人的資本とは?【情報開示・経営についてわかりやすく解説】

人的資本は人事トレンドのひとつであり、2023年度より有価証券報告書での人的資本情報開示の義務化もスタートしました。一方で人的資本とは何か、開示や人的資本経営についてなんとなくでしか理解できていない方も少なくありません、

今回は人的資本とは何かを踏まえて、開示や経営などさまざまな観点から人的資本について詳しく解説します。

1.人的資本とは?

人的資本とは、「人材=価値を創出する源泉である資本」とみなす考え方であり、具体的には人の持つ知識やスキル、経験などの無形資産のこと。

近年、人的資本にまつわるワードとして「人的資本経営」や「人的資本投資」が注目を集めています。たとえば人的資本経営なら、人材の価値を最大限引き出し、企業の中長期的かつ持続的な成長・価値向上につなげる経営を指すのです。

企業を発展させるために新たな価値を創出するのが人的資本であり、企業は人的資本の創出・育成に投資することが重要視されています。

人的資本の定義

人的資本(human capital)は、企業の持つ経営資源「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、ヒトがもつ能力や知識、技術、資質のこと。

人的資本の起源は18世紀に登場したアダム・スミスの『国富論』にあり、特別な技能と熟練を要する職業のため、時間と労力をかけて教育された人を高価な機械にたとえていました。

その後、セオドア・シュルツやゲイリー・ベッカーなどの経済学者が「人的資本」として再定義し、現在の人的資本として定着したのです。

後天的に習得できるものに対しては時間やお金をかけることでヒトに備わり、結果的に売上や利益の向上により経済的に企業が発展します。

それだけでなく採用や労働安全の確保、多様性が認められる職場作りなど、ヒトに関するあらゆる面に投資すると、従業員の健康状態や幸福感の向上、組織力の強化やブランディングなどにも利益をもたらすのです。

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2.人的資本と人的資源の違い

人的資本と人的資源では「ヒト」に対するとらえ方に違いがあります。

人的資源(human resource)は人の持つ能力やスキルは消費するもの(コスト)とみなす考え方で、できるだけ効率化・削減するのが望ましいと考えられるのです。

一方、人的資本は人の持つ能力やスキルは「資本」であると同時に投資対象であるため、投資して価値を増やす・上げていくことが望ましいとされています。

つまり、人的資本の考え方において人は消費されません。投資されたうえで最大限活用され、結果的に企業の持続的な発展を実現する重要な資本といえるのです。

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3.人的資本が注目されている背景

人的資本が注目されている背景には、次のような世の中の変化が大きくかかわっています。

  1. 人材や働き方の多様化
  2. ESG投資の重要性の向上
  3. 無形資産の価値向上
  4. 人的資本の開示義務化の動き

①人材や働き方の多様化

現代はグローバル化による外国人従業員の増加やダイバーシティの重要性の高まりによる女性管理職の増加、非正規雇用など人材や雇用形態の多様化が進んでいます。

さらに、コロナ禍におけるテレワークの普及や個々の事情に左右されない自由な働き方などが求められている時代です。

こうした状況でこれまでのような画一的な人材管理では、いつか限界を迎えるかもしれません。そこで人的資本の考え方を反映させ、従業員一人ひとりに合わせた環境でその人の価値を最大限引き出す人材管理が重要性を増しているのです。

②ESG投資の重要性の向上

ESG投資とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」3要素に配慮して経営に取り組んでいる企業に投資する考え方のこと。なお、人的資本への取り組みは、ESGにおけるS(社会)にあたります。

ESG投資では財務状況だけでなく「環境問題や社会問題に取り組んでいるか」「健全な経営が執り行われているか」に着目し、投資を判断しているのです。

ESGへの取り組みが直接利益に結びつくとは限りません。しかしESGに配慮した経営に取り組んでいる企業は、持続的な発展に期待できる企業として高く評価されるのです。

反対にESGに配慮せず、目先の利益にとらわれた経営を行う企業は長期的な成長の面でリスクがあるとみなされ、投資面でも不利になる可能性が高まります。

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③無形資産の価値向上

現代はさまざまな業務がAI含めたテクノロジーに代替され始め、市場も成熟化しつつあります。そのなかで企業が持続的に発展するには、革新的なイノベーションの創出が必要なのです。

イノベーション創出の源泉は人的資本である点からも、無形資産である人的資本の重要性が高まっています。これからは人的資本を高めて無形資産の価値を向上し、その価値を最大限活用することが重要になるでしょう。

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④人的資本の開示義務化の動き

2020年8月、米国証券取引委員会は上場企業に対して人的資本の開示を義務化しました。日本でもコーポレートガバナンスコートの改訂や有価証券報告書における人的資本の開示義務化など、具体的な動きが広まっています。

人的資本への注目は世界的に高まっており、とくにグローバルに展開する企業は人的資本の情報開示に取り組まないと、投資面で不利になってしまう恐れもあります。

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4.人的資本の情報開示とは?

