ビジネスマナーとは、ビジネスを円滑に進める礼儀作法のことです。ここではビジネスマナーの種類や研修のポイント、ビジネスマナー検定などについて解説します。
1.ビジネスマナーとは?
ビジネスマナーとは、ビジネスをスムーズに進めるための礼儀や作法、所作などのこと。「マナー」という言葉自体はさまざまなシーンで使われており、多くの場合、その場に必要な行儀や作法を指します。しかしビジネスでは、業務を円滑に進めるための大きな要素として考えられているのです。
マナーとルールの違い
それぞれの違いは下記のとおりです。
- マナー:相手を思いやったうえでの行動のこと。明確なルールはない
- ルール:規則や規範など、守るべき基準のこと。ルールは明文化されている
2.ビジネスマナーはなぜ必要なのか?
ビジネスマナーが必要とされる理由は下記の3つです。
- 信頼関係の構築
- コミュニケーションの円滑化
- 自社イメージの向上
①信頼関係の構築
ビジネスマナーは社内外のステークホルダーと信頼関係を築くために必要な要素です。ここでは会社における信頼関係を社内と社外にわけて、説明します。
社内
会社には年齢や性別、価値観や経験などそれぞれ異なる要素を持った人たちが集まっています。そして彼らは友達や家族ではありません。
「目を合わせて挨拶できない」「目上の人にも友達と同じ話し方をする」そのような態度では、お互いを尊重し協力しながら業務を進めるのは難しいでしょう。つまり互いに信頼し、安心できる関係で仕事をするためにもビジネスマナーが欠かせないのです。
社外
取引先と仕事をする際、自分が会社の代表になります。万が一ビジネスマナーを知らず相手を不快にしてしまったら、そのまま自社の評判も下がってしまうでしょう。
適切なビジネスマナーを習得できていないと「あの社員は感じが悪いから一緒に仕事したくない」「あんな社員がいる会社と今後も取引を続けるのは嫌だ」と評価されてしまいます。それにより上司や同僚、会社全体に迷惑をかけてしまうのです。
②コミュニケーションの円滑化
コミュニケーションの目的は情報を伝達して共有すること。このコミュニケーションを円滑にするため欠かせないのがビジネスマナーです。マナーのよいひとは相手を思いやり、相手の立場に立って物事を考えられます。
ビジネスマナーがあれば「あの人は自分のスケジュールを考えてくれるから情報共有の場を設けやすい」「あの人の気づかいが会議をスムーズに進めてくれる」などと評価される人材になるでしょう。
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③自社イメージの向上
ビジネスマナーは自社イメージにもかかわってきます。たとえ新入社員であれ管理職であれ、外部から見ればその人が会社の顔です。
ひとりのマナーが社外に悪いイメージを与えてしまうと、それが会社全体の印象になり「あの会社はイメージが悪い」と評価されてしまいます。ビジネスマナーは階層や役職に関係なく、すべてのビジネスパーソンに必要なのです。
3.ビジネスマナーの基本と具体例一覧
ひとことでビジネスマナーといっても、そこには挨拶や言葉遣い、電話対応やビジネス文書などさまざまな種類があるもの。ここでは代表的なビジネスマナーの種類とその具体例について説明します。
- 挨拶とお辞儀
- 身だしなみ
- 言葉遣い
- 報連相
- 電話対応
- メール送信
- ビジネス文書
- 訪問
- 名刺交換
- 席次
- 贈答
①挨拶とお辞儀
挨拶は相手によい印象を与え、互いによい関係を構築するための足掛かりになります。つまり自分の心を開き、さらに相手にも心を開いてもらうための行為です。そのため挨拶を重視している会社は多く存在します。
お辞儀は頭を下げる角度によって意味が変わるもの。一般的に相手やシチュエーションによって以下を使いわけます。
- 会釈:下げる角度は約15度。廊下ですれ違う際や同僚との挨拶に使用する
- 敬礼:下げる角度は約30度。来客の出迎えや敬意を表した挨拶などに使用する
- 最敬礼:下げる角度は約45度。改まった挨拶やお詫び、お礼を伝える際に使用する
②身だしなみ
第一印象が重視されるビジネスにおいて、身だしなみや姿勢のマナーはとくに重要です。最先端のファッションやハイブランドのアイテムを身にまとう必要はありません。大切なのは「清潔感」そして「就業環境にふさわしいかどうか」。
具体的に挙げられるのは次のようなポイントです。
- 髪型に清潔感はあるか
- 襟や袖は汚れていないか
