合理的配慮とは?【意味を簡単に】具体例、義務化、問題点

合理的配慮とは、障害を持つ人が障害を持たない人と同様に社会生活を送れるよう、社会的障壁を取り除く配慮のこと。義務化された背景、問題点、企業にできることなどを解説します。

1.合理的配慮とは?

合理的配慮とは、障害を持つ人と持たない人が、同じく平等な社会生活を送れるよう、社会的障壁を排除すること対象は、教育や就業をはじめとする社会生活全般です。

合理的配慮の概念が広く共有されるようになったきっかけは、2016年4月の障害者差別解消法の施行にあります。この法施行では、過度な負担が生じない範囲で具体的な対策を講じることを、行政や学校には義務、企業に対しては努力義務としました。

今日では合理的配慮について世間の認識が深まっており、企業や学校などでは障害を持つ当事者も交えた話し合いも実施されています。

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2.合理的配慮はなぜ義務化されるのか?

改正障害者差別解消法が成立し、民間の事業主にも合理的配慮を義務づけることが公表されました。この改正法は2021年6月4日に交付され、3年以内に施行される予定です。

義務化の理由として挙げられるのは法改正によって学校や企業などによる障害者への働きかけに関する基本的な考え方に変化が生じる点。

たとえば店舗の入口までに階段を設けている飲食店があります。しかしスロープが併設されていないと、車椅子の利用者は入店できません。

改正障害者差別解消法では、このように障害を持つ人にとって配慮されていない状況を障壁ととらえ、取り除くことを事業主側の義務と定めたのです。

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3.合理的配慮の理解に欠かせない障害者差別解消法とは?

障害者差別解消法はもともと、2016年4月に施行されました。この法律は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」とも呼ばれ、施行にともなって合理的配慮という概念も知られるようになったのです。

障害者差別解消法の目的は、合理的配慮の概念にもとづく取り組みを行って、障害の有無で差別されない「共生社会」を実現すること。そのため同法律では事業主に対して、合理的配慮への対応と、障害者への不当な差別的取り扱いを禁止しています。

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4.合理的配慮の対象となる障害者

障害者雇用促進法第2条第1号にて、合理的配慮の対象となる障害者は以下のように定義されています。

身体障害や知的障害、精神障害や発達障害、あるいはそのほかの心身機能障害を持ち、長期的かつ相当な制限が職業生活(就業とそれにともなう日常の生活)で生じている人、あるいは職業生活を送ることが著しく困難になっている人

なお同法では、障害者の定義に「障害者手帳の有無」「就業時間」「障害の種類とその原因」などについて明記していません。

そのため障害を持っていることが原因で就職が著しく困難、または就業に大きな制限がかかっている人なら誰もが、合理的配慮の対象者になります。

一方、「業務内容に対して障害の程度が低い人」や「病気やけがなどによって一時的に就業上の制限が生じている人」などは対象外です。合理的配慮についてはこれらの観点から各々の就業者が対象者となるのか否か、ケースバイケースで判断する必要があります。

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5.合理的配慮の基本的な考え方

事業主は、障害者手帳を持っていない人も合理的配慮の対象とします。しかし配慮すべき内容は各障害者によって異なるため、合理的配慮にもとづいた話し合いを行う際は、障害者本人からの申出が必要です。

また事業主にとって合理的配慮による負担が過度に重くなる場合、負担軽減を前提とした話し合いを障害者本人と行えます。

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6.合理的配慮の具体的な内容

合理的配慮の具体例のひとつが「物理的環境への配慮」です。たとえば以下のような内容が該当します。

  • 車椅子利用者への簡易スロープの貸し出し
  • 量販店などで車椅子利用者には手が届かない高い場所に陳列されている商品を店員が取って渡す

また「意思疎通の配慮」も合理的配慮のひとつです。たとえば以下のような内容が該当します。

  • 筆談
  • 手話
  • 文章の読み上げ

そのほか企業や学校などで休憩時間のようなルールを障害の特性に合わせて変更するといった、慣習や慣行への配慮も含まれています。

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7.合理的配慮の「過重な負担にならない範囲」とは?

障害者から合理的な配慮の提供を求められたものの、それが事業主に過重な負担となる場合、対応の義務が生じません。

しかし過重な負担にならない範囲で対応する必要はあるため、双方が十分に話し合ったうえで何らかの代替措置を講じることが求められます。過重な負担の範囲は事業主が判断し、判断の材料となるのは以下のような要素です。

  • 事業への影響の程度
  • 実現への難易度
  • 企業の規模
  • 企業の財務状況
  • 公的支援の有無
  • 費用負担の程度

自社が対応すべき範囲については、上記の要素を踏まえて慎重に判断しましょう。

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8.合理的配慮提供の流れ

合理的配慮にもとづいた何らかの取り組みを行う場合、どのように進めればよいのでしょうか。ここでは合理的配慮を提供するときの流れを、4つのステップにわけて説明します。

