
仕事におけるこだわりや価値観をもとに、未来のビジョンをイメージします。
1年後や3年後、5年後や10年後と、近い将来からイメージを広げていくとわかりやすいでしょう。できるだけ詳しく、望む職種や役職、収入などを思い描きます。
未来のビジョンはあくまで望む将来像。現在の延長にある必要はありません。現状に縛られず、本当の望みを自由にイメージしてください。
④理想と現実のギャップを整理
未来のビジョンと現在の自分の間にあるギャップを整理し、それを埋める具体的な方法を考えます。
必要なスキルや経験、資格や実績などを明らかにし、これからすべきことをできるだけ具体的に考えましょう。経済的に実現できるかどうかも、冷静に判断しなければなりません。
キャリアプランがときどきで変わる可能性もありますので一度立てただけで終わらせず、定期的に見直しましょう。
6.キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは?
契約社員や派遣社員、パートなどを正社員登用した事業者に、最大72万円が支給される制度のこと。ここでは制度の目的や対象事業者、支給額を説明します。
キャリアアップ助成金とは?【わかりやすく解説】申請の流れ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用のキャリアアップに取り組む事業主を支援する助成金のこと。非正規労働者の待遇改善が注目を集める中、キャリアアップ助成金がクローズアップされています。
キャリアアップ助...
目的
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の目的は非正規労働者の正社員化促進です。
契約社員や派遣社員、パートなどの非正規労働者を正社員へ登用すると、企業側には社会保険の費用が発生します。正社員登用に際してかかる費用の一部を国が支給し、正社員化の促進を目指す制度です。
対象事業者
キャリアアップ助成金は全コース共通して以下5つの条件を満たす事業者を対象としています。
- 雇用保険が適用されている
- キャリアアップ管理者を置いている
- 対象の労働者のキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格認定を受ける
- 対象の労働者の労働条件や勤務状況、賃金の支払い状況にもとづき、賃金の算出方法を明示できる
- キャリアアップ計画期間内に労働者のキャリアアップに取り組んでいる
正社員化コースの要件
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象事業者になるには14の条件を満たす必要があります。主な条件は以下のとおりです。
- 正社員転換制度を就業規則などに規定し、それにもとづいて正社員登用を行っている
- 正社員登用した労働者を6か月以上継続雇用し、6か月分の賃金を支給している
- 支給日に正社員転換制度を継続している
- 正社員登用後6か月の賃金を、それ以前より3%以上増やしている
- 正社員登用前日の前後6か月、合計1年以内に労働者を解雇していない
- 正社員登用後に雇用保険を適用させている
- 正社員登用後に社会保険を適用させている(または同様の労働条件で雇用している)
支給額
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給額は、企業規模や転換前の雇用形態によって異なります。
- 中小企業:有期契約からの正社員登用なら57万円、無期契約からの正社員登用なら28万5,000円
- 大企業:有期契約からの正社員登用なら42万7,500円、無期契約からの正社員登用なら21万3,750円
さらに派遣社員の直接雇用や、ひとり親世帯の雇用などの要件を満たすと支給額の加算を受けられます。
7.キャリアアップ助成金の申請方法
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請するには、キャリアアップ計画書の作成や就業規則の改定などを行わなければなりません。ここでは申請方法を説明します。
- キャリアアップ計画書の作成と提出
- 就業規則の改定
- 正社員へ転換
- 転換後6か月の賃金支払い
- 支給申請
①キャリアアップ計画書の作成と提出
キャリアアップ管理者を決めたうえで、キャリアアップ計画書(今後の3~5年間の取り組みを、大まかに取りまとめた書類)を作成し、管轄労働局長に提出します。
実施の前日までに管轄労働局長に提出し、認可を受けましょう。内容の変更があるときは、その都度「キャリアアップ計画変更届」の提出が必要です。
計画書に記載する項目
キャリアアップ計画書に記載する項目をいくつかご紹介します。
- キャリアアップ管理者:1事業所当たり1名を配置。代表取締役やオーナーなどでもよい
- キャリアアップ管理者の業務内容:キャリアアップ計画の立案と実施、周知やフィードバックなど管理者が中心となって行う業務を記載
- キャリアアップ計画期間:予定している実施期間を記載
- キャリアアップ計画期間中に講じる措置の項目:実施内容に応じた助成金コースを選択(複数選択可)
- 対象者:対象者の概要(入社年月日や配属先部署、雇用形態など)を記載。個人名は不要。たとえば「○○部門に配属後○年を経過した契約社員およびパートタイム労働者」など
- 目標:キャリアアップ計画で目指す目標を記載。たとえば「対象者のうち○名程度に対して正規雇用への転換を図る」など
- 目標を達成するための措置:実施する施策について具体的に記載。たとえば「○○に関する知識や技能を習得するために職業訓練を実施」など
- キャリアアップ計画全体の流れ:どのように計画を実施していくかを記載。たとえば「正規雇用労働者への転換を希望する有期契約労働者へ職業訓練を実施し、必要な知識やスキルを習得させる。訓練の成果と面談の結果から、正規雇用への転換を判断する」など
②就業規則の改定
就業規則に正社員転換制度の記載がない場合、改定しなければなりません。
就業規則の改定には、労働者代表の意見書が必要です。まずは労働者代表の意見を聞き、それを反映させて改定案を練りましょう。内容がまとまったら、「就業規則」「就業規則変更届」「意見書」を作成します。
変更後は速やかに労働基準監督署へ届け、あわせて労働者へ就業規則の改定を周知しましょう。
③正社員へ転換
非正規労働者から正社員への転換とは、以下のいずれかに該当する状態を指します。
- 有期雇用労働者を正社員に転換する
- 無期雇用労働者を正社員に転換する
- 派遣社員を直接雇用して正社員に転換する
有期雇用労働者は、契約社員や派遣社員など労働期間に定めがある人のこと。無期雇用労働者は、企業独自の雇用形態といった理由で、非正規雇用かつ労働期間の定めがない人を指します。
④転換後6か月の賃金支払い
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請するには、正社員登用後に6か月分の賃金を支払う必要があります。また正社員登用後6か月間の賃金は、登用前6か月の賃金よりも3%以上増額しなければなりません。
支給実績は、申請時に提出する勤怠表や賃金台帳などで確認されます。停止や減額なく要件を満たす金額を6か月間支給しましょう。
⑤支給申請
キャリアアップ助成金(正社員化コース)では正社員登用後6か月分の賃金が支払われた翌日から支給申請が行えます。支給申請が行える期間は、申請が可能になってから2か月間です。
都道府県労働局に必要な申請書類を郵送、または直接提出しましょう。場合によっては、ハローワークへの提出も可能です。詳しい支給申請方法は、各都道府県労働局へ確認することをオススメします。
申請書類
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給申請には、以下の書類が必要です。
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 正社員化コース対象労働者詳細
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所属
- 認定済みのキャリアアップ計画書
- 正社員登用前後の就業規則のコピー
- 正社員登用前後の雇用契約書や労働条件通知書
- 正社員登用前後の賃金台帳のコピー
- 正社員登用前後の出勤簿またはタイムカードのコピー
- 賃金3%以上増額に係る計算書