健康寿命とは? 定義、延ばす、企業ができること、平均寿命

健康寿命とは、世界保健機関(WHO)が2000年に提唱した健康指数のひとつです。ここでは健康寿命の定義や平均寿命との違い、健康寿命延伸による企業のメリットなどについて解説します。

1.健康寿命とは?

健康寿命とは、健康上の問題で制限されずに日常活動ができる期間の平均を表した指標のこと。これまでは「平均寿命」が広く用いられていました。しかし生きている状態を勘案しようという認識から、健康寿命が注目されるようになったのです。

日本は世界的に見ても有数の長寿国家。厚生労働省は男性の健康寿命を72.14歳、女性は74.79歳と発表しています(2016年時点)。しかし平均寿命はこれよりさらに上です。平均寿命と健康寿命には男性で8.84年、女性で12.35年の差があるとわかっています。

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2.健康寿命の定義

健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。算出方法には次のふたつがあります。

  1. 日本が採用している方法:健康な状態と不健康な状態に二分して、健康な状態の平均値を求める
  2. WHOが発表する各国の方法:不健康な状態をレベル分けし、完全に健康な状態と相対する期間を表す

それぞれ基礎データや考え方が異なるため、ふたつを単純には比較できません。日本においては「寿命」のなかに「健康寿命」と「要介護期間」があり、この「健康寿命」を伸ばすことが大切と考えています。

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3.健康寿命と平均寿命の違い

先に触れたとおり、これまで寿命といえば「平均寿命(0歳から何歳まで生きられるかを統計から予測した平均余命)」を指していました。日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳と報告されています(2020年時点)。

対して「健康寿命」は、日常生活(介護や病気などによって自立した生活ができない状態)を制限されず健康的に生活できる期間のこと。

つまり寿命が長くても長期間にわたって介護や入院が必要な状態が続けば、健康寿命は短くなります。厚生労働省では2040年までにこの健康寿命を男女とも3年以上延伸した75歳以上を目指す取り組みを掲げています。

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4.健康寿命延伸に取り組む企業のメリット

健康寿命の延伸に取り組むのは政府だけではありません。経営の観念からも多くのメリットが得られるため、企業による取り組みも進められています。

  1. 生産性の向上
  2. 企業が負担する医療費の削減
  3. 企業価値の向上

①生産性の向上

健康寿命を延ばすため、企業は社員の健康を支援するさまざまな施策を進めます。これらの施策には次のような効果が期待できるのです。

  • 社員のモチベーションアップ
  • 主観的健康観が高まる
  • 実際に体調がよくなり、集中力やパフォーマンスが高まる

②企業が負担する医療費の削減

社員にかかる医療費の一部は、企業が負担しています。健康を損なう社員が増えれば自ずと医療機関を受診する数が増え、企業の支出も増えるでしょう。

健康寿命延伸に取り組めば、社員が医療機関を受診する回数が減ります。結果として企業が負担する医療費コストを削減できるのです。

③企業価値の向上

健康寿命の延伸に取り組む企業は、各ステークホルダーから高評価を得やすくなります。昨今、社員を大切にしない、いわゆるブラック企業に対する世間の目は日に日に厳しくなっているもの。

健康寿命の延伸に取り組んでいると積極的にアピールできれば、取引先や投資家、地域社会などは「社員を大切にする企業」として認知します。企業イメージが向上し、商品ブランドのイメージアップや優秀な人材の確保にもつなげられるのです。

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5.健康寿命を延ばすため企業ができること

健康寿命を延ばすため、企業はどのような施策を行えばよいのでしょうか。ここでは健康寿命延伸に向けた3つの施策について説明します。

  1. 健診・検診の受診推進
  2. 生活習慣病対策の実施
  3. メンタルヘルス対策の実施

①健診・検診の受診推進

健康寿命延伸に向けた取り組みのひとつが「健康診断の受診推進」です。労働安全衛生法では、社員の健康診断実施を事業者に義務づけています。

日本人の死因のうち、約6割はがんや心臓病、脳卒中などの生活習慣病です。とくにがんは早期発見、早期治療が肝心となります。健康診断によって早期に発見、治療した結果、完治に至ったケースも少なくありません。

企業は健康診断や人間ドックの受診を推進して、早期発見の重要性を啓発しましょう。

②生活習慣病対策の実施

「生活習慣病」とは食習慣や運動習慣、休養や飲酒などの生活習慣がもたらす疾患の総称です。がんや循環器疾患、糖尿病などがこれに含まれます。

生活習慣病のおもな原因は、その名のとおり日頃の生活習慣。働き方ともかかわりが深い部分のため、企業による対策が有効になるのです。

健康増進を啓発する社内イベントを実施したり、社員食堂で健康的な食事を支援したりして生活習慣病のリスクを下げ、健康寿命の延伸につなげます。

③メンタルヘルス対策の実施

健康寿命の延伸には、社員のメンタルヘルス対策も欠かせません。一人あたりの仕事量が増え、長時間労働が慢性化しやすい近年、ストレスによる心の病気が社会問題となっているのです。