  1. 障害者からの申出
  2. 話し合い
  3. 情報共有やフォロー体制の構築
  4. 見直し・改善

①障害者からの申出

合理的配慮では障害者からの申出を起点に、具体的な取り組みの検討を開始します。この申出は、募集や採用の段階で障害者本人やその家族などからなされるのが一般的です。

またすでに障害者を雇用している企業では、事業主から就業している障害者へ障壁の有無を確認する必要があります。たとえば「社内に相談窓口を設ける」といった方法が挙げられるでしょう。

②話し合い

合理的配慮を行うことを前提とし、具体的な取り組み内容について事業主と障害者の間で話し合います。この話し合いは事業主と障害者本人との間で行うのが基本です。しかし場合によっては障害者の家族や支援者も同席できます。

障害者が希望する取り組みをすぐに実施するのは難しい場合でも、事業主は実施可能な時期や代替措置などを提示しなければなりません。

③情報共有やフォロー体制の構築

決定した取り組みを実行に移すため、障害者の上司や同僚などへ情報を共有し、フォロー体制を構築します。情報共有では、伝える従業員の範囲や共有すべき情報の内容について、障害者と相談したうえで明確にしておきましょう。

また障害者本人への支援を行う担当者を決め、障害者が随時相談しやすいフォロー体制を構築します。

④見直し・改善

合理的配慮にもとづく取り組みでは、実施以後に確認された問題点を定期的に見直し、改善していく必要があります。

また障害者にとっての障壁や合理的配慮の必要性が、時間の経過とともに変化が生じる場合も。よって定期的に障害者や支援担当者と面談を行うといった施策が必要です。

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9.合理的配慮の問題点

合理的配慮には、障害者雇用制度との関連にて問題点も存在します。

まず障害者雇用制度で行う配慮と、合理的配慮で行う配慮にどのような違いはあるのかが明確になっていない点。もともと障害者雇用制度の存在により、企業には障害者手帳を所持している障害者に対して、一定の配慮が求められていたからです。

また現時点、障害者雇用促進法にもとづいた配慮のほうが、障害者に対して手厚く配慮できるのも問題視されています。障害者雇用の促進を目的とする助成金制度があるものの、ほとんどが障害者雇用促進法を基盤としているからです。

事業主にとっては、障害者雇用促進法による助成金制度を活用したほうが取り組みを進めやすくなるでしょう。

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10.合理的配慮の具体例

合理的配慮では、障害の特徴に応じた取り組みを行うことが求められます。自社で取り組みを行う場合、以下のように障害の特性に応じた合理的配慮の例を参考にするとよいでしょう。

  1. 視覚障害
  2. 聴覚障害
  3. 精神障害
  4. 発達障害
  5. 知的障害
  6. 肢体不自由
  7. 内部障害

①視覚障害

視覚障害者への合理的配慮の事例は、以下のようなものが挙げられます。

  • 驚かせないよう正面で話すといった、配慮のある声かけ
  • 「右に2m」「3歩先」など具体的な距離がわかる指示を出す
  • パソコンの文字の読み上げや点字変換ができるソフトの導入
  • 本人の意思を尊重した書類の記入やタッチパネル操作の代行

②聴覚障害

聴覚障害者への合理的配慮の事例は、以下のようなものが挙げられます。

  • パソコンやタブレットを使用した筆談
  • 筆談に対応する専用アプリの導入

これらの運用には従業員に使用方法を周知する必要があります。よって十分な準備期間を確保しておくのも重要です。

③精神障害

精神障害にはさまざまあり、おのおのの特性を考慮した合理的配慮を行う必要があります。具体例は以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 小まめな休憩時間の確保
  • 専門的な支援スキルを持った従業員の育成
  • 精神面での負担を軽減するための勤務時間の調整

場合によっては外部支援機関と連携を図るのも効果的です。

④発達障害

発達障害については、対象者が独力で困難な動作や業務に応じた合理的配慮が求められます。

具体例のひとつは、文字の読み書きが困難な場合にタブレットといった補助具を提供することです。ただし使用する補助具に関して障害者自身にこだわりがある場合、それらを問題なく使うための環境整備も合理的配慮になります。

⑤知的障害

知的障害については、本人が行う業務に支障が生じないようストレスや疲労を軽減するための取り組みが必要です。具体的には以下のような内容が挙げられます。

  • 本人の能力に応じたマニュアルの作成
  • 業務手順の分割
  • 業務量の調整

⑥肢体不自由

肢体不自由の場合、障害レベルに見合った合理的配慮が必要です。たとえば車椅子を使用している障害者に対しては、以下の取り組みが挙げられます。

  • スロープの設置
  • 段差のない執務スペースの割り当て
  • 車いすのまま使用しやすい高さのデスクを導入
  • 本人の意思を確認したうえで記入や入力を代行

また脊椎損傷といった重度障害を負うと、自身による適切な体温調整が難しくなります。よって室温調整にも配慮する必要があるでしょう。

⑦内部障害

対象者が内部障害を持っている場合、急な体調の変化に対応できる体制を整えておく必要があります。具体的には以下のような内容です。

  • 早退や遅刻、欠勤などの情報の共有
  • 体調不良時のサポート
  • 休憩用スペースの確保