後継者育成とは?【育成計画の作り方】実施の流れ、事例、課題

後継者育成とは、組織や企業においてこれからの経営を担う人材を育てることです。実施の流れ、課題、後継者育成計画の作り方などについて解説します。

1.後継者育成とは?

後継者育成とは、将来の経営者や幹部といった重要ポジションを担う人材を育成することです。英語では「Succession Plan(サクセッションプラン)」と表現されます。経営者には様々な知識とスキルが必要とされ、育成にも多くの時間を要します。そのため早期かつ計画的に後継者育成に取り組むことが必要です。

また後継者育成に着手すると、将来的な成長戦略を実施している企業だとアピールでき、ステークホルダーからの信頼が高まる効果も期待できます。

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2.後継者育成の目的

後継者育成の主な目的は、組織と経営の安定と成長を長期的に確保すること

経営者の引退や急な人事の変動に備え、適切なリーダーシップを持つ後継者を計画的に育成すると、組織の持続性と安定性を保ちやすくなります。

上場企業においては、コーポレートガバナンスの要請に従い、経営者の交代計画を着実に実施することが求められています。企業統治においても後継者の育成は重要な課題と見なされているため、継続的に後継者を育成する仕組み作りが必要です。

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3.後継者育成を行わないと起こる問題

後継者育成が行われないとさまざまな問題が発生し、自社の発展や存続を脅かす可能性があります。ここでは3つのリスクを説明しましょう。

売上減少

自社の経営方針や戦略を理解した後継者がいないと、企業の収益性に深刻な打撃を与える可能性もあります。

後継者としての教育を受けていない人材が経営者になれば、適切な戦略の策定ができず、市場変動や競争の激化に対応しきれなくなる恐れもあるからです。

また経営ビジョンや計画が不透明になり、企業イメージの低下、顧客や取引先の離反といった状況を招きかねません。実際に後継者の育成がうまくいかず、売上や利益が激減した事例も多く見られています。

退職者の増加

後継者教育がなされていない経営者へ交代すると、従業員から反発が生じて退職者が相次ぐ可能性があります。

以前の経営者が掲げる方針やビジョンに惹かれて入社した従業員は、これらを引き継ぐ後継者でないと認めない傾向にあるからです。

また新しい経営者が組織文化や方針の変更といった急激な改革を進めようとした場合も、従業員が反発して退職する恐れがあります。

休廃業や解散

後継者教育がなされなかった経営者が就任すると経営の混乱し、事業の休廃業や組織の解散という結末にもなりかねません。社外からの信頼低下、退職者の増加、売上減少といった問題が生じやすいからです。

中小企業庁の「令和4年度に認定支援機関等が実施した事業承継・引継ぎ支援事業に関する事業評価報告書」によると、事業承継を円滑に進められなかったために生じた倒産(後継者難倒産)は増加傾向にあり、2022年は過去最多の487件となっています。

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4.後継者育成の課題

後継者育成は、企業の持続的な成長に欠かせない重要な取り組みのひとつ。しかし取り組むうえでさまざまな課題が生じます。ここでは後継者育成の課題とその解決策を説明しましょう。

後継者候補の確保

企業規模にかかわらず、後継者候補の確保が難しいのが現状です。一般的な企業では競争激化や人材の流動性の高まりなどが影響し、適切な後継者を見つけるのが難しくなっています。

家族経営においても、経営の複雑性や個々のキャリア志向の多様化が影響し、子どもや親族が事業を継ぐケースも減少しているのです。

適切な後継者を早期に見つけるためには、新しい人材の積極的な採用、後継者育成プログラムの充実、支援制度の活用などを並行する必要があります。

人材の選定

後継者に求められるスキル、資質、職務などを明確にしたうえで、候補者を選定する必要しなければなりません。

しかし経営者としてのリーダーシップ、戦略的な視点、組織に対する忠誠心などの定性要素を適切に評価するのは難しく、そもそも候補者の選定が進まないといったケースが見られます。

