QCサークル活動(小集団改善活動)とは、品質管理(Quality Control)を向上させるための改善活動のこと。ここではQCサークル活動について解説します。
目次
1.QCサークル活動(小集団改善活動)とは?
QCサークル活動とは、品質管理(Quality Control)を向上させるため企業が行う改善活動のことです。活動の規模は一般的に10人程度のため、「小集団改善活動」と呼ばれる場合もあります。
なおQCサークル活動を自由参加としている場合、イベントや行事と同じ扱いとなり原則、労働時間に含まれません。「活動に参加しないと業務に支障が出る」「活動を人事評価の評価対象にしている」場合、労働時間とみなされます。
QCサークル活動の事例
QCサークル活動は、部署や業務の改善を目的として、さまざまな分野の組織内部で行われています。一般企業はもとより、病院や地方自治体など公共性の高い施設でも実施されているのです。
一般企業のQCサークル活動事例では、「総務部における採用活動のフォロー体制の強化」や「システム開発におけるAI技術の習得」などが挙げられます。ほかにもプロセスのデジタル化やペーパーレス化などの取り組みが多数実施されているのです。
発展した背景
QCサークル活動の概念は、1950年にアメリカの統計学者であるW・エドワーズ・デミングによって提唱されました。
やがてこの概念は日本にも伝えられ、1962年には日本独自のQCサークルが誕生。21世紀に入ると、ビジネスのグローバル化に対応するための手段としてQCサークル活動が注目され、企業をはじめとする多くの組織で行われるようになったのです。
2.QCサークル活動は時代遅れか?
かつてQCサークル活動に力を入れていた企業が、中止してしまった例も少なくありません。中止した理由はさまざまですが、そのなかのひとつに「時代遅れである」という意見が見られています。
しかし現在でもQCサークル活動で成果を上げている企業も存在しており、時代遅れと断言するのは早計です。
時代遅れといわれる理由
QCサークル活動が時代遅れだといわれる理由に、「義務感」「有効性」が関係しているのです。それぞれについて説明します。
活動への義務感がある
QCサークル活動の問題点は、参加することに義務感を覚えてしまう人が多いこと。
そもそもQCサークル活動は、課題を見つけて議論し、その改善策を実行することが目的。しかしこの目的が薄れてしまうと、惰性でQCサークル活動を続けたり、ノルマが課されたりする場合もあるのです。
惰性から価値あるテーマが出てくる可能性は低くなりますし、ノルマ達成は残業を助長しやすくなるでしょう。参加を強制される時代遅れな活動と思われても仕方がありません。
業務への効果が実感できない
QCサークル活動の効果を実感できず、活動に意味を見いだせない場合もあります。とくに改善が難しい課題を短期間の活動で解決しようとしたとき、この傾向が見られます。
改善施策の実施、効果測定というサイクルが間に合わないため思ったような効果を得られず、QCサークル活動そのものの有効性が疑問視されてしまうのです。
とはいえQCサークル活動に多くの時間を費やすと本来の業務まで手が回らず、残業が増えてしまいます。このような本末転倒な事態に陥ると、QCサークル活動は時代遅れだといわれてしまうのです。
時代遅れとはいえない理由
QCサークル活動では一定数の成果が見られており、一概に「時代遅れ」とはいえません。
今日においてQCサークル活動は80以上の国々で実施されており、企業にとどまらず多様な組織でQCサークル活動が実施されています。普及率の高さが活動の有効性の高さを物語っているといってもよいでしょう。
またQCサークル活動で課題解決を実現するため、参加者は自主的な学習や改善行動を実施します。そのため活動に参加した個人の能力向上といった副次的な効果が得られるのです。社員の能力が向上すると、組織の強化や生産性の向上などにつながります。
3.QCサークル活動のメリット
QCサークル活動の主なメリットは、課題解決による品質の向上です。副次的なメリットとして社員の能力向上といったさまざまなメリットが期待できます。ここでは3つのメリットを解説しましょう。
- 現状の可視化
- モチベーションの向上
- 団結力の向上
①現状の可視化
どのような解決施策を取り入れるかを決定する前、関連データの収集やグラフなどをもとに分析し、現状を把握する必要があるからです。活動に参加する社員はこれらの作業に携わるため、組織内の現状を客観的に把握できるようになります。
