経営分析とは、財務諸表などから必要な指標を算出し、企業の経営状況を客観的に分析することです。
経営分析からは、企業の収益性や安全性などが把握でき、課題が見つかれば経営戦略の見直しや必要な経営判断を下すなど、経営状況を良好にするための対策を早期に講じられます。
今回は経営分析について、その目的や分析方法、分析時に確認すべき指標などをわかりやすく解説します。
1.経営分析とは?
経営分析とは、決算書や財務諸表から企業の経営状況を客観的に分析すること。自社の財務情報のほか、競合他社の動向や市場シェアの変化など、外部要因をもとにした分析も行うのです。
経営分析では「収益性」「安全性」「生産性」「成長性」が分析できるさまざまな経営指標を財務諸表や決算書から算出します。
経営指標のような定量的な情報を軸に、取引先の状況や経済情勢など定性的な情報もあわせて分析し、経営状況を正しく把握するための要素を抽出していくのです。
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今回は経営とは何...
経営分析と財務分析の違い
財務分析は経営分析の一環で、経営分析を財務分析と呼ぶ場合もあります。財務諸表を用いて分析する点では共通するものの、財務分析のほうが分析範囲が狭いです。また、経営分析は定性的であるのに対し、財務分析は定量的な分析といえます。
2.経営分析の目的
経営分析の主な目的は、自社の経営状況をあらゆる角度から客観的に把握し、経営方針の策定や見直しに生かすこと。
黒字倒産もありえるため、単に黒字だからと安心できるわけでありません。見えないリスクに気づいて経営状況の悪化を防ぐためには、経営状況や資金繰りの現状、課題展を洗い出し、経営分析によって自社の経営状況を可視化する必要があります。
経営者の役割は健全かつ安定した経営状況を維持し、ひいては業績向上によって企業を成長・発展へと導くこと。自社の経営状況を判断しないことには、必要な判断も下せません。
また、判断のタイミングを逃したり、経営悪化のサインを見逃したりしてしまって倒産に陥ることも。リスクや悪い状況を早期に発見し、先手を打った対策を講じて良好な経営状況を保つためには経営分析が重要です。
3.経営分析のメリット
経営分析は、企業が成長するうえで欠かせないプロセスです。経営分析では、主に以下のようなメリットが得られます。
- 経営状況を客観視できる
- 自社の強み・弱みが洗い出せる
- 経営計画の策定・見直しに活用できる
- 投資の判断材料になる
①経営状況を客観視できる
利益が出ていて黒字でも、支払いに必要な資金がなく倒産する可能性もあるため、経営状況を主観的に判断するのは高リスクでしょう。
単に売上がある、利益が出ているだけでは、経営状況が必ずしも良好とは判断できません。なぜなら、利益は一時的なものであったり、売上が高くてもコストがかかりすぎて利益が少なかったりするなど、実情は体感や目の前の売上だけではわからないからです。
経営分析では決算書や財務諸表など定量的な情報から分析するため、経営状況が客観視できます。数字という確固たる事実のもと、自社の経営状況を正しく把握することが可能です。
②自社の強み・弱みが洗い出せる
経営分析では、自社の強みや弱みも客観的に判断できます。売上高や利益を明確にすると強みのある事業がわかるからです。一方、売上に問題はないが利益率が低い事業があれば経営における弱みであり改善余地があるとわかるでしょう。
また、確固たる事実である数字から分析すると、潜在的な課題が見つかる場合も多いです。経営者はこうした課題にいち早く気づき、経営悪化に陥らないため早期に対策を講じたり、必要な意思決定を下すことが求められます。
③経営方針の策定・見直しに活用できる