人的資本の情報開示は世界的にも義務化の動きが進み、日本でも2023年度から上場企業に対して有価証券報告書での開示が義務づけられました。ここでは、人的資本の情報開示について詳しく解説します。

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開示が求められる理由

2023年度より上場企業に対して人的資本の開示が義務づけられ、有価証券報告書への記載が必要となりました。

しかし義務化されているからという理由にかかわらず、今後企業が資金面で投資家からサポートを受けたり、事業から継続的な利益を得たりするためには、人的資本が重要です。

人的資本は目には見えない無形資産であるからこそ、数値化・言語化して開示することで、ステークホルダーに自社の人的資本の価値を知ってもらう必要があります。

開示するメリット

下記は、人的資本を開示する主なメリットです。

  • 企業イメージの向上
  • 投資面でのメリット

人的資本の考え方をもとに経営を行っている企業は、人を大切にする企業とイメージづけされやすくなります。企業イメージの向上により、商品・サービスの購入者・利用者が増えれば、企業利益の向上につながるでしょう。

また近年、ESG投資が重視されているため、目に見えない人的資本を開示して見える化する必要があります。人的資本への取り組みを開示すると投資家からよい評価を受けられ、投資面でも有利になるのです。

ISO30414とは?

人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインです。2018年に国際標準化機構(ISO)から発表され、人的資本を開示するための基準が明確化しました。

ISO30414の目的は人的資本の状況を定量化すること。基準が明確になったため企業が自社の人的資本状況をデータとして分析しやすくなりました。くわえて、人的資本を活用するための施策も打ち出しやすくなったのです。

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開示が求められる19項目

開示が求められる人的資本は、次の7分野19項目です。

  • 人材育成:リーダーシップや育成、スキルや経験
  • エンゲージメント:従業員満足度
  • 流動性:採用や維持、サクセッション
  • 多様性:ダイバーシティや非差別、育児休業
  • 健康・安全:精神的健康や身体的健康、安全
  • 労働慣行:労働慣行や児童労働・強制労働、賃金の公正性や福利厚生、組合との関係
  • コンプライアンス:法令遵守

人的資本の情報開示では、上記項目をすべて開示するわけではありません。義務化されている項目以外では、自社の経営戦略をふまえてステークホルダーからよい評価を受けられるかといった観点から項目を選択します。

開示義務化された項目

下記項目は、有価証券報告書への記載が義務づけられています。

  • 人的資本:人材育成方針や社内環境整備方針
  • 多様性:女性管理職比率や男性の育児休業取得率、男女間賃金格差

人的資本の項目では、指標と目標(進捗状況)を積極的に開示することが期待されています。

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5.人的資本経営とは?

人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出して、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方と経済産業省は示しています。ここでは、人的資本経営について詳しく解説しましょう。

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一般的な経営との違い

一般的な経営との違いは、下記ポイントにあります。

  • 経営戦略と人材戦略を連動させているか
  • 人材に積極的に投資しているか

一般的な経営は企業の利益を求めて人材を活用する一方、人的資本経営は人材に投資しながら企業の中長期的かつ持続的な価値向上を目的に経営を進めます。人を資源として効率化・消費するのではなく、投資して価値を高めていくのが人的資本経営です。

注目される理由

人的資本経営が注目される理由は、人的資本が注目されている理由と同様です。

  • 多様化する人材や働き方に対応した経営を行うため
  • ESG投資の重要性が高まっているため

人的資本経営を行わないと、企業が持続的に発展するための革新的なイノベーションは生まれません。経営戦略と人材戦略を連動し、人材に投資して価値を向上させる経営を行って初めて、企業の持続的な発展が実現するのです。