過度のストレス状態が長く続くと、業務上のミスや事故にもつながります。社員の不調を早期に発見するため、以下のような対策を講じましょう。

  • ストレスチェック制度を導入
  • メンタルヘルスに関する社員研修やセミナーの開催
  • 福利厚生の充実

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6.健康寿命の延ばし方

健康寿命を延ばすには、企業の施策だけでなく個人単位での取り組みも重要です。厚生労働省は人生の最後まで健康的で楽しく暮らせることを目標とした「Smart Life Project(スマート・ライフ・プロジェクト)」を開始しました。

本プロジェクトでは「適度な運動」「適切な食生活」「禁煙」のテーマから健康寿命の延伸を推進しています。

参考 Smart Life Project厚生労働省

適度な運動

具体例は毎日+10分間を目安としたウォーキングです。たとえば次のようなものがあります。

  • 通勤時に10分間、苦しくならない程度にはや歩きをする
  • 徒歩10分の距離に車や自転車を使わない
  • ひと駅分歩く
  • 携帯音楽プレーヤーで3曲分を歩く
  • 掃除や庭いじりを10分だけ追加する

日常生活のなかでほんの少し体の動きを増やして、健康生活に変えようという取り組みです。

適切な食生活

厚生労働省は生活習慣病の予防に向けて1日350gの野菜を食べるよう推奨しています。もちろん明日から毎日山盛りのサラダを食べろというわけではありません。いつもの食事にたった一皿野菜をプラスするだけで、理想的な食生活に近づくのです。

禁煙

たばこには約4,000種類もの有害物質が含まれるといわれています。喫煙には健康を損なうだけでなく、若々しさや肌の美しさを失うリスクもあります。

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7.健康寿命に関する企業事例

業種や規模をとわず、さまざまな企業が健康寿命の延伸に取り組み、その成果をあげています。ここでは各企業が実施している健康寿命に関する取り組みについて説明します。

  1. NTT東日本・関信越
  2. 花王
  3. イトーキ
  4. 味の素

①NTT東日本・関信越

NTT東日本・関信越は、以下3つのアプローチを掲げて健康経営を推進しています。

  • 健康への意識を高める
  • 自身の健康状態を認識する
  • 自身の健康に向けて実践する

同社は、社員が健康で働き続けられる環境づくりが事業計画の実現には不可欠だと強く認識。NTT健保組合が展開する歩数登録機能を活用したウォーキング大会を開催しています。

大会は組織単位のチーム対抗戦で、チームごとの歩数を社内デジタルサイネージに掲出したり、受賞グループを直接表彰したりして参加者を盛り上げました。

トップ自らが表彰状贈呈や激励を実施したために社員の健康に対する意識も高まり、モチベーションアップにもつながったという事例です。

②花王

花王は、社員だけでなくその家族の健康も推進して、企業活動を活発に行える環境づくりを進めているのです。「Kao GENKIACTION」と名づけられた健康増進プログラムでは、以下4つを回して健康につながる暮らしの継続と環境づくりを支援しています。

  • 内臓脂肪をマーカーとした生活習慣測定会を実施。一人ひとり、また事業場ごとの課題を「見える化」する
  • 全11事業場の社員食堂で、内臓脂肪をためない食生活を実現する「スマート和食」を提供
  • 歩行生活年齢を表示する活動量計「ホコタッチ」を配布
  • 営業支店同士の対抗企画や製品プレゼントなどを実施して、継続をアシスト

③イトーキ

イトーキは、1日の大半を過ごすオフィスを活用して社員の健康促進を目指す「Workcise(ワークサイズ)」を提唱しています。これはWork(働く)とExercise(健康活動)を組み合わせた造語です。

社員32名が1日平均2時間のスタンディングワークを実施し、結果、6週間で腹囲が優位に減少する効果が見られました。

スタンディングワークをはじめとする具体的な内容は、社内に専門家を招いて決めていきました。各部署の代表者も巻き込んだところ、実施後の伝達がスムーズに。多くの社員から共感を得た結果、多数のメディアに掲載されるようになりました。

④味の素

味の素では、すべてのステークホルダーの健康に貢献することをグループの経営理念として掲げています。おもな取り組みは以下の3つです。

  • 独自のメンタルヘルス回復プログラムを開発。職場復帰した社員に再就業後プログラムを提供して再発を防止
  • 全社員が産業保健スタッフとの個別面談を年1回以上実施。課題が見つかった場合は専門家と連携したり社員食堂のメニューを強化したりして健康を増進
  • 睡眠改善プログラムwithグリナ(睡眠と質の向上をサポートする自社商品)の実施

このような取り組みの結果うつ病によるメンタル不調者の再休業率を7%から4%に減少。また睡眠改善プログラムwithグリナを実施した社員の78%が、睡眠の改善につながったと回答しています。