戦後の高度成長期の経済成長をもたらした人事システムといえる日本的雇用慣行。しかし、バブル崩壊後の経済成長の鈍化で、成果主義の採用や希望退職やリストラが実施され、その形は崩れています。ここでは、日本的雇用慣行の問題や特徴について取り上げます。
「日本的雇用慣行」とは? その特徴である3種の神器
日本的雇用慣行とは、戦後の高度経済成長を支えた雇用システムです。日本的雇用慣行には、<終身雇用><年功賃金><企業別組合>の3つの特徴があり、3種の神器といわれています。
高度経済成長期の労働力不足を補うために新卒者を大量に採用した企業は、就業経験のない若手社員を低賃金で雇用し、社内でしっかり育てていきます。年功序列で将来的な賃金アップと定年までの継続雇用、定年時の退職金という安心が約束され、社員は会社への愛社精神や忠誠心が芽生え、定年まで勤めあげました。
万が一問題が起きても企業ごとに組合が結成されており、対応の早さに安心感もありました。この雇用システムにより、国内の失業率は低く抑えられていました。
日本的雇用慣行のその他の特徴
日本的雇用慣行により、企業は大量採用した新卒の若手社員に対し、OJT(On-the-Job Training=職場内教育訓練)と、Off-JT(Off the Job Training=職場を離れた教育訓練)を組み合わせた人材教育を行って一人前に育てあげました。長期雇用が前提でなければ、ここまで充実した教育訓練はできなかったといえます。
また、若い時は低賃金で勤続年数が長くなるほど賃金が上がっていく年功序列の賃金体系は、結婚、子どもの教育、住宅取得と年齢が上がりライフスタイルが変わって必要経費がかさんでいくことと並行して賃金アップが見込まれる、とても理にかなったものでした。また、住宅取得の際の高額の住宅ローンも、安定した雇用が前提で成り立つものでした。
日本的雇用慣行の問題点
1990年初頭のバブル崩壊と、その後の経済成長の鈍化で、企業は希望退職者を募り、リストラが計画されました。また、経済のグローバル化で成果主義が導入され、若手を中心にキャリアアップのための転職が珍しくなくなり、終身雇用や年功序列が当たり前だった時代が終わりを告げました。
大量の若手社員を低賃金で雇い、年齢が上がるほど賃金が上がるという構造は、右肩上がりの経済成長が望めない中、新卒採用が控えられれば成り立たないものでした。また、この賃金体系には、若手より長く働く高齢の者ほど知識や技術、経験があるという前提がありましたが、近年のIT技術をはじめとした技術革新のスピードには年齢が上であるほど付いて行けず、人件費だけが上がり生産性は上がらないという状況もありました。
長期雇用で職場には一体感が芽生えますが、一方で個人より組織を優先する風潮も生まれていき、日本的雇用慣行は企業優先の雇用システムといえました。この雇用スタイルは、「男は定年まで仕事をし、女が家庭を守る」という男女の役割分担の元で成り立つものでもあり、女性の社会進出を阻む一因ともなりました。
以上のような問題点が浮き彫りになり、日本的雇用慣行は形骸化してきています。しかし、一方で非正規雇用の問題など新たな労働問題が生まれていることで再評価する声もあり、柔軟な雇用システムの構築が期待されています。