産休とは、出産や子育てに専念するため仕事を休める制度のこと。産休の条件や取得方法、出産における手当や補償制度、育休との違いなどを解説します。
目次
1.産休とは?
産休とは、労働をしている女性が出産や育児のために休業できる制度のこと。産休は「産前休業」と「産後休業」のふたつにわかれ、一般的に、産前休業と産後休業を合わせて産休と呼ばれます。
- 産前休業:出産の準備をするための休業
- 産後休業:産後の体を回復するための休業
産休制度は労働基準法第65条に定められており、出産を迎えるすべての女性に適応される制度です。産前休業の取得は任意ですが、産後休業の取得は義務となります。
産休の対象者
産休は、出産を迎えるすべての女性に適用されます。就業期間や雇用形態にかかわらず、パートであっても取得が可能です。
2.産休はいつからいつまで取得できる?
産前休業は、出産予定日の6週間前(42日前)から取得できます。出産予定日は妊娠40週0日となるので、最短で34週目から休業が可能です。なお多胎妊娠(双子や三つ子など)の場合は出産におけるリスクが高くなるため、出産予定日の14週間前から取得できます。
産休取得期間の例を挙げると、出産予定日が2023年1月31日の場合、42日前の2022年11月21日から2023年1月31日までが産休期間となります。産後休業は原則、出産び翌日から8週間まで。ただし医師の許可があれば6週間後から仕事に復帰するのも可能です。
出産予定日にズレが生じた場合
出産予定日はあくまで予定であり、実際にはズレる可能性もあります。出産予定日がズレた場合、産前休業と産後休業のいずれもズレるのです。
出産予定日よりも早く出産した場合、出産翌日からそのまま産後休業に入り、産前休業は短縮されます。出産予定日よりも遅く出産した場合、出産予定日から実際の出産までの期間を産前休業として認め、申請した休業期間よりも長くなります。
たとえば出産予定日が3日遅れたら、休業期間は3日延長されるのです。産後休業の期間、いずれの場合でも8週間のまま変わりません。
3.産休取得の条件と方法
産休を取得する際、本人が会社に申請する必要があります。ただし申請が必要なのは産前休業のみ。産後休業は義務なので、申請は必要ありません。両方の申請を同時に行えるよう「産前産後休業届」といった書類を用意している企業も多く見られます。
4.産休中の給与や手当はどうなる?
産休を取得した場合、その期間は勤務日にあたらないため給与は入りません。しかし企業によって手当や一時金が出る場合もあります。
給与
産休中は原則、給与の支払いはありません。しかし近年、福利厚生制度を設けて、産休中でも給与を支給する会社が増えています。たとえば社員が加入している健康保険組合から出産手当金を支給するといったものです。
公務員の場合、産休は有給休暇として扱われるため、給与は通常どおり支払われます。また公務員は、共済組合による出産費と出産費附加金の支給を受けられるのです。自治体によっては、出産祝い金が出される場合もあります。
ボーナス
ボーナスの算定期間後に産休に入る場合、満額支給されます。ボーナスの算定期間中に産休に入る場合、会社が定める支給日在籍要件に合わせて減額されるかもしれません。
たとえばボーナスの算定期間が6月から10月だった場合、11月から産休に入ると満額支給されますが、9月から産休に入ると2か月分は減額される可能性もあります。なおボーナスは臨時給与にあたるため、出産に関する手当や休業給付金の受給に影響をおよぼしません。
出産手当金
産休で給与の支払いがない期間に支給される手当のこと。出産手当金の支給の条件は、次のとおりです。
- 勤務している会社の健康保険に加入している
