人事制度コンサルティングとは、人事制度の目的を満たすために必要な知識やノウハウを提供するコンサルティングサービスのことです。ここでは具体的なサービス内容や依頼するメリット、比較のポイントなどについて解説します。
目次
1.人事制度コンサルティングとは?
人事制度コンサルティングとは、人事制度の課題解決を通じて企業理念や経営戦略の実現、業績向上などをサポートするコンサルティングサービスのこと。企業の経営戦略にもとづいて、現状の分析や具体的な施策立案、効果測定などを行います。
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2.人事制度コンサルティングのサービス内容
人事制度コンサルティングのサービス内容は、大きく「設計」と「運用」の2つにわかれます。各サービスの詳細について説明しましょう。
制度の設計
人事制度設計は以下の順に行われます。
- 既存制度やデータをもとに現行の人事制度を把握する
- 人事制度設計に関する経験やノウハウを聴取し、全体を俯瞰したアウトラインを設計する
- 会社の合意を得たうえで具体的な設計作業に入る
この具体的な設計作業に含まれるのが、評価制度や賃金制度、グレードなどの策定です。
制度の運用
制度運用のサービスでは、以下を行うのが一般的です。
- 人事制度の導入支援:運用マニュアルや手順書の作成を依頼できる。運用にあたって従業員に必要な評価者研修や目標設定研修を提供する会社も
- 人事制度の運用サポートと改善:運営していくなかで浮上してきた課題を精査し改善する。評価者のフォローをオプションメニューとしている会社も
3.人事制度コンサルティングを依頼するメリット
人事制度コンサルティングを行うコンサルタントは、人事に関するさまざまな経験と幅広い知識を持った専門家です。彼らに依頼すると次のようなメリットを得られます。
- 人事評価基準や方法の見直しを推進
- 人事評価のクオリティの向上
- 従業員の働き方を改善
- 環境の変化やニーズへの対応
- 人事業務の効率化
①人事評価基準や方法の見直しを推進
人事制度コンサルティングを依頼するメリットとしてもっとも大きいのが、既存の人事評価基準や評価方法の見直しを進められる点。社外の人間に見てもらうと、平等かつ客観的な視点から判断できます。
人事評価とは? 評価基準・評価シート・項目サンプルなど基礎解説
人事の大きな仕事のひとつである人事評価には多くの目的があります。
人員配置
人材育成
評価者の判断の見える化
経営成果を上げるためとはいえ、「人が人を評価することの難しさ」に悩む担当者も多いでしょ...
②人事評価のクオリティの向上
人事制度には「評価制度」「等級制度」「報酬制度」という3つの制度がそれぞれ密接にかかわっています。このうちどれかひとつでも欠けてしまえば、人事評価制度は崩壊してしまうでしょう。
人事評価コンサルティングを活用すると、これらのバランスがとれたクオリティの高い人事評価制度を実現できます。知識と経験備えた人事制度コンサルティングにより、包括的な制度が構築できるのです。
③従業員の働き方を改善
クオリティの高い、そして自社にマッチした人事評価制度が導入されると、従業員の行動も変わります。納得のいかない人事評価や漠然とした目標を掲げられていたのでは、従業員も何をすればよいのか、どう努力すればよいのかわかりません。
納得性の高い人事評価制度を構築できれば、従業員は評価に合わせて日々の行動を見直せるでしょう。
④環境の変化やニーズへの対応
人事制度を取り巻く環境は日々変化しています。労働人口の減少や働き方の多様化が進む現代、かつての年功序列や終身雇用の考えは通用しません。環境の変化や時代のニーズに合わせて人事評価制度も見直す必要があります。
人事制度コンサルティングでは、評価制度のトレンドや他社の実例などさまざまな情報を持ったプロフェッショナルに依頼します。主観的な考えにとらわれない、時代のニーズに応じた制度が設計できるのです。
⑤人事業務の効率化
人事評価制度の見直しや再構築にはある程度の時間とコストがかかるもの。しかし人事担当者が通常業務をこなしなから制度の見直しを進めるのは難しいもの。そこで人事制度コンサルティングを外注すれば、担当者の業務負担を大きく減らせるのです。
4.人事制度コンサルティングを依頼するデメリット
人事制度コンサルティングの依頼には、制度のクオリティ上昇や担当者の業務効率化などさまざまなメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。
- 相応の費用がかかる
- 自社にノウハウが蓄積されない
- コンサルティング会社と認識が合わないケースも
①相応の費用がかかる
当然、人事制度コンサルティングを依頼するのには相応の費用がかかります。また課題解決の途中に新たな問題点が見つかり、追加料金が発生する可能性も高いです。依頼を検討する際は、費用の回収性を考えておかなければなりません。
②自社にノウハウが蓄積されない
人事制度コンサルタントは人事に関する幅広い知識と経験を持ったプロフェッショナル。彼らに依頼すれば、たしかに自社にとってより効果的な制度運用や改善が期待できる一方、自社にノウハウやナレッジが蓄積されない可能性も考えておかなくてはなりません。
人事に精通した人材を自社に育てるためにも、すべてをコンサルタントに依頼するのではなく、社内の人事担当者とともに進められる体制を用意しておくとよいでしょう。
③コンサルティング会社と認識が合わないケースも
人事制度コンサルティングで提案された施策が自社に合うとは限りません。制度設計に必要な認識に齟齬が生じてしまうと、的確な助言が得られない可能性もあるからです。