経営分析によって明らかになった客観的なデータは、経営方針の策定や見直しに役立ちます。経営方針は組織全体が従う重要な指標です。その内容に納得感が得られないと組織で一体的に経営が進められなくなってしまうでしょう。
経営分析の結果は客観的なデータとなるため、経営方針の内容に納得感を持たせられやすく、組織が一体的に動くための理由としても役立ちます。
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④投資の判断材料になる
経営分析の結果は社内だけでなく、社外でも活用されます。その代表例が、金融機関や投資家からの資金調達です。
金融機関や投資家は、資金が回収できる見込みのあるリスクの低い企業へと投資します。よってすべての企業が必ずしも融資を受けられるとは限りません。
そこで、経営分析で経営状況が客観的に提示でき、かつ経営リスクが低いことがアピールできれば投資面でも有利になるのです。自社の経営状況を把握し、弱みの改善を進めていけば、資金調達が受けやすくなる状態を作っていけます。
4.経営分析に必要な3つの財務諸表
経営分析では、「損益計算書(P/L)」「貸借対照表(B/S)」「キャッシュフロー計算書」の3つの財務諸表を使用します。財務諸表とは一定期間の経営成績、財務状態を表す資料であり、これら3つの財務諸表は「財務三表」とも呼ばれます。
経営分析を行う上で、3つの資料についての理解も大切です。ここでは、各資料について詳しく解説します。
損益計算書(P/L)
「Profit and Loss Statement」を略して「P/L」とも呼ばれる、1年間でどれだけの利益を出したかがわかる計算書です。損益計算書には、主に下記5つの利益が記載されています。
売上総利益 | 経営がうまくいっているかのおおよその目安がつけられる指標 |
営業利益 | 本業で稼いだ利益 |
経常利益 | 企業活動における総合的な収益力 |
税引前当期純利益 | 通常の企業活動で発生しない臨時の損益を足し引きした後の利益 |
当期純利益 | 企業の最終利益 |
どれだけの売上を獲得し、それに対する経費(仕入れ額、人件費など)がどれくらいかかり、結果どれだけの損失と利益が出たか、分析できます。
損益計算書とは? 見方や作り方は?【テンプレートあり】
損益計算書は、企業の経営判断の情報として、また経営成績を表示する報告書として用いられる重要な書類で、売上や利益、損失などを把握することで経営戦略を考える上でも必要なものです。
損益計算書と貸借対照表...
貸借対照表(B/S)
「バランスシート」を略して「B/S」とも呼ばれる、特定の時点における企業の財務状況がわかる資料です。「資産」「負債」「資本」の3つで構成され、さらに下記5つの項目に細分化されます。
資産
流動資産 | 一年以内に現金化できるもの 例:現金・預金、売掛金、受取手形、棚卸在庫 |
固定資産 | いずれ現金化できるが、一年以内にはできないもの 例:ソフトウェア、投資有価証券、車両運搬具 |
負債
流動負債 | 一年以内に返済予定のお金 例:支払手形、買掛金、短期借入金 |
固定負債 | 一年以内に返済しなくて良いお金 例:長期借入金、退職給付引当金 |
資本
純資産(自己資本) | 株主からの出資金とこれまでの利益の積立額例:資本金、資本剰余金、利益剰余金 |
賃借対照表からは、資産と負債・純資産の関係性が確認でき、企業の資金の健康状態が把握できます。
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貸借対照表は、企業の経営状況や財務状態を知るための決算書のひとつです。損益計算書、キャッシュフロー計算書と合わせて財務三表といわれる主要な書類で、決算時には必ず作成されます。
貸借対照表と、損益計算...
