幹部候補の
- 管理職との違い
- 必要とされる理由と背景
- 現状と課題
- 人材育成
などについて詳しく解説します。
目次
1.幹部候補とは?
幹部候補とは、将来的に上位管理職など重要な役職に就き、大きな成果を出すことを期待されている人材のことをいいます。
「幹部候補生」「次世代リーダー」と呼ぶこともあります。自衛隊や公務員などでも用いられます。
組織内での明確な線引きがないため、役員クラスのトップマネジメント層の候補者から、管理職候補者までを含める場合もあります。
幹部とは?
幹部とは、社員を教育し適切な指示を出す人物、組織の中心となる人物のことをいいます。
その中でも、組織の有数よりも多少、下の立場や役割の人を「幹部」と呼ぶことが多いです。幹部の役職にはさまざまな種類があります。
管理職との違い
管理職は、自分が担当している業務の範囲を最適化するのが職責です。一方の幹部は、事業全体が成功するためにひとつの部署や業務にとらわれず複数の視点が求められます。
それぞれの役割が異なるため、管理職が幹部になれるとは限りません。
2.幹部候補が必要とされる理由と背景
近年の人材不足問題において、スキルや経験が豊富な人材だけでなく、業界や業種未経験の若手人材の獲得も難しくなっています。
中期的な組織開発として幹部候補となる若手人材の獲得、育成が重要視されるようになりました。10年先、20年先の会社経営を考えると、人材育成を視野に入れた人材戦略は会社の存続に必要不可欠なのです。
3.幹部候補の現状と課題
中小企業が抱える課題は「後継者が不在である」という現実です。その理由は育成体制が整っていないから。一方の大手企業では、幹部候補を期待される優秀な人材ほど有望な中小企業に転職してしまう、といった課題を抱えているようです。
育成に取り組んでいるのは全体の半数
2017年の経済産業省の調査によると、経営リーダー人材の戦略的育成を行う企業の取り組みは次のような結果でした。
- 取り組みをしている企業52.6%
- 育成の候補となる役職…部長クラス 88.2%、課長クラス58.8%
- 人材育成のターゲット…事業責任者66.7%、副社長・専務・常務64.7%
経営トップを若手段階から早期に育成する企業は多くないことが分かります。
ジョブ型雇用は幹部候補が育ちにくい
メンバーシップ型雇用とは、年功序列、終身雇用、新卒一括採用などが前提とされる日本の企業で多く取り入れられているシステムです。
ジョブ型雇用とは、あらかじめ業務内容・求める能力・労働時間・勤務地を明確に定めた上で、人材を採用するシステムです。近年はジョブ型雇用に移行し始めていますが、幹部候補の育成が困難とされています。
4.幹部候補となる人材を育成・採用する方法
幹部候補となる人材を育成する方法は、自社で活躍している人材を発掘する方法と外部から確保する方法があります。
社内で育成する
社内育成は、経営者の独自の哲学を継承しやすく、自社のやり方で利益を生む方法を実感し理解させることがスムーズにできるでしょう。
親族が幹部候補の場合は他の社員からの反発を招く恐れもあります。また幹部候補になった本人がプレッシャーを感じしまい育成がうまくいかないといったデメリットがあります。具体的には次のようなものがあります。
上層部や人事部が選抜した人材を育成する
10年後、20年後に最前線に立つ社員を自社で育成するためには、長期的な視点や明確な選抜基準、育成プログラムが必要です。
そのためには選抜基準を練る初期段階から経営陣も交えてプログラムを組むことです。しかし候補となるこの世代の社員は、キャリアアップ転職や独立をする傾向があるため、幹部候補の人選が困難となるでしょう。
人選で注目すべきポイント
人選する際のポイントは、次の3つです。
- 目的に合った選抜基準…実務能力、実績の評価、日頃のプロセス評価、周囲からの360度評価など。意欲や基礎能力など、将来のポテンシャルの要素を盛り込みます。
- 人選方法…人事部からの指名、上長からの推薦、公募(論文や面接など)など。
- 本人の意思…選抜された社員の意思と意欲を確認。
社員が推薦した人材を育成する
社員の紹介によって人材を探し、採用するリファーラル採用は、自社を理解した社員からの推薦のため、会社の方針から大きく外れた人材が選ばれるリスクは低いでしょう。
昨今のSNSなどコミュニケーションツールの普及もあって、リファラル採用がしやすい環境です。また採用コストの抑制や従業員のエンゲージメントアップといった効果も期待できます。
社内公募
社内で募集をかけ、社員が自発的に応募する制度です。自発的な姿勢がある人が応募するため、人材育成の教育効果が高められる良い方法です。
募集をする際に、非管理職と管理職の幹部候補となる社内公募を同時に行い、別々に研修・教育制度を実施するのがポイントです。ベテラン社員と若手社員を分けて幹部候補の教育をするのは人材育成に最適です。
中途採用で外部から確保する
すでに社会人経験を積んでいる中途採用者の場合、育成期間やコストがかからないというメリットがあります。入社後すぐに即戦力となり、自社にないスキルやノウハウで業績を上げてくれるでしょう。
デメリットとしては、他社を経験している分、自社のやり方や風土に馴染めずに、すぐに転職をしてしまうケースが多々あることです。
5.幹部候補に求められる資質・特徴
幹部候補は、業績を上げるために必要なスキルや能力を多彩に身に付けているなど、一般社員に比べて求められるレベルが高いです。
メンバーを引っ張るリーダーシップや決断力など、人物としての高い資質も求められます。
多角的な視野
