エフィカシーとは、「自分ならできる」と信じている心理状態のこと。ここでは自己肯定感との違い、エフィカシーが高い人の特徴、企業にもたらすメリットとデメリットなどを解説します。
目次
1.エフィカシーとは?
エフィカシーとは、「自分ならできる」と確信を持っている心理状態のこと。「有効性や効果、効能」などを意味する英語「Efficacy」が語源で、日本語では「自己効力感」と訳します。
心理学者アルバート・バンデューラの「社会会的学習理論」のなかで提唱された概念です。社会的学習理論では、人が行動するかどうか決めるときに「先行要因」が存在し、先行要因は次のふたつで構成されると考えています。
- 結果予期:行動した結果を推測すること
- 効力予期:期待する結果を生むために適切に行動できるという確信のこと
エフィカシーは、自身が「効力予期」を持っている状態です。
2.エフィカシーと自己肯定感の違い
エフィカシー(自己効力感)と混同しやすい言葉に、「エスティーム(自己肯定感)」があります。どちらも「自分を肯定する」という点が共通するものの、「どの時点の自分を対象としているか」が異なるのです。
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1.自己肯定感とは?
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違いは自分のいる「時点」
自己肯定感の対象は「過去と現在の自分」、エフィカシーの対象は「未来の自分」である点が異なります。
自己肯定感とは、過去の失敗や成功、現状の立ち位置など、ありのままの自分をすべて受け入れる心理状態のこと。一方エフィカシーは、目の前の仕事や課題に対して「自分ならできる」と信じる心理状態です。
また自己肯定感では性格や経験なども含めて「自身自身」を肯定します。しかしエフィカシーは「自分の能力」を肯定しているので、その点でも異なるのです。
3.エフィカシーの3つのタイプ
エフィカシーには、次の3タイプにわかれます。それぞれについて説明しましょう。
- 自己統制的自己効力感
- 社会的自己効力感
- 学業的自己効力感
①自己統制的自己効力感
「自分ならできるはず」と考える心理状態です。エフィカシーという場合、多くはこのタイプを指します。
特徴は、期待する結果が得られなくてもあきらめず、新しい方法を検討して再チャレンジできること。ビジネスで大きな成果を生み出すには、トライ&エラーが欠かせません。
自己統制的自己効力感が高い人は失敗しても試行錯誤してポジティブに行動し、より大きな目標を達成する可能性があります。
②社会的自己効力感
対人関係に関するエフィカシーで、「きっとこの人と仲良くなれる」と考える心理状態です。幼少期の人間関係で育まれ、大人になっても持続します。
社会的自己効力感が高い人の特徴は、コミュニケーション能力への自己評価が高いこと。自信を持って人と接していけるため、組織の中で良好な人間関係を築けます。このような人は顧客と信頼関係を構築し、チーム内の人間関係を円滑化する可能性が高いでしょう。
③学業的自己効力感
「どんなことも学べば必ず理解できる」と考える心理状態です。幼少期からの学習成果で育まれます。特徴は、学力そのものが高いだけでなく、学びに対する満足度の高さ。
そのため新しい知識を得ることに意欲的で、ビジネスに必要な資格やスキルの習得に積極的に取り組みます。学習計画を立てていることも多く、業務においてもスケジュール管理やタスクの管理をスムーズに進められるでしょう。
4.エフィカシーが高い人の特徴
エフィカシーが高い人は成功体験が多く、基本的に「自分ならできる」とポジティブに考えます。ふたつもふくめて6つの特徴を解説しましょう。
- ポジティブ思考
- 責任感や当事者意識が強い
- 成功体験が多い
- 良好な人間関係を構築
- ストレス耐性が高い
- 目標設定が高い
①ポジティブ思考
エフィカシーが高い人に共通する特徴です。ポジティブに考えて積極的に行動したとえ失敗しても「難しいけれどやりがいがある」「やり遂げれば成長できる」と前向きに考えて、チャレンジし続けます。
②責任感や当事者意識が強い
エフィカシーが高い人は、責任感や当事者意識が強い傾向にあります。つねに「自分ならできる」と考えるため、人任せにせず主体的に行動するからです。
