人事労務DXとは、人事労務業務をIT化・デジタル化し、人事労務が本来の役目を発揮できる環境構築に取り組むこと。IT化が急速に進む現代では、その流れに適応できない企業は衰退の一途をたどるといっても過言ではありません。
今回は今注目を集める人事労務DXについて、求められる理由や取り組むメリット、具体的な施策や取り組む上での課題などを詳しく解説します。
目次
1.人事労務DXとは?
人事労務DXとは、人事労務にかかわる業務をデジタルの力で変革すること。人事労務の主な業務には給与計算や勤怠管理、税金保険関連の手続きなどがあり、紙などのアナログ管理では入力や計算、書類整理に時間がかかってしまいます。
手続き業務は細かい申請や確認事項も多く、従業員数が多いとそれだけ業務量も多くなるでしょう。計算やデータ把握など、デジタル化できる業務はデジタル化して効率化を図ることが人事労務DXです。
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デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
DXとは「Digital Transformation」の略で、ITテクノロジーによって、人々の生活をより豊かでよいものに変革させること。2004年、スウェーデンの大学教授エリック・ストルターマン氏によって提唱されました。
日本では2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発表したことを機にDXという言葉が普及。
DXにおいて「IT化」「デジタル化」はあくまで手段であり、本来の目的はIT化・デジタル化によって組織自体を変革し、既存のビジネスモデルを変容させて市場優位性を確保する」ことです。
2.人事労務DXが求められる理由
DXが求められる領域は多岐にわたり、ビジネスはそのひとつです。管理するデータが多いにもかかわらず、アナログから脱せていない企業も多くあります。ここでは、人事労務DXが求められる主な理由をみていきましょう。
2025年の崖を克服するため
DXを推進できなかった場合の経済的損失は、2025〜2030年の間で年間最大12兆円と推定。
既存システムの老朽化によるトラブルやリスクの発生、IT人材の不足や維持管理費の高騰などに直面し始めるのが2025年と想定されており、これを「2025年の崖」と呼んでいます。
人事労務領域も2025年の壁の例外ではありません。人事労務の扱う業務は、企業が円滑に経営活動をする上で欠かせないもの。
しかし、業務がIT化・デジタル化できていない場合には業務効率の低下を招き、増加するデータを活用しきれないことで企業の成長を阻んでしまう恐れもあります。
企業の衰退を防ぐため
世の中ではIT化が急速に進展しており、この変化に対応できない企業は衰退の一途をたどってしまう恐れさえあります。
経済産業省は「DX推進ガイドライン」にて「市場競争に勝ち抜くには、DXによるビジネスモデルそのものの変容が必要である」と述べているほどです。
人事労務が扱うのは企業の「ヒト」に関する業務であり、採用・教育・人事・労務とその範囲は多岐にわたります。人事労務のDXは人材戦略にも直結するものであり、企業を成長・発展されるのは「ヒト」です。
つまり、人事労務DXは企業の発展に大きく影響する要素であり、変化の激しい世の中に対応するためには欠かせない取り組みといえます。
3.人事労務DXを推進するメリット
人事労務DXの推進により、以下のようなメリットに期待できます。
業務効率化を図れる
必要なデータが書類や別々の場所で管理されている状態では、業務を開始するまでに時間を要し、効率的に業務を進められません。
人事労務DXでは、システムを導入して必要なデータを一元的に管理できるため、データや書類を探す時間や書類を整理する時間から解放され、業務にかかる工数を大幅に削減できます。
計算やデータの集計なども自動化でき、少ない人員でも効率よく業務が進められるようになるだけでなく、人的エラーの防止にも有効です。雑務はシステムに任せると人事労務が本来の業務に集中できるようになり、人事労務全体の質向上も期待できます。
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業務の属人化を防げる
属人化とは特定の担当者しか業務を把握していない状態であり、担当者が不在、あるいは離職に伴い業務が滞ってしまうリスクもあります。
人事労務DXではデータを一元的に管理でき、かつアクセス権限を設定して機密情報を守ったうえで誰もが自由にアクセス可能です。データが活用できない状態を解消できるだけでなく、必要なデータを必要なときに取り出し、柔軟に活用できるようになります。
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コスト削減につながる
