リテンションマネジメントとは、長期的に人材を定着させるための管理および施策を指します。リテンションマネジメントのメリット、やり方、事例などを解説します。
目次
1.リテンションマネジメントとは?
リテンションマネジメントとは、優秀な人材の定着と育成、および能力発揮を目的としたさまざまな管理や施策のこと。その範囲は採用や教育、人材配置や人事評価、就業環境など多岐にわたります。
「維持、引き止め」を意味するリテンション(Retention)と、「管理」を意味するマネジメント(Management)を合わせた造語です。
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2.リテンションマネジメントが注目される理由
少子高齢化の影響による人材不足は、企業にとって大きな課題。そこで定着率を高めるリテンションマネジメントに注目が集まっているのです。
- 労働力不足の深刻化
- 人材の流動化
- 働き方の変化
①労働力不足の深刻化
労働力不足が深刻化する日本にて、企業が人材を確保し続けるにはリテンションマネジメントによる人材の定着が必要です。
少子高齢化が進んだ日本では、経済を支える10代から60代の労働力世代の人口は減少し続けています。60代の高齢従業員が退職すれば、労働者人口はさらに減少し、「売り手市場」が続いて、さらに企業は人材不足に陥るでしょう。
もちろん新規採用も重要です。しかし今以上に現在の人材を流出させない施策も必要となります。
②人材の流動化
転職のハードルが下がり、人材が流動しやすくなったのもリテンションマネジメントが注目される背景のひとつ。
年功序列や終身雇用などの制度が崩壊し、1社にとどまる意識が希薄になり、転職ありきでキャリアアップを目指す人が増えています。そのため自社から人材が流出しないよう、リテンションマネジメントに取り組む企業が増えたのです。
③働き方の変化
働き方改革によって働く側の意識が変わったのも、リテンションマネジメントの必要性を高めました。
労働環境やワークライフバランスが重視され、理想の働き方を求めて転職する人が増加したからです。現在の働き方が自分の希望や価値観と合わないと感じた従業員が、他社へ転職してしまうかもしれません。
とはいえ、給与や待遇面だけで人材を引き留めるのは難しいもの。そこでリテンションマネジメントを行い、自社で働く意義やモチベーションを高める手法が注目されているのです。
3.リテンションマネジメントに取り組むメリット
リテンションマネジメントに積極的に取り組むと、従業員の定着率向上が期待できます。育成した人材が長期にわたって活躍し続けるようになるため、さらにさまざまなメリットをもたらすのです。ここでは7つのメリットを解説します。
- 採用や教育コストの抑制
- 従業員エンゲージメントの向上
- 長期的な事業計画の確立
- 企業イメージの向上
- 業務効率や生産性の向上
- 顧客満足度の向上
- 情報漏えいリスクの低減
①採用や教育コストの抑制
求人広告を出して応募者を面接し、採用後は一定期間の教育が必要です。これらには金銭的コストにくわえて、多くの時間がかかります。離職率が高い企業ではこの工程を何度も繰り返すため、さらにコストが増すでしょう。
採用した従業員が長く定着すれば、採用や教育にかかるコストと時間を大幅に削減できます。
②従業員エンゲージメントの向上
従業員が定着しやすい=従業員が「働き続けたい」と思う企業だからです。リテンションマネジメント施策で従業員が働きやすい職場環境を構築したり、自社で働く意義や仕事のやりがいなどに気づかせたりすると、従業員エンゲージメントが向上しやすくなります。
従業員エンゲージメントとは? 高める効果や方法をわかりやすく
従業員エンゲージメントとは、会社に貢献したいという、従業員自身の意欲のことです。従業員エンゲージメントの要素やメリット、取り組んでいる企業などについて詳しく解説します。
1.従業員エンゲージメントと...
