ボトムアップとは、従業員の意見を取り入れて意思決定に生かす方式のこと。ボトムアップのメリットとデメリット、導入のポイントや注意点、導入事例を解説します。
目次
1.ボトムアップとは?
ボトムアップとは、現場の従業員から意見を聞いて、それを上層部の意思決定に生かすこと。「下意上達」とも表されます。
ボトムアップの英語表記は「Bottom Up」です。「Bottom」は「底」、「Up」は「上がる」という意味があり、直訳すると「底上げする」という意味になります。
2.ボトムアップとトップダウンの違い
ボトムアップの反対語はトップダウンです。ボトムアップとトップダウンは、相反する意思決定方法といえます。
トップダウン(Top Down)とは?
上層部(経営層)の決定を下位(従業員など)に指示する方式のこと。「上意下達」とも呼ばれます。
現代のビジネスにてトップダウンは、古いとされる場合もあるものの、優秀な経営者がトップに立つ企業では、トップダウンが高い成果につながるのも珍しくありません。
トップダウンとは?【意味を簡単に】ボトムアップとの違い
トップダウンとは、組織の意思決定を上層部が行い現場で実行するスタイルのこと。ここではボトムアップとの違いや、メリットとデメリット、トップダウンを採用して課題を解決した会社の例などを解説します。
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ボトムアップとトップダウンの違い
ボトムアップとトップダウンの違いは、3つあります。双方の違いについて説明しましょう。
- 従業員のモチベーション
- 意思決定までの時間
- 従業員の成長性
①従業員のモチベーション
従業員の声が商品開発や経営方針に反映されやすくなり、従業員が仕事に対してやりがいや達成感を得られるため、従業員のモチベーションが上がりやすくなります。
一方トップダウンは基本、上からの指示に従うもの。従業員の意見やアイデアが上層部に取り入れられる機会は少なく、従業員のモチベーションは上がりづらくなります。
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②意思決定までの時間
ボトムアップの場合、意見の収集や精査、採用するかどうかの課程で時間がかかりやすくなります。上層部は吸い上げた従業員の意見を精査してから、最終的な決定を行うからです。
トップダウンの場合、少数の上層部で意思決定を行い、それを下位(従業員)へ指示します。そのため意思決定や業務開始までの時間を短縮できるのです。
③従業員の成長性
現場で働く従業員の意見を重視するため、従業員はつね日頃から主体的に考えて積極的に意見を出すようになるのです。それにより従業員の成長が見込めます。
一方トップダウンは、決定権が上層部にしかなく、下位は「指示待ち」の状態になりがちです。そのため従業員の成長機会が乏しくなります。仕事へのモチベーションが低下し、効率や生産性が下がる恐れもあるのです。
3.ボトムアップのメリット
ボトムアップは、企業と従業員の関係性で多くのメリットがあります。ボトムアップのメリットを説明しましょう。
- 現場のリアルな意見や課題を反映
- 従業員のモチベーションが向上
- 主体性を持った従業員が増加
①現場のリアルな意見や課題を反映
ボトムアップでは、現場の従業員の意見を吸収し、課題に生かせます。現場の声をリアルタイムで聞けるため、経営層も課題解決の施策を迅速に打てるからです。
また商品やサービスの開発にも効果的といえます。経営層だけでなく従業員から広く意見やアイデアを集めれば、今までにない新しいビジネスを生み出せるかもしれません。
②従業員のモチベーションが向上
ボトムアップは、従業員のモチベーションが上がりやすくなります。従業員の意見やアイデアを積極的に採用するため、一般従業員も商品開発や組織改革に関与できるからです。
従業員の仕事に対する「やりがい」が高まり、モチベーションがアップしやすくなります。モチベーションの向上によるエンゲージメント向上や離職率低下などの効果も期待できるのです。
③主体性を持った従業員が増加
現場の意見が反映されやすいため、従業員も自主的に考えて行動することが増えます。
ボトムアップによって主体性が向上した従業員は、いざ問題が発生しても上司の指示を待たずに率先して行動できるのです。また課題解決にも積極的に取り組むでしょう。主体性の高い従業員が増えれば増えるほど、組織も成長していきます。
