サステナビリティ経営とは社会や経済、環境などの問題に取り組み、事業の持続可能性を図る企業経営のこと。サステナビリティ経営のメリットや課題、SDGsとの関係などを解説します。
目次
1.サステナビリティ経営とは?
サステナビリティ経営(またはサステナブル経営)とは、環境や社会、経済などさまざまな面に配慮しながら事業の長期的な持続を目指す経営のこと。
単なる社会貢献活動ではなく、事業をとおして環境問題や社会問題の改善に取り組み、企業価値の向上を目指します。
そもそもサステナビリティとは?
サステナビリティ(Sustainability)は、「sustain」と「~able」を組み合わせた言葉。「sustain」の意味は「持続する、保つ」、「~able」の意味は「~できる」であり、2つを合わせて「持続可能性」と訳されます。
サステナビリティの3つの柱
2005年に開催された世界社会開発サミットでは、サステナビリティにおいて「経済開発」「社会開発」「環境保護」という3つの柱(取り組み)を掲げています。
- 経済開発:個々の企業だけでなく、世界全体の経済を発展あるいは維持のための取り組み
- 社会開発:「住まい」「交通」「教育」「医療」「福祉」などの社会的な問題の解決と発展を目指す取り組み
- 環境保護:「温暖化対策」「森林保全」「再生可能エネルギーの利用」といった地球環境を考えた取り組み
2.サステナビリティ経営とSDGsの関係
「持続可能性」という意味を持つ言葉に「SDGs」があります。そのため「サステナビリティ経営=SDGs」と考えてしまう人もいるようです。
ほかにも「CSR」や「ESG」など混同しがちな言葉が多いので、ここではそれぞれの意味と、サステナビリティ経営との違いを解説します。
SDGsとは?
2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」のこと。国連に加盟する国が取り組むべき課題として、17の国際目標と169のターゲットが掲げられています。
国際目標の例を挙げると「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「安全な水とトイレを世界中に」などです。SDGsは、サステナビリティ経営を行ううえでの指標という位置づけといえます。
サステナビリティ経営とCSRとの違い
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が担うべき社会的責任のこと。ここでいう社会的責任は、「取引先」「消費者」「社員」「投資家」などステークホルダーに対する責任を指します。
一方サステナビリティ経営は、企業の責任ではなく、持続可能性を考慮した企業経営自体を意味するのです。
CSR(企業の社会的責任)とは? 意味、企業のCSR活動例を簡単に
収益を求めるだけでなく、環境活動やボランティア、寄付活動など企業としての責任を持って社会貢献へ取り組むCSR(corporate social responsibility)という考え方。
ここでは、...
サステナビリティ経営とESGとの違い
ESGとは、「環境」「社会」「ガバナンス」3つの点に配慮して、企業経営や事業活動を行うこと。SDGsが目標であるのに対し、ESGはその目標を達成するための方法や手段といえるのです。
サステナビリティ経営に取り組む企業は、施策にESGを組み込む形になります。
ESGとは?【意味を簡単に】投資、取組事例、SDGsとの違い
近年、ESG投資というキーワードを目にすることが多いのではないでしょうか。これは、企業を評価する際に、「環境・社会・ガバナンス」への取り組みが適切に行われているかを重視する投資方法のことです。
ESG...
