ターゲティングとは、どの市場でビジネスを展開するかを決定すること。ターゲティングの概要と重要性、セグメンテーションやポジショニングとの違い、市場の分析方法、注意点などについて解説します。
目次
1.ターゲティングとは?
ターゲティングとは、さまざまな基準で細分化された顧客層のうち、どの層に向けてマーケティング戦略を実行するかを決定すること。マーケティングはもとより、ビジネスを始めるにあたっても最重要とされるプロセスです。
適切なターゲティングができていないと、マーケティング戦略が誤った形で設定され、本来のターゲットに商品を売れずに終わりかねません。
誰にどの商品を届けるべきか見極めれば、本当に必要とする人に価値を提供でき、顧客満足度および企業の売上や利益の向上につながります。ターゲティングは顧客と企業双方の利益を最大化するための取り組みなのです。
2.ターゲティング広告とは?
ユーザー属性やWebサイト閲覧履歴などをもとに、ユーザーの関心や嗜好と親和性が高い内容を表示できる広告のこと。どのような効果を求めるかによって、ターゲティング設定が異なります。
- ユーザーの絞り込み:属性、検索ワードやWebサイト訪問履歴、クリック数などによって表示する
- コンテンツの絞り込み:広告内容と関連性が高いと思われるWebサイトやアプリに表示する
- そのほか:特定の位置情報、時間帯や曜日、利用デバイスなどに限定して表示する
興味を持ちそうなユーザーに絞って広告を表示するため、コンバージョン率の向上が見込めるでしょう。
またリターゲティング広告(過去にWebページを閲覧したユーザーに対して表示する広告)もあります。これは追客にも優れている点が特徴です。うまく活用できれば費用対効果が高まるでしょう。
3.ターゲティングがマーケティングで重要な理由
ターゲティングは、あらゆるマーケティング活動の起点となる重要なプロセスといえます。
現在の市場は競争が激しく、品質を磨くだけでシェアを伸ばすのは困難です。またインターネットの発達やデジタルデバイスの浸透で、ユーザーは多様な情報が入手できるようになりました。
価値観やライフスタイルの多様化も進み、一律のアプローチが通用しなくなっています。
適切なターゲティングを実施できればより確度の高いマーケティング戦略を展開でき、予算や人員といったリソースを効率よく配分するのも可能です。マーケティング活動の費用対効果が上がり、利益を生み出しやすくなります。
4.ターゲティングとセグメンテーション、ポジショニングの違い
「セグメンテーション」と「ポジショニング」は、ターゲティングと混同されやすいマーケティング用語です。それぞれの違いを解説します。
セグメンテーションとは
特定の条件をもとに市場をグループにわけること。市場細分化とも呼ばれます。代表的な分類方法は、以下の4つです。
- ジオグラフィック属性(地理的変数):国や地域、都市などで分類し、人口密度や気候、経済成長度、慣習や文化などに着目
- サイコグラフィック属性(心理的変数):価値観やパーソナリティ、ライフスタイル、興味関心に沿って区別
- デモグラフィック属性(人口動態変数):年齢や性別、職業、所得、家族構成や学歴など、一般の個人情報をもとに細分化
- 行動変数:利用頻度や利用場面、商品知識の程度などを材料にしたわけ方
採用する条件でターゲティングに利用するグループが決まるので、分類軸は注意深く見極める必要があります。
ポジショニングとは
ターゲティングで定めた顧客層に強調すべきポイントをはっきりさせること。具体的には、ターゲットそれぞれのニーズを的確に把握し、そのニーズに合わせた商品特性をアピールします。
理想のポジショニングは、競合が存在しない市場に参入し、支持を集めること。空白の市場を見つけられれば、ビジネス展開の自由度が広がります。また独自性を高められるので、他社との競争を気にせず商品開発に専念できるでしょう。
ポジショニングを成功させるには、念入りなターゲティングを行い、より競合が少なく容易に自社の強みを生かせる市場を探る必要があります。
5.ターゲティングが重要なSTP分析とは?
STP分析とは、効果的なマーケティング戦略の立案を目的とした分析フレームワークのこと。フィリップ・コトラーが提唱し、マーケティング活動における3段階の頭文字をとってSTP分析と呼ばれます。頭文字の意味は以下のとおりです。
- セグメンテーション(S:市場の細分化)
- ターゲティング(T:狙う市場を決定)
- ポジショニング(P:狙う市場における自社の優位的位置づけ)
STP分析では各段階が密接に関連しており、とくにターゲティングは勝負する市場を決める重要なステップとされています。STP分析をとおして市場における自社の立ち位置を明確にすれば、効率よくマーケティング活動を実施でき、効果をより高められるでしょう。
STP分析とは?【効果・やり方をわかりやすく】企業事例
STP分析とは、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の3要素からマーケティング戦略を策定・実行するためのフレームワークです。
うまく活用することで正しい市場が見極められ、自社の立...
