MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、月次経常収益のこと。毎月の契約・購入から収益を得るサブスクリプション型ビジネスでは、ビジネスの継続性や成長性を測るためにもMRRが重要な指標となるのです。
MRRを正しく活用するためにも、MRRとは何か、そしてMRRの種類や計算方法、改善方法などを知っておきましょう。
目次
1.MRR(Monthly Recurring Revenue)とは?
MRRとは、「Monthly Recurring Revenue」の略で、月次経常収益(毎月繰り返し得られる収益・売上)を示す指標のこと。純粋に毎月継続して得られている収益のみを対象とするため、初期費用や追加購入費のように、単発で発生した収益は含みません。
MRRは、SaaSのようなサブスクリプション型のビジネスが増えたため注目を集めている指標です。MRRの数値が高いほど収益性が高く、事業の安定性・成長性が高いと判断できるため、経営上の重要な指標となります。
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2.MRRとARRの違い
ARRとは、「Annual Recurring Revenue」の略で、毎年繰り返し得られる収益・売上である年間経常利益を示す指標のこと。MRRと同様に単発で発生した収益は含まないものの、MRRは月単位、ARRは年単位の指標になるのです。
なお、ARRは年間契約形式が多いBtoB向けのSaaSサービスにおいて重要な経営上の指標になります。
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3.MRRがSaaSビジネスで重要なKPIとなる理由
MRRがSaaSビジネスで重要なKPIとなる理由は、下記のふたつです。それぞれについて解説します。
- 事業の成長性が把握できるから
- 投資家の判断材料となるから
①事業の成長性が把握できるから
サブスクリプション型ビジネスでは、毎月繰り返し収益が発生していることが最も重要です。そこで、月毎の収益推移が確認できるMRRは重要なKPIとなります。
継続的に得られる収益や売上が可視化されるため「目標の売上までどれくらい到達しているか」「目標に到達するまであとどれくらいの収益確保が必要か」などを分析でき、MRRからビジネスの成長性が把握できるのです。
②投資家の判断材料となるから
投資家にとって事業の効率性・成長性・継続性は重要な指標で、MRRはそれらを明確に示します。MRRの数値が高ければ事業の成長性や継続性に期待でき、投資の判断がしやすくなるでしょう。
こうした理由からも、資金調達を目指すSaaS企業にとってMRRは欠かせない指標です。企業の成長段階によって投資家が着目するMRRの指標は異なります。
事業を立ち上げたばかりの段階では「New MRR」、成長段階に入れば「Expansion MRR」や「Downgrade MRR」、「Churn MRR」といった指標を参考に投資判断を行います。
4.MRRが活用されるシーン
サブスクリプション型ビジネスを展開する企業にとって、MRRは非常に重要です。ここでは、MRRが活用される主なふたつのシーンをご紹介します。
投資判断
投資家は、事業の効率性・成長性・継続性を見極めて投資の判断をします。MRRは投資判断を行ううえで確実な指標であり、なかでも成長性の判断に欠かせません。
前述したように企業の成長段階に応じて重視されるMRRの指標は異なります。MRRの種類を正しく理解したうえで指標を算出し、戦略や施策の実行に役立てるとよいでしょう。
SaaS Quick Ratioの分析
SaaS Quick Ratioとはビジネスの成長率を測る指標のこと。SaaS Quick Ratioの計算にはMRRが利用され、その計算方法は下記のとおりです。
増収分( New MRR + Expansion MRR ) ÷減収分 ( Downgrade MRR + Churn MRR)で算出
下記は、SaaS Quick Ratioの目安数値です。
1未満 | 成長性が低い、ビジネス縮小中 |
1以上〜4未満 | 緩やかに成長中だが縮小するリスクあり |