3.サステナビリティ経営に取り組む意義
もっとも大きな意義は、企業価値の向上です。サステナビリティを考慮した事業に取り組むと、企業の社会的な評価が高まるだけでなく、ブランドイメージの向上にもつながります。
企業価値が高まれば優秀な人材が集まりやすくなり、採用コストの軽減も望めるでしょう。ステークホルダーからの評価が高まって投資を受けやすくなり、経営が安定するという効果も期待できるのです。
4.サステナビリティ経営のメリット
サステナビリティ経営は、社会問題や環境問題の解決につながるだけなく、企業そのものにもメリットがあります。
- 事業の成長
- 企業価値の向上
- ESG投資の活用
- 社員のエンゲージメント向上
①事業の成長
サステナビリティ経営をとおして、事業の成長が望めます。サステナビリティ課題を解決するために、新技術の開発や組織改革などを行うと、既存企業の生産性や業績、利益の向上が期待できるのです。
また見出した課題をもとに、新しい分野の事業を立ち上げて市場へ進出したとしましょう。それにより新事業が今後大きな成果を生む可能性もあります。
②企業価値の向上
サステナビリティ経営で持続可能な社会の実現に取り組むと、企業価値が向上します。近年、社会問題や環境問題に積極的に取り組む企業ほど、ステークホルダーから評価される傾向にあるのです。
自社の商品やサービス、技術を生かしてサステナビリティ経営を実践し、その方針や取り組みを外部へ発信すれば、企業価値や競争優位性の向上につながるでしょう。
③ESG投資の活用
サステナビリティ経営によって、ESG投資を受けやすくなります。ESG投資とは、収益や利益などの財務面だけでなく、「社会」「環境」「ガバナンス」といった非財務面も重視した投資のこと。
近年、収益といった財政情報のみならず、長期的な成長や安定をもたらすESG施策に注目する投資家も増えています。
独自のサステナビリティ経営を行う企業は、投資家からの期待が高まってESG投資を受けやすくなり、またESG施策を立ち上げるという好循環を作れるのです。
④社員のエンゲージメント向上
サステナブル経営により社員のエンゲージメントも向上します。自社が社会問題や環境問題に取り組むと、仕事をとおして「社会に貢献している」「このような取り組みをしている職場で働けて誇らしい」という気持ちが生まれるからです。
働く社員のモチベーションや企業への愛着が高まれば、社員の定着率も高まり、効率性や生産性も向上するでしょう。
エンゲージメントとは?【ビジネス上の意味を解説】高めるには?
従業員エンゲージメントを見える化して、離職改善&生産性アップ。
タレントマネジメントシステムで、時間がかかるエンゲージメント調査を解決!
⇒ 【公式】https://www.kaonavi.jp にア...
5.サステナビリティ経営実践のポイント
サステナビリティ経営の着手前に、いくつかのポイントを押さえておくとよいでしょう。事前の準備がしっかり整っていれば、成果も出やすく頓挫してしまう可能性も減らせるからです。ここでは3つのポイントを解説します。
- 働きがいのある職場の実現
- サプライチェーンの見直し
- ステークホルダーとの関係構築
①働きがいのある職場の実現
サステナビリティ経営は、自社の職場環境の改善から始めましょう。
「働きがいも経済成長も」はSDGsの目標のひとつですし、ESGの「S(社会)」には、雇用や労使などの社会問題も含まれます。そのためまずは自社の職場環境で見られる課題を解決する取り組みが求められるのです。
たとえば「ダイバーシティの推進」「過重労働の解消」「ハラスメント問題の解消」「女性の活躍促進」など。働きがいが生まれやすい職場は、社員のエンゲージメントも高めます。
②サプライチェーンの見直し
既存のサプライチェーンから、SDGsやESGを考慮したサプライチェーンへの転換が必要です。サプライチェーン・マネジメント(SCM)は、効率を最優先した経営手法ではあるものの、サステナビリティ経営ではSDGsとESGに配慮する施策を取り入れます。
たとえば「クリーンエネルギーの利用の推進」「調達ではCSRやSDGs、ESGの観点で基準を設ける」「AIやIoT技術でCO2排出や削減量を可視化する」などです。
③ステークホルダーとの関係構築
長期に渡ってステークホルダーとの関係を良好にしていくのも重要なポイント。ステークホルダーからの信頼を得られなければ、持続的に事業を継続あるいは成長していけません。
方法として挙げられるのは「消費者からの意見や要望を取り入れる」「株主総会で取り組みの方向性やビジョンを明確に発信する」「地元の社会問題に取り組む」などです。
ステークホルダー(利害関係者)とは? 意味と具体例を簡単に
ステークホルダーとは、企業活動の影響を受ける利害関係者のことです。ここではステークホルダーの種類やマネジメント、良好な関係を築くためのポイントや各企業の取り組み実例などについて説明します。
1.ステ...
