差別化戦略とは、他社と差別化することで優位な立場に立とうとする戦略のことです。メリットとデメリット、ポイント、事例などを解説します。
目次
1.差別化戦略とは?
差別化戦略とは、自社の製品やサービスを他社と差別化して、競争優位性を高める戦略のこと。経営学者マイケル・ポーター氏によって提唱された3つの競争戦略におけるひとつです。
この戦略では、顧客が魅力的だと感じる要素を強化し、ブランド力を向上する手法が用いられます。差別化戦略が成功すると、業界内で独自のポジションを確立でき、顧客価値を高められるのです。
なお残りのふたつは「集中戦略」と「コストリーダーシップ戦略」。次項にて解説します。
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集中戦略との違い
差別化戦略と集中戦略の主な違いは、対象とする市場の広さです。
集中戦略は特定の狭い範囲(年齢や地域など)のターゲット市場に焦点を絞り、その範囲にリソースを集中投資する戦略です。ただし集中戦略は、ターゲット市場を限定するため、事業として成立しなくなるリスクが存在します。
差別化戦略は製品やサービスを他社と区別して競争優位を追求するものの、ターゲット市場は広範囲に渡る場合がほとんどです。
コストリーダーシップ戦略との違い
差別化戦略とコストリーダーシップ戦略は、いずれも競争優位を追求する戦略です。ただしその手段と目指す方向性が異なります。
差別化戦略は、他社と異なる独自の価値を提供して、競争優位を確立しようとする戦略です。一方コストリーダーシップ戦略は、低価格を実現して市場をリードしようとする戦略で、安価な製品やサービスを提供できる仕組みを構築できる大企業に多く見られます。
2.差別化戦略のメリット
差別化戦略のメリットでは、価格競争の回避、他社の新規参入の抑制、利益率の向上などが挙げられます。それぞれについて解説しましょう。
価格競争の回避
価格競争を回避できることは、差別化戦略における大きなメリットです。
他社と異なる商品やサービスを提供すれば、消費者にとってその製品は唯一無二となります。その結果、他社との価格競争に巻き込まれることなく、価格を自由に設定できるのです。
この戦略により、利益率の低下、ブランド価値やイメージの低下といった、価格競争がもたらす弊害を避けられます。
他社の新規参入の抑制
既存の企業が独自性を強化した製品やサービスを提供すると、他社の新規参入を抑制できます。新規参入企業は単純な生産コストだけでなく、既存製品と差別化するための追加コストも捻出しなければならなくなるからです。
これは新規参入企業にとって大きな障壁となり、既存企業はその市場での優位性を保ちやすくなります。
利益率の向上
自社の製品やサービスが独自性を持つと価格競争から解放されるため、高い利益率を確保しやすくなります。価格が高めであっても、独自性の高い製品やサービスには消費者が対価を支払うからです。利益率が向上するため、結果的に業績も向上します。
自社の強みの明確化
自社の強みや特徴を明確化できるのも、差別化戦略におけるメリットのひとつ。他社にない強みは、企業の強固なブランドイメージの構築に寄与し、営業戦略や宣伝に活用できます。
強みを明確化する際、行う市場調査と内部分析にて自社の弱点が見つかる場合もあるのです。そのため自社の弱みを改善するための貴重な機会にもなりえます。
ブランディングの強化
自社の商品やサービスの独自性を強調して付加価値を高めると、自社のブランドを強化する効果が期待できます。独自性の高い商品は消費者からの認知度が向上しやすいからです。
新規顧客の開拓や既存顧客の確保が促進され、企業の成長と安定につながります。
社内の活性化
差別化戦略が成功すると、組織全体のモチベーション向上に寄与します。社員が自社商品へ自身を持てるようになるからです。
また企業全体の業績やイメージが向上すれば優秀な人材を獲得しやすくなるため、組織全体をさらに活性化できます。
3.差別化戦略のデメリット
差別化戦略には、顧客離れや労力の増大などのデメリットもあります。これらのデメリットの詳細について説明しましょう。
顧客離れのリスク