また失敗した場合でも「自分の能力が不足しているからだ」と考えます。そのため「成功するにはどのような知識を得ればよいか」「どのような行動をすればよいか」を検討し、目標達成に向けて自らスキルアップを行うのです。
③成功体験が多い
幼少期から大小さまざまな成功体験を積んでいる人は、エフィカシーが高い傾向にあります。「自分で行動して問題を解決した」あるいは「目標を達成した」という成功体験から、自分の能力に自信を持てるようになるからです。
④良好な人間関係を構築
エフィカシーが高い人は、周囲の人々と良好な人間関係を構築できます。自分の能力に自信を持っているため「他人を比較して落ち込む」「他人を嫉妬する」といったネガティブな感情が少ないのです。
そのため相手の言動や考え方を尊重でき、多くの人と信頼関係を築けます。
⑤ストレス耐性が高い
エフィカシーが高い人ほど「自分ならできる」という前向きな気持ちが強いため、ストレス耐性が高くなります。成果があがらなくても悩んだり落ち込んだりせず、「次はきっとできるはず」と考えられるからです。
⑥目標設定が高い
エフィカシーが高い人は、つねに高い目標を掲げて努力をしていきます。「自分はもっとできる」という気持ちが強いため達成が困難だと思われる課題や目標にも、自ら進んでチャレンジしていくのです。また目標達成に向けた自己管理能力も高い傾向にあります。
5.エフィカシーの高い人材がもたらすメリット
エフィカシーが高い人材は仕事で高い成果を上げるうえに、周囲によい影響を与えます。企業にもたらすメリットを3つ解説しましょう。
- 業績アップ
- 従業員のモチベーションアップ
- 社内コミュニケーションの活性化
①業績アップ
エフィカシーの高い人材が増えると、企業の業績が向上しやすくなります。エフィカシーが高い従業員は、困難な課題に粘り強く取り組み、ゴールまでやり遂げるからです。多くの従業員のエフィカシーが高まるほど、企業全体の生産性も向上していくでしょう。
②従業員のモチベーションアップ
エフィカシーが高い人材は、周囲のモチベーションを向上させます。つねにポジティブに仕事に取り組み、困難な課題に粘り強く立ち向かう姿が、周りの人間によい影響を与えるからです。
チーム内に「自分も頑張ろう」と考えるメンバーが増えると、チーム全体の活性化が促進されます。チームの目標を達成すれば成功体験を得られるため、さらにメンバーのモチベーションやエフィカシーが向上するのです。
③社内コミュニケーションの活性化
エフィカシーが高い人は良好な人間関係を築けるので、社内コミュニケーションの活性化を促します。またエフィカシーが高い人の影響で前向きな気持ちを持つ従業員が増えると、職場の雰囲気が明るくなり、コミュニケーションも促進されるのです。
6.エフィカシーが高い人材がもたらすデメリット
エフィカシーが高い従業員は、企業に悪影響を与える可能性もあります。ここではふたつのデメリットについて解説しましょう。
- 周囲との温度差が発生
- 自分の能力への過信
①周囲との温度差が発生
企業の雰囲気によっては、エフィカシーが高い人材とほかの従業員との間にテンションの差が生じる場合もあります。
たとえば「頑張っても報われない」「努力しても変わらない」という雰囲気の組織では、エフィカシーが高い人は周囲から浮いた存在になってしまい、人間関係が悪化する恐れもあるのです。
このような企業で高いエフィカシーを維持するのは難しく、最終的に離職してしまうかもしれません。
②自分の能力への過信
エフィカシーが高い人材は、つねに自分を肯定し自信を持っているため、自身の能力を過信してしまう場合もあります。
いきすぎると周囲の人間を見下したり、不可能な案件にやみくもに突き進んだりする恐れもあるのです。上司は能力を認めるだけでなく、適切な評価やフィードバックを与えて自省を促しましょう。
7.エフィカシーを高める方法
エフィカシーを高めるには、成功体験やポジティブシンキング、自己認識などが必要です。ここでは8つの方法を解説します。
- コーチングセッション
- アファメーション
- コンフォートゾーンの設定
- 成功体験の蓄積
- 適切な目標設定
- 前向きなフィードバック
- 知識や情報のインプット
- 見本となる人材の設定
①コーチングセッション
コーチとクライアントが1対1でビジョン(理想)について対話をすること。コーチは質問をとおしてクライアントの気づきや理解を促します。
コーチングセッションでエフィカシーが低い原因、理想の未来や現状、目標を達成する方法などを明確にしていくと、エフィカシーを高められるのです。