実践するメリット

人的資本経営を実践する主なメリットは、次のとおりです。

  • 企業イメージの向上
  • 生産性、エンゲージメントの向上
  • 投資面での優位性確保

人的資本に投資を惜しまない企業はヒトを大切にする企業とのイメージづけられるだけでなく、人的資本の開示によって、投資家を含むステークホルダーからよい印象・評価を受けられ、企業イメージも向上します。

また、従業員が自分の価値を高められる環境、価値向上のために企業が投資してくれていると認識できる環境は、エンゲージメント向上にも有効です。

結果、企業のために貢献しようという気持ちが芽生え、投資の結果備わった知識や技術をもとに革新的なイノベーションの創出に期待できます。

そして、ESGにおけるS(社会)面からも人的資本経営に取り組むことは重要です。投資家から持続的な発展が見込める企業と評価されるため投資されやすくなり、資金面からも安定的な経営が行えるようになります。

人材版伊藤レポートとは?

2020年9月経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」のこと。人材版伊藤レポートの発表を機に、国内で人的資本や人的資本経営への注目が高まりました。

また2022年5月には、2020年に発表された内容をより深堀りした「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。

「人材版伊藤レポート2.0」では経営戦略と人材戦略を連動させた経営を行うべきと結論づけ、人的資本の重要性を認識したうえで、人的資本経営を実行するための主眼や有用となるアイデアを提示しています。

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6.人的資本経営と人的資本の情報開示はどう関係する?

人的資本経営に取り組むと人的資本の情報開示に対応できるようになり、人的資本経営に取り組んでいるとステークホルダーに証明できます。

しかし、人的資本の情報開示が目的にならないよう注意しましょう。なぜなら人的資本経営の目的は企業の持続的な価値向上の実現であり、情報開示はその手段のひとつだからです。

つまり開示項目にある人的資本は、戦略的な人的資本経営を実行する指標に過ぎません。

また人的資本の情報開示では、すべてを開示すればよいわけではありません。自社の経営戦略と連動させたうえで、自社に合った人的資本経営を実行し、競合他社と差別化が図れるような戦略的な情報開示をするのが望ましいとされています。

そして情報開示は、人的資本経営の取り組みの進捗を見える化する役割も持つのです。開示情報から新たな課題を抽出し、自社が目指す人的資本経営を実現するために必要な施策の策定にも役立ちます。

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7.人的資本を高める方法

人的資本を高めると、企業価値の向上に直結します。ここでは、人的資本を高める具体的な方法をご紹介しましょう。

  1. 経営戦略に落とし込む
  2. 戦略的な人材育成を行う
  3. 適材適所な人材配置を行う
  4. タレントマネジメントシステムの活用

①経営戦略に落とし込む

どのような人的資本が必要で、どう人的資本を高めるべきかは、企業の戦略や状況によって異なります。効果的かつ効率的に人的資本を高めるには、経営戦略に人的資本を落とし込み、組織で一体的に人的資本を高めていくことが重要になるのです。

経営戦略と連動してこそ、自社に必要な人的資本を高められます。

②戦略的な人材育成を行う

人的資本を高める直接的な手法は、人材育成です。人的資本には先天的な資質も含まれるものの、後天的に身につけられるスキルや知識も重要になります。

経営戦略を達成するために必要な人的資本を定義し、戦略的に育成を進めていくと自社に必要な人的資本が高められるでしょう。

具体的には職務やキャリアに応じた研修・教育体制の整備、スキルアップや資格取得支援といった制度導入が挙げられます。また従業員が主体的に学べる環境を整えるのも大切なポイントです。

③適材適所な人材配置を行う

人的資本が高められても、その価値が最大限生かされていないと人的資本経営は実現しません。高めた人的資本を最大限活用するには、適材適所な人材配置が重要です。

個々が自身の人的資本を最大限活用できると、組織全体の生産性やパフォーマンスが向上します。結果企業利益の向上だけでなく、適切な評価による従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上も期待できるのです。

④タレントマネジメントシステムの活用

人的資本を高めるには、自社の人的資本状況を可視化する必要があります。そこでおすすめなのが、タレントマネジメントシステムの活用です。

タレントマネジメントシステムは「誰がどのような能力、知識を持っているか」「どのような配置状況か」など組織の人的資本情報を一元管理・把握できます。また、ただ情報を管理するだけでなく、分析・活用するための機能も備えているのです。

無形である人的資本を可視化ことで定量的な分析が可能となり、より戦略的かつ効果的に人的資本が高められます。

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