6.ターゲティングで重要なフレームワーク「6R」
6Rとは、ターゲティングの際に重要な指標をまとめたフレームワークです。名称はそれぞれの項目の頭文字からつけられています。下記6つの指標を明確にすることで、適切なターゲティングが可能となるのです。
- Realistic scale:有効な市場規模
- Rate of growth:成長率
- Rank/Ripple Effect:優先順位と波及効果
- Reach:到達可能性
- Rival:競合状況
- Response:測定可能性
①Realistic Scale:有効な市場規模
自社商品が売れるか、投じたコストを回収できるかという両方の側面から観察するには、ターゲットの市場規模が指標になります。
たとえばマス産業で幅広く売っていくか、ニッチ産業で市場における自社の占有率を上げていくかを判断する際、ひとりあたりの消費金額などを参照してターゲットの市場規模を測るのです。
一般的に市場規模が大きいほど売上は期待できるものの、参入企業も多いため、激しい競争が発生します。市場規模が小さくても、ターゲットのニーズに合致する商品を投入できれば競争優位性が高まり、大きな利益をもたらす可能性もあるのです。
ときにニッチな市場に参入するのもマーケティング戦略では有効です。しかし市場規模が極端に小さいとビジネスとして成立しない場合もあるため、慎重な見極めが必要でしょう。
②Rate of Growth:成長性
ターゲット市場の成長性について分析が必要です。
将来性が見込まれる市場に早い段階で商品を投入すると、先行者利益が期待できます。そのため今後の成長が未知数でも、開拓されたばかりの市場に参入する価値は高いのです。
一方、成熟しきった市場はターゲットの奪い合いが激しく、衰退に向かっている市場はニーズが増える可能性の低い傾向にあります。よって一般的には参入を控えるでしょう。
しかし「市場独占できる確率が高い」「ほか市場に参入するための足掛かりとする」などでは、あえて狙っていく場合もあります。
③Rank/Ripple Effect:優先順位と波及効果
ターゲットの市場に、どの程度の波及効果を期待できるかを分析します。
具体的には顧客層が口コミやSNS、レビューサイトなどで情報拡散してくれるか、市場影響力の強いメディアやインフルエンサーが存在するかという観点で、市場に優先順位をつけるのです。
波及効果をうまく利用すれば、認知拡大と市場拡大が同時に実現し、将来的な自社の競争優位性を後押しするのも期待できます。SNSの発展で多くの消費者が拡散行動を起こすようになっているため近年、とくに重視される指標のひとつです。
④Reach:到達可能性
ターゲットが自社商品を利用するまでの利便性に着目した項目です。
たとえ自社商品の品質が高くてターゲットのニーズを満たしていても、地理的要因や情報不足などでターゲットに届かなければ意味がありません。販売チャネルや、プロモーションの導線に障壁がないか確認しましょう。
また販売チャネルには直営店や代理店、通信販売が挙げられ、そこに運送手段も検討に入れます。プロモーション手法にはチラシやテレビCM、ランディングページやSNS、Webサイトなどさまざまあるので、ターゲットに届きやすい広告手法を選びましょう。
⑤Rival:競合状況
競合となる企業や商品の数と質を判断する指標です。
ここで重要な点は、単純に競合の数だけで判断しないこと。リソースが潤沢な大企業や、専門性と商品力が高い一部の企業が市場を掌握している場合も多々あります。一方、競合数は多くても市場規模が大きく、新規参入の余地があるときもあるのです。
自社と競合の状況を比較し、ターゲット市場で差別化を図り、優位性を保てるかを重視しましょう。競合状況を調査する際の主なポイントは以下のとおりです。
- 売上や利益率
- 広告費、販売管理費用
- 商品開発状況
- 販売ルート
- 営業方法
- 顧客サポート
⑥Response:測定可能性
マーケティング施策の効果を測定できるかについての指標です。
ターゲットの反応や施策の影響を把握できなければ、施策を改善できません。マーケティングの方向性が定まらず行き当たりばったりでは、費用対効果が見込めないばかりか、組織のモチベーション低下も懸念されます。
施策全体だけでなく、各施策の評価軸を定めておくのが重要です。
7.ターゲティングの注意点
ターゲティングは参入市場を決めるうえで影響が大きいプロセスです。ビジネスの方向性を左右する重要な判断なので、安易な決め方をしてはいけません。ターゲティングの際に注意すべきポイントを紹介します。