4.ボトムアップのデメリット
ボトムアップのメリットである意見の吸い上げは、一転するとデメリットにもなりえます。ボトムアップのデメリットを説明しましょう。
- ビジネスチャンスを見逃しやすい
- 現場に自主性の高い従業員が必要
- 全体の把握が困難
①ビジネスチャンスを見逃しやすい
ボトムアップでは、従業員から意見を集めたうえで、意見を精査し、採用できるかどうかを検討するため、最終的な判断までに時間がかかってしまいます。それにより「ビジネスチャンスを逃す」「競合他社に後れを取る」などのリスクが生じる可能性も高いのです。
②現場に自主性の高い従業員が必要
ボトムアップは、現場に主体性の高い従業員がいないとなかなかうまく進みません。
現場の従業員にも能力の差があり、積極的に意見を出す人もいれば、そうでない人もいるでしょう。もしも主体来の高い従業員がほとんどいなければ、意見はなかなか出ず、ボトムアップの意味がなくなってしまうのです。
従業員の能力に左右されてしまうのが、ボトムアップのデメリットといえるでしょう。
③全体の把握が困難
ボトムアップ組織は現場視点を重視するため、組織全体の状況を把握しにくくなります。各従業員が、自身が所属する部門の視点だけに立って意見を出すことが多くなるからです。
たとえばある部署の改善が他部署へ悪影響をおよぼす、といった状況に陥る恐れもあります。企業全体を把握(俯瞰)して意見が出せる組織でなければ、ボトムアップはうまくいきません。
5.ボトムアップが適している組織・ケース
ボトムアップは、現場の声を積極的に生かしたい企業に適しています。ボトムアップが適している組織やケースについて説明しましょう。
- スケジュールや予算に余裕がある組織
- 複数の事業を展開する組織
- 専門性の高い業界
- 現場から次世代の経営陣を輩出したいケース
①スケジュールや予算に余裕がある組織
ボトムアップは、予算およびスケジュールに余裕のある企業に向いています。現場の意見を集め、慎重に検討したうえで最終的な判断を下すことになるからです。
十分に検討できる時間と、比較的余裕のある予算を確保できる企業なら、リスクを回避しながら事業を進めていけます。
②複数の事業を展開する組織
複数の部門や事業を手掛ける企業は、ボトムアップが適しています。
複数の部門がある場合、経営層が企業全体を把握するのはなかなか困難です。ボトムアップで各部門の現場の意見を集めると、適切な方針決定や改革を実行できるようになります。
③専門性の高い業界
専門性が必要となる事業もボトムアップが適しています。ボトムアップによって従業員のアイデアやクリエイティビティを吸収すると、事業の成功あるいはイノベーションを実現しやすくなるからです。
④現場から次世代の経営陣を輩出したいケース
現場から新たな経営層を生み出したい企業も、ボトムアップが適しています。主体性の高い従業員、また経営者目線で仕事ができる従業員を育てやすくなるからです。
現場のリーダーなどを次世代の経営陣に取り入れたい場合に有効です。
6.ボトムアップが適していない組織・ケース
企業によってはボトムアップが適しません。ボトムアップが適していない組織やケースを説明しましょう。
- 経営者や上層部に豊富な経験や実績がある組織
- スピードを重視した意思決定が必要なケース
①経営者や上層部に豊富な経験や実績がある組織
経営層に優秀な人材がそろっている場合、ボトムアップよりもトップダウンが適しています。
リーダーシップの強い人やカリスマ性の高い人がトップにいる場合、経営者の力量がそのまま発揮されるトップダウンのほうが組織の統一や団結を実現しやすいからです。
②スピードを重視した意思決定が必要なケース
ボトムアップは、意思決定までのスピードが遅くなります。よってスピード重視で新事業を進めたい場合は向きません。そのため中小企業やベンチャー企業、スタートアップ企業などではトップダウンを取り入れる傾向にあります。
7.ボトムアップのポイント
ボトムアップの実施では、環境整備や人材配置に注意を払う必要があります。ボトムアップを採用する際のポイントを説明しましょう。
- 意見を出しやすい雰囲気作り
- 効率の良い意見収集方法の確立
- ミドルマネジメントができる人材の配置
①意見を出しやすい雰囲気作り
ボトムアップでは、従業員から意見が出やすい環境の整備が大切です。
ボトムアップは、従業員から意見を収集して経営に生かすため、従業員から意見が出なければ機能しません。「従業員が経営層や上司に気兼ねなく意見をいえる雰囲気」「盛んに意見が飛び交う職場環境」を構築しましょう。