- 妊娠4か月以降の出産である
- 出産のため休業している(産休中で給与の支払いがない)
支給される手当金の金額は「1日あたり、標準報酬日額の3分の2の額」。たとえば全体で90日間の産休だった場合、支給額は「標準報酬日額の3分の2の額×90日」です。
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手続きの流れ
出産手当金の申請手続きは、産休期間が明けてから行うのが一般的です。手続きでは「出産手当金申請書」と「医師・助産師の証明書等」が必要になります。手続きの流れは次のとおりです。
- 会社の健康保険担当者から出産手当金申請書を受け取る
- 申請書において自分が記入できる部分は記入する
- 出産後、出産を担当した医師・助産師に申請書内の「医師・助産師記入欄」を記入しても
らう - 産休明けに申請書を健康保険担当者にわたす
- 会社が保険者に申請書を提出する
出産育児一時金
子どもの出産一人につき健康保険から50万円支給される制度のこと。2023年4月から支給額が42万円から50万円へ増額となりました。双子や三つ子など多胎出産の場合、子どもの人数分だけ支給されます。
出産一時金の対象者は、健康保険の加入者とその被扶養者、および国民健康保険の被保険者とその被扶養者。日本には国民皆保険制度があり、すべての国民は公的医療保険に加入できます。
そのためいずれかの健康保険に加入済み、かつ日本で出産した人は出産一時金を受け取れるのです。
手続きの流れ
出産一時金の支給は、主に「直接支払制度」「受取代理制度」「事後申請」の3つ。
- 直接支払制度:健康保険組合から分娩を担当した医療機関へ直接支払われる制度のこと。本人が医療機関に申請し、医療機関が支払機関に請求。支払機関が健康保険組合に請求する流れ。支払いは逆の順で行われ、受け取るのは医療機関となる
- 受取代理制度:出産一時金の手続きのすべてを医療機関に委託する制度
- 事後申請:出産費用を自費ですべて支払ってから給付を受ける制度です。
社会保険料
産休や育休を取得すると、休業開始月から休業終了の前月までの社会保険料が免除されます。免除される金額は年収によって異なる点に注意が必要です。
産休や育休で社会保険料が免除されても、免除期間はすべて納付扱いとなります。そのため将来の受給金額に反映されるのです。また健康保険の給付も通常どおり受けられます。
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手続きの流れ
産休を取得する場合、会社側が日本年金機構へ「産前産後休業取得者申出書」を提出します。記載や届出はすべて会社側が行い、本人が記載する箇所はありません。申出書の様式は、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
5.産休手当(出産手当金)の計算方法
出産手当金は「1日あたり、標準報酬日額の3分の2」となります。標準報酬日額の計算方法を解説しましょう。
標準報酬日額を求める計算式
標準報酬日額は、手当金の給付開始日を起算日とし、過去12か月間の給与(残業代含む)の平均額を30日で割って計算します。まず「給与合計額÷12」で標準報酬月額を算出し、「標準報酬月額÷30日」で標準報酬日額を計算するのです。
産休手当の計算例
標準報酬月額が24万円で、産休期間が90日だった場合の計算は次のとおりです。
- 標準報酬月額:24万円÷30日=8,000円
- 標準報酬日額:8,000円×2/3=5,333円
- 出産手当金額:5,333円×90日=47万9,970円
6.産休前後に有給はくっつけられる?
