PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、自社の製品が最適な市場に提供され、顧客を満足させている状態のこと。メリットや達成するための手順などを解説します。
目次
1.PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?
PMFとは、自社の製品が市場に適合しており、顧客に受け入れられている状態のこと。「Product(製品) Market(顧客や市場) Fit(適合)」の頭文字を組み合わせた マーケティング用語です。
PMFは2007年、アメリカの投資家マーク・アンドリーセン氏が自著書で提唱しました。スタートアップ事業を成功させる際に欠かせない要素だと考えられています。
2.PMFが注目される理由
PMFが注目されるようになったきっかけは、日本政府が2022年に「スタートアップ育成5カ年計画」を発表したこと。日本が今後も経済成長していくには、持続可能な社会の実現を推進する新事業へ取り組む必要があるからです。
事業を立ち上げたばかりのスタートアップ期は、人材や資金などの経営資源を適切に集中させてシェアを拡大することが重要です。スタートアップ達成の指標として、多くの国でPMFという考え方を重視していたため、日本でもPMFへの取り組みが提唱されました。
経団連も「スタートアップ推進ビジョン」を発表しており、官民挙げてスタートアップ振興が進められ、PMFへの注目度はさらに高まっています。
参考 スタートアップ育成5か年計画(案)内閣官房 参考 スタートアップ躍進ビジョン日本経済団体連合会3.PMFに取り組むメリット
PMFはビジネスを成功させる手がかりになるだけでなく、人事やマーケティングなどの業務効率化にも役立てられます。ここでは3つのメリットを解説しましょう。
- ビジネス成功の道標になる
- 人事やマーケティングや応用できる
- 事業を撤退する基準が明確になる
①ビジネス成功の道標になる
PMFが達成されているかどうかをチェックすると、まだ成果が見えない新ビジネスが成功する方向へ進んでいるか、道標になります。
生活スタイルの多様化により市場の細分化や複雑化が進み、新たなジャンルの市場が続々と登場。どの市場にどのような製品をどのくらい提供するかの判断が重要になるのは、スタートアップ事業に限りません。
自社が市場で優位性を確立するためにも、つねにPMFの視点から市場を分析する必要があります。
②人事やマーケティングや応用できる
PMFの考え方は、マーケティングや人事にも応用が可能です。
たとえばマーケティングでは、市場のニーズを分析してターゲット層を定め、「ターゲット層に届く媒体に広告を出す」「ターゲット層にアピール広告にする」など施策を考えます。
また人事における採用活動では、自社が望む人材へ向けた求人施策を実施。いずれも自社とターゲットがマッチする状態を目指すため、PMFの考え方と通じるのです。
③事業を撤退する基準が明確になる
PMFの視点で経営状況を分析すると、事業撤退の判断がしやすくなります。
事業が悪化すると、ユーザー数や顧客満足度、ロイヤリティや継続率などの値が低下し、PMFの達成度も下げます。それにもかかわらず事業を継続すると、自社の存続を左右するようなダメージを受けかねません。
事業が失敗したとしても適切な時期に撤退できれば、リスクを最小限に留められるでしょう。
4.PMF達成に必要なPSF(プロブレムソリューションフィット)とは?