キャッシュフロー計算書
「キャッシュ(資金)」の「フロー(流れ)」を表した資料です。特定の会計期間中にどのような理由でいくらお金が入り、どのような理由で支出したかが記載されています。
損益計算書上で利益が出ていても、実際にはキャッシュが増加しているとは限りません。支出分が入ってくるお金を上回っていると、最悪のケースで黒字倒産に陥ってしまいます。このような見えないお金の流れを分析するのに役立つのが、キャッシュフロー計算書です。より詳細に経営分析を行う上で、キャッシュフロー計算書の存在は欠かせません。
キャッシュフロー計算書(C/F)とは? 作り方、見方、ひな形
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目的や区分
表示方法
作成方法や読み方
ひな型
などについて解説します。
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5.経営分析の手法と経営指標一覧
経営分析には、下記の分析方法があります。ここでは、各分析手法と分析するうえで見るべき指標を解説します。
- 収益性分析
- 安全性分析
- 生産性分析
- 成長性分析
収益性分析と見るべき指標
企業の収益性や稼ぐ力を客観的に測る分析方法であり、主な指標は利益や資本です。下記で、具体的な分析方法と各分析で見るべき指標を解説します。
資本利益率分析
資本利益率分析では、資本からどれだけの利益が生み出せているかを分析します。
数値が高いほど、効率的に利益が得られていると判断できます。資本には「総資本」と「自己資本」、利益には「営業利益」「純利益」とあり、分析対象はさまざまです。下記に主な指標をまとめます。
資本
総資本経常利益率(ROA) | 経常利益÷総資本×100 | ・経営活動で得られた利益を示す指標 ・5%以上で良好、10%以上で超優良 |
自己資本当期純利益率(ROE) | 当期純利益÷自己資本×100 | ・株主の出資によって得られた純利益を示す指標 ・10〜20%で優良、投資効果は十分と判断 |
利益
売上高総利益率 | 売上総利益÷売上高×100 | ・売上高に対する総利益の割合を示す指標・商品やサービスの付加価値が測れる |
売上高営業利益率 | 営業利益÷売上高×100 | ・売上に対する営業利益を示す指標・本業でどれだけ利益を上げられているかがわかる |
売上高経常利益率 | 経常利益÷売上高×100 | ・売上に対する経常利益の比率を示す指標・本業と投資活動を合わせて得られている利益 |
利益増減分析
利益と利益率を比較し、収益構造を分析する方法です。損益に変動があった場合は、利益増減分析から要因と影響度が分析できます。
ポイント派「販売価格の上昇・下落」「販売量の増加・減少」「原材料価格の高騰・低下」などあらゆる要因から分析して、利益にどの程度影響するかを明らかにすること。影響の大きい要因から改善・強化を図りましょう。
損益分岐点分析
コストと販売量にもとづく利益を分析する方法です。分析には、下記計算式を使用します。
固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
損益分岐点分析により、一定の売上を獲得するためにどれくらいのコストがかかり、どれだけの損益がでて、一定の利益を獲得するにはどれくらいの売上が必要で、コストをどれだけ抑えなければならないか、が分析できます。
安全性分析と見るべき指標
企業の返済能力を分析する方法です。負債と資産の構成・比率、経営や資金繰りの安全を分析し、支払いや返済が健全に行えるか、資金調達は問題なくできているかなどをチェックします。下記で、3つの分析方法と見るべき指標を解説しましょう。
短期財務安全性分析
1年以内の企業の支払い能力や倒産リスクを分析する方法です。「流動比率」と「当座比率」ふたつの指標から、当面の資金繰りに問題がないか、評価します。
流動比率 | 流動資産÷流動負債×100 | ・200%以上で堅実性があると判断できる |
当座比率 | 当座資産÷流動負債×100 | ・当座資産に対する流動負債の割合・流動比率よりも厳しく短期の支払い能力を判断できる |
- 流動資産:現金や売掛金、受取手形や棚卸資産などの現金化しやすい資産
- 流動負債:短期借入期や買掛金、支払手形など近いうちに支払いが必要なもの
当座資産は「流動資産−棚卸資産」で算出できます。
長期財務安全性分析
長期的に見た財務構造の安全性を分析する方法です。固定資産への投資を行った際に行うことの多い分析で、主に「固定比率」と「固定長期適合比率」ふたつの指標を用います。
固定比率 | 固定資産÷自己資本×100 | ・自己資本に対する固定資産の比率 ・固定資産をどれだけ自己資本で賄えているかを測る ・数値が低いほど安全性が高い |
固定長期適合比率 | 固定資産÷長期資本×100 | ・100%以下で健全と判断 |
固定長期適合比率を用いることで、より現実的な数値が分析できます。なお、長期資本は「自己資本+固定負債」で算出可能です。
