職能給とは? 職務給との違い、メリット・デメリットを簡単に

職能給とは、従業員の業務遂行能力に応じた賃金を算出する賃金形態のこと。本記事では、職能給と基本給および職務給の違いや、職能給の特徴などを解説します。

1.職能給とは?

職能給とは、従業員の業務遂行能力に応じた賃金を算出する賃金形態のことです。ここでいう職能とは、職務に対する知識や技術、経験や資格などの必要スキル、リーダーシップや協調性などの適性も含めた能力全般のことです。

また、職務遂行能力を判断する基準となるものは、勤続年数や年齢など。経験年数が上がるにつれて職務遂行能力が向上するという考えのもと、一般的には勤続年数が上がるにつれて給与が上がる仕組みとなっています。

これらは、終身雇用を前提とした、年功序列型の賃金体系です。

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2.職能給と基本給、職務給との違い

次に、職能給と混同されやすい、基本給や職務給との違いについて解説します。

職能給と基本給の違い

職能給と基本給は、賃金の性質が異なります。

基本給は、所定の労働時間を満たすことで、毎月固定で支払われる給与のことで、職能給はそんな基本給を構成する要素のひとつであり、手当となるものです。

なお、職能給は、基本給と同じく、評価変動などによって改定がない限り変動しません。

基本給の定め方はさまざまですが、一般的には学歴や年齢、勤続