顧客が抱えている問題や課題の解決に向けて最適な方法を提供している状態のことで、「Problem(問題や課題) Solution(解決) Fit(適合)」の略です。PMFを考える際、欠かせない要素といえます。
PMFとPSFの関係性
PSFはPMFの前段階です。
顧客を獲得して売上を伸ばすには、顧客のニーズや課題を分析したうえで、それらを解決できる自社製品やサービスを提供する必要があります。ここまでがPSFの視点です。
PSFが達成できているなら、提供された製品やサービスが市場と顧客のニーズに適合している状態を目指す、つまりPMFの達成へ取り組みます。
スタートアップ事業を立ち上げる際も、まずPSFの視点で自社製品やサービスを開発し、PSFの視点で最適な市場を決定しましょう。
5.PMFの前段階:PSF達成するための手順
ビジネスを成功させるためにはPMFの実現が必要といえます。しかしいきなりPMFを目指すのは困難です。PMFを達成させる前段階、PSFを実現する手順について解説します。
- 問題や課題を発見する
- 解決方法を検討する
- 協力者を確保する
- ターゲットの購買意欲を確かめる
①問題や課題を発見する
PSFの基本となるのは、市場リサーチ。リサーチで市場や顧客の解決すべき課題を発見し、それを解決できる製品やサービスを提供すれば、より多くの顧客を獲得できるからです。また自社の市場優位性が高まり、売上アップも見込めます。
顧客課題は市場のニーズに直結しますので、潜在顧客へのアンケートやヒアリングなどで具体的に把握しましょう。
②解決方法を検討する
問題や課題を見つけたら、解決策について検討します。このとき考えられる解決策をすべて挙げて、適切だと思われる方法を残すのがポイントです。たとえば以下のような視点で検討する方法があります。
- その方法で問題や課題を本当にクリアできるのか
- 顧客に理解を得られる方法であるか
- 「必要だ」と感じてもらえる内容であるか
机上で考えるだけでなく、やはり潜在顧客へのアンケートやヒアリングなどを行い、よりニーズに合った現実的な解決方法を選びます。
③協力者を確保する
絞り込んだ解決方法を製品やサービスへ落とし込むには、実際にその問題や課題に直面していて、解決したいと考えている人に協力してもらうことが大切です。
協力者を探すと、どれほどその解決策を望んでいる人がいるのかをつかめます。また協力者が多いほど、製品やサービスの内容を多面的に検討できるようになるのです。
④ターゲットの購買意欲を確かめる
ターゲット層の購買意欲を事前に確認し、製品化した解決策が実際に利用可能になった際にどれほどの需要が見込めるかを予測します。コストの調整や利益の想定がしやすくなり、効率的に事業を進められるからです。
なおどのくらいの価格なら購入を考えるかも確かめておくと、より多くのターゲットに受け入れられる価格を設定できます。
6.PMFを達成するための手順
PMFの達成には、まずPSF達成の手順が必要です。次に試作品を開発し、実際にその製品やサービスを使ってくれそうな想定顧客でテストを実施しましょう。その結果をフィードバックしながら改善するという手順で進めます。
- MVPを作成する
- 顧客でテストを行う
- 評価を集める
- 改善を繰り返す
①MVPを作成する
PMFを達成したのち、MVPを作成します。
MVPとは、想定した市場の顧客へ提供する「最小限の解決策を持った製品やサービス」のこと。「Minimum(最小限の) Viable(実行可能な) Product(製品)」の頭文字をとった言葉です。
MVPは、ひとつの製品やサービスとして動作する必要があります。またMVP作成の際には、顧客が製品を具体的にイメージできる資料も用意しましょう。
②顧客でテストを行う
その製品やサービスの対象となり得るターゲットでテストします。方法はプロトタイプを使ったデモ、限定的に提供するプレオーダーやプレリリースなどさまざまです。
いかにターゲット層になり得る人を集めてテストできるかが、その後のMVP検証の質に大きく影響します。
③評価を集める
テストをしたら、ユーザー数といった数値で分析できる定量的な評価だけでなく、意見など定性的な評価も集めましょう。
定性的な評価とは、「MVPを使ってみてどうだったのか」「使いづらさや違和感がなかったか」など。インターネットや面談などでヒアリングを行うと、会話から新たな視点を発見でき、製品やサービスの改善に役立ちます。
④改善を繰り返す
テストをつうじて集めた評価を検証したら、検証結果をもとにMVPを改善します。