資本調達構造分析
長期財務安全性分析に含まれる場合もある、資本構造の安全性を測る分析です。自己資本が多いと財政基盤は安全といえます。資本調達構造分析で用いる指標は、主に「自己資本比率」と「負債比率」のふたつです。
自己資本比率 | 自己資本÷総資本×100 | ・総資本に対する自己資本の比率・企業全体の資金調達額 ・70%以上が理想、安全性が高いと判断できる ・40%を下回ると信用率が低下、融資で不利になりやすい |
負債比率 | 負債÷自己資本×100 | ・自己資本に対する負債の比率・数値が低いほど財務状況は良好 |
負債は返済義務と利息が発生しますが自己資本はそれらがないため、基本的には自己資本比率が高い状態が理想的です。
生産性分析と見るべき指標
経営資源(ヒト・モノ・カネ)にどれだけの生産性があるかを分析する方法です。生産性は利益に直結する重要な要素の1つ。下記で、主な分析方法と見るべき指標を解説します。
付加価値生産性分析
従業員一人あたりが生み出す付加価値、資本を用いて生み出した付加価値を分析する方法です。分析で用いる主な指標は、「労働生産性」と「資本生産性」のふたつです。
- 労働生産性:従業員1人あたりの付加価値額=付加価値額÷従業員数
- 資本生産性:資本を用いて生み出した付加価値額=付加価値額÷総資本
いずれも数値が高いほど、生産性が高いと判断できます。
労働生産性とは? 計算式・高める方法をわかりやすく解説
企業の利益を左右する労働生産性は、経営者にとって看過できない重要課題です。日本の労働生産性は先進国の中でも低いほうにあり、国家規模で問題視されています。
そもそも労働生産性とは何なのか、その内容や計算...
付加価値分配率分析
生み出した付加価値に対する人件費の比率を分析する方法です。主な指標は労働分配率で「人件費÷付加価値額×100」で算出できます。
数値が高いほど、効率的に労働力を活用できていると判断できます。一般的には40〜60%で適正範囲ですが、業界によって水準は異なります。
労働分配率とは? 計算式、適正の目安、付加価値をわかりやすく
労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合です。ここでは労働分配率について、計算方法や目安などさまざまなポイントから解説します。
1.労働分配率とは?
労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合...
成長性分析と見るべき指標
企業の売上や総資産の規模がどのように変化しているかを分析する方法です。今後の経営の見通しや成長度合いが測れ、分析で用いる主な指標は下記6つです。
売上高増加率 | (当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100 |
経常利益増加率 | (当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100 |
総資産増加率 | (当期総資産−前期総資産)÷前期総資産×100 |
純資産増加率 | (当期純資産−前期純資産)÷前期純資産×100 |
従業員増加率 | (当期従業員数−前期従業員数)÷前期従業員数×100 |
EPS(1株あたりの利益額を示す指標。数値が高いほど投資に対するリターンが大きいと判断でき、投資効果に期待できるとアピールできる。) | 当期純利益÷普通株式発行済株式数 |
成長性分析では、前期と比較して成長率を判断するため、いずれも数値が大きくなっているほど順調に成長していると判断できます。
6.経営分析のポイント
最後に、経営分析を正しくかつスムーズに行うためのポイントを3つお伝えします。
- 正しいデータを利用する
- 適切な指標・分析方法を用いる
- ツールを活用して分析を効率化する
①正しいデータを利用する
どれだけ分析方法が正しくても、数値に誤りがあれば正確な分析はできません。財務諸表をはじめ、データの管理・入力に誤りがないよう常日頃から徹底することがポイントです。
企業規模が大きくなるほど扱うデータ量も膨大かつ複雑になるため、経営分析することを前提にデータを活用しやすいようまとめておくことと良いでしょう。
②適切な指標・分析方法を用いる
経営分析にはさまざまな分析方法・指標がありますが、状況や分析目的、感じている課題に合わせて、適切な指標・分析方法を用いることがポイントです。
闇雲に分析しているだけでは必要なデータが抽出できないため、かならず分析の目的を明確にしてから取り組みましょう。
③ツールを活用して分析を効率化する
手作業での経営分析は非効率であり、人的ミスも起こり得ます。分析結果によっては早期に経営改善や経営方針の見直しが必要となる場合もあるため、早期に対策、意思決定を下すためにも効率的な分析が重要です。
ツールを使えばデータを自動的に収集・集計してくれるため、効率的かつ正確な経営分析が行えるようになります。