②効率の良い意見収集方法の確立
意見収集と意思決定までに時間がかかりやすいボトムアップでは、意見収集の効率化を図るのが重要です。効率的な意見収集方法を確立すると、スピーディーなボトムアップを実現できます。
意見収集を効率的に行う方法のひとつが、ITツールの活用です。チャットといった機能が搭載されたツールを使えば、各部門からの意見をリアルタイムに収集できます。
③ミドルマネジメントができる人材の配置
ボトムアップの実施で重要になるのが、ミドルマネジメントができる人材の配置です。
ボトムアップでは、経営的な視点と現場の従業員の声の両方に理解がある人材が必要になります。両者の中間層に位置する人材の働き(ミドルマネジメント)によって、上層部と現場のコミュニケーションが緊密になり、より精度の高い意見が出やすくなるでしょう。
8.ボトムアップの注意点
ボトムアップを実施する際、何に注意すればよいのでしょう。ここでは注意点を見ていきます。
- 現場から出た意見を尊重
- 部門最適に陥る危険性
- 実力主義への傾倒
①現場から出た意見を尊重
ボトムアップでは採用できる意見が出る一方、不採用となる意見も出てきます。ここで注意すべきは、不採用となった意見をどう扱うかです。
現場からの意見を尊重していると示すためにもなぜ不採用になったのかを説明し、意見や提案を出してくれたこと自体を評価したうえで、従業員へ適切なフィードバックを行いましょう。
②部門最適に陥る危険性
ボトムアップで収集できる意見は、各部門の現場で働く従業員視点によるもの。そのため特定の意見を重視しすぎると、部門最適の状態に陥る可能性もあります。ある部門の意見や考えが他部門では受け入れられず、部門同士の対立を招くかもしれません。
意見を採用する前に、収集した意見を上層部でしっかりと精査して取りまとめると、偏りなく組織の一体性を保てるでしょう。
③実力主義への傾倒
ボトムアップでは、社内が実力主義に陥らないように注意しなければなりません。「主体的に動ける従業員」と「受動的な(指示待ちの)従業員」にわかれやすくなり、場合によっては実力差によるあつれきが生じるからです。
「指示待ち型の従業員ヘコーチングを行い、主体性を高める」といった施策を行い、能力のバランスを取りましょう。
9.ボトムアップに成功した企業事例
ボトムアップの導入で迷った場合は、ボトムアップの成功事例を参考にしましょう。ボトムアップを成功させた企業の事例を紹介します。
①サイボウズ
サイボウズではボトムアップ型の制度づくりを行った結果、従業員の離職率が28%から4%まで低下しました。
制度の具体的な内容は、「制度完成までの過程を早い段階から全従業員と共有する」「業務上の質問は上司に対して行うことを推奨する」など。制度の推進によって社内における信頼関係が向上し、離職率低下が実現したのです。
②DeNA
DeNAは、会社設立20周年目の2019年からボトムアップを採用しています。
方法は「社内起案」です。会社の成長を目的に、年に一度従業員が自由に起案し、その起案に対してほかの従業員がオープンで投票します。投票の結果、上位4つのプロジェクトが正式に採択され、新事業として開始されているのです。
③Google
特徴は、従業員が上司の指示を待たずに行動できる主体性の尊重です。
たとえばGoogleが採用している「20%ルール」では、業務時間のうちの20%を従業員のやりたい研究(開発)に当てられます。ほかにも心理的安全性の確率を目的とした「1on1」を進め、ボトムアップを通して社内の信頼関係を構築しました。
④リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは、1982年からボトムアップ型の制度「Ring」を導入しています。
この制度は従業員(1グループ)に新ビジネス開発のための活動費用を5万円支給するもの。「ゼクシィ」「ホットペッパー」「スタディサプリ」といったサービスも、Ringから生まれています。
⑤小林製薬
小林製薬では、ボトムアップの一環として「アイデア提案制度」を導入しました。
この制度は、職種やキャリアに関係なく全従業員が自由にアイデアを提案できるもの。年間3万件以上の提案が寄せられており、「テイラック」などの大ヒット商品につながったケースも見られます。
ほかにも他部署に対する改善(アイデア)提案を行う「改善提案制度」も実施。こちらも4万件以上の提案が寄せられました。