競合他社との違いを明確にした結果、顧客離れにつながる可能性もあります。たとえば差別化戦略で商品やサービスの価格を上げた場合、価格に納得がいかない既存顧客が離れてしまうかもしれません。差別化どころか売上を減少させてしまう恐れもあります。
差別化をする際は、顧客のニーズを満たせるか、慎重な検討が必要です。
コストの増加
差別化戦略は、コストが肥大化しやすいです。市場調査や商品開発などに多くの費用が必要となります。さらに商品の品質向上施策や独自の技術開発を行ったりすると、コストはより増大するでしょう。
かけた費用に見合う利益を得られなければ、損失を被る可能性もあります。そのため差別化戦略においては、コストパフォーマンスを適切に評価すべきです。
競合他社による模倣
自社の特徴的な商品やサービスの認知度が高まると、他社に模倣される可能性もあります。市場での同質化が進むと、差別化戦略の効果が薄れてしまうでしょう。同質化が早期に進むほど、投資した費用を回収しにくくなります。
労力と時間が必要
差別間戦略では、自社の強みや競合他社の分析、顧客ニーズの把握が必要であるため、緻密なリサーチに多大な時間と労力がかかります。
さらに確立した独自の価値を、顧客に伝える必要もあるため、ブランディング、広告や宣伝などの施策も必須となり、さらに多くの時間と労力を要するのです。
なかでも顧客がブランドの価値を理解し、認知するまでには時間がかかるため、持続的な取り組みを続けなければなりません
4.差別化戦略のポイント
差別化戦略を実践するうえでは、消費者と競合他社の分析を十分に行い、自社の強みを正確に伝えることが不可欠です。これら一連の取り組みにおけるポイントについて説明します。
ターゲットの明確化
万人受けを狙わずにターゲットを明確にすると、そのニーズに合わせた差別化戦略を策定できます。「20代でアウトドアが好きな男性」や「30代で子どもがいる女性」など、ターゲット市場を絞りましょう。
またペルソナ(より詳細なターゲット像)を設定すると、ターゲット市場へのアプローチ手法を決めやすくなります。商品やサービスの特異性や特徴をより強調するために、さらに自社の歴史や商品開発の経緯などのストーリーを設定するのも有効です。
顧客ニーズの分析と把握
顧客ニーズを分析し、正確に把握する必要があります。差別化した商品やサービスであっても、顧客のニーズを理解しなければ、購買されにくいからです。
そのため顧客が商品・サービスに対して重視しているポイントや、注目している競合他社の特徴などを調査し、その結果をもとに戦略を検討する必要があります。またこの過程では、顧客目線になって、時代の風潮や顧客の求める価値観を意識することが必要です。
競合他社のリサーチ
競合他社の戦略を研究すると、市場において自社が入り込む余地を探りやすくなります。
たとえば競合他社が高級路線で事業を行っている場合、「コストパフォーマンスのよさ」や「健康志向」などをアピールすれば差別化を図りやすくなるのです。
ただし競争相手は、自業界だけでなく他業界からも出てくる可能性もあります。そのため業界を越境した競合調査も欠かせません。
自社の強みの発見
差別化戦略において、自社の強みを見つけるための分析は必須と言えます。他社が真似できない自社の強みやこだわりが見つかれば、それらを伸ばして独自性を高められるからです。
商品の品質やデザインで差別化するほか、有名人をイメージキャラクターとして起用するなどのアプローチも自社の強みとしてアピールできます。
5.差別化戦略で役立つフレームワーク
差別化戦略ではさまざまな市場分析が必要ですが、このときいくつかのフレームワークが役立ちます。差別化戦略で役立つフレームワークについて説明しましょう。
- STP分析
- 3C分析
- SWOT分析
- VRIO分析
①STP分析
市場での立ち位置を決めるためのフレームワークです。次の3項目を分析します。
- セグメンテーション(Segmentation):市場の細分化
- ターゲティング(Targeting):市場の決定
- ポジショニング(Positioning):自社の立ち位置の明確化
このフレームワークでは、最初にセグメンテーションで市場全体の概観を把握。次にターゲティングで最適な市場を選択し、最後にポジショニングで自社と競合他社との相対的な位置を明確にし、自社の存在感を際立たせるための方法を検討していきます。