③長期的な事業計画の確立
企業が成長し続けていくには、新事業の創設や既存事業の拡大なども必要です。人材が長く定着するほど多くのスキルやノウハウが従業員に蓄積していき、新たな事業計画において最適な人材配置や人員計画が可能となります。
④企業イメージの向上
リテンションマネジメントで定着率が上がると、ステークホルダーからのイメージアップにつながります。従業員が辞めずに働き続ける企業は、従業員が労働環境や働き方などに満足していることを意味するからです。
従業員を大切にしている企業というイメージがつけば、若年の求職者からの応募が増え、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。顧客や取引先のイメージが向上すれば、売上や利益の増加も期待できます。
⑤業務効率や生産性の向上
勤務年数の長い従業員が多いほど、職場に比べて業務効率や生産性が高まります。一人ひとりにスキルやノウハウが蓄積されて、仕事のスピードや質が高まるからです。
離職率が高い企業では、採用してもスキルやノウハウが身につく前に人材が流出してしまいます。組織の成長が遅れるため、業務効率化や生産性の向上も難しくなるでしょう。
⑥顧客満足度の向上
毎回同じ担当者が対応すれば、顧客の情報や状況を把握でき、顧客への対応をスムーズかつ的確に行えるからです。顧客へ信頼感や安心感を与えられるため、良好な関係を構築できます。
⑦情報漏えいリスクの低減
退職した従業員が自社の経営や財務、技術などに関する重要な情報を転職先へ話してしまうかもしれないからです。離職する従業員を減らすと、このような情報漏えいを防ぎやすくなります。
4.リテンションマネジメントが必要な企業の特徴
どのような企業でも、自社の成長には長期的に優秀な人材を確保する必要があります。人材不足に陥っている、あるいは人材が不足する恐れのある企業は、早期にリテンションマネジメントへ取り組んだほうがよいでしょう。
- 離職率が上昇傾向にある
- 採用活動が難航
- 企業体制が大きく変化
①離職率が上昇傾向にある
放置するとどんどん人材が流出し、組織が立ち行かなくなってしまいます。
離職率が高まる理由のひとつが、自社に対して従業員が不満を持っていること。とくに評価制度やコミュニケーション、キャリアパスなどに不満を持つケースが挙げられます。リテンションマネジメント施策でこれらの不満を解消すれば、離職を抑制できるでしょう。
②採用活動が難航
採用活動が上手くいかないと感じている企業は、リテンションマネジメントで労働環境を改善してみましょう。他社と比べて「ここで働きたい」という魅力が感じられないという理由で、応募者が減っている可能性もあるからです。
また定着率の向上で企業イメージが改善されると、さらに応募者の増加が期待できます。
③企業体制が大きく変化
組織の構造や制度などを大きく変える場合、リテンションマネジメントを並行したほうが安心でしょう。体制が変化するとそれまでなかった不満が生じ、離職の引き金となる可能性も高いからです。
体制の変化で想定される課題を洗い出し、適切なリテンションマネジメント施策を進めましょう。
5.リテンションマネジメントのポイント
リテンションマネジメントで人材の定着や育成を行う際、働きやすい環境作りや就業環境の整備が欠かせません。ここでは5つのポイントを解説します。
- 給与体系の明確化
- 権限付与と適正な評価
- コミュニケーションの活性化
- 勤務形態の柔軟化
- 成長機会の推奨
①給与体系の明確化
給与への不満は従業員の離職につながりやすいため、納得性や透明性のある給与体系を整える必要があります。何をどのように評価して給与へ反映しているのか、を明確にするためにも現在の報酬制度および人事評価制度を見直してみましょう。
②権限付与と適正な評価
優秀な従業員には裁量権を与えて仕事へのモチベーションを高め、能力や成果、貢献度などを正当に評価しましょう。従業員は「自社から信頼されている、認められている」と感じるからです。従業員満足度やエンゲージメントが高まり、人材の定着を促進します。
③コミュニケーションの活性化