コンサルティング会社は数も種類も多いため、選定が難しいのもデメリットのひとつ。次項を参考に、自社に合ったコンサルティング会社を選びましょう。
5.人事コンサルティング会社の比較・選定ポイント
人事制度コンサルティングを行っている会社は多くあります。コンサルティングを依頼する際は自社の現状や目的、ニーズに合った会社を選ぶことが重要です。
- 実績
- 範囲と内容
- 費用対効果
- 提案力や指導力
①実績
人事制度コンサルティング会社を比較、選定する際にひとつの指標となるのが過去の実績です。一般的に実績件数の少ない会社より、多い会社のほうが知識や経験も豊富です。
コンサルティング会社の多くは自社のホームページで実績を掲載しているため、そちらを参考にしてみましょう。掲載がない場合、直接担当者に確認してみるのもひとつの方法です。
②範囲と内容
コンサルティングの範囲や得意領域は会社によって異なり、提供サービスの内容も多岐にわたります。自社のニーズとコンサルティング会社のサービス内容、範囲が合致しているかどうかも事前に確認しておきましょう。
なかには中小企業に特化している、特定の業界に特化しているコンサルティング会社も。自社のニーズとコンサルティング会社のサービス内容が合致している会社には、業界特有の課題解決やきめ細かな対応なども期待できるでしょう。
③費用対効果
費用が少なければ少ないほどよいわけではありません。低コストに魅力を感じて選択したものの、自社のニーズに合わずかえって余計なコストがかかってしまったケースもあるからです。
人事制度コンサルティング会社を比較、選定する際は必ず費用対効果を意識しましょう。従業員の多い会社はコンサルティングにかかる期間も長くなる傾向にあるため、契約期間を視野に入れた検討も必要です。
④提案力や指導力
自社を担当するコンサルタントに提案力や指導力があるかどうかで、成果は大きく変わります。コンサルティングは人対人のコミュニケーションが中心です。専門知識や経験の有無だけでなく、人としての相性も効果に大きな影響を与えます。
「遅延なくスピーディに連絡が取れる相手か」「面談での議論を踏まえて提案内容を柔軟に調整してくれる人物か」などをしっかり見極めておきましょう。
6.人事コンサルティング導入の流れ
人事評価コンサルティングは基本、以下の流れで進められます。各段階の具体的な内容やポイントなどを見ていきましょう。
会社はどのような状況にあり、現場では具体的にどのような問題が発生しているのか、これを放置しておくとどのようなリスクが生じるのかなどを把握、分析する段階です。
この段階で人事制度の中心となる方針を定めておかないと、のちの詳細設計やサポートなどに齟齬が生じてしまいます。全体方針と制度の妥当性について、ここでしっかりと理解、共有しておきましょう。
先に触れたとおり、人事制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つを連動させる制度。一般的には、最初に従業員の能力や役割、職務内容などでランク付けする「等級制度」から考えます。
そして等級制度をもとに評価の基準、項目を定めた「評価制度」、賃金や賞与について定めた「報酬制度」を設計していくのです。従業員が働きやすい環境になるか、この人事制度が生産性の向上につながるかどうかは、この詳細設計次第ともいえます。
企業ビジョンや事業戦略にもとづいてしっかりと構築することが重要です。
具体的な事前支援は会社によって異なるものの一般的には新人事制度のマニュアル作成や社員説明会、評価者研修などが実施されます。このほか新制度の移行に生じる実務や早期定着に向けたフォローなどを行う会社もあるのです。
半年から1年程度のモニタリングを継続して、運用上の不明点や課題の洗い出しなどを行いましょう。課題を解決するための実施策を提案したり、追加研修や規定整備などを行ったりする場合もあります。
7.人事コンサルティングの費用・相場
人事制度コンサルティングにかかる費用は、等級や職種の数、従業員数やコンサルタントが関与する範囲など、さまざまな要素によって変わります。人事制度コンサルティングにかかる費用と相場はどれくらいなのでしょうか。
中小企業の費用相場
人事制度コンサルティングにかかる費用は基本、従業員数が多くなるほど高くなります。以下は従業員数による費用の目安です。
- 従業員数が30人以下:6か月契約で60万円、1年契約で120万円
- 従業員数が100人以上:6か月契約で120万円、1年契約で240万円
- 従業員数が200人以上:6か月契約で180万円、1年契約で360万円
大手企業の費用相場
大手企業がコンサルティングを依頼した場合、年間400万円以上の費用が発生するのもめずらしくありません。もちろん費用は従業員数だけでなく、契約スタイルや特化分野などによって異なります。
たとえばプロジェクト単位でコンサルタントと契約する「プロジェクト型契約」なら年間約1億円、中長期的な観点で顧問契約を結ぶ「アドバイザリー契約」なら月額100万円のように大きな差があるのです。
その他にかかる費用
自社の特性や課題に合わせて詳細なコンサルティングを依頼した場合、それぞれ異なる費用が発生します。具体的なカスタマイズ料金は以下のとおりです。
- 設計構築にテンプレートを活用する:月額20万円
- 従業員200人以下の会社で、賃金および評価制度の構築と運用サポートのみを依頼する:6か月の契約で80~250万円
- 従業員20人の会社で、賃金制度と等級制度の新規設計および支援を依頼する:2か月の契約で50万円