人材育成では目標や進捗、成果などをマネジメントします。そのため担当者にはさまざまな知識やスキルが必要です。人材育成マネジメントの手法と課題、人材育成に必要となる能力や有効な資格について解説します。
目次
1.人材育成におけるマネジメントの効果
人材育成マネジメントとは、社員の能力向上を目的として行われる人材管理のこと。
人材育成マネジメントは社員の能力を高めるだけでなく、モチベーションやエンゲージメントを高める視点でも行われます。そのため他社との差別化や優位性、企業力(競争力)の向上にもつながるのです。
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社員のモチベーションアップ
人材育成マネジメントで自律的に行動する社員を育成できると、モチベーションの向上も見込めるでしょう。
企業が明確な目的を持って人材育成をマネジメントすると、社員一人ひとりが「企業に貢献するにはどうすればよいのか」を積極的に考えるようになります。自律的に行動した結果、自社から適切な評価を受けられた社員はモチベーションが高まるのです。
本人だけでなく、それを見た周囲の社員の意欲向上も期待できます。
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社員の定着
個々に合わせた人材育成マネジメントを実施すると、離職のリスクが下がります。自分の能力と仕事内容がマッチした社員は成果を上げられるようになり、モチベーションが向上しやすいからです。
ただしまだ能力の低い新入社員の場合、「自社理解」や「基礎的能力」などを高めることが優先となります。
2.人材育成におけるマネジメントの課題
人材育成マネジメントにて、多くの企業が抱える課題があります。人材育成におけるマネジメントの主な課題について説明しましょう。
- マネジメント力不足
- 育成機会・環境不足
- 目標設定が不明確
①マネジメント力不足
社内に人材育成マネジメントへ適した社員がいないという課題が挙げられます。高い実績を上げている社員であっても、人材育成に相応しい知識やスキル、マネジメント能力を持っているとは限らないからです。
また目前の業務に追われて、人材育成業務へ着手できないケースも考えられます。この場合経営者が「人材育成を優先させる」という方針を示し、業務を調整させる必要があるでしょう。
②育成機会・環境不足
企業側に人材育成マネジメントのノウハウと、育成可能な環境がなければ人材育成はなかなか成功しません。人材育成には時間がかかるため、長期的かつ体系的な育成システムを確立する必要があります。
適切な育成システムを実施できなければ、十分な育成機会が得られず人材育成はうまく進みません。スキルマップや教育計画、マネジメント研修など幅広い施策が求められます。
③目標設定が不明確
人材育成マネジメントには、「どういう人材を育成したいか」という明確な目標設定を提示する必要があります。企業と社員の双方が目的意識を共有でき、社員がどこを目指せばよいのかが明確になるからです。
とはいえあいまいなイメージでは、双方の認識に齟齬が生じるでしょう。部署や職種、役職ごとに、企業が求める人材像やスキルを決めるという施策が効果的です。
3.人材育成マネジメントの方法
人材育成マネジメントでは、研修や学習にさまざま手法を用います。人材育成における効果的なマネジメント方法を説明しましょう。
- OJT(On the Job Training)
- Off-JT(Off the Job Training)
- SD(Self Development)
- MBO(Management By Objectives)
- eラーニング
①OJT(On the Job Training)
現場における実践レベルの教育や指導のこと。実際の業務をとおして、先輩社員が後輩社員へ業務遂行に必要なスキルやノウハウを教えます。
メリットは、「指導を受ける社員だけでなく指導者側も一緒に成長できる」「業務と教育の両方を進められる」点。ただし指導者は自分の業務と教育を平行するため、パフォーマンスや効率の高さが求められるのです。
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②Off-JT(Off the Job Training)
外部講師によるセミナーや社内研修を通した指導のこと。複数の新入社員へ同等の基礎能力を習得させる目的で行われる場合が多いでしょう。
メリットは、各分野のエキスパートからより専門的な知識やノウハウを学べる点。OJTと異なり座学や研修という形になるため、集中的かつ体系的な学習が可能です。
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③SD(Self Development)
社員が自発的に学習して能力を高める取り組みのこと。自己啓発とも呼ばれます。具体的には「書籍を購入して学習する」「自分でセミナーに参加する」など。SDのメリットは、社員が企業側の制約を受けずに学習内容と学習時間を決められる点です。
ただしSDを促進するには、費用や業務などの調整が必要となるでしょう。