コミュニケーションが活発になると、従業員が定着しやすくなります。意思疎通がスムーズな職場は、従業員にとって働きやすい環境だからです。
また仲間意識が生まれるため、従業員の帰属意識も高まるでしょう。共通意識のもと目標達成に向けたチームワークも発揮されるため、生産性の向上も期待できます。
④勤務形態の柔軟化
従業員それぞれにあった働き方ができる環境を整えると、育児や介護などの理由による休職や退職を防ぎやすくなります。時短勤務やフレックス制度、在宅勤務などの導入も検討しましょう。
求職者へのアピール材料にも活用できるため、新たな人材の確保といった効果も期待できます。
⑤成長機会の推奨
従業員の希望に沿って成長できる機会や環境を整えましょう。キャリアプランの実現や適材適所への配置などは仕事にやりがいをもたらし、従業員満足度やエンゲージメントを高めるからです。
たとえばメンター制度や複線型人事制度を導入するなどの方法が挙げられるでしょう。
6.リテンションマネジメントのやり方
リテンションマネジメントは、まず自社の現状を把握し、離職につながる問題点を見つけて対策を実施するという流れで進めます。
- 自社の現状把握
- 課題の可視化
- 階層別に施策を実施
①自社の現状把握
リテンションマネジメントの対象範囲は広いため、問題を切りわけるために現状の把握を行います。
まずやるべきことは、定着率や離職率の算出と、人材管理における体制や状況、関連制度の運用状況などの確認。次にサーベイやアンケート、面談などを活用して、既存の従業員および退職した従業員から本音を聞き出しましょう。
リサーチをとおして従業員満足度やエンゲージメント、自社に改善してほしい点や退職理由などを明らかにできます。
②課題の可視化
把握した現状を分析し、従業員の離職につながる原因をリストアップし、リテンションマネジメントで取り組むべき課題を決めます。このとき課題の優先順位も定めておきましょう。
取り組む課題は、経営層や管理職だけでなく、全従業員へ課題を共有しましょう。自社が目指す方向を提示できますし、職場環境の改善に取り組むと明示すれば従業員のモチベーションを高められます。
③階層別に施策を実施
取り組むべき課題が明確になったら、従業員の階層(年代や勤務年数、役職や職務など)に合わせた施策を考案し、実施します。
たとえば給与や研修、キャリアパスや人事評価などに関する施策は、勤務年数や役職、職務で異なるでしょう。一方、勤務形態の拡張や年次有給休暇の取得などの施策は、全従業員に共通します。
施策を実施したのちはリテンションマネジメントの効果を測定し、改善するというサイクルも必要です。
7.リテンションマネジメントに関する企業事例
リテンションマネジメントに取り組み、離職率の低下や労働環境の改善などを実現した企業の事例を解説します。
- トヨタ自動車
- サイボウズ
- レオパレス21
①トヨタ自動車
トヨタ自動車では、従業員が働きやすい環境を整備するために、さまざまなリテンションマネジメントを実施。
年功序列を廃止し、若年層の賃金水準を向上させました。また優秀な人材は定年後も同じ待遇で働ける再雇用制度や、従業員が内容を選べる選択型福利厚生制度なども導入。2019年から2022年まで3年間における離職率を、約1%に抑えました。
②サイボウズ
サイボウズでは2005年の離職率が28%まで上がってしまい、多数のリテンションマネジメント施策に着手しました。
そのうちのひとつが、別部署に所属する従業員を5名以上集めると部活動を始められる「社内部活動」。社内コミュニケーションを活発化し、業務の効率化やスピードアップを狙った施策で、施策を促進するため活動費も補助しています。
施策の効果もあり2010年には離職率が5%前後まで下がりました。
③レオパレス21
レオパレス21は、2010年から2011年の離職率が業界水準以下の15%前後になってしまったため、リテンションマネジメント施策を始めました。
社内アンケートから、「教育が不足している」という不満を持つ従業員が多いと判明。そこで役職や部門、職務などに合わせた強化研修を導入したのです。2013年から施策を行った結果2016年の離職率は約9%にまで低下しました。