- 無精ひげが生えていないか
- スカートやヒールが短すぎたり高すぎたりしないか
- 口臭、体臭をケアが行き届いているか
③言葉遣い
ビジネスマナーでは「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」という3つの敬語を使いわけます。これらが使いこなせず言葉遣いがだらしない場合、相手に悪い印象を与えるでしょう。、また意味のはき違えから不要なトラブルに発展する可能性も高いです。
しかしはじめから完璧に使いこなすのは難しいもの。実際のビジネスシーンを想定した研修に参加するとよいでしょう。
④報連相
業務を進めるうえで欠かせないのが「報告」「連絡」「相談」の「報連相」。これにはコミュニケーションを円滑にさせ、トラブルを事前に防ぐ効果があります。それぞれの具体的な意味は以下のとおりです。
- 報告:進捗状況や結果の報告、トラブルやミスなどの伝達
- 連絡:決定事項の周知。速やかにかつ情報を歪めず伝達する
- 相談:疑問点や不安点について話し、アドバイスや判断を仰ぐ
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30年以上前に誕生し、企業に属する社員が場面や用途に合わせて相手に伝える方法として広まっています。
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⑤電話対応
電話対応では相手の顔が見えない分、状況に配慮しながら丁寧に対応する必要があります。はじめて電話をしてくる人にとっては、電話の印象が会社の印象につながるもの。
電話を掛ける際はタイミングや要件の伝え方に配慮し、電話を受ける際は会社の代表という意識をもって挨拶しましょう。伝達漏れがないよう内容をメモしておくのも重要です。
⑥メール送信
ビジネスにおけるメールにも基本の形とマナーがあります。最近ではメッセンジャーツールで連絡を取る会社も増えてきたものの、メール対応はまだまだ必要です。
メールに関するマナーで重要なのは「簡潔」で「わかりやすい内容」にすること。
- 件名に内容を要約する
- 1文を簡潔にする
- 情報量に応じて箇条書きを使う
など、読み手に配慮したメールを作成しましょう。
⑦ビジネス文書
ビジネス文書には「社内文書」と「社外文書」があります。どちらも「横書き」で「口語体を避けて文体を統一する」のが基本です。
- 社内文書:業務上の指示や連絡、報告などに使用する。内容と効率を重視するため前文を省略し、要点がすぐに伝わる文書を作成する
- 社外文書:コミュニケーションよりも内容記録の意味合いが強い。感情的なやり取りを避けて客観的に事実を述べることがポイント
⑧訪問
顧客や取引先などを訪問する際、事前準備が大切です。もしたまたま近くに立ち寄って突然訪ねることになっても、最低限のマナーとしてアポイントを取りましょう。アポイントが取れたら、下記を確認して向かいます。
- 忘れ物はないか
- 身だしなみは清潔か
- 余裕を持って到着できるか
万が一予定時刻に間に合わない場合、必ず連絡を入れましょう。
⑨名刺交換
初対面のひとにまず行うのが名刺交換です。「名刺は組織の顔、相手の顔と同じ」の意識は現代にも残っています。
名刺交換では目下の人から差し出すのがマナーです。ビジネスでは年齢や役職にかかわらずお金を出すほうが目上、お金をもらうほうが目下と考えます。そのため営業活動では商品を提供する側、買ってもらう側から名刺を差し出すのが基本になるのです。
⑩席次
「席次」とはどの席に誰が座るかという順序のこと。来客対応時や訪問時に席次のマナーが必要になります。
基本、出入口からもっとも遠い席が「上座」、もっとも近い席が「下座」で、目上のひとから順に上座につきます。車や電車、エレベーターに乗る際にも席次のマナーがあるので、事前に正しい知識を身につけておきましょう。
⑪贈答
取引先にお祝いの品やお中元やお歳暮などを贈る場合もあります。その際、先方に失礼のないようマナーを意識しなければなりません。
企業によっては贈答品の受け渡し自体を禁止している場合もあります。「よかれと思って渡したものの、かえって迷惑をかけてしまった」という状況にならないよう、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
4.ビジネスマナー研修実施のポイント
