ダイナミックプライシングとは? 事例、失敗、デメリット

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、需要と供給に合わせてひんぱんに価格を変動させること。仕組み、メリットとデメリット、事例などを解説します。

1.ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは?

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、市場の需要と供給に応じて、商品やサービスの価格をひんぱんに変える価格戦略のこと。目的は、利益を最大化できる価格を見極めること。ダイナミックは「変動する」という意味、プライシングは「価格設定」という意味を持ちます。

一般的に商品やサービスの値段をつけるときは、原価や仕入れ価格、人件費など、製造や開発にかかったコストをもとにします。一方、ダイナミックプライシングでは、顧客のニーズと競合他社の販売状況などを考慮して、価格を設定するのです。

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2.ダイナミックプライシングの仕組み

ダイナミックプライシングでは、需要を正しく予測し、それに応じた価格を設定することが重要です。価格設定は、おもに以下の2とおりで行われます。

  1. 売上や顧客のニーズの分析をもとに、価格を設定する
  2. AIやビッグデータを活用し、最適な価格を算出させる

①売上や顧客のニーズの分析をもとに、価格を設定する

データ分析を行い、価格を変動させても経営が成り立つ価格を決定していく手法。分析と価格決定を人力で行うのが特徴です。分析には、月ごとの売上と利益、顧客の傾向やニーズ、固定費や変動費も含めた年間コストなどさまざまなデータを用います。

以前から使われてきた手法であるものの、商品数が多いほど手間と時間をとられるのが難点です。

②AIやビッグデータを活用し、最適な価格を算出させる

分析と価格設定にAIやビッグデータを活用する手法。近年、AIを導入する企業も増えており、ダイナミックプライシングでも、ビッグデータの分析と最適かつ精度の高い値段設定を即時に行えるようになったのです。

AIを活用すれば、リアルタイムのデータを反映させた分析と、確度の高い予測を短時間で実現。利益を最大化する値段設定を効率的に実行できるのです。

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3.ダイナミックプライシングのメリット

ダイナミックプライシングは、企業側と顧客側の双方にメリットをもたらします。ここではそれぞれの目線からメリットを解説しましょう。

企業

ダイナミックプライシングを取り入れると得られる企業のメリットは、次のふたつです。

  1. 収益の最大化
  2. 在庫や人的リソースの最適化

①収益の最大化

ダイナミックプライシングが成功すれば、収益を最大化できます。

需要の高い時期には高価格でも買いたい顧客が増加。そこで値段を上げて販売し、利益を増やすのです。一方需要が低い時期には、通常価格でも売れにくくなります。そこで少しでも売れるように値段を低く設定するのです。

売上による利益は下がるものの在庫や廃棄といったコストの削減で、最終的な利益を確保しやすくなります。このようにダイナミックプライシングは従来のような一律価格での提供に比べて、より多くの収益を得られるのです。

②在庫や人的リソースの最適化

顧客の求めに応じて値段設定をするため多くの在庫を抱えずに済み、さらに人的リソースを最適化できます。

たとえばホテル業では、需要が低い時期の人員を減らし、「低価格なら利用したい」顧客を安価で受け入れると、空室にしておくよりも利益を出せます。

一方、繁忙期には価格を高く設定し、その分の利益で人員を増強。業務を圧迫せず最適な稼働ができ、より収益を高められます。

さらにAIを活用したダイナミックプライシングを行うと、価格決定にかかる工程を簡素化でき、人的リソースの削減と最適な価格設定による収益の最大化が期待できるでしょう。

顧客

顧客側からのメリットは、低価格で商品やサービスを利用する機会を得られること。

企業でダイナミックプライシングが行われると需要の低い時期には価格が下がり、同じ商品をお得に手に入れられます。たとえば先のホテル宿泊にくわえて、シーズンを過ぎた衣服やアイテム、平日のイベントチケットなども挙げられるでしょう。

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4.ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングにはデメリットもあります。企業側と顧客側それぞれの目線からのデメリットについて解説しましょう。

企業

企業がダイナミックプライシングを取り入れると、次のようなデメリットが生じます。

  1. 投資コストの発生
  2. 顧客離れのリスク
  3. 即座の対応が困難

①投資コストの発生

ダイナミックプライシングの効果を最大化するには、AIの活用や統計学などの専門知識が欠かせません。自社にスキルやノウハウがなければ、外注することになるでしょう。それにはもちろん費用も時間も必要です。

またダイナミックプライシングに投資しても、投資額以上の収益を得られなければ損益になってしまいます。

②顧客離れのリスク

ダイナミックプライシングは、顧客離れにつながる可能性もあります。同じ商品なのに時期によって値段が変わることに納得できない顧客もいるからです。

購入後に値段が下がった場合は「高値で買わされた」として企業への不満や不信感が高まり、他社へ乗り換えてしまうかもしれません。

また買いたいときには高くて買えない場合、値段が下がるのを待つ間に購買意欲がなくなって、購入を見送るケースもありえます。

③即座の対応が困難

ダイナミックプライシングにAIを導入している場合、突発的な事態にすぐに対応できない可能性もあります。

たとえば大きなイベントが行われる施設の近隣ホテルで、宿泊価格を高く設定したとしましょう。そしてそのイベントが突然中止され、キャンセルが相次ぎました。空いた部屋を埋めるためには価格を下げる必要があるでしょう。

しかしAIはイベントの中止を予測していないため、高価格のまま販売してしまうのです。AIを導入しても、このような事態に備えて人のチェックは欠かせません。

顧客

繁忙期といった需要の高い時期になると、顧客は通常時より高い値段で買うことになります。資金に余裕がなければ、今欲しい商品だとしても購入を見送らざるをえません。

時期によって価格が変わると買うタイミングによっては損をするので、価格が変動しない他社の商品へ乗り換える人もいるでしょう。またたびたび価格を変動させる販売元企業に対する不満や不信も高まります。