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②3C分析
事業戦略を決めるためのフレームワークです。次の3項目を分析します。
- カスタマー(Customer):市場、顧客
- コンペティター(Competitor):競合
- カンパニー(Company):自社
これらの視点から情報の調査と整理を行い、戦略方針を決定するのです。この分析により顧客のニーズ、競合他社の状況、そして自社の強みや弱みを把握できるため、自社が提供すべき価値や魅力の明確化や、他社との違いの強調などに役立てられます。
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③SWOT分析
自社の強みと弱みを分析するためのフレームワークです。次の4項目を分析します。
- ストレングス(Strengths):強み
- ウィークネス(Weaknesses):弱み
- オポチュニティ(Opportunities):機会
- スレット(Threats):脅威)
これらの観点から、自社の内外環境を分析するのです。なお強みと弱みは内部要素、機会と脅威は外部要素に該当します。
このフレームワークを使用すると、自社の競争力を強化するための戦略や改善点を見つけやすくなるのです。また新規事業の潜在的なリスクを発見できる可能性もあります。
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SWOT分析とは事業戦略の検討の場面でよく利用されるフレームワークの一つです。
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④VRIO分析
自社が保有する経営資源の競争優位性を評価するフレームワークです。次の4項目を分析します。
- ヴァリュー(Value):価値
- レアネス(Rareness):希少性
- イミタビリティ(Imitability):模倣可能性
- オーガナイゼーション(Organization):組織
なおこの分析で扱う経営資源とは、設備や人材、スキルや特許など。各経営資源の状況や状態を分析すると、企業は強みと弱みを把握しやすくなり、効果的な差別化戦略を構築できます。
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VRIO分析とは、「経済的価値」「希少性」「模倣可能性」「組織」の4つの視点から自社の競合優位性や経済資源を把握できるフレームワークのこと。VRIO分析を正しく活用できると、自社の強み・弱みを把握した...
6.差別化戦略の企業事例
差別間戦略の実践時には、他社の事例を参考にするのも効果的です。ここでは「スターバックス」「任天堂」「モスバーガー」における差別戦略の実施事例について説明します。
スターバックス
スターバックスは、「サードプレイス」という独自の差別化戦略を展開。自宅や職場とは異なる、3つ目の自由な空間を提供し、他社との差別化を図りました。
またターゲットは女性に絞り、店舗デザインや商品名などを女性が好むものに変更。店内は禁煙とし、従来の喫茶店イメージを脱却するという独自性も打ち出しました。
この戦略は成功し、大幅な顧客集客を実現。今日では業界を代表するチェーン店のひとつとなっています。
任天堂
任天堂は、自社の歴代ゲーム機の特徴とスマートデバイスの活用を融合させた「NintendoSwitch」を開発。さらに映画やテーマパークとの協業で、自社のIPを活用したビジネス拡大を推進しました。
これらの差別化戦略により、ゲーム愛好者だけでなくゲームに興味のない層の取り込みにも成功。利益拡大とともにユーザーベースの拡大も実現しています。
モスバーガー
比較的高価格な商品を提供するモスバーガーは斬新なメニューを提供して多様なニーズを満たし、ベジタリアン、ヴィーガン、アレルギーを持つ人々などを取り込む差別化を図りました。
また大々的なプロモーションに頼らず、品質や多様性で顧客を引きつけ、業界の中で独自の地位を確立。激戦状態が続くハンバーガー業界において、マクドナルドに次ぐ2位の座を守り続けています。