②モチベーションの向上
QCサークル活動の基本的な流れは、普段取り組んでいる業務の改善点をリストアップし、その対策を考えること。そのため社員に「身近な業務を見直そう」ちうモチベーションが沸き起こります。
またQCサークル活動が成功して成果に現れると、達成感や充実感が生じて、さらに活動へのモチベーションが高まるのです。
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③団結力の向上
QCサークル活動には複数のメンバーが参加するため、組織内での団結力が向上しやすくなります。横断的な活動であれば、普段の業務でかかわりのない部署の間にもチーム意識が生まれるでしょう。
団結力が向上した組織内では有意義な議論が交わされるようになり、個人の交渉力やコミュニケーション能力の向上といった相乗効果も期待できます。
4.QCサークル活動の進め方
QCサークル活動は「QCストーリー」と呼ばれる7つのステップをベースとして進めていくのが一般的です。7ステップについてそれぞれ説明します。
①メンバーの選定
メンバーの選定では基準とするのは、「普段の業務で共通の作業に携わっている」「勤務形態が同じである」など。
ひとつのグループに参加する人数は5名から7名、メンバー数の上限は10名までに収めるのが一般的です。メンバーが5名未満になるとひとり当たりの負担が増え、メンバーが多すぎるとグループ全体の意識が低下しやすくなるからです。
②テーマの検討
テーマは活動の方向性を決定する重要な要素であるため、慎重に検討します。
テーマを決める前に現状の問題をリストアップし、緊要度やコスト、得られる効果などの要素で各問題を比較。これらの分析をもとに、取り組む問題の優先順位を決めます。なお取り組むテーマは、目標と実績との差の大きい課題がおすすめです。
③現状把握と目標設定
決定したテーマの解決方法を具体化するために、現状の把握と目標設定を行います。
まず新たなテーマに見合った観点から再度データを収集し、「人」「環境」「時間」などの共通点や特徴を見出してグループ化。このグループごとに問題点を細分化していくのです。この作業を「層化」といい、品質改善には欠かせません。
現状が明確になったら「何をいつまでに改善するのか」を決め、QCサークル活動の目標として設定します。
④原因の分析
層化で洗い出した複数の問題について、各原因の分析と検証を行います。原因分析では、「特性要因図」を使って情報の整理を行う一般的です。
特性要因図は、問題を「4M」の視点で要因を探すためのフレームワーク。「人(Man)」「機械(Machine)」「方法(Method)」「材料(Material)」にわけて、要因と考えられる事項を書きくわえていきます。
特性要因図に書き出した要因について、グラフを用いてさらに分析と検証を進めていくのです。
⑤改善策の立案と実施
分析と検証で原因を特定できたら、「誰が何をいつまでに行うのか」を明確にした改善計画を策定し、すみやかに実施します。
対策を検討する際に役立つのが「系統図」というフレームワーク。系統図では大きな目的を置き、それを解決する複数の手段を設けます。さらにそれぞれの手段をツリー形式で細分化していき、最終的な対策案を決めるのです。
またあわせて成果の評価方法と「QCストーリー(課題解決のプロセス)」を決定しておきましょう。
⑥効果の確認と共有
改善策を実施したら、効果を評価します。具体的には、想定していた効果と実際の効果を可視化し、どれほどの差分があるのかを分析。さらにコストや期間なども含めて活動計画を評価します。
想定していた効果を得られなかった場合、原因分析からやり直しましょう。
⑦標準化の定着
想定していた効果が得られるようになったら、改善策を標準化し、社内へ定着させます。具体的には、ルール化やマニュアル化などを整備し、実際の業務において改善策を実施。もちろん実務での効果も継続的に測定します。
5.QCサークル活動のポイント
さまざまな効果が期待できるQCサークル活動の有効性を、最大限に発揮するためのポイントがあります。ここでは3つのポイントを解説しましょう。
QCの7つ道具を活用する
QCの7つ道具とはQCサークル活動において、データや課題の整理、分析、検証などに使われる7つの手法のこと。定量向けの「QCの7つ道具」と、定性分析向けの「新QCの7つ道具」の2種類があり、それぞれに含まれる手法もまったく異なります。
QCの7つ道具とは?