会社の事業全体を見て組織を動かす幹部は、1つの分野や業務にとらわれない広い視野が必要です。会社全体のミッションや目標を常に意識しながら、事業を成功へと導くことが求められます。
また事業部門を超えた連携や組織再編に取り組むことも求められるため、幅広い知識も必要です。会社を成長させていくための勉強は必須です。
問題解決能力
事業を進める上での、突発的なトラブルや課題を解決する能力が必要です。正しい関連情報を素早く収集し、総合的な視点から判断する力が求められます。
また事業部門を超えた連携を先頭に立って執り行うためには、具体的なメッセージの提示、伝える力、交渉力などを身に付けることです。幹部の強い存在感が組織を1つの方向へと動かしていきます。
柔軟性
日々、目まぐるしく変化する時代において、柔軟に物事をとらえる姿勢が求められます。企業の幹部が固定観点に縛られていては、変化する時代に取り残され企業は淘汰されていくでしょう。
常に時代のニーズを察知し、社会に貢献するような価値を提供し続けてこそ、企業が成長し存続していけるといえます。幹部候補には、柔軟性が必要不可欠です。
リーダーシップ
周囲の人が理解し、共感してくれるようなビジョンを持ち、この人についていきない、と思わせるようなリーダーシップ力が必要です。
多くの人を説得し理解させるためには、自社だけにとどまらず、社会全体の動きを読み、いま何をすべきか判断する力を身に付けることです。日ごろから自身の言動を律し、周囲との信頼関係を築いておくことが欠かせません。
マインドの強さ
失敗にもくじけない、自分の意見を貫くメンタルの強さは重要です。社内での対立や競争のなかで、日々ストレスを与えられるのも幹部のポジションです。
困難な問題にぶつかったり、対人関係でトラブルが生じたり、そうした際にネガティブ思考に陥っていては組織の士気も下がるでしょう。大きな成果を成し遂げるためには、スキルや能力だけでなくマインドも必要です。
コミュニケーション能力
コミュニケーションは組織力強化を決定づける重要な課題です。多様な立場の人と目線を合わせられるようなコミュニケーション能力は、幹部には必要不可欠です。
社長との経営に関する折衝や、働き方に関する従業員との意見交換、顧客や仕入れ先との交渉時など、社内外で幅広い人間関係を築くためにはコミュニケーション力が求められます。
6.幹部候補を育成する際の流れ
優秀な幹部候補を見つけても、きちんと育成ができなければ意味がありません。そこで重要になるのが育成プランです。正しい育成方法を用いながら効率的に経験を積ませるプランの流れを紹介しましょう。
育成のゴールを決定
幹部の定義を明確にします。経営者が求める幹部像など育成のゴールを共有するためにも必要です。面談や1on1ミーティングなどを活用し、現在の幹部と幹部候補が交流する機会を設けるのも良いでしょう。
ゴールを明確にせず、優秀だからという理由だけでは、潜在的なポテンシャルを正しく判断できず、有力な候補者をプールできなくなることもあり得ます。
中長期的なプランの構築
中長期的な人材育成計画を定めておくことで、幹部になった際の自分のあり方をイメージすることができます。
具体的には、将来的に必要となる幹部の人数と役割、育成プランで実施する教育内容などを公開しておくことで、今後の道筋をイメージしやすくなります。また候補者が途中で退職するといったリスクも少なくなるでしょう。
人材の選抜
有能な幹部候補を、多面的に評価しながら徐々に絞り込んでいきます。日々の業務の中で、他の社員とは違う資質や特性を持つ人材が候補となりますが、本人が将来に対して意欲を見せるかどうかも大切な人選のポイントです。
今は素質を十分に発揮しきれていないが、高いポテンシャルを秘めているかもしれない、といった視点を持ちながら人材の選抜をします。
研修や訓練の実施
ケース・メソッドや企業事例などを中心としたカリキュラムにより、実践的なスキル習得を目指します。その際、外部講師や専門家に依頼して、プロの指導を直接受けさせるのも人材育成には有効な方法です。
経営者としての経営観を形成させるため、経営方針や戦略、マネジメントの基盤を形成し、意思決定の軸をつくります。実際の経営課題の発見とその解決策を経営トップの中で発表するのも良いでしょう。
7.幹部候補生の活用事例
欧米のみならずアジア諸国でも意欲的に人材育成に取り組む企業が増えています。国内3社の幹部候補生の活用事例を紹介しましょう。
KDDI株式会社
幹部候補向け英語研修を導入し、受講生を半年間業務から引き離して英語漬けにして鍛えました。1年間役員について業務を間近で見ながら経営手法や経営の視野・視点を学ぶ「役員補佐制度」を実施。
女性活躍推進の意味も含みます。部長クラスを対象に、経営知識などを学ばせる新プログラムを開始、さまざまなルートで経営幹部候補を育て、経営を担える人材のプール化を進めています。
日清食品ホールディングス
次世代の経営を担うであろう人材を倍増させる施策の1つとして、企業内大学「グローバルSAMURAIアカデミー」を創設。企業内で選抜された人材を若手からキャリアまで5つの階層に分けて教育し、企業経営の中心となるべく育てます。
マネジメントや論理的思考力といった経営能力だけでなく、異文化理解や語学といったグローバル人材に必要な要素についても教育を受けます。
帝人株式会社
役員に自分の後継者を推薦させ、人事委員会で選出する社員を定期的に審議します。選出された社員は「ストレッチⅠ」「ストレッチⅡ」の区分に分類されます。
「ストレッチⅠ」はトップマネジメントを目指していく役員候補の位置付けで、部長層が中心です。「ストレッチⅡ」はその一歩手前で課長層が中心です。選抜された人たちに対しては3年間の研修を実施しています。