産前休業よりも前、あるいは産後休業のあとならば、有給を合わせるのも可能です。ただし会社の事情や繁忙期の状況によっては、希望どおりに取得できない可能性もあります。
また出産手当金を満額受け取りたい場合、産前休業前に有給休暇を消化する必要があります。有給休暇は労働日と見なされるため、産休中に有給休暇を取得してしまうと、有給休暇の日数分の出産手当金を受け取れなくなるからです。
つまり産休と有給休暇が重なるほど、出産手当金が減ってしまいます。なお産後休業中は労働が禁止されているため、有給を取得できません。
7.産休に入る前に準備しておきたいこと
産休に入る前は、各種申請の手続きや業務の引き継ぎを行う必要があります。産休前に準備すべきことについて説明しましょう。
業務の引き継ぎ
人によっては産休期間が1年から2年におよぶため、産休を取る際は業務の引き継ぎが必要です。それまで自身が行ってきた業務を適切な後任者に引き継げば、産休中も問題なく業務がまわるでしょう。
また産休後に職場復帰を望む場合、産休中でも「いつか仕事に復帰する」という気持ちを維持し、できるだけ仕事の感覚を忘れないようにしましょう。
休業に係る各種手続きの確認
産休に必要となる書類や申請手続きは多岐にわたります。漏れがあると産休に入れない場合もあるので注意が必要です。各種手続きは本人が申請するものと会社側が申請するものがあるため、必ず双方でチェックしましょう。
住民税の徴収方法を決定
産休中は社会保険料が免除されますが、住民税は引き続き支払います。そのため産休に入る前、住民税の徴収方法を決めておかなければなりません。主な徴収方法は次の3つです。
- 会社側に立て替えを依頼する(産休明けに徴収する)
- 産休前に給与から一括で徴収する
- 直接自分で納付する(普通徴収への切り替え)
新生児の健康保険証を発行する手続き
生まれた赤ちゃんの健康保険証を発行するには、赤ちゃんを新たに被扶養者とする手続きが必要です。手続きの期限は原則、出生日から5日以内となっているため、出産前に準備を進めておきましょう。
なお5日以内に手続きができなくとも、出生届を提出(原則出生日から14日以内)していれば、出生日が被扶養者認定日として認められます。
8.産休を取得する際の注意点
産休を取得するときは、「手当や補助の申請期限」「産休中の会社とのやり取り」などに注意を払う必要があります。
手当な申請期限
産休に関する手当や補助を受けるには、申請の手続きが必要です。申請には期限が定められており、1日でも期限を過ぎてしまうとお金が受け取れなくなります。
手当や補助制度の申請期限を事前にしっかり確認しておき、早め早めに準備しておくことが大切です。また期限だけでなく、必要書類や手続きの方法もあわせて確認しておきましょう。
産休中も状況を報告
産休中でも、定期的に会社に状況を報告しましょう。出産の報告だけでなく職場復帰の時期などを報告しておくと、会社側も人的リソースを調整しやすくなるからです。
産休中の社員がいつ復帰するかわかっていれば、会社側もそれに合わせて受け入れ態勢を整えられ、本人もスムーズに復帰できます。なお育休中にも同じことがいえるでしょう。
9.産休後の育休期間はいつからいつまで?
育休は女性だけでなく男性(配偶者)も取得できます。
- 女性の育休期間:出産後の8週間の産休のあと、子供が1歳の誕生日を迎える前日まで
- 男性の育休期間:子供が産まれた日から、子供が1歳の誕生日を迎える前日まで
特別な理由がある場合は育休期間を1歳6か月まで延長でき、さらに事情がある場合、最大で2歳まで延ばせます。
10.産休と育休の違い
産休は労働基準法で定められた休業で、産後の女性の身体的回復と出産した子どもの保護を目的とします。一方育休は育児介護休業法に定められた休業で、労働者の育児と仕事の両立およびスムーズな職場復帰の支援が目的です。
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対象と申請期限
産休の対象者は女性のみ、育休の対象者は女性と男性の両方である点が異なります。
また申請期限も違いがあるのです。産休の申請期限は出産予定日の6週間前(42日前)、多胎妊娠の場合は14週間前(98日前)まで。育休の申請期限は休業開始日の一か月前までです。
育休は産休と同じく雇用形態などを問わずに取得できるものの、いくつかの条件をクリアする必要があります。
取得条件
産休は雇用形態を問わず、出産を迎える女性であれば誰でも取得可能です。一方、育休には「子が1歳6か月に達する日までに、労働契約が続くと明らかである」という取得条件が設けられます。
令和4年3月31日までは「同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること」という条件もありましたが、法改正によって撤廃されました。