アナログでの人事労務は紙や保管場所などにコストがかかるだけでなく、書類作成や回収、確認にも時間がかかり、それだけ人手も必要です。人事労務DXによって業務がデジタル化できれば、ペーパーレス化が進み、保管場所も必要なくなります。
また、書類の回収はシステム上で行え、自動集計・計算などにより確認にも人手が不要です。人事労務にかかる諸コストや人件費の削減につながり、かつ浮いたコストを他に回してコストの最適化が図れます。
戦略人事に生かせる
人事労務DXの推進は、従業員の人事データの蓄積につながります。人的資本経営が注目されているように、企業の成長・発展には「ヒト」の活用が欠かせません。
経営戦略に合わせて、人材戦略を行う戦略人事に取り組むと、経営戦略の達成に必要な人材の採用・育成・配置が行えます。
システムに蓄積された人事データは、ハイパフォーマーや退職者の傾向、従業員の個々の能力を可視化したうえでの適材適所な人材配置など、データをもとにした的確な人材戦略が行えるようになります。
経験や勘任せではない確実なデータにもとづいて、スピード感を持って戦略が実行可能です。
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4.人事労務DXを推進しないデメリット
人事労務DXを推進しないデメリットは、業務効率の低下や業務の属人化の発生、ペーパーレス化が進まないといった影響を及ぼします。
紙での作業は書類を探したり整理したりするのに時間がかかるだけでなく、人的ミスも起こりやすいもの。ミスが起こるとやるべき業務が増え、効率化とは無縁な状態に陥ってしまいます。
また、DX推進しないことは、以下のようなデメリットもあるとガイドラインで述べられているのです。
- データが活用できずにデジタル競争の敗者になる
- システム維持管理費の高騰による技術的負債
- サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ消失などのリスク
2025年の崖を脱するため、そして急速に変化するビジネス環境に対応して企業を発展されるにも、人事労務DXの推進が欠かせません。
5.人事労務DXの具体的な施策
人事労務DXを推進する重要性がわかっても、具体的に何を行えばよいかわからないため、DXが滞っているケースも少なくないでしょう。ここでは、人事労務DXの具体的な施策をご紹介します。
システム・ツールの導入
人事労務DXを推進するにあたって、システム・ツールの導入は欠かせません。システムやツールの導入により人事データの一元管理、情報収集や申請のペーパーレス化など、煩雑な業務が不要になります。
紙での作業がなくなると保管場所や人員などのコスト削減にもつながり、人的ミスを最小限に抑えるのも可能です。
また、従業員とのやりとりはシステム上で行えるためスムーズに完結し、手続きも電子申請を活用して工数が大幅に削減できます。さらに、利用中のシステムと連携すると、人事労務の域を超えたさまざまな業務の効率化に寄与するのです。
業務の自動化
給与計算や勤怠管理、社内から寄せられる質問対応にチャットボットを導入するといった、雑務の自動化も必須です。雑務に追われてしまうと、人事労務が本来発揮すべき役割がまっとうできなくなってしまいます。
人事労務の本来の役割は、従業員を採用・育成・配置・評価し、労働条件を整備すること。雑務や短縮しても問題のない業務を自動化すると、戦略人事など本来人事労務が工数をかけるべき業務に集中できます。
人事労務部門の負担を軽減することは、結果的に企業の成長・発展を促進につながるでしょう。
既存業務の棚卸し
人事労務DXは、単に人事労務業務をIT化・デジタル化するだけではありません。DXは業務の棚卸しとセットで行うべきであり、人事労務においても同様です。
まずは人事労務が抱える業務内容やフローをすべて洗い出し、問題や課題を抽出してこそDX推進に必要な手段がみえてきます。デジタル化・自動化できる業務と人の手でやるべき業務に分けたうえで、具体的な施策を検討することも必要なステップです。
今一度業務の棚卸しを丁寧に行い、業務内容やフローをすべて精査することもDX推進の施策に含まれます。
6.人事労務DXを推進する際の課題
人事労務DXに取り組むうえでは、さまざまな課題も発生します。どのような課題があり、自社にはどういった課題が発生する可能性があるかを押さえ、事前に対策を打つことも人事労務DXを推進するうえで大切です。
既存データをまとめる負担が大きい
人事労務DXの第一歩は、データの管理です。既存データをまとめる、またはデータ化する必要がありますが、この点が最初の課題となるケースがほとんどでしょう。
PCに保存されているデータだけでなく、書類で保管している、教育担当が個別に従業員データを管理しているケースもみられます。
部署・人ごとにバラバラに管理されているデータを一箇所に集めるだけでもかなりの労力が必要であり、時間がかかってしまうもの。しかし、一度正しく整理してまとめられればあとはシステム上に蓄積されるため、同じような手間は発生しません。
