零細企業とは? 定義、中小企業との違い、強みと弱みを簡単に

零細企業とは、中小企業のうち従業員数が一定以下の会社または個人のことです。就職市場においては中企業や大企業が好まれる傾向にありますが、零細企業はほかにない独自の強みを持つ会社の形です。本記事では、零細企業と中小企業の違いや、強みや弱みを解説します。

1.零細企業とは?

零細企業とは、一般的に中小企業よりも規模の小さい会社のこと。「零細」とは、数量や規模がきわめて小さいさまを意味する言葉で、一般的に個人店や小規模ベンチャー企業など、抱える従業数が少ない会社は零細企業のひとつです。

零細企業に法律上の定義はありませんが、中小企業庁の「中小企業基本法第2条第5項」で定められている「小規模企業者」に分類される会社または個人が、零細企業に相当します。ここでいう小規模企業者の規定は、以下のとおりです。

  • 製造業・建設業・運輸業および②〜④を除くその他の業種:20人以下
  • 卸売業:5人以下
  • サービス業:5人以下
  • 小売業:5人以下

基本的に、従業員数が20人を下回る会社は、小規模事業者とみなされます。

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2.零細企業と中小企業、大企業、ベンチャー企業との違い

零細企業以外にも、中小企業や大企業などさまざまな種類の企業形態が存在します。それぞれの主な違いは、常時使用する従業員数や資本金の規模です。ここからは、零細企業の特徴を理解するために、中小企業・大企業・ベンチャー企業との違いを解説します。

中小企業との違い

中小企業とは、一定範囲の資本金や従業員を持つ会社のことです。零細企業は中小企業に含まれますが、主な違いは常時使用する従業員数にあります。以下は「中小企業基本法」で明記されている、中小企業の規定です。

中小企業者 資本金または出資金の総額  中小企業者 従業員数 小規模企業者 従業員数
①製造業・建設業・運輸業および②〜④を除くその他の業種 3億円以下 300人以下 20人以下
②卸売業 1億円以下 100人以下 5人以下
③サービス業 5,000万円以下 100人以下 5人以下
④小売業 5,000万円以下 50人以下 5人以下

基本的に従業員数が300人以下の企業は中小企業者に該当し、そのなかでも20人以下の場合は小規模事業者とみなされます。たとえ資本金が3億円あったとしても、従業員数が20人以下なら、カテゴリは小規模事業者です。中小企業者と小規模事業者に、資本金の額は関係ありません。

また、卸売業・サービス業・小売業に関しては規定人数の範囲がさらに縮小します。例えば、抱えている従業員数が10人の飲食店の場合、カテゴリは中小企業です。

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大企業との違い

大企業と零細企業との違いは、主に資本金です。両者に明確な境界線はないものの、一般的には資本金1,000万円以下の会社が零細企業と呼ばれます。大企業や零細企業とみなされる資本金は、以下のとおりです。

  • 大企業:5億円以上
  • 零細企業:1,000万円以下

基本的に大企業は、資本金と従業員数の面で中小企業を上回る場合の呼称です。法律上の明確な定義はありませんが、法務省が定めた「会社法」では「大会社」の定義が明記されています。大会社を大企業ととらえると、以下要件を満たす場合、カテゴリは大企業です。

  • 最終事業年度にかかわる貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
  • 最終事業年度にかかわる貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上

資本金の面で比較すると、大企業と零細企業には大きな差があります。

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ベンチャー企業との違い

ベンチャー企業と零細企業は、世間一般的にどちらも「小規模な会社」の認識です。しかし、ベンチャー企業の基準に企業規模は関係ないため、資本金や従業員数による境界線は存在しないといえるでしょう。両者の主な違いは経営スタイルにあります。

零細企業とベンチャー企業の特徴は、以下のとおりです。

  • ベンチャー企業:独自の技術やサービスを提供し、産業における新成長分野を切り拓く
  • 零細企業:新成長分野に限らず一般的な事業を展開

零細企業はあくまで企業規模によって分類されるカテゴリで、ベンチャー企業は事業内容が基準です。ベンチャー企業の場合、事業内容によって中〜大企業に成長する「メガベンチャー」へ変化する可能性を秘めています。

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3.日本における零細企業・中小企業・大企業の割合

中小企業庁が公表しているデータによると、2021年6月時点の日本における零細企業・中小企業・大企業の割合は以下のとおりです。

企業数(2014年7月1日時点) 企業数(2016年6月1日時点) 企業数(2021年6月1日時点)
中小企業 99.7%(380.9万者) 99.7%(357.8万者) 99.7%(336.5万者)
中小企業内の小規模事業者(零細企業) 85.1%(325.2万者) 84.9%(304.8万者) 84.5%(285.3万者)
大企業 0.3%(1.111万者) 0.3%(1.1157万者) 0.3%(1.0364万者)

中小企業のなかでも、零細企業が占める割合がほとんどで、日本の企業は約8割が零細企業といえます。また、2014年・2016年と比較すると、全体の企業数は減少傾向です。これは、労働人口の減少やコロナ禍など、外部環境の変化などが影響していると考えられます。

出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します

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4.零細企業の強み

零細企業の強みは、以下のような点にあります。

  • 地域社会に密着した事業を展開
  • 専門性と独自性
  • 経営者の迅速な意思決定
  • 経営環境の変化に対応しやすい
  • 顧客との距離が近い
  • リピート客が多い

零細企業は、小規模だからこそ地域社会や顧客との距離が近く、関係性を築きやすい点が強みです。大企業より経営のフットワークが軽いため、ニーズの変化など外部環境の変化にも素早く対応できます。

また、リピート客が多いため売り上げの規模は違えど、長期的な顧客との取引を確保しやすい点もメリットです。なかには特定の分野や技術に特化し、ニッチな市場で独自の優位性を確立している企業も存在します。

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5.零細企業の弱み

零細企業には独自の強みがある一方、以下のような弱みもあります。

  • 商圏が限られてしまう
  • 経営資源の量と質が不十分
  • 経営者がすべて

零細企業は地域密着型ビジネスに向いた形態であるものの、裏を返せば商圏が限定されることと同義です。とくにBtoCビジネスにおいてはその弱みが顕著にでやすく、BtoBでは県外に商圏を拡大している企業も散見されます。

また、零細企業は経営資源のうち「人材」の確保が不十分な企業も珍しくありません。利益の増大や会社の成長を促すには、人手が欠かせません。

優秀な商品・サービスを提供していても人材が足りず、商圏の拡大・営業・製造・開発がニーズの高さに追いつかないといったケースもあります。

そして、零細企業は良くも悪くも経営者がすべてです。経営者になにかあれば現場に大きく影響し、正しい経営判断を下せなければ経営状況の悪化を招く状態にあります。

経営者のトラブルが業績に影響を与えるのは大企業も同様ですが、零細企業は規模が小さいからこそ、直接業績に響きやすいのです。

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6.零細企業で働くメリット

零細企業には、大企業だと得られない労働上のメリットが存在します。零細企業で働くメリットは以下のとおりです。

  1. 経営者に近い目線から仕事できる
  2. 成長機会が多い
  3. 役職につきやすい
  4. 自分の役割や成果を実感しやすい

零細企業の人事担当者は、自社ならではの強みやメリットを再認識して採用に活かすことに注力しましょう。

①経営者に近い目線から仕事できる

零細企業は企業規模が小さいため、労働者と経営者で距離感がありません。そのため、経営者から考え方や働き方を直接学べます。また、事業の全体像を把握しながら自分の業務に取り組めるため、明確な目的や確度を持って仕事に臨めます。

従業員1人が持つ裁量や影響力も大きく、事業全体を意識して仕事することで自然と経営者目線での考え方が養われるでしょう。

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②成長機会が多い

零細企業は従業員1人が複数の役割を担うことも珍しくありません。若手のうちから幅広い業務に携わることで、スキルアップが望めるでしょう。業務量は大変さにつながりますが、相応の知識や技術が身につけられます。

成長に必要な1番の要素は「経験」です。業務をとおして得る体験や実績は、凝縮されるほど高度なスキルアップにつながります。零細企業は成長につながるチャンスが多いため、中・大手企業に勤める同年代よりも市場価値の点でリードできるでしょう。

③役職につきやすい

人数が少ないとは、競い合うライバルも少ないことと同じです。ある程度の規模の中小企業や大企業では、上の役職ほどポストが限定されるため、一般的には昇進に時間がかかります。

しかし、零細企業なら働きや実力次第で若くから上位の役職に就ける可能性があります。今後、企業が成長して人数が増えたとしても、零細企業の段階から所属している人は出世でも有利でしょう。

④自分の役割や成果を実感しやすい

零細企業では、自分の役割や成果が会社に直接影響を与えます。一般的に企業規模が大きくなるほど売上も莫大なため、規模のある会社でやりがいを実感するのは難しいでしょう。

しかし零細企業では自分の働きが業績に大きく反映されるため、自分の役割や存在価値を認識しやすく、働きがいやモチベーション維持につながります。

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7.零細企業で働くデメリット

零細企業には労働上のメリットが多数ある一方、以下のようなデメリットも存在します。

  1. 年収が低い傾向にある
  2. 教育制度が整っていないケースが多い
  3. 退職金などの福利厚生が整備されていない

①年収が低い傾向にある

零細企業は売上規模が限定されやすいため、大企業と比べると年収は低い傾向にあります。以下は、国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」に記載されている、事業規模別の平均給与の割合です。

事業規模(従業員数) 100万円超200万円以下(%) 200万円超300万円以下(%) 300万円超400万円以下(%) 400万円超500万円以下(%)
10人未満 20.0% 18.9% 16.3% 12.2%
10〜29人 13.5% 16.9% 19.7% 16.6%
30人以上 11.3% 12.9% 16.0% 15.6%

上記のデータから、10人未満の企業はほかよりも200万円以下の割合が多く、400万円台は少ないとわかります。

また、同資料によると、労働者全体の平均給与は458万円で、うち10人未満の企業の平均給与は371万円です。なお、従業員5,000人以上の企業は538万円で、事業規模の給与に差があることは明白です。

ただし、あくまで平均を調査した資料なため、一概にすべての零細企業にあてはまるとは限りません。

②教育制度が整っていないケースが多い

零細企業は、従業員数が少なく対応すべき業務が幅広いため、教育にまで手が回っていない企業も珍しくありません。よくいえば自らが実践しながら仕事を覚えていけますが、業務の全体像を掴むまで時間がかかってしまいます。

また日常業務の多忙さから受動的に学べる時間や機会が確保しにくいため、自発的に学んでいく姿勢が求められます。

③退職金などの福利厚生が整備されていない

零細企業の多くは、退職金をはじめとした休暇制度や補助制度など、福利厚生が整備されていません。基本的に法定外福利厚生は企業が独自に導入するもので、運用にコストがかかるため、資本力の乏しさから法定福利厚生のみしかないこともあります。

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8.零細企業で働くのに向いている人

以下にあてはまる人は、就職や転職先として零細企業が候補に挙がります。

  1. 経営を学びたい人
  2. 成長を重視する人
  3. 主体的に行動できる人

ここからは、零細企業で働くのに向いている人について解説します。零細企業への就職・転職を検討している人は、零細企業が自分にマッチした環境か、慎重に判断しましょう。

①経営を学びたい人

零細企業は経営者との距離が近く、事業の全体像を把握しながら業務に取り組める環境です。経営者と常に働いていると、考え方や経営のコツが自然と身につきます。

また経営者と同じ目線に立てることで、今後の事業展開にかかわれたり、経営に関する知見を深めたりする機会も得られます。経営の学びをとおして独立や起業を目指している人には、最適な環境といえるでしょう。

②成長を重視する人

零細企業は従業員が持つ裁量や影響力が大きく、任される業務も多岐にわたります。就職初期から現場で実践を積めるため、大企業に比べ素早く成長できる点が特徴です。

若いうちにたくさんの経験を積み、同年代よりも早くスキルアップしたいと考えている人には最適な環境といえるでしょう。その分厳しい環境に身を置くため、自分を成長させたい強い意志を持ち、困難を乗り越える姿勢が求められます。

③主体的に行動できる人

零細企業は教育体制が整っていない企業が多いことから、主体的に学んでいく姿勢が必要です。また少人数で業務を回すため、業務に対する行動力の高さが求められます。一方、仕事に対して消極的で、受動的なタイプの人は活躍しにくいといえるでしょう。

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9.零細企業への就職を検討する際に確認すべきこと

零細企業は実用的なスキルを獲得できる一方、会社選びに失敗すると、不当な労働や倒産による失職のリスクがあります。求人をチェック、就職として検討する際は、以下のポイントを確認しましょう。

給与や福利厚生

零細企業は、中・大企業と比べると給与や福利厚生が不十分な企業も珍しくありません。経験を重視する場合でも、就職後に不満を持たないよう、事前に聞いた待遇が納得できる範囲であるか判断することが大切です。

とくに退職金制度や残業手当など、基本給以外の収入は必ずチェックしましょう。

社会保険

法人事業者は社会保険への加入が義務づけられており、一定条件を満たす従業員を社会保険に加入させる必要があります。零細企業の中には個人事業主として事業を展開しているケースもあり、その場合は社会保険ではなく個人で国民健康保険に加入しないといけません。

国民健康保険は社会保険より料金が高いため、就職を検討している零細企業が社会保険に加入しているか事前に確認を取りましょう。

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教育体制

零細企業は教育体制が整っていないケースも珍しくありません。業務をとおした学びの仕組みが確立されていれば問題ありませんが、あまりにも育成環境が整っていないと、業務への支障や、企業のあるべき形として疑問を抱いてしまいます。

講習やセミナーに参加できるか、マニュアルは整備されているかなど、求人や面接時に質問する機会があれば、教育体制について聞いてみましょう。