④MBO(Management By Objectives)
目標管理制度のこと。目標管理制度では社員またはグループで目標を設定し、「能力開発目標」「職務遂行目標」「業績目標」などの目標に対する達成度合いで評価を決定します。
個人やグループ単位で目標を定めれば主体的に取り組むようになり、個々の能力やチームワークなどの向上が望めます。
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⑤eラーニング
インターネットを利用した学習方法のこと。時間や場所を問わずに学習でき、その方法も「動画」「CBT(Computer Based Testing)」「アプリ」などさまざまです。従来よりも効率的に社員教育や企業研修を実施できます。
またICTを活用したeラーニングの学習では社員の能力管理がしやすい点もメリットでしょう。目標や進捗、学習結果のデータ化や一括管理がしやすいからです。
4.人材育成マネジメントの進め方
人材育成マネジメントの基礎的なプロセスでは、「課題の明確化」「目標設定」「計画の立案」「目標の共有」「フィードバック」を繰り返します。マネジメントを成功させるためにも、担当者は進め方の手順やプロセスなどの基礎を理解しておきましょう。
- 現状の課題を可視化
- 目標の設定
- 計画の立案
- 目標共有と実行
- 定期的なフィードバック
①現状の課題を可視化
現在の経営戦略に対する人材課題を明確にします。課題を可視化すれば、どのような戦略を取るべきかが見えてくるからです。まずは「いつまでにどのような人材がどれほど必要なのか」を明らかにしましょう。
人材育成マネジメントの方向性と戦略が決まったら、課題を解決するための人材をどのように育成するかを決め、既存社員の情報整理や分析を行います。
②目標の設定
経営戦略を達成するためには、全社員が同じ目的に向かって臨まなければなりません。たとえば経営目標が「利益増大」だったとしましょう。
経営戦略には「売上増」や「コスト減」などが挙げられます。部署ごとに担う役割は異なり、たとえば営業部であれば「売上増」に取り組むでしょう。具体的な数値を用いて営業部の目標を策定します。
③計画の立案
目標を立てたら、その目標を達成するための人材育成計画を立案します。計画立案で重要になるのは、目標達成に必要な人材要件を設計し、現状の人材と比較すること。計画上の人材要件と現状の人材のギャップを可視化すれば、不足要件を明確にできるからです。
この不足要件を満たすため、どのような施策を行うべきかを考えます。施策には、研修や資格取得、キャリア採用などが挙げられるでしょう。
④目標共有と実行
計画の策定後はその内容と目指すべき目標を社内で共有し、研修などの施策を実行します。目標の共有は単に同じ目的意識を持つだけでなく、連帯感やモチベーションの向上につながるからです。
最終的な目標達成までモチベーションを維持させるには、ステップごとに小さな目標を立て、小さな成功体験を積ませる方法が効果的です。
⑤定期的なフィードバック
人材育成マネジメントでは定期的にフィードバックを実施します。社員一人ひとりに対して的確なフィードバックを行うと、個人の課題に気づけるからです。自分の課題が明確になると、社員は解決に向けたアクションを取れるようになります。
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5.人材育成に必要なマネジメントスキル・能力
人材育成マネジメントの担当者には、育成計画や進捗などを管理する能力が要求されます。人材育成マネジメントで必要となるスキルや能力を説明しましょう。
- 統率力
- 計画力
- 状況把握力
- 目標設定力
- 意思決定力
①統率力
育成対象の多くは部下になるので、まとめるための統率力が必要です。この統率力は「リーダーシップ」とも言い換えられます。つまり「この上司についていきたい」と思えるような行動力やサポート力が求められるのです。
リーダーシップを発揮して個々の部下から信頼を得られれば、チームや部署全体のモチベーションも向上するでしょう。
②計画力
人材計画と施策の実行計画などを決める必要があるため、計画力と遂行力が求められます。マネジメントにおける計画力とは、目標達成のためにより効率的な道筋を立てて、戦略的に課題を解決していくこと。
筋道立てて考える「論理的思考」や、戦略を個人レベルへあてはめて考える「戦略的思考力」、さまざまな切り口で考える「多角的思考力」なども必要になるでしょう。
③状況把握力
自社課題や不足要件、運用後の動向など、つど現状を分析するために状況把握力が求められます。円滑なマネジメントを行っていくには、進捗や変化をいち早く察知し、早期かつ柔軟に対処する必要があるからです。
「計画どおりに育成が進んでいるか」「狙った成果が出ているか」だけでなく、「上司あるいは部下の心理状態が悪くなっていないか」といった点にも注視しましょう。
④目標設定力
目標設定力も人材育成マネジメントに欠かせません。目標設定とは、「目標達成のために具体的に何をすべきか」を明確にして、部下が迷いなく行動できる指針を作り上げること。