4以上 | 成長性は良好 |
1未満はビジネスの将来性は低く、4未満はプラス成長ではあるものの将来的にビジネスが縮小するリスクがあるとしてマイナス寄りの評価となってしまいます。つまり、SaaS Quick Ratioは4以上をキープしている状態が理想です。
またMRRのみでは減収分が大きくても、増収分が損失をカバーできてしまいます。不健全な状態に気づけない可能性もあるため、SaaS Quick Ratioまで算出することが重要です。
5.4種類のMRR
MRRは、下記4種類に分類できます。それぞれについて見ていきましょう。
- New MRR(新規MRR)
- Downgrade MRR(減少MRR)
- Expansion MRR(拡大MRR)
- Churn MRR(解約MRR)
①New MRR
New MRRとは新規ユーザーによるMRRのことで、「新規MRR」とも呼ばれます。サービス開始直後に重視される指標であり、今後の成長性が把握できる指標です。
また、「New MRR÷CAC(顧客獲得コスト)」の計算式を活用すると、新規顧客を獲得するためのコスト(CAC)が適切かどうか、判断できます。この比率が低いと、サービス価格や顧客獲得効率に課題があると判断できるのです。
②Downgrade MRR
Downgrade MRRとは、既存顧客が前月比で商品・サービスをグレードダウンした結果、減少したMRRのことであり、「減少MRR」とも呼ばれます。有料プランを複数用意しているサービスで用いられる場合の多い指標です。
上位プランから下位プランにダウングレードした分、定期収益は減少します。つまり、Downgrade MRRが少ないほど安定した定期収益が確保できており、事業の健全性は高いといえます。
③Expansion MRR
Expansion MRRは「拡大MRR」とも呼ばれ、既存顧客が前月比商品・でサービスをアップグレードしたことにより増加したMRRのこと。
Expansion MRRとなる主な要因は、高価格なものへの乗り換えるアップセルや、関連商品の追記・同時購入によるクロスセルの発生です。
Expansion MRRは、顧客満足度を測る際にも役立ちます。なぜなら、顧客満足度が高いほど、既存顧客からの追加収益も見込みやすいといえるからです。
④Churn MRR
Churn MRRは「解約MRR」とも呼ばれ、解約によって失われたMRRのこと。サブスクリプション型ビジネスでは経常的な収益が要となるため、いかに契約を継続してもらうかが重要です。
Churn MRRの数値が高いほど事業の成長性・継続性に危険があり、反対に数値が低いほど安定性が高いと判断できます。New MRRが高くても、Churn MRRが高いとプラマイゼロ状態となってしまうため、事業の安定性を測るためにもChurn MRRは重要な指標です。
6.MRRの計算方法
MRRの基本的な計算式は「月額利用料×ユーザー数」です。たとえば、月額料金3,000円のSaaSサービスに利用ユーザーが100人いた場合のMRRは、下記のように算出されます。
3,000円(月額料金)×100人(ユーザー数)=30万円(MRR)
一方、当月のユーザー数が確定していない場合、前月のMRRをベースに計算するのも可能です。その場合の計算式は、下記のとおりです。
前月MRR + (New MRR+Downgrade MRR + Expansion MRR + Churn MRR)
New MRRやDowngrade MRRなどを算出する必要があるため、計算は多少複雑になります。また、契約期間が異なるサービスの場合は、1か月分に割り戻して下記のように計算します。
月額利用料×ユーザー数÷契約月数
複数のプランがある場合は、各プランのMRRを算出して合算します。たとえば、月額1万円でユーザー数100人のプランAと月額5,000円でユーザー数500人のプランBがあった場合、MRRは下記計算式で算出するのです。
(1万円×100人)+(5,000円×500人)
サービスによってプラン数が異なるため、サービス形態や当月の状況をふまえて適切な計算式を利用しましょう。
7.MRRを活用する際の注意点
MRRを活用するにあたって、以下3つの注意点をおさえましょう。
