学習性無力感とは、何をやっても無駄に感じる諦めの状態のことです。ここでは、学習性無力感について解説します。
目次
1.学習性無力感とは?
学習性無力感とは、努力しても思ったような結果が得られない状況に長期間置かれることで、抵抗することを諦めてしまう状態のことです。学習性無力感の概念は、1967年、米国の心理学者であるマーティン・セリグマンが発表しました。
絶望感により無気力になることから、
- 学習性絶望感
- 学習性無気力
とも呼ばれています。
2.学習性無力感に関する研究と実験
学習性無力感に関する研究は、さまざまな国や機関で行われています。ここでは、犬と人の有名な実験を例に学習性無力感の本質に迫る研究内容を簡単にポイント解説します。
犬を対象にした実験
アメリカのセリグマンによって、犬を対象とした学習性無力感に関する実験が行われました。具体的には電気ショックの流れる細工をした部屋に犬を入れ、その差異を確認する実験です。犬はそれぞれ次の別々の条件の環境に置かれました。
- 1匹はスイッチを押すと電流が止まる環境
- 1匹は何をしても電流が止まらない環境
実験の結果、次のことがわかりました。
- 電流が止まる環境下の犬は、積極的にスイッチを押すようになる
- 電流が止まらない環境下の犬は、抵抗しなくなった
人を対象にした実験
人を対象した実験では、大きな音を使いました。不快になるほど大きな音がでる細工をした部屋に被験者を入れ、その差異を確認します。被験者はそれぞれ次の環境に置かれました。
- 一方は、スイッチを押すと音が止まる環境
- もう一方は、何をしても音が止まらない環境
実験は次のような結果になりました。
- 音が止まる環境下に置かれた人は、積極的にスイッチを押す
- 音が止まらない環境下に置かれた人は、抵抗しなくなる
3.仕事における学習性無力感の例
仕事でも学習性無力感に陥ることがあります。ここでは、3つの学習性無力感の状態について簡単に解説します。
具体例①達成への意欲がなくなる
仕事で学習性無力感に陥った場合、達成への意欲がなくなります。たとえば、営業や販売などのノルマがある仕事では、休日返上で一生懸命顧客に働きかけてもなかなか商談がまとまらなかったり、販売数が上がらなかったりするケースです。
このようなケースでは、
- ノルマを達成する意欲を失う
- スキルアップを諦めてしまう
ことがあります。
具体例②積極性がなくなる
ビジネスで学習性無力感に陥った場合、積極性がなくなります。たとえば、上司に対して何度も何度も企画書を提案していたにもかかわらず、上司から企画書が認められることがないといったケースです。
このようなケースでは、
- 自分の企画力が不足している
- 自分には能力がないから何もできない
と積極性を失ってしまいます。
具体例③上司に否定されてやる気がなくなる
ビジネスで学習性無力感に陥った場合、上司に否定されてやる気がなくなります。たとえば、理不尽な上司から、
- 小さなミスにもかかわらず、激しく怒られる
- やることすべてを否定される
- 相談にのってもらえない
といった対応をされるケースです。このようなケースでは、その上司の下で仕事に対するやる気をなくしてしまいます。
4.学習性無力感が職場に与える影響
学習性無力感が職場に与える影響があります。ここでは、4つの影響をあげてそれぞれ簡単にポイントを解説します。
社員の生産性が低下する
学習性無力感が職場に与えるひとつ目の影響は、社員の生産性が低下することです。学習性無力感に陥ると、積極性やモチベーションを失います。
モチベーションが著しく損なわれた精神状態で仕事を行っても、通常のパフォーマンスは期待できません。社員の生産性が低下した結果、企業の生産性も低下するという悪影響があります。
新しいアイディアが生まれなくなる
学習性無力感が職場に与えるふたつ目の影響は、新しいアイディアが生まれなくなることです。学習性無力感に陥ると、社員は「自分が何を言っても無駄だ」と感じて、口を閉じてしまいます。
社員の発言が少なくなれば、新しい発想を引き出すこともできません。企業は、イノベーションを創造する貴重な機会を失うことになります。
周囲に伝染する
学習性無力感が職場に与える3つ目の影響は、周囲に伝染することです。万が一、職場で一人の社員が学習性無力感に陥ってしまうと、その影響は徐々に職場全体に広がっていきます。
- 自分も同じ状況下にあるとう気持ち
- モチベーションが低い社員の分まで仕事をせざるを得ない理不尽さ
などが、周囲に伝播していくからです。
休職や退職につながる
学習性無力感が職場に与える4つ目の影響は、休職や退職につながることです。学習性無力感に陥り、過度にストレスがかかった状況が長期間続けば、精神疾患を引き起こす可能性が高まります。
不眠症やうつ病などの精神疾患のため職場に通えなくなり、休職や退職といった事態になることも考えられます。
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5.学習性無力感に陥りやすい人の特徴と原因
学習性無力感に陥りやすい人には特徴があります。ここでは、5つの特徴をあげてそれぞれ簡単に解説します。