- 対象は「すべての人」
- 年齢や性別のみの設定
①対象は「すべての人」
ターゲティングでは細かなターゲット設定が必要です。
多くの顧客を獲得したいからといって、すべての人を対象にすると、戦略を立てられません。また詳細にターゲットを設定しないと、マーケティングメンバー間で独自の設定が生まれる恐れもあります。
これでは個々のマーケティング施策が連携せず、効果を最大化できないうえ、広告宣伝費や人件費などのリソースが無駄になりかねません。
②年齢や性別のみの設定
年齢と性別はターゲティングでも利用される基本項目です。しかしこの2点だけでは明確なターゲットを設定できません。
職業や家族構成、居住地などでライフスタイルが異なり、価値観も個人差の大きい要素です。異なるニーズを持ったターゲット群を一括りにしてしまうと、マーケティングメッセージの焦点が絞り切れず、没個性的なアプローチになってしまう恐れがあります。
8.ターゲティングの企業事例
適切なターゲティングによって成果を上げた企業事例を紹介します。いずれの企業もターゲットとそのニーズが明確で、マーケティング戦略と密接に結びついている点が特徴です。5社の事例を紹介しましょう。
- キュービーネット
- 良品計画
- 資生堂
- ゼンショーホールディングス
- ダイニングイノベーション
①キュービーネット
キュービーネットは、短時間で低価格の理髪店「QBハウス」を提案し、成功をおさめました。
従来の理髪店がターゲットとしていたのは男性でした。しかしキュービーネットはなかでもビジネスパーソンにターゲティングしたのです。
その結果「必要最低限のクオリティーでよいから、時間をかけず安く髪を切りたい」というニーズを発見。多忙なビジネスパーソンがすき間時間を活用し、手頃な価格で通える店舗を提供しました。
「10分1,000円(現1,200円)のヘアカット専門店」として1996年にスタートしたQBハウスは2022年6月現在、国内外で700店舗以上を展開するまでに至っています。
②良品計画
良品計画が展開する無印良品は、年齢や性別ではなくライフスタイル、嗜好性を軸にターゲティングして成果を上げている好例です。
ブランド発足当初から、ミニマルなライフスタイルを目指す人や、シンプルなデザインを好む人をターゲットに設定。極めてシンプルなパッケージやデザインを取り入れ、安くて品質のよい商品を生み出した結果、ブランディングに成功したのです。
明確なターゲットを持ち、一貫したマーケティング施策を重ねた無印良品は、国内に493店、海外に579店と大成長を遂げました。
③資生堂
資生堂のシーブリーズは、ターゲティングをやり直して、マーケティングの方向性を転換した事例です。
シーブリーズが誕生した1969年当時、休日に海で遊ぶことがトレンドだったため、ターゲットはマリンスポーツを楽しむ若い男性でした。しかし時代の変化とともに海に行く人が減り、売上も低迷。
そこでターゲティングし直し、部活や体育の後に汗のにおいを気にする高校生にターゲットを定めたのです。この判断が功を奏してターゲット母数が増え、日常使いの商品として定着。全体の使用量も上がり、1年で売上が8倍に伸びました。
④ゼンショーホールディングス
ゼンショーホールディングスが運営する牛丼チェーンすき家は、業界常識の枠を超えたターゲティングをもとに、新しい市場を創出しました。
男性ひとり客をターゲットにした牛丼市場は競争が激しく、成長性が乏しかったため、すき家はファミリー層と女性客にターゲットを拡大。さらに成長途中にあった中食市場にも注目し、品質重視で競合との差別化を図りました。
従来の牛丼チェーンが取りこぼしていた市場に参入した結果、女性や子ども連れの家族も気軽に外食を楽しめる牛丼屋というポジションを開拓。2022年現在、牛丼チェーンで業界トップシェアを獲得しています。
⑤ダイニングイノベーション
ダイニングイノベーションが展開する焼肉ライクは、少子化や核家族化による社会全体のニーズ変化を吸い上げ、焼肉の「複数人で楽しむ」「価格が高い」「時間をかけて食べる」というイメージを大きく変化させました。
「ひとりで利用しにくい」と焼肉を敬遠してきた人をターゲットに据えて、新しい市場開拓に成功したのです。可処分所得が高い30代から40代のビジネスパーソンをターゲットとし、客単価は1,500円程度に抑えて手軽さを出しました。
またメニュー数を限定して、提供時間や待ち時間の短縮を実現。その結果2019年に21店舗だった店舗数は、2022年現在は82店舗と、約4倍の増加を見せています。