QCの7つ道具に含まれる手法は以下のとおりです。
- グラフ:棒や折れ線、円や帯、レーダーチャートなどグラフ全般を指す。全体の傾向や時系列での変化を可視化するうえで不可欠
- パレート図:全体に対して占める割合の多い順に要素を並べ、要素の影響度や関連度を分析
- ヒストグラム:値の分布状況を縦棒で表す
- 散布図:ふたつの変数の相関性を可視化
- 管理図:品質のばらつきを示す
- 特性要因図:特定の問題を発生させている複数の要因を階層構造で示す
- チェックシート:一連の活動のなかで取り組むべき課題や作業などを漏れなく行うために用いられる
新QCの7つ道具
新QCの7つ道具に含まれる手法は以下のとおりです。
- 親和図法:複数の意見や発想、要因などの言語データを親和性ごとにグルーピングし、問題の全体像を把握
- 連関図法:課題に対する要因や結果、目的、手段などの言語データを矢印でつなぎ、それぞれの関係性を可視化
- 系統図法:問題解決に向けた複数の手段をツリー形式で表し、それぞれを深堀りして具体的な実行手段を導く
- マトリックス図法:クロス表でふたつの要素をかけあわせ、要素間の関連性の有無や度合いを表す
- アローダイヤグラム法:作業ごとの関係性や日程のつながりを矢印で示し、スケジュールを可視化
- PDPC法:目的達成までの流れと、その間に起こりえるトラブルを書き出したフローチャートで、対処法も書きくわえる
- マトリックスデータ解析法:2種類以上のデータを用いた散布図です。全体の傾向を解析する際に用いられる
日々の報告と伝達
QCサークル活動で同じ活動に取り組むメンバーは、日々の状況をお互いに報告しましょう。全体の進捗や目標の達成度を可視化でき、次の行動が明確になるからです。成果も見えやすくなるので、QCサークル活動へのモチベーションを維持向上できます。
QCサークル活動の行動計画を決めるときに、あわせて報告方法やルールなども決定しておきましょう。
定期的なフィードバック
QCサークル活動において、経営層やマネジメント層は活動の結果だけでなく過程にも注目し、定期的なフィードバックを行いましょう。上層部も品質向上を重要な課題だと認識していることを示せるからです。
とくに経営層が積極的にかかわる姿勢を見せると、メンバーは「上からやらされている」という意識が薄れ、モチベーションが向上しやすくなります。
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6.QCサークルの注意点
QCサークル活動は、参加メンバーが自主的に品質課題へ取り組む活動。メンバーの意欲が高いほど活動の成果が出やすくなるので、モチベーションのコントロールに注意が必要です。
また「時代遅れ」の活動になることを避けるため、手段の目的化を防ぐ必要もあります。活動に直接携わる社員だけでなく、経営層やマネジメント層も目的を見失わないことが大切です。ここではQCサークル活動における注意点をふたつ説明します。
- モチベーション格差の解消
- 手段の目的化を防止
①モチベーション格差の解消
一般的に、QCサークル活動の参加者は、自主的に品質改善へ取り組む意欲を持つ人です。しかしメンバーのモチベーションには、少なからず差があるもの。
モチベーションの差は、役割の重要度や作業量を左右しますし、割り振られた作業の進捗や成果にも現れます。その結果メンバー間に不満や軋轢(あつれき)などが生じる場合もあるのです。
メンバーのモチベーションを一定に保つためにも、メンバー全員の意思を統一しましょう。活動の目的と目標を再確認し、目標達成に向けたアイデアや意見を交換する方法が有効です。
②手段の目的化を防止
QCサークル活動は品質改善の手段です。よって活動自体を目的にしてはなりません。
たとえば改善計画を実施しただけで満足してしまい、効果測定や検証を行わずに活動を終わらせてしまうケースです。品質改善を実現できなければ、目的を達成したといえません。
手段の目的化を防ぐためにも、経営層やマネジメント層も交えて活動の目的と効果をチェックする機会を作りましょう。