過労死は、日本における社会問題です。過労死白書は、この過労死の現状と対策を取りまとめた報告書です。ここでは、過労死白書について解説します。
目次
1.過労死白書とは?
過労死白書とは、厚生労働省が発表している過労死の現状や対策などを取りまとめた報告書のこと。正式名称は過労死等防止対策白書で、平成26年法律第100号の過労死等防止対策推進法第6条に基づいて、毎年国会へ報告する年次報告書のひとつです。
2.過労死白書の目的
過労死白書を作成する目的は、日本社会で「過労死がどの程度生じているのか」「過労死の問題が生じる背景は何か」を取りまとめて、働き方や職場環境の改善を進めること。
過労死白書を読み解きながら、長時間の過重労働が労働者の心身に悪影響を及ぼしている現状を少しでも改善する、これが存在意義です。
3.平成30年度の過労死白書から見る現状
厚生労働省が発表した過労死白書の中から、平成30年度の「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」について解説します。過労死の現状を知る一助にしてください。
脳血管疾患や心疾患による死亡数の推移
平成30年の過労死白書によれば、脳血管疾患や心疾患による死亡数の推移は、平成17年度は34,384人、平成22年度は30,353人、平成27年度は27,019人。
脳血管疾患や心疾患は、死亡という最悪の結果を招くだけでなくか、死に至らずとも重篤な障害を残す可能性が高いです。死亡者数の推移を見ると、脳血管疾患や心疾患による死亡者は、経年ごとにわずかですが減少傾向にあると分かります。
自殺者の推移
「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」の中にある自殺者の推移についてその詳細を見てみます。
すると、自殺した人のうち仕事が原因であったとする割合は、
- 平成19年には6.7%
- 平成22年には8.2%
- 平成27年には9.0%
- 平成30年には9.7%
と年々、増加傾向にあることが分かりました。自殺者が増加している、それはつまり仕事が労働者に非常に大きなストレスを与えており、その現状が改善されていない表れともいえるでしょう。
自殺に影響したと考えられる仕事の問題
厚生労働省の過労死白書では、自殺に影響したと考えられる仕事の問題についても調査が行われています。
- 仕事疲れが28.1%、
- 職場の人間関係が24.0%
- 仕事の失敗が16.3%
- 職場環境の変化が13.9%
ここからは、職場における人間関係や環境の悩みが大きなストレスとなってしまった様子が読み取れます。
過労死などに関する補償の状況
厚生労働省発表の平成30年度「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」の中には、過労死に関する補償についての調査結果が掲載されています。
- この10年間の労災申請件数の平均は819件
- 平成29年度は840件
- 平成30年度は877件
年平均で800件を超える数の過労死による労災申請がなされており、またその数は、増加傾向にあるとも考えられているのです。
申請、支給件数が多い業種
労働災害の申請件数の多い業種についても調査の結果があります。労働災害申請件数の多い順から、運輸業、郵便業が197件、卸売り、小売りが111件、製造業が105件。
また、実際に申請が通り補償金が支給された件数は、運輸業、郵便業が94件、宿泊業、飲食サービス業が32件、製造業が28件となっており、さまざまな業種で過労死による労働災害の申請や労働災害による補償金が支給されていると分かります。
4.過労死とは?
過労死とは、仕事が発端となって、脳卒中、心筋梗塞、急性心不全など脳や心臓に関する疾患や精神障害が生じて死亡に至ること。「発端となる仕事」に該当する状況は、長時間労働や過重な作業負担などです。
過労死は社会医学用語のひとつで、日本で最初に確認され、国際労働機関(ILO)が過労死を日本の社会問題だと指摘しています。現在でも、日本の大きな社会問題のひとつとなっているのです。
過労死ラインとは?
過労死ラインとは、健康障害リスクが高まると考えられる時間外労働時間を示すもので、基準は、時間外および休日労働時間の平均が、2~6カ月で月80時間、月100時間以上です。
これらを超えるすなわち過労死ラインを超えた場合、健康障害のリスクが高まるとされています。過労死ラインは労働災害認定において、労働と過労死、労働と過労自殺などの因果関係の判断材料として活用されているのです。
5.過労死を防止するための取り組み、対応、対策、対処法
過労死を防止するための8つの取り組みを解説します。自社の過労死防止に役立ててみてはいかがでしょう。
- 理解を深める
- コンプライアンス遵守
- 長時間労働を減らす
- 健康的な職場をつくる
- 働き方を見直す
- メンタルヘルスケア
- ハラスメントの予防
- 相談窓口の設置
①理解を深める
職場や会社全体で、「過労死とは何か」「過労死を招きやすい職場環境」「過労死は他人事ではなく、自分の身に起こるかもしれない身近な問題」などについて、理解を深める場を設けましょう。
過労死を他人事と捉えてしまえば、行き着く先に過労死が待ち受けているような過重労働を強いられても、何の疑いも持たないまま業務を続けてしまいます。
②コンプライアンス遵守
過労死といった問題を含めた労働全般に関する法律には、「労働基準法」「労働契約法」「労働安全衛生法」などがあります。
企業は法律を遵守し、法律に基づいて労働者が健康で安全に仕事ができる職場環境を整備するすなわち、コンプライアンスの遵守に努めなければなりません。コンプライアンスの遵守は、過労死の防止に直結するからです。
③長時間労働を減らす
過労死とは、仕事が発端となって脳や心臓に関する疾患、精神障害が生じて死亡に至ること。「仕事が発端となる」の中には長時間労働も含まれており、過度に長時間労働が続いた場合、過労死を招きかねません。
過労死の予防には、「労働時間を適正にする」「個々の労働時間を把握する」など労働時間の管理が非常に重要です。
④健康的な職場をつくる
健康的な職場の条件は、「労働者自身が健康」「労働者の健康を維持できる職場である」「労働者の健康に関して管理、把握が的確に行われている」「医師などによる健康指導体制が整っている」などです。
会社や職場自体も健康意識が高く、労働者自身も健康といった健康的な職場づくりは、過労死の防止につながるでしょう。
⑤働き方を見直す
過労死の原因ともなる、長時間労働や過重負担労働を解決するためには、従来の働き方の見直しが必要不可欠です。
ワークライフバランスの実現や年次有給休暇の取得推進といった働き方の見直しを進めて、過重な負担を強いられることなく働ける仕組みや心身のリフレッシュができる働き方を構築しましょう。
⑥メンタルヘルスケア
従来の日本型雇用が崩壊し成果主義が台頭するのと並行して、一人ひとりの労働者に求められる仕事の成果がより明確になってきました。そのためか、過重労働によって精神障害を発症した結果、死を選択してしまうケースも少なくありません。
ストレスチェック制度の導入やラインケアへの取り組みなど、健康なメンタルヘルスを保てるような仕組みの構築も必要です。
⑦ハラスメントの予防
企業の中には、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメント、パタニティハラスメントなどさまざまなハラスメントが潜んでいます。
もしハラスメントが起こってしまった場合、労働者のメンタルヘルスケアや離職率に大きな悪影響を及ぼす可能性も。ハラスメントの予防策もしっかり講じましょう。
⑧相談窓口の設置
万が一、過労死につながるような事柄が生じても、人事部などに労働者が相談できる窓口があれば、最悪の結果を防げるかもしれません。
もし社内での窓口設置が難しい場合は、公的機関の窓口を案内しましょう。労働者が、いつでも気軽に相談できる窓口を社員に通知して、過労死を未然に回避していきましょう。