完璧主義である
学習性無力感に陥りやすい人のひとつ目の特徴は、完璧主義であることです。完璧主義とは、
- 小さなことでも手を抜かない
- 自分の理想が高い
- 責任感が強い物事を完璧にやり遂げる
人のことを指します。このような人は、ひとつの失敗ですべてを否定されたように感じるため、学習性無力感に陥りやすい傾向があります。
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生活リズムが乱れている
学習性無力感に陥りやすい人のふたつ目の特徴は、生活リズムが乱れていることです。脳内には、アドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質と呼ばれている物質が存在します。
過度なストレスにさらされ学習性無力感に陥ると、神経伝達物質のバランスが崩れ、生活リズムが乱れるなど自律神経に悪影響を及ぼします。
自尊心が低い
学習性無力感に陥りやすい人の3つ目の特徴は、自尊心が低いことです。自尊心が低いとは、
- 周囲の何気ない態度や言葉に傷つく
- 周囲の言動をネガティブに捉えやすい
- 些細なことに過剰反応しやすい
といった状態のことです。このような人は、ちょっとした失敗を大きな出来事として捉え、自分には無理だという無力感に陥ります。
自分を責めやすい
学習性無力感に陥りやすい人の4つ目の特徴は、自分を責めやすいことです。自分を責めやすい人とは、
- たとえ自分自身の責任ではないことに関しても自分事として考え悩む
- 小さなミスでも大きなミスであるかのように自分の責任を感じる
という人のことです。このような人は、失敗やミスをすべて自分ひとりで背負うことになり、学習性無力感に陥ります。
大きなストレスを抱えている
学習性無力感に陥りやすい人の5つ目の特徴は、大きなストレスを抱えていることです。
- 仕事で大きな失敗をした
- 職場の人間関係で長期間悩んでいる
- どうしても越えられない壁がある
など大きなストレスを抱えている人は、精神的に不安定な状況にあります。精神的に弱っている場合、学習性無力感に陥りやすい傾向が高まります。
6.学習性無力感の予防策
学習性無力感の予防策として4つの方法があります。ここでは、4つの予防策のそれぞれについて簡単に解説します。
職場の雰囲気(風土)を変える
学習性無力感のひとつ目の予防策は、職場の雰囲気(風土)を変えることです。上司が失敗を恐れるあまり部下を過剰管理するような職場の雰囲気は、部下の学習性無力感を生み出します。このような雰囲気を変え、
- チームで成功のイメージを掲げ、それに向かって進む
- 上司が部下の意欲を重視する
ことで、学習性無力感は予防できます。
積極的に声がけする
学習性無力感のふたつ目の予防策は、積極的に声がけすることです。上司がポジティブな言葉を多用し、部下に積極的に声をかければ、悩みを抱えている部下の精神的負担を軽減できます。仕事のことだけでなく、雑談なども活用し、コミュニケーションをはかります。
行動と結果を結び付けさせる
学習性無力感の3つ目の予防策は、行動と結果を結び付けさせることです。行動と結果の結び付けとは、「自分の行動を変えることで結果も変えられる」というのを意識させることです。
学習性無力感に陥ると、何をやっても無駄だと考えるようになります。そのため、自分次第で状況を変えられることを認識してもらう必要があります。
社員の意見を聞く体制を作る
学習性無力感の4つ目の予防策は、社員の意見を聞く体制を作ることです。社員の意見を聞く場を設けなかったり、意見に耳を傾けなければ、社員は「自分の意見は聞いてもらえないもの」と諦め、学習性無力感に陥ります。
そのため、社員の意見を聞く体制の構築が予防策として有効です。また、多様な意見を吸い上げることは、経営にもプラスに働きます。
7.従業員が学習性無力感に陥った際の改善策
従業員が学習性無力感に陥った際の改善策があります。ここでは、3つの改善策をあげてポイント解説します。
激励や否定するような言動をしない
従業員が学習性無力感に陥った際のひとつ目の改善策は、激励や否定するような言動をしないことです。社員本人の状況によっては、叱咤激励が悪影響となる場合があります。
そのため、社員本人の状況がよくわからない状況下では、これらどちらの声かけも行わないことが重要です。このような場合には、じっくり温かく見守ることに徹します。
小さな目標を立てさせる
従業員が学習性無力感に陥った際の2つ目の改善策は、小さな目標を立てさせることです。成功体験は、人に自信を与えてくれます。成功体験を積むためには、最初から大きな目標を設定するのではなく、小さな目標を立てさせます。
小さな目標を設定し達成することを繰り返して行けば、ポジティブな考え方ができるようになるでしょう。
環境を変えてあげる
従業員が学習性無力感に陥った際のみっつ目の改善策は、環境を変えてあげることです。同じ環境が続くと、考え方や気分がを変えづらくなります。
そこで、配置転換などを効果的に利用して、外部環境を変えます。環境が変われば気分もリフレッシュでき、新たな気持ちで仕事に取り掛かれるようになるでしょう。