選定をスムーズに進めるためには、評価基準の明確化と教育施策の整備が必要です。社内での選定が難しい場合は、外部専門家のアドバイスを活用することも検討しましょう。

育成方法の選定と計画

後継者を育成する際には、慎重かつ計画的なアプローチが不可欠といえます。

後継者は、現場の業務遂行スキルとは異なる能力を習得しなければなりません。業界や経営に関する知識や、経営者として必要なスキルを効果的かつ段階的に習得できる仕組みが必要です。

後継者の経営権が広範になるほど育成に時間を要するため、数年単位の育成計画も珍しくありません。社内だけでは十分に教育できない場合は、外部のセミナーを活用するとよいでしょう。

企業風土の醸成

後継者の確保において、組織全体で後継者を育成するという風土や体質も欠かせません。組織は後継者が成長する土壌であるため、自社が求める経営者像を組織全体で共有すると、後継者の発見と育成を促進できます。

良好な育成環境を整備するために、経営の経験を積めるポストの増設、評価体系の改善、所属部署との円滑な連携などが求められるかもしれません。経営層が明確な方針を示し、全社で戦略的育成に取り組むという意識が重要です。

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5.後継者育成の流れ

後継者育成では、候補者の選定から実際の事業承継までの流れを理解しておくことも重要です。ここでは後継者育成の流れとその内容を説明します。

  1. 後継者候補の選定とプランの立案
  2. 育成の実施
  3. 事業継承

①後継者候補の選定とプランの立案

後継者育成でまずやるべきことは、後継者候補の選定と育成計画の立案です。育成計画は、習得すべき知識やスキル、キャリアパス、教育の方法や期間、コストなどを含めて具体的に策定します。

選定期間は現経営者の退任時期や育成期間によって変化し、短ければ1年から3年、長ければ5年から10年ほどかかることも珍しくありません。そのため事前に後継者候補へ認知(意志確認)しておく必要があります。

②育成の実施

選定した後継者候補へ策定した育成計画を実施します。候補者の特性や能力にもよるものの、ジョブローテーションによる複数部門の経験、新部門や新事業の管理と運営などを経てから、経営に携わらせるといった流れが一般的です。

育成中に後継者候補の適性や成長性を見極め、場合によっては育成計画を修正する、あるいは目指すポジションを変更するなどの調整も必要といえます。

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③事業継承

事前に経営権や資産の承継方法(相続、贈与、譲渡など)を決定したうえで、後継者へ事業承継を行います。たとえば株式は有償譲渡させるのが一般的です。後継者の資力が不足している場合は無償譲渡も可能。ただしこの場合は贈与税または相続税が発生します。

採択する承継方法によって必要な手続きや適用される税制が変わるため、不安な場合は専門家へ相談しましょう。

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6.後継者育成のポイント

後継者教育に取り組んだものの、失敗に終わってしまった事例も少なくありません。後継者育成をより成功に導くために意識すべき5つのポイントを解説します。

早期育成

早期に後継者育成の基盤を築き、継続的に候補者の教育を進めましょう。候補者によっては育成に年単位の時間を要しますし、傷病や家庭の事情などで経営者の交代が早まる可能性があります。

なお経済産業省では、「60歳になったら事業承継の準備を始めよう」と経営者へ推奨しているものの、上記の理由から可能な限り早期に着手すべきです。

外部企業の経験

後継者候補の育成では、外部企業での経験を通じて異なるビジネス環境や文化に触れさせることも重要となります。自社だけの経験では視野が狭まり、リーダーとして必要な能力が身につかない恐れがあるからです。

とくに大企業での経験を積むと、さまざまなビジネスシナリオに対処できる柔軟な対応力を養えるでしょう。

現場経験

後継者には理論だけでなく、実践的な経験が欠かせません。実践から得た洞察は、理論だけでは得られない実用的な知識を育むからです。

より多くの現場を経験させるためには、ジョブローテーションの活用も有効。さまざまな現場で従業員との信頼関係を強化し、より多くの課題へ直面するほど、リーダーシップや問題解決のスキルを磨けます。