6.サステナビリティ経営の課題
サステナビリティ経営がなかなか進められない理由のひとつがリソース不足です。現状の業務を回すだけで手一杯では、新しい事業や施策に着手する余裕がありません。現状のリソースと経営方針を照らし合わせ、実現可能かどうかを判断する必要があります。
想定されるリソース
サステナビリティ経営を始めるには当然、「ヒト」「モノ」「カネ」などのリソースが必要です。しかしサステナビリティ経営に着手するほど、これらの資源に余裕がない企業も少なくありません。
実際に「社内の人員が足りない」「予算が足りない」という理由から、サステナビリティ経営がうまくいかない、あるいは着手できないといった経営者も見られるのです。
さらにサステナビリティ経営は、短期的に利益を増やす方針ではありません。そのためサステナビリティ経営にコストを使いすぎると、本業の利益を圧迫する可能性もあります。
7.サステナビリティ経営の企業事例
日本の多くの大企業もサステナビリティ経営を導入しています。企業規模は違えども、すでに導入済みの企業が用いている手法は、自社がサステナビリティ経営に取り組む際、参考になるでしょう。
大企業がどのようにサステナビリティ経営に取り組んでいるのか、その事例を紹介します。
- ユニクロ
- トヨタ自動車
- 楽天
- 丸井グループ
- エーザイ
①ユニクロ
ユニクロは「PLANET」「SOCIETY」「PEOPLE」の3つを柱としたサステナビリティ経営を展開。具体的には以下の取り組みを進めています。
- PLANET:リサイクル素材を活用した環境に優しい商品開発
- SOCIETY:難民や難病を抱える子供たちへの支援
- PEOPLE:難民雇用や障がい者雇用などによるダイバーシティの推進
こうした活動を通じて、外部団体との連携(ステークホルダーエンゲージメント)も強化しています。
②トヨタ自動車
トヨタ自動車は、SDGsやESGを取り込んだサステナビリティ経営を本格化させ、その一環として「トヨタ環境チャレンジ2050」を実施。「トヨタ環境チャレンジ2050」の内容は以下の6つです。
- 新車CO2ゼロチャレンジ
- ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ
- 工場CO2ゼロチャレンジ
- 水環境インパクト最小化チャレンジ
- 循環型社会システム構築チャレンジ
- 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
上記の施策をとおして気候変動、水不足、資源枯渇などの環境問題に取り組んでいます。
③楽天
楽天は、サステナビリティ経営を取り入れた制度改革や職場環境改善を実施。重点項目として掲げているのは次の3つです。
- 社員とともに成長
- 持続可能なITサービスの提供
- グローバルな課題や環境問題への取り組み
- またダイバーシティにも力を入れています。具体的な取り組み例は以下のとおりです。
- 言語の共通化(社内公用語の英語化)
- 女性社員や子育て世代のサポート
- LGBTQ社員のサポート
さまざまな取り組みで、すべての社員が最大限の力を発揮できる環境を整備しています。
④丸井グループ
丸井グループはサステナビリティ経営のビジョンとして4つの重要テーマを策定。テーマは以下のとおりです。
- お客さまのダイバーシティ&インクルージョン
- ワーキングインクルージョン
- エコロジカルインクルージョン
- 共創経営のガバナンス
とくに力を入れているのは、エコロジカルインクルージョン。「使用する電気を100%再生可能エネルギーにする」「CO2温室効果ガス排出量の削減」などを掲げています。
⑤エーザイ
エーザイは、SDGsの目標項目と連動したサステナビリティ経営を実施。掲げている目標達成項目は以下のとおりです。
- 貧困の撲滅健康と福祉
- ジェンダー平等
- 水と衛生
- 持続可能な消費と生産
- 気候変動
- パートナーシップ
また「健康と福祉」で、革新的な医薬品の開発や製品の安価な提供などを推進。医薬品アクセス拡大に向けた、外部機関(ベンチャーや研究機関など)とのパートナーシップの強化も図っています。