なかなか不況から脱することができない日本。毎年、賃上げの話題はニュースとなりますが、企業側は名目賃金だけで従業員を満足させられると安心してはいけません。今回は従業員を不満にさせてしまう可能性がある名目賃金について、解説いたします。
「名目賃金」とは?
名目賃金とは、貨幣で受け取った賃金そのものを指します。一般的には、現金で支給された給与額がそれにあたります。そして、名目賃金とセットで考えられるのが実質賃金です。実質賃金とは、物価と賃金の関係を表したもので、労働者が実際に受け取る名目賃金から消費者物価指数をデフレートした値を指します。
例えば、名目賃金が10%上がると同時に、物価も10%上がった場合、実質賃金は変化しません。名目賃金を上げたとしても、従業員が「給料は上がったが、景気が良くなったとは思わない」と感じてしまうと、その不満の矛先は企業に向いてしまう可能性があります。
そのため、企業側は名目賃金(現金給与額)のアップだけでなく、たとえば福利厚生の充実など従業員の就労意欲を満足させる施策を検討する必要があります。
名目賃金と実質賃金の推移に注意を払いながら、賃金改定を
賃金の話でよく使われる名目賃金と実質賃金という言葉。名目賃金とは労働者が受け取る賃金そのもので、実質賃金とは賃金という名前は付いていますが、名目賃金の上昇率とその貨幣が流通している市場の物価上昇率の差を指し、パーセントで表されます。
例えば、円安は日本の景気にとって良いといいますが、食料や消耗品といった原材料を輸入に頼っている日本では、物価も上がりやすくなります。従って、製造業などの輸出産業は潤っても、食料品・消耗品メーカーがコスト高となり、物価が上昇してしまう要因を作り出してしまいます。
労働者側からの視点であれば、「販売金額が上がっているのだから会社の利益も増えている。だから賃上げすべきだ」と解釈されてしまいますが、実際はそうでないことが多く、そのため、企業が賃金水準を上げるには名目賃金と実質賃金の推移に注意を払いながら、労働者が納得するような賃金水準の改定を行う必要があります。
賃金水準を出すときは注意しましょう
自社の賃金水準が所属している地域や他社と比較して、高いか低いかというのは人事担当者にとっては気になるところです。東京など都心では地価や物価も高いため、賃金水準は地方に比べても高い傾向にあります。では、地域も業種も似ている競合他社との賃金水準を行うのが最適な手法となりますが、賃金水準を出すときには平均値に注意しましょう。
日本の大企業や歴史ある企業では年功序列による給与体系がまだまだ一般的です。そのため、年齢が上がるにつれて、賃金も上昇する傾向があります。年齢別で賃金を算出した際、給与が高い40~50代の割合が多く、20~30代の割合が少ないと賃金水準が高くなる傾向があります。
正確な賃金水準を算出する場合、年齢階級ごとに「給与の平均値×その階級の労働者数」の合計値を出し、全社員である総労働者数で割ると正確な賃金水準を算出することができます。