コーチングスキルが必要になるため、社内に適した人材がいない場合、専門のコーチに依頼するとよいでしょう。
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②アファメーション
肯定的な言葉を自分自身に語りかけ、潜在意識からポジティブに変えていくマインドセットのこと。アファメーションを活用すると、「どうせ自分には無理」という考えを「自分ならできる」に変えられるようになり、エフィカシーが高まるのです。
アファメーションが習慣化すれば、「頑張ろう」「変わろう」と気を張らなくても自然に積極的な行動をとれるようになります。
③コンフォートゾーンの設定
ストレスや不安を感じない、心地よい範囲のこと。コンフォートゾーンの範囲が広がると、エフィカシーを高まることがあります。
たとえば「挑戦しない」ことに心地よさを感じるのではなく、「目標に向かって行動している」ときに心地よさを感じられるようになると、困難な課題にも自然に立ち向かえます。成功体験が蓄積されていくほどエフィカシーが向上するでしょう。
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④成功体験の蓄積
従業員がさまざまな成功体験を得られる環境を整えると、エフィカシーを高められます。
上司は部下の能力に合わせた課題を与えて見守り、結果だけでなく過程も適切に評価するのがポイント。課題を達成したらしっかりと認め、部下に「自分の力だけでできた」と実感させましょう。
課題をクリアするごとに少しずつ難易度を上げると、本人も成長を実感でき、モチベーションが向上します。
⑤適切な目標設定
従業員自身に目標を設定させるのもよい方法です。自主的に行動するようになり、目標達成などの成功体験を得やすくなるからです。
1on1ミーティングを行い、本人と上司が話し合いながら適切な難易度の目標を定めるとよいでしょう。ゴールだけでなく、達成過程で細かい目標を設定すると、モチベーションの維持に効果的です。
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⑥前向きなフィードバック
従業員のエフィカシーを上げるには、ポジティブなフィードバックが大切です。前向きなフィードバックで「次はできる」と感じさせ、たとえ結果がでなくても次回へのアドバイスやよかった点を認める声掛けをしましょう。
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⑦知識や情報のインプット
研修をとおして従業員に新しい知識や情報をインプットさせると、エフィカシーを高められます。新しい知識を得ると自己の成長を実感できるからです。インプットした知識や情報をほかの従業員に伝える機会を与えれば、さらにエフィカシーが向上するでしょう。
⑧見本となる人材の設定
エフィカシーが高い人物を見本に設定し、行動を観察させて従業員に気づきを促す方法もあります。対象従業員と立場や年齢などが近い人を見本にすると、従業員は「自分にもできる」と感じて行動するようになるからです。
その結果、成功体験を得やすくなり、エフィカシーが高まります。
8.エフィカシーを下げてしまうNG行動
上司の行動次第では、エフィカシーを低下させてしまう恐れもあります。ここではエフィカシーを下げるNG行動をふたつ解説しましょう。
- 後ろ向きなフィードバック
- 現実味のない目標設定
①後ろ向きなフィードバック
後ろ向きなフィードバックだけを伝えると「自分はだめだ」「がんばってもできない」と思わせてしまい、エフィカシーを下げかねません。どうしても伝えなければならない場合は、ポジティブなフィードバックもあわせて行いましょう。
また他者の前でネガティブなフィードバックを行うのは控えましょう。従業員の自尊心や自信を大きく失わせ、エフィカシーが著しく低下するからです。このような場合は、1on1で行うとよいでしょう。
②現実味のない目標設定
現状では達成不可能な目標を「君ならできる」と押しつけてはいけません。あまりに難易度が高いと、取り組もうという意欲がわかないからです。取り組んだとしても達成できなければ、成功体験を得られません。
部下が能力以上の目標を提示してきた場合、上司は部下とよく話し合い、達成可能な目標へ調整する必要があります。