- 無料期間やディスカウントを加味する
- ほかの収益と混同しない
- 支払いに遅延があっても計上する
①無料期間やディスカウントを加味する
サービスによっては、契約時または加入後に無料期間やディスカウントを設けている場合も。この場合、料金や期間に関係なく、実際の請求額で計算しましょう。なお、予測のMRRでは、無料期間やディスカウント期間終了時の料金を加味します。
②ほかの収益と混同しない
同一ユーザーから別の収益が発生しても、MRRとは明確にわける必要があります。なぜなら、MRRは毎月繰り返されている収益のみを対象とした指標であるからです。そのため、初期費用や追加購入などが発生した場合、MRRに含めないよう注意しましょう。
③支払いに遅延があっても計上する
何らかの理由で当月に支払いがなかった場合でも、解約されていなければMRRとして計上します。解約されていなければ継続的な支払いが期待される状態にあるため、支払いが翌月以降であっても当月分として計上することが一般的です。
8.MRRの改善方法
サブスクリプション型ビジネスでは、MRRの分析・改善により事業の成長性・継続性を高めていくことが重要です。ここでは、MRRの改善点を種類別に解説します。
New MRRの改善方法
New MRRの主な改善方法は、新規顧客獲得の増加。そのためには営業やマーケティングの強化によるリード獲得やコンバージョン率の増加が求められるのです。リード数やコンバージョン率増加のための具体的な施策には、下記のような内容が挙げられます。
リード数増加 | Web広告といった広告活動、オウンドメディアの構築、セミナー出典など |
コンバージョン率増加 | 営業強化、離脱率低下の施策、サイト改善、CTAの追加・変更など |
一方、集客はできているのにコンバージョンにつながらない場合、ターゲットの再検討も必要です。
Downgrade MRRの改善方法
ダウングレードが起こる主な原因として考えられるのは「顧客が商品・サービスに満足していない」「サービスを使いこなせない」など。主な改善方法には、顧客満足度の向上やサポート体制の強化が挙げられ、具体的な施策は下記のとおりです。
- 商品、サービスの質向上
- 顧客満足度調査から実態を把握する
- Q&Aの設置、カスタマーによるサポート体制の構築
まずはダウングレードしたユーザーを中心に、商品やサービスに対する満足度調査から、実態を把握したうえで課題を分析するとよいでしょう。ダウングレードが起こった原因を究明すると、明確な施策を検討できます。
Expansion MRRの改善方法
Expansion MRRの主な改善方法は、顧客単価アップです。具体的な施策には上位商品やサービスを購入・契約してもらうアップセル、関連商品を購入・契約してもらうクロスセルが挙げられます。
アップセルを行うには顧客に対してアップグレードするメリットを提示することが重要です。クロスセルを行うには「関連商品の購入・契約によって効果や利便性がアップする」と明確にアピールするとよいでしょう。
アップセルやクロスセルの実現には、高い顧客ロイヤリティが欠かせません。そのため、既存顧客との継続的なコミュニケーションから信頼関係を構築し、ロイヤリティを向上させたうえで顧客目線からアプローチすることが重要です。
ただし、アップセルやクロセルは失敗すると解約率が高まるため、慎重に行う必要があります。
Churn MRRの改善方法
解約が起こる主な原因として挙げられるのは、商品・サービスへの不満や顧客ニーズのミスマッチ、後から登場した競合への乗り換えなど。
原因をふまえたうえでChurn MRRを改善する方法には、そもそものサービス改善や解約ユーザーへの調査、サポート体制の強化などがあります。
解約理由によって、実行すべき施策はさまざま。まずは、そもそもサービスや商品の品質や内容に問題がないかを確認するため、既存顧客に定期調査を行い、解約が起こる前に改善するとよいでしょう。
また解約ユーザーへのアンケートを踏まえた、料金プランやサービス内容、サポート体制などの見直しも欠かせません。
Churn MRR を改善するにあたっては、Downgrade MRRと同様、顧客との継続的なコミュニケーションによりユーザーの課題の早期発見・フォローが重要です。