自主性は、組織の競争力を高める重要な要素です。今回は、自主性の定義やその重要性、育成方法、注意点について解説します。
目次
1.自主性とは?
自主性とは、誰かの指示がなくても、やるべきことに対して自ら行動を起こす性質のこと。新入社員のうちは上司や先輩の指示に従い仕事を進めます。しかし一度仕事を覚えたあとは、指示がなくても自分で仕事を推し進める必要があり、その際に求められるのが自主性です。
2.自主性と主体性、自発性の違い
自主性・主体性・自発性は、いずれも「自ら行動する性質」を表します。しかし実際に使用するシーンやそのニュアンスは異なるものです。以下で、主体性・自発性の意味と、自主性との違いを解説します。
主体性の意味
主体性は、タスクを実行するだけではなく「自らの責任のもと」行動するニュアンスが含まれます。そのため、主体性は中堅層やリーダー層以上で特に求められる性質です。たとえば目の前にある課題に対し、自ら解決策を見出し動けるようになると主体性が高いといえます。
一方で自主性の行動には必ずしも大きな責任をともなわず、新入社員でも求められる性質です。
主体性とは? 重要な理由、自主性との違い、高める方法を簡単に
主体性とは、自らの考えにもとづいて行動する性質のこと。ここでは主体性についてさまざまな角度から解説します。
1.主体性とは?
主体性とは、周りの意見や第3者からの指示などに頼らず、自らの判断・考えに...
自発性の意味
自発性には、自分がやりたいと思うからやる、必要だと思うからやるという「強い意志」のニュアンスが含まれます。
自発性は自らの意志でやるべきことを見出していく性質であるのに対し、先に紹介した自主性・主体性は、やるべきことがある程度決まっている際に発揮される性質という点で異なります。
問題意識をもち、課題を見出す段階から取り組めるようになると、自発性が高いと言えます。
3.自主性がビジネスで重要な理由
自主性は、ビジネスの継続や個人の成長において重要な役割を果たします。主に、以下のような理由が挙げられます。
独り立ちが早くなる
自主性は、従業員の独り立ちを早めます。従業員は、企業や組織にくわわり一定の教育期間を終えると、自ら業務を推し進めていく役割が求められるもの。
その際、独り立ちが早ければ、企業にさまざまなメリットをもたらします。たとえば教育コストの削減や事業展開のスピードアップ、従業員育成の最適化などです。そのため、多くの企業が「自主性が高い人材」の採用・育成を重要視しています。
変化に対応しやすい
自主性は、変化に対応するためにも欠かせません。たとえば部署異動により業務内容が変わった場合でも、自主性があることで自ら仕事をこなしていき、新しい環境により早く順応します。
また企業視点では、先行きが不透明なVUCAといわれる時代において、あらゆる変化に対応できる人材が必要です。自主性は、変化によって生じる課題や問題をスピーディーに乗り越えるためにも欠かせません。
そのような背景から、指示されるのを待つのではなく、自主的に行動できる人材が求められています。
4.自主性がある人の特徴
自主性がある人は、以下のような特徴を持っています。
責任感を持っている
自主性がある人は、自身の役割を果たそうとする責任感を持っています。組織では、与えられた業務を遂行する・目標達成に貢献する、といった役割を認識し、指示を待たずとも積極的に行動を起こす姿勢が評価されます。
自主性がある人は、自らの判断で行動を選択するため、やり遂げるまで強い責任感を保つことも特徴です。
好奇心や探究心が強い
自主性を持つ人は、好奇心や探求心が旺盛です。新しいアイデアや手法を試してみたい、多くの知識を身につけたい、といった欲求が行動を引き起こす原動力となります。
仕事においては、未知の領域に挑戦した結果としてさまざまな知識・スキルを身につけながら、自身の裁量も獲得していけるのです。また、このような好奇心や探究心は、イノベーションの促進にも大きく貢献します。
成長意欲が高い
自主性は、成長意欲の高さにも表れます。成長意欲とは、より多くの経験をとおして自己を高めようとする姿勢です。
つねに学びの機会を追求し、積極的に「自分にできることはないだろうか?」と仕事を探します。また新しい知識やスキルの習得にも熱心なため、周囲からも「自主性がある」と評価されやすいでしょう。
柔軟な対応ができる
自主性がある人は、柔軟な対応力を発揮します。たとえばトラブルが起きた際には、自ら率先して解決策を模索し、自主的に行動に移すでしょう。
さらに、マニュアルに頼るだけではなく、過去の経験や洞察力に基づいて状況を分析し、適切な判断を下せます。必要に応じて上司に相談するなど、周囲と協力して問題を解決に導く点もポイントです。
率先して物事に取り組む
自主性は、率先して物事に取り組む姿勢を引き出します。自主性がある人は責任感や成長意欲も兼ね備えているため、わからないことや未解決の事柄をそのままにすることがありません。新たな課題には率先して取り組み、迅速に解決する重要性を認識しているためです。