新システムへの移行が難しい
長年同じシステムを利用し続けている場合、仕様書がブラックボックス化している、新しいシステムに従業員が抵抗や不安があるなどの理由から、新システムへの移行が難しいケースもあります。
2025年の崖として、システムの維持管理費の高額化による技術的負債や、保守運用の担い手不足によるトラブルの発生リスクの上昇など、既存システムを利用し続けることのリスクも挙げられているのです。
レガシーシステムを使い続けることは、人事労務DXの大きな弊害。一時的に従業員への負担は大きくなってしまうものの、長期的なリスクを考えると新システムへの移行が望ましいです。
従業員に馴染むまでに時間がかかる
新しいシステムの導入によって、今までのやり方を刷新し、新しい手法を覚えていく必要があります。慣れないシステムやツールを扱うのに時間がかかり「紙の方が慣れている」「今までの方が楽だった」と感じる従業員も少なからず出てくるでしょう。
しかし、こうした最初の課題を乗り越えないことには、DXは頓挫してしまいます。従業員が新しいシステムややり方に慣れるまで時間がかかることを考慮し、段階的にDXを進めていくことが重要です。マニュアルを整備して、サポート体制も構築しましょう。
人手不足でDXに手が回らない
人事労務は企業活動に欠かせない役割を担うものの、深刻な人手不足の状況に陥っています。そのため、リソース不足によってDXが進められない企業も少なくありません。
人事労務とDXに精通した人材を新たに採用するのもひとつの解決策でしょう。しかし人材をすぐに確保するのはかんたんではありません。
専門的な人材を確保したい場合は、DX推進をサポートしてくれるコンサルタントにアウトソーシングすると、スピード感を持って進められます。アウトソーシングなら、専門的な知見を持った人材をすぐに確保可能です。
7.人事労務DXを成功させるためのポイント
人事労務DXの成功は、最終的に企業の成長・発展につながるもの。ここでは、人事労務DXを成功させるためのポイントを解説します。
現状を把握して目的を明確にする
人事労務DXを推進するには、目的や目標を定めて全体像を定める必要があります。まずはなんのために人事労務DXを行い、結果どういった人事労務部門でありたいのかを明確化しましょう。
スムーズに進めるためにも、経営陣や関係部門にも決定した目的を共有します。目的を明確にするには、現状を把握して課題や問題を把握することが必要です。
現状の人事労務の業務内容やフロー、データの管理方法や取り扱っているデータの種類などを洗い出すと、導入すべきシステムやツールの要件を定義できます。
闇雲にIT化・デジタル化するのではなく、その先どうしたいのかまで明確にしてこそDXといえるでしょう。
段階的に進める
スモールスタートで段階的に進めるのも成功のポイント。社内ルールの一斉変更やツールの全刷新など、大規模な変更は混乱を招く恐れもあります。また、システムやツールを一気に導入することは、コスト的にも負担が大きいもの。
人事労務DXをするにあたって、重要度の高いものや低コストで切り替えできるもの、定着に時間がかかるものを洗い出し、優先順位を決めて段階的に進めることが大切です。
DXに対応できる人材を確保・教育する
DXによってシステムやツールを導入しても、使いこなすには知識やスキルが必要です。誰も知識・スキルがない状態では、慣れるまでにかなりの時間がかかってしまいます。
社内でDXに対応できる人材を探す・育成する。社内に人材がいない・育成に時間がかかる場合には、新たに採用するのもひとつの方法です。DXに対応できる人がいてこそスムーズにDXが進められます。
8.人事労務DXで役立つシステム・ツール
人事労務DXで役立つシステム・ツールにはさまざまあります。ここでは、人事労務DXに役立つシステム・ツールをご紹介しましょう。
人事労務システム
人事労務システムとは、人事労務の効率化に特化したシステムです。業務全般をシステムで一元管理できるため、業務効率化だけでなく、データの集約・有効活用に役立ちます。
さらにデータはシステム上で管理できるため業務の属人化も防ぎ、人的ミスも最小限に抑えられるのです。
システムによって搭載する機能や連携の柔軟性、利用料はさまざまあるため、システムに頼りたい業務や予算に応じて、最適なシステムを選びましょう。
タレントマネジメントシステム
タレントマネジメントシステムとは、個人や組織のパフォーマンスを最大化させるためのシステムです。個人の能力や才能など、従業員のタレントやスキルを一元管理し、それらを最大限生かせるような人材戦略の実行に貢献します。単なるデータの管理機能だけでなく、戦略人事や経営に直結する機能を備える点が特徴です。
システムによっては人事労務や給与計算、勤怠管理などのシステムと連携も可能。人事労務に関する情報を一元管理しながら、戦略人事にデータを活用しやすい環境を構築します。
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