ビジネスマナー習得のため、独自にマナー研修を実施している会社も多くあるでしょう。ここではビジネスマナー研修を実施する際のポイントを3つに絞って、説明します。
- 目的を伝える
- 業務を想定する
- フィードバックを行う
①目的を伝える
まず社員にビジネスマナー研修が必要な理由を理解してもらいましょう。目的を理解しているかしていないか、で研修を受ける姿勢も変わるからです。
「参加必須の研修だから」「とりあえず参加だけしておこう」という意識のまま参加しても、研修内容が理解できず、結局身につかない可能性もあります。研修前に「なぜビジネスマナーが必要なのか」を考えてもらうとよいでしょう。
②業務を想定する
実際の業務を想定すると、より現実的なイメージを持てます。顧客来訪のマナーを社内勤務のエンジニアに伝えてもイメージは湧きにくく、受講意欲は上がりません。受講者の実務に沿った研修が必要です。
仕事経験のない新入社員には、業務シーンの動画や先輩社員へのインタビューなどを交えると、具体的なイメージを持ちやすくなります。
③フィードバックを行う
ビジネスマナー研修では、ロールプレイングを交えながら知識を身につけることも多いです。その際は体験者のほかにロールプレイングを評価するオブザーバーを設定して、フィードバックを求めましょう。
どのような点がよかったか、改善点はどこかなど具体的なフィードバックを受けられれば、より高い学習効果を得られます。
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5.ビジネスマナー検定とは?
ビジネスマナーに関する知識を身につけるためには、検定試験を受けるのも効果的です。ここではビジネスマナーに関する3つの検定について、説明します。
- ビジネス実務マナー検定
- ビジネスマナー検定試験
- オンラインビジネスマナー検定
①ビジネス実務マナー検定
「職場常識の育成」を目指し、ビジネスパーソンとしての判断や行動が適切かどうか、マナーや話し方、人間関係を理解しているかなどを問う検定のことで、文部科学省が後援しています。
試験は3級から1級までの3段階。1級のみ二次試験(面接)があります。特別な受験資格は必要なく、誰でも受験可能です。
参考 ビジネス実務マナー検定公益財団法人 実務技能検定協会②ビジネスマナー検定試験
「知識」「技能」「態度」3つの領域でビジネスマナーを審査します。各領域の詳細は以下のとおりです。
- 知識:業務遂行上必要とされる組織の意義や役割、責任やコミュニケーションの重要性に関する知識を有しているか
- 技能:言葉遣いや身だしなみ、来客対応や電話応対などの技能を実践できるか
- 態度:社会人としての自覚を持ち、良識や規律意識などを持ったうえで仕事に正しく取り組めているか
こちらも受験資格に制限はありません。また試験方法はすべて筆記試験のみです。
参考 ビジネスマナー検定試験 一般社団法人全国検定教育振興会③オンラインビジネスマナー検定
オンライン上での営業や商談におけるビジネスマナーに特化した検定のことで、日本オンライン資格推進機構が実施しています。
これまで対面で実施してきた商談や会議がオンラインに移行されるなか、オンラインならではのマナーや気遣いが求められるようになりました。まさにオンラインツールの利用が増えた現代にこそ取得したい資格です。
参考 オンラインビジネスマナー検定 一般社団法人 日本オンライン資格推進機構6.ビジネスマナーの勉強に役立つ本
ビジネスマナーの勉強には、マナー講師やキャリアカウンセラー資格を持つ著者らが執筆した書籍を読むのも効果的です。ここではビジネスマナーの勉強に役立つ2冊の書籍について紹介します。
改訂新版 入社1年目ビジネスマナーの教科書
身だしなみから電話応対、ビジネスメールの書き方に冠婚葬祭など、これから新たにビジネスマナーを取得したい新入社員にオススメの一冊です。
著者はビジネスマナー講師として企業や行政機関、教育機関などで研修を行っている金森たかこ氏。社会人に求められるビジネスマナーの基本をイラスト付きで丁寧に解説しています。
参考 改訂新版 入社1年目ビジネスマナーの教科書Amazonビジネスマナーの解剖図鑑 新しい生活様式対応版
2016年の発売後、従来のアップデートにくわえ、テレワーク環境下でのビジネスマナーや仕事の進め方について追記しました。
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参考 ビジネスマナーの解剖図鑑 新しい生活様式対応版Amazon