一方、自主性がないと、課題が解決せず長引いたりして、組織の成長が滞ることもあります。
5.自主性がない人の特徴
自主性がない人の特徴には、以下のような点が挙げられます。
他責の傾向がある
自主性がない人は、ものごとを他責でとらえがちになります。周囲に判断を委ねる傾向が強く、無意識のうちに「自分の評価を下げたくない」と考えるためです。
結果的に自分の意思をはっきりと示すことが少なく、なるべく責任を取りたくないと保守的になることで、自主性がない印象を与えます。
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自信がない
自主性がない人は、自信が無く、ネガティブ思考に陥っていることも多々あります。仕事において、同僚と比較して自分を低く評価していたり、過去の失敗経験などから、自分の考えや行動に対する自信を失っている状態です。
周囲の様子を伺いながらの行動になるため、自ら率先して動くケースが少なく、自主性がないと評価されてしまうことがあります。
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成長意欲が少ない
自主性がない人は、成長意欲が少ないとも言えます。成長意欲がある人とは対照的に、より多くの経験を積みたい、自己を成長させたいという意欲が少ないため、積極的な行動につながりません。
本人の性質によるものだけではなく、今いる組織や業界・業務において、自身のキャリアプランを思い描けないことが、原因となっている可能性もあります。
自分の意見を言えない
自主性がない人は、意見を聞かれても、自分の意見を言えないことがしばしばあります。たとえば今までの職場で自分の意見を否定された経験や、自分の意見を求められることがない環境で育った、といった原因が考えられるでしょう。
自主性のある人に比べると、自ら考え行動に移す積極性が少なくなります。
6.自主性のある従業員がいるメリット
自主性のある従業員がいると、具体的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。以下にて4つのメリットを紹介するので、参考にしてみてください。
組織が活性化する
自主性のある従業員が増えると、組織が活性化します。なぜなら、従業員が自主性を持って行動を起こす時、少なからず責任を伴うからです。
それにより従業員にほどよい緊張感やモチベーションが生まれ、単に指示された業務をこなすだけでなく、率先して課題解決に取り組むなど、次の行動にもつながりやすくなります。ひとりひとりが自主的に行動することで、組織全体が活性化していく変化を実感できるでしょう。
新しい意見やアイデアが出やすい
自主性のある従業員がいると、新しい意見やアイデアが出やすくなります。普段から自主的に仕事に取り組むことで、おのずと問題意識・課題意識が生まれ、自分の意見が明確になるためです。会議の場で発言を促すことで、より活発に意見やアイデアが出やすくなります。
離職率の抑制につながる
自主性のある従業員がいると、離職率の抑制につながります。自主性が発揮されると、自分で考える過程で目的意識が生まれ、モチベーションを保ちやすく、貢献意欲が高い状態を保てるためです。また、仕事に対して前向きな姿勢は、周囲にも好影響を与えます。
反対に、指示を受けて実行するだけの場合、従業員のモチベーションは下がりやすくなるでしょう。
成長スピードが速い
本人の成長スピードが速い点も、企業にとってのメリットです。自主性がある人とない人を比べたとき、同じ期間でもより多くの学びを得るのは自主性がある人だといえます。
積極的な行動により、判断力や実行力、計画力、柔軟性など、社会人としてのさまざまなスキルが高まるのです。また、自主性のある従業員が増えると、お互いに高めあう相乗効果も期待でき、従業員の能力はさらに向上しやすくなります。
7.自主性を高める方法
自主性を高める効果的な方法は、以下の5つです。
- 無駄なプライドを捨てる
- 気がついたら動く
- 手を挙げる
- 発言する
- 自信を持つ
①無駄なプライドを捨てる
無駄なプライドを捨てると、効果的に自主性を高められます。自主性がないと感じる場合、「失敗したらかっこわるい」というプライドがあったり、「目立ちたがり屋だと思われたくない」と自意識過剰であったりします。
自分の仕事に対するプライドは良い効果を与えることもあるでしょう。しかし周囲の目を気にした無駄なプライドを捨てると、自主性を発揮しやすくなります。
②気がついたら動く
ささいなことでも、気がついたら動く習慣を身につけることで、自主性が高まります。たとえば日々の業務のなかで、「この作業は無駄だな」や「これがあったらいいのに」など思うことがあるでしょう。