このとき企業全体の目標と部署やチームの目標、そして個人目標がどのように関連しているかを、十分に部下へ伝えることがポイントです。関連性が理解できた部下は、自主的に行動するようになるでしょう。
⑤意思決定力
マネジメントではプロジェクトとチームを引っ張っていくため、さまざまなシーンで意思決定を行います。トラブルが発生した際は、柔軟かつスピード感を持った意思決定が必要です。
また意思決定では、可能な限り統一性や論理性を持たせましょう。統一性や論理性がないと、部下は「頼りない」「いうことが変わる」「納得できない」などの不満や不安を感じるからです。
6.人材育成マネジメントに役立つ資格
円滑に人材育成計画を進めるには、経営戦略やマネジメントなどの専門知識やスキルが必要で、これらを身につける方法のひとつが資格取得です。人材育成マネジメントに役立つ6つの資格を説明しましょう。
- キャリアコンサルタント
- メンタルヘルス・マネジメント検定試験
- 中小企業診断士
- PMP(Project Management Professional)
- 経営学検定試験(マネジメント検定)
- ビジネスマネジャー検定
①キャリアコンサルタント
労働者の職業設計や職業能力を開発あるいは向上するための知識を証明する国家資格のこと。一人ひとりの適性や能力に合わせてコンサルティングし、その人に合ったキャリア形成の提案やサポートを進めます。
社内の人材育成でも各社員との面談は欠かせません。キャリアコンサルタント資格で得た知識は大いに役立つでしょう。
②メンタルヘルス・マネジメント検定試験
労働者の心的不調の改善および防止に関する知識を証明する公的資格(官庁や大臣、都道府県などが認定する資格)のこと。メンタル面の健康管理だけでなく、働きやすい職場環境づくりも対応範囲です。
近年、精神面のトラブルを抱える労働者が増えており、多くの企業が心の健康管理に取り組んでいます。この資格を取得していれば、人材育成の過程でチームの誰かが心身の不調に陥っても適切に対処できるでしょう。
③中小企業診断士
企業の経営診断と助言ができると証明する国家資格。いわゆる経営コンサルタントとしての知識が身につきます。財務や労務、生産などの視点から企業の経営課題を発見し、戦略や施策のアドバイスや支援、行政などとの連携を行えるようになるのです。
人材育成マネジメントは人材育成を通して経営課題を解決することが目的なので、キックオフの時点から中小企業診断士の知識が生きるでしょう。
④PMP(Project Management Professional)
高いプロジェクトマネジメント能力を有すると証明する民間資格のこと。知識だけでなく、一定期間以上の実務経験が必要になります。
役割はプロジェクトの計画や管理、進行をリードし、トレーニングや評価、対外対応やリスク管理なども含めて全体をコントロールすること。人材育成はプロジェクトとして遂行される場合が多いので、勉強するだけでも有益な資格といえます。
⑤経営学検定試験(マネジメント検定)
一定以上の経営管理能力や課題解決能力を有すると証明する民間資格のこと。「初級(新入社員向け)」「中級(マネージャー向け)」「上級(経営幹部向け)」の3つにわかれているので、担当者の知識レベルに応じて目指す級を選ぶことになるでしょう。
マネジメントに関する科目は中級に含まれ、関連して経営戦略や内部統制に関する知識も得られます。
⑥ビジネスマネジャー検定
マネージャーに求められる知識を体系的に有すると証明する民間資格のこと。「マネージャーの役割」「人材や組織のマネジメント」「業務マネジメント」「リスクマネジメント」などの4分野にわかれ、これらの知識は業種を問わず活用できます。
自社のマネジメント業務だけでなく、自身が管理職ヘキャリアアップする際にも役立つ資格です。
7.人材育成マネジメントに役立つ本
人材育成マネジメントに必要な知識は、書籍から学ぶのも可能です。人材育成マネジメントに役立つ本を紹介します。
人材マネジメントの基本 この1冊ですべてわかる
経営や人材育成のコンサル会社に勤めた著者が、人材マネジメントの基本や導入方法などを解説している本です。
「テレワーク」「IT化・ロボット・AI」「リーダー人材」「外部人材」「1on1」「リカレント教育」などのテーマをつうじて、社員が活躍しやすい組織の作り方を学べます。まず人材マネジメントについて体系的な知識を得たい人にオススメです。
参考 この1冊ですべてわかる 人材マネジメントの基本日本実業出版社図解 人材マネジメント 入門
人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ
リクルート社の人事コンサルタント経歴を持つ著者が、図解とQ&Aを用いて人材マネジメントを解説している本です。「人材開発」「組織開発」「人事評価」など全10章から構成され、各章ごとに理論と実践方法、4社の事例を掲載しています。
体系的な知識を得られるのはもちろん、気になる章だけ参照して自社で実践するといった活用も可能です。
参考 図解 人材マネジメント入門株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン