クラウドバイデフォルト原則とは、システム構築の際にクラウドサービスの利用を第一候補として検討する指針のこと。
クラウドサービスはあらゆる面での利便性や効率性が高く、今後デジタル化を活性化させる上ではクラウドサービスの活用が必須といっても過言ではありません。
今回はクラウドバイデフォルト原則とは何か、クラウドバイデフォルト原則に従うメリットやサービスの利用検討プロセス、自治体や民間企業への影響などを詳しく解説します。
目次
1.クラウドバイデフォルト原則とは?
クラウドバイデフォルト原則(cloud by default)とは、政府情報システムを構築する際にクラウドサービスの利用を第一候補として検討すること。
2017年5月の閣議決定で示され、2018年6月に具体的な内容が発表されました。クラウドバイデフォルト原則の詳細は、「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」で示されています。
類似する言葉の「クラウドファースト」は、クラウドサービスを優先的に検討する考え方のことです。対して、クラウドバイデフォルト原則はクラウドサービスを第一候補とする考え方となります。
参考 政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針政府CIOポータルクラウドファーストとは?【意味をわかりやすく】政府、理由
クラウドファーストとは、システムの開発や更新時にクラウドサービスを優先的に検討する考え方のこと。ここではこのクラウドファーストの意味や考え方について詳しく解説します。
1.クラウドファーストとは?
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2.クラウドバイデフォルト原則が策定された背景
クラウドバイデフォルト原則が策定された背景には「Society 5.0(オンラインと現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する社会)」があります。日本の目指すべき未来社会の姿として内閣府が提唱しているものです。
「Society 5.0」を実現するにあたって、利便性の高いクラウドサービス・システムの構築が不可欠であるため、クラウドバイデフォルト原則が登場しました。
以前より「クラウドファースト」としてクラウドサービスの利用が優先されるべきとの考え方が普及していたものの、セキュリティや移行リスクへの不安視から積極的な活用は進んでいなかったのです。
そこでクラウドバイデフォルト原則を策定し、政府が主体となってクラウドサービスの導入を推進する姿勢を見せて、導入を後押ししようとしています。
3.クラウドバイデフォルト原則に従うメリット
「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」では、クラウド利用のメリットについて、下記5つを挙げています。それぞれについてみていきましょう。
- 効率性の向上
- セキュリティ水準の向上
- 技術革新対応力の向上
- 柔軟性の向上
- 可用性の向上
①効率性の向上
クラウドなら、多くのユーザー間でリソースを共有でき、ユーザーあたりのコスト負担が軽減します。また、基本機能が付帯するため導入時間の短縮化にも有効。
さらに、デバイスや場所を問わずアクセス可能な環境を実現するため、リモートワークなどの多様な働き方の実現にも役立ちます導入時だけでなく、その後のあらゆる面での効率性向上につながるのです。
②柔軟性の向上
クラウドは、必要に応じた期間だけ利用できるほか、必要な機能だけ利用するといった柔軟な活用が可能です。また、リソースの増減や追加も手軽で、オンプレミスと比較すると柔軟に対応できます。
業務における変化が激しい現代において、クラウドの柔軟性はコストや手間、利便性の面で大きなメリットが得られるのです。
③可用性の向上
クラウドは仮想空間を活用するため、複数のサーバといった統合されたリソースを利用できます。また統合されたリソースのなかで「個別のシステムに必要なリソース」のように柔軟に構成も変更可能です。
くわえて、過剰な投資をせずとも24時間365日の継続運用が可能。さらには個々の物理的なリソース障害がもたらす影響を最小限に抑えられるといったように、情報システム全体の可用性が向上します。
④セキュリティ水準の向上
クラウドサービスには、基本的に一定水準のセキュリティ機能が付帯しており、より高度なセキュリティ機能の追加も可能です。
個々にシステムを構築するオンプレミスは、高度なセキュリティ水準が特徴であるものの、クラウドサービスのほうが新しい技術を積極的に利用できるでしょう。
さらに、自社でセキュリティ環境を整えるためのリソース確保やセキュリティサービス導入などによる追加コストが発生しません。よってオンプレミスよりも効率的にセキュリティを向上させられるのです。
⑤技術革新対応力の向上
クラウドサービスでは、技術革新による新たな機能が随時追加されます。都度、自社で対応せずに最新技術を試行でき、最新技術を利用するハードルも下がるのです。
最新技術を活用しないことには業務に生かせないため、自動的に利用できる環境を整えてくれる点で最新技術への早期対応が可能となります。
4.クラウドバイデフォルト原則に則ったクラウドサービス利用検討プロセス
「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」では下記4つのステップから利用検討プロセスを提示しています。ステップ別の利用検討プロセスを解説しましょう。
- 検討準備
- SaaSの利用検討
- laaS/PaaSの利用検討
- オンプレミスの利用検討
①検討準備
最初のステップは、クラウドサービスを導入するために必要な要素の検討です。下記5つの事項を可能な限り明確化していきます。
業務の基本属性 | ・主なサービス利用者とその利用者の詳細 (例:国民向けサービスか、職員向けサービスか) ・インターネット利用を前提とした業務か否か ・サービスの種別(例:特定の業務か、コミュニケーション系かなど) ・ほかサービスやシステムとの連携 |
必要なサービスレベル | ・サービス提供時間 ・障害発生時の復旧許容時間 ・災害対策の要否等 |
サービス・業務の定常性 | ・定常的なサービス・業務か、試行的または一時的なサービス・業務か |
業務量 | ・業務処理量の総量、単位時間あたりの処理量の予測 ・業務処理量の変動(増加・減少、ピーク特性等)予測 |
取り扱う情報 | ・府省の情報セキュリティポリシー等にもとづいた情報の格付け(機密性、完全性、可用性)、取扱制限 |
②SaaSの利用検討
プロセス①で明確にした情報を踏まえて、下記手順でSaaSの利用を検討します。
- パブリッククラウドで提供されるSaaSサービスの利用検討
- パプリッククラウドのSaaSの利用が難しい場合に、プライベートクラウドで提供されるSaaSサービスの利用検討
まず検討すべきはパブリッククラウドのSaaSサービスであり、業務内容や優位性、コスト面やメリットなどをふまえてパブリッククラウドのSaaSの利用が難しい場合に、プライベートクラウドのSaaSサービスの利用を検討します。
パブリッククラウドが不特定多数が利用できるオープンな環境であるのに対し、プライベートクラウドは自社専用の環境です。プライベートクラウドは、クラウド環境を改めて構築するためオンプレミスに近く、カスタマイズ性が高い点が特徴です。ただし、構築・運用に高いコストがかかるほか、専門的な知識が必要となります。
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③laaS/PaaSの利用検討
ステップ②までの検討をふまえてSaaSの利用が難しい場合には、laaS/PaaSの利用を検討します。検討手順はSaaSと同様、以下のステップです。
- パブリッククラウドで提供されるlaaS/PaaSサービスの利用検討
- 業務内容や優位性、コスト面やメリットなどを踏まえてパプリッククラウドのlaaS/PaaSの利用が難しい場合に、プライベートクラウドで提供されるlaaS/PaaSサービスの利用検討
IaaSとはインフラを提供するサービスであり、PaaSとはミドルウェアやOSなどサービス開発に必要な環境を提供するサービスです。SaaSサービスが利用できないとなった場合、サービス自体はIaaSまたはPaaSを利用して自社で開発することになります。
④オンプレミスの利用検討
②③のプロセスもふまえ、クラウドサービスの利用が難しいと判断した場合にオンプレミスの利用を検討します。
クラウドバイデフォルト原則に則る場合は基本、クラウドサービスの利用が前提となるものの、状況によっては難しいケースもあるでしょう。無理してクラウドサービスを利用するのではなく、自社にあったスタイルを確立することが大切です。
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5.クラウドバイデフォルト原則の自治体への影響
クラウドバイデフォルト原則にもとづくクラウド化推進は、自治体でも活発化しています。
「デジタル・ガバメント実行計画」では「ガバメント・クラウド(Gov-Cloud)」という共通基盤の整備と利用を掲げ、2025年度までの業務システムの統一・標準化スケジュールを公開。
2021年10月には、「ガバメントクラウド先行事業」における市町村はすでに採択が完了し、今後のモデルケースとして注目を集めています。クラウドバイデフォルト原則によりクラウド化が進めば、住民や自治体へのメリットは大きくなるでしょう。
たとえば、住民は行政手続きのオンライン化や各種手続きのワンストップ化により、役所関連の手続きがよりかんたんかつ手軽になります。自治体では、主に職員の業務効率化や業務負担軽減、サービス品質向上やセキュリティ強化に有効です。
参考 デジタル・ガバメント実行計画政府CIOポータル6.クラウドバイデフォルト原則の民間企業への影響
クラウドバイデフォルト原則は政府機関や自治体だけでなく、DXが推進されている民間企業にも有用です。デジタル技術が発展した現在でも、依然としてレガシーシステムに依存する企業が多くみられます。
平成30年9月に経済産業省が公表した資料「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」によると、約8割の企業がレガシーシステムを抱えているそうです。
ただでさえIT人材が不足しているなか、レガシーシステムの保守・運用に人材を割かれているため、貴重なIT人材資源の浪費につながっています。
クラウドバイデフォルト原則は政府が推進している方針でもあることから、民間企業のDXにおいても参考にされるべき指針といえるでしょう。
ただし、クラウドバイデフォルト原則はクラウドサービスの利用を強制するものではないため、自社の状況やクラウドサービスのメリット・デメリットをふまえて、慎重に導入を検討することが重要です。
参考 DXレポート経済産業省7.クラウドバイデフォルト原則とかかわりの深いISMAPとは?
ISMAP(イスマップ)とは、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度のこと。
クラウドサービスにおける統一的なセキュリティ基準を示すものであるため、セキュリティ面で懸念がある場合に参考にできる有効な指標であり、クラウドサービスの導入促進に役立ちます。
ISMAPに登録されているクラウドサービスは、政府認定のセキュリティ水準を確保していることが証明されています。利用するクラウドサービスの検討に活用でき、円滑なクラウドサービスの導入を後押しする役割を果たします。
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