そのような小さな気づきを解決するための行動が、自主性につながります。誰かから指示されるのを待っていたり、誰かが動いてくれるだろうと考えたりするのではなく気がついたら自分が動く意識で、まずは気づきを見つける視点がポイントです。
③手を挙げる
かんたんな仕事から「私がやります」と手を挙げるのも、自主性を高める方法です。あれこれ考えると「失敗したらどうしよう」と不安で行動できなくなる可能性もあるため、まずは手を挙げてみましょう。
たとえわからないことがあっても、周囲に頼りながら解決していくことで自身の成長に大きく貢献します。
④発言する
発言することも、自主性を高めるためには欠かせません。ミーティングなどで積極的に意見を述べることで、考える力が養われます。周囲の意見に同調するだけでは、他者の考えをしっかりと理解したり、自分の意見を明確にしたりする自主性は育ちません。
たとえ誰かと同じ意見であったとしても、自身がなぜそう思ったのか、また、その他の疑問点などを発言すると、チームの意思決定や問題解決にも貢献できます。
⑤自信を持つ
自分の仕事や発言に自信を持つと、自主性が高まります。しかし、自信は、持とうと思って持てるものではないと感じるでしょう。上記の項目で紹介した行動で小さな成功体験を積み重ね、徐々に自信を養っていきます。
まずは「自分にはできる」という心持ちで、行動を試みましょう。
8.従業員(部下)の自主性の育て方
従業員(部下)の自主性の育て方を解説します。
意見を聞く
上司として自分の考えを主張する前に、部下の意見を聞きます。どう感じたか?どんなアイデアがあるか?など、部下の意見を尊重することで自主性を育てましょう。
部下が意見を言い、上司の反応がないと不安になるため、しっかりとリアクションを返すことが重要です。部下が「自分の意見に耳を傾けてくれる」と思えると部下からの発言が増え、自主的に考えたり行動したりする積極性につながります。
成果を評価に反映する
成果を評価にしっかりと反映することで、自主性を育てます。現代の価値観は、年功序列の意識が薄れている点が特徴です。若手社員は「がんばっているのに評価されない」「給料があがらない」と感じ、不満が溜まります。
仕事の成果を評価にしっかりと反映し、それが査定や給料に反映される仕組みを取り入れるのがよいでしょう。
小さなゴールを明確に設定する
モチベーションを引き出すためには目標の設定が重要です。小さなゴールを明確に設定することで、何をすればよいかわかりやすくなり、自主的な行動につながります。その際本人の意思をもとにゴールを設定することが非常に重要です。
自分で「やりたい」「達成したい」と思う気持ちがなければ自主性は育ちません。
目標設定とは?【設定のコツを一覧で】重要な理由、具体例
目標設定は、経営目標達成や個人のレベルアップのために重要なもの。適切な目標設定ができないと、最終的なゴールが達成されないだけでなく、達成のためにやるべきことも洗い出せなくなってしまうでしょう。
今回は...
失敗を責めない
自主性が高い従業員の多い職場には、失敗を責めない文化が根づいています。失敗を恐れると、自主的な行動は引き出せません。
自主性の高い従業員を増やすには、上司や経営陣が「チャレンジ歓迎」「失敗しても問題ない」と明言することが大事です。チャレンジの結果、うまくいったこと・うまくいかなかったことを双方で共有し、学びの機会として受け入れます。
9.従業員(部下)の自主性を奪わないための注意点
細かすぎる指示と放任はNG
上司の立場になると、部下の失敗を防ぎたくなったり、指示通りにやってほしいと思うことがあるかもしれません。しかし、細かい指示をしすぎるのはNGです。先回りして細かく指示を出されると、部下は「自分は信用されていない」と認識してしまいます。
一方、部下の成熟度を無視して「自分でやってみて」と放任するのもNGです。部下は「丸投げされた」「サポートを得られない」と感じ、不安や不満を抱きやすくなります。サポートの方法は、「8.従業員(部下)の自主性の育て方」で紹介した方法が参考になるでしょう。
権限の範囲をはっきりさせておく
部下に自主性を持って行動してもらうためにも、部下にどこまでの裁量があるのか、権限の範囲をはっきりさせておくのがよいでしょう。自主性を育てたいと思っても、部下が権限の範囲を超えて損害を発生させることは防いだほうがベターです。
部下の立場から考えても、「ここまでは裁量がある」とわかると、指示を待たず自主的に動きやすくなります。
ほめることを忘れない
ほめることを忘れると、部下とのコミュニケーションが指示出しやミスの指摘だけになり、部下は「評価されない」と感じてしまいます。モチベーションが低下し、部下の自主性を奪ってしまうことにつながる点です。
また、一見、自主性や向上心が低いように見える従業員も、承認欲求を持っていると理解しておきます。部下の行動に対して積極的にポジティブなフィードバックを行い、よくない部分があったときは部下の言い分を聞いたうえで改善策を話し合うことが大切です。