経営者による直接指導

経営者は後継者に対して、可能な限り直接指導や引き継ぎを行いましょう。

経営者としての考え方や心構え、信念、知見、経営理念、企業文化のような抽象的概念はそのまま引き継がせ、今後の事業計画や業界や市場の動向などはデータを利用して詳しく説明するのがポイントです。

後継者補佐の育成

後継者の育成計画と並行して、後継者を補佐する人材を育成することも重要です。経営者はその立場ゆえに周囲へ悩みや不安などを相談できず、孤独感を感じることがあります。相談しやすい補佐役がいれば、経営者は経営に集中できるでしょう。

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7.後継者育成計画(サクセッションプラン)の作り方

後継者育成の適切な開始時季は企業によって異なるものの円滑に事業承継を完了させるためには後継者育成計画(サクセッションプラン)の作成が欠かせません。ここでは後継者育成計画の基本的な作り方を解説します。

  1. 企業方針の明確化
  2. 後継者の要件の定義
  3. 後継者候補の選出
  4. 教育内容の策定

①企業方針の明確化

経営者像を明らかにするために、経営者やトップ層が共有すべき自社の経営戦略や経営方針を明確化します。具体的には次のような項目が挙げられるでしょう。

  • ビジョンやミッション
  • 長期的な戦略
  • 自社が扱う製品やサービス
  • 業界の動向や競合他社

企業の方針を明確にすると、後継者に相応しい人材の特定、育成内容の策定、組織の方向性なども見えてきます。

②後継者の要件の定義

後継者の要件定義は、育成計画の基盤を築く重要なステップ。経営者として求められる一般的な要件、および企業の価値観や業界の特性にもとづく要件も含まれます。

コミュニケーションスキル、リーダーシップ、交渉力、決断力などにくわえ、自社事業に関する専門知識や実務経験なども挙げられるでしょう。ただしこれらの要件をすべて満たす人材を探すのは難しいため、要件には優先順位を決めるべきです。

③後継者候補の選出

後継者になりえる有望な人材を複数選定します。主な選抜方法は自薦、他薦、資質テストなどによるアセスメントなど。場合によってはこれらの方法を組み合わせることもあります。

選出では実績や経歴だけでなく、候補者の資質、人柄、意欲なども加味するのがポイントです。多面的かつ総合的に考慮したうえで、後継者として育てる人材の選抜を行います。

④教育内容の策定

経営理念や将来のビジョンにもとづき、後継者候補の成功に向けて必要なスキルや知識を考慮した教育プログラムを策定します。

候補者が不足している場合は再評価や教育内容の修正を行い、後継者に求められる能力を確実に身につけさせることが重要です。

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8.後継者育成の事例

後継者育成は、企業の将来を大きく左右する重要な課題。失敗しないためにも、後継者育成の事例を参考にするのも手です。

CoCo壱番屋

「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する株式会社壱番屋は、能力のある従業員へ事業を承継しました。

当時の社長は現場主義を貫いており、親族承継はしないと決めていました。社長が後継者として選んだのは、アルバイトで長年勤務している従業員です。

決め手は、社長と同じビジョンを持ち、同等の意思決定ができる人材だったこと。経営スキルや人間性も申し分なく本人も意欲的であったため、スムーズに事業承継が完了しました。社長交代後も同社は着実に成長を遂げ、海外への進出も成功しています。

株式会社ユニックス

部品といった表面加工を行う株式会社ユニックスは、親族内に適切な後継者候補がいなかったため、従業員へ事業を承継しました。

後継者候補を選定する際、当時の社長は「従業員が社長を選ぶ方法」を採択。全従業員へアンケートを行って適任だと思う後継者を尋ねたところ、ほぼ全員がひとりの従業員を推薦したのです。

この従業員が新たな社長となったことで、従業員は新たな経営体制を受け入れやすくなり、社長と従業員の信頼関係が強化されました。現社長は果敢に新市場の開拓に取り組み、事業を拡大させています。