製品やサービス、市場や顧客のニーズなどを再検討し、新たな仮説を立て、MVPの機能などを見直すのです。MVPを改善したら再度テストしてフィードバックを得る、というサイクルを繰り返します。
MVPが市場と顧客に受け入れられない場合、PMFの前提となるPSFを再検討する必要があるかもしれません。
7.PMFの指標と検証方法
PMFが達成できているかを検証する方法には、期待値を測る方法や、実際の行動の結果を測る方法などがあります。
- Product/Market Fit Survey(プロダクトマーケットフィットサーベイ)
- NPS(Net Promoter Score:ネットプロモータースコア)
- リテンションカーブ
- エンゲージメントデータ
- 口コミ
①Product/Market Fit Survey(プロダクトマーケットフィットサーベイ)
PMFの達成度を測る方法のこと。テストに参加してくれた顧客へ「その製品がなくなるとしたらどう思うか」といった質問を投げかけ、次の4段階で回答してもらいます。
- 非常に残念
- やや残念
- 残念ではない
- 製品を使用していない
調査対象の40%以上が「非常に残念」と回答した製品は、PMFを達成している可能性が高いと判断されます。
②NPS(Net Promoter Score:ネットプロモータースコア)
「友人や同僚に薦める可能性」を訪ねて顧客のロイヤリティを測る方法のこと。
回答は0から10の11段階で、0から6と回答した人を批判者、7から8を中立者、9から10を推奨者として集計。推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値をNPSのスコアとします。NPSで信頼性のある評価をするためには、400以上のサンプルが必要です。
③リテンションカーブ
「プロダクトがどのくらい顧客に利用され続けているのか」をグラフで視覚化する手法のこと。
縦軸に製品やサービスの継続率(リテンション率)を、横軸に発表(リリース)からの期間を置き、値の推移をカーブ線で表すのです。グラフが横ばいに近いほど、継続利用する顧客を維持できていることを意味するため、一定のPMFが達成された状態といえます。
④エンゲージメントデータ
ユーザーのエンゲージメント(契約)データに着目し、「どのように製品やサービスを利用しているか」を測る方法のこと。次のような定量的指標を使います。
- ユーザー数や購買(成約)数、購買(成約)頻度や利用率、継続率や継続期間など
- ユーザー属性の規則性や偏りなど
これらのエンゲージメントデータが良好であれば、その製品やサービスは長期にわたって顧客に受け入れられていると考えてよいでしょう。
⑤口コミ
自社サイトに寄せられたコメントやSNSの投稿を調査する方法のこと。顧客がその製品やサービスについてWeb上に書き込む口コミも、PMFを評価するための指標になるのです。口コミからは顧客満足度やロイヤリティ、ニーズや課題などを把握できます。
8.PMFの企業事例
実際にPMFを達成し、事業を成功させた企業も少なくありません。ここでは3つの企業事例を紹介します。
- Cloud Sign(クラウドサイン)
- HERP(ハープ)
- カミナシ
①Cloud Sign(クラウドサイン)
「Cloud Sign」は、弁護士ドットコムが提供する電子契約サービスです。
従来の契約手続きでは、印刷や捺印、郵送の手間がかかっていました。そこで同社は契約手続きを効率化すべく、インターネット上で使えてインストール不要な電子契約サービスを開発。
「契約手続きが煩雑」「紙を扱うのは面倒」という課題を解決する革新的なサービスだと認められ、今や130万社以上が導入しています。
②HERP(ハープ)
HERPは、採用管理システム「HERP Hire」を開発して提供しています。
従来の採用活動では人事部のみが対応していました。しかし人事部だけで採用活動を行うと、採用担当者に負担が集中するうえ、現場とのミスマッチも生じやすくなるのです。
そこでHERPは、現場の従業員も採用活動へ含める「スクラム採用」を提唱し、このスクラム採用を効率化するプラットフォーム「HERP Hire」を提供。求人市場でポジショニングが成功し、1,500社以上がHERP Hireを導入しました。
③カミナシ
カミナシが提供している「カミナシ」は、文書や承認フローをデジタル化するプラットフォームです。
もともと工場での作業を電子化するために開発されました。ところが製造や小売、飲食や物流などデスクワークではない現場にも適用させたところ、ニーズが一気に拡大。今では大手ファミリーレストランも採用しています。