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5.ダイナミックプライシングの失敗例

ダイナミックプライシングを導入したものの、顧客離れを招いてしまい、失敗に終わってしまった事例を解説します。

失敗例① 飲料メーカー

ある飲料メーカーでは、気温の変化に応じて1時間ごとに自動販売機の値段を変えるダイナミックプライシングを導入。気温が上がる時間帯は需要が高まる冷たいドリンクを値上げし、それ以外の時間は価格を下げたのです。

ただし値段によって自動販売機の品数や温度は変化しません。多くの顧客は「飲みたいときに値段が上がるうえ、ドリンクの品質は安いときと変わらない」と不満を持ち、この試みは失敗に終わったのです。

失敗例② 旅行会社

ある旅行会社でもダイナミックプライシングを導入。しかし事前に、価格の上がるタイミングを明確に提示していなかったのです。

それによりこの旅行会社が提供する海外ツアーを気に入った顧客が、家族で日程やプランなどを検討している間に、料金が値上げ。短期間に納得できる理由もなく価格を上げられた顧客はこのツアーを見送り、以降もその旅行会社を利用することはありませんでした。

失敗例③ ホテル

あるホテルでも、需要が高くなるタイミングで部屋の価格を上げるというダイナミックプライシングを導入。大幅値上げにもかかわらず満室状態になり、成功したかに見えました。

しかし値上げされた部屋へ宿泊した顧客からは、「二度とそのホテルには泊まりたくない」という不満が続出。

ホテル側の「需要の高い日に価格を上げるのは当然」という認識と、顧客側の「高い価格を支払ったのだから高いサービスを受けられる」という認識に大きなギャップが生じてしまったのが理由でした。

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6.ダイナミックプライシングで失敗しないための注意点

ダイナミックプライシングの導入を成功させるには、いくつかの注意点があります。ここでは3つを解説します。

  1. 顧客への事前説明
  2. あくまで手段として活用
  3. 顧客に対する最低限の保証

①顧客への事前説明

ダイナミックプライシングを導入する際は、事前に顧客へわかりやすく説明しましょう。

とくに値上げの場合、「どの程度上がるのか」「どのくらいの範囲で上がるのか」などを十分に説明しておかないと、顧客は「急に値上げされた」と不満を募らせてしまいます。

②あくまで手段として活用

ダイナミックプライシングは、需要に高低に応じて値段を変更するという価格戦略の一手段であり、本来の目的は利益を最大化すること。

たとえば価格を上げた場合、「高くても買いたい」と思わせるだけの商品価値および付加価値がなければ、その商品は購入されないでしょう。これでは利益を最大化できません。

ダイナミックプライシングが企業と顧客へもたらすメリットが合致したときに成功率が上がるのです。

③顧客に対する最低限の保証

ダイナミックプライシングで価格を変えるなら一度顧客に提示した価格を一定期間保証する仕組みを作るとよいでしょう。

その場ですぐに購入できない顧客が後日買えるようになった際、価格が上がってしまっていたら、「この価格では買えない」と購入を見送りかねません。このようなチャンスロスを回避するには、価格の有効期限を設ける方法が有効です。

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7.ダイナミックプライシングの導入事例

さまざまな企業がダイナミックプライシングを導入し、成果を上げています。ここでは業種別に事例をご紹介します。

  1. ホテル
  2. プロ野球
  3. 鉄道
  4. チケット

①ホテル

ホテル業はブランドイメージが重視される業界なので、大幅な値下げは避ける傾向にあります。インドのHotel Windsorというホテルも同様の戦略を採用していました。しかし周辺に格安ホテルが増えたため、価格競争に負けてしまったのです。

手動で価格変更はしていたものの、頻度は週に1回が限度でした。そこで同ホテルは、ダイナミックプライシングシステムを導入。季節や曜日、予約のタイミングなどの条件を分析して、自動的に価格変更できるようにしたのです。

また「どうしても売れない」と判断した部屋のみ直前に値下げし、ブランドイメージの維持と稼働率の向上を実現。さらにシステム化によって価格変更による従業員の負担を軽減しました。

②プロ野球

プロ野球業界でも、ダイナミックプライシングの導入が進んでいます。

中日ドラゴンズは、2021年から一部座席のチケット販売にダイナミックプライシングを導入。試合日程やチームの状況、過去の販売実績などで価格が決定される仕組みです。

福岡ソフトバンクホークスも2020年から導入しており、過去の販売実績や販売期間中の実績をもとに、1日につき数回の価格更新を行っています。

③鉄道

鉄道では、国土交通省がダイナミックプライシングを検討しはじめており、鉄道料金に導入される動きが進んでいます。

主な目的は、混雑の緩和や分散です。そのため「ピーク時は料金を上げ、空いている時間は料金を下げる」というダイナミックプライシングが検討されています。

なおJRおよび東京メトロでは、似たような「オフピークポイントサービス」を開始。これは通勤ラッシュ以外の時間帯に改札をとおると、Suica定期券に「JRE POINT」が付与されるものです。

④チケット

2019年、ユニバーサルスタジオジャパンは、時期によって入園料金を変動させるダイナミックプライシングを導入。2023年2月時点では時期や曜日、イベントの有無などによって8,600円(税込)から9,500円(税込)の間で入園料金が変化しています。

閑散期に来場すると安く入場できるうえ、待ち時間なくアトラクションを楽しめるのがメリット。企業側は繁忙期の混雑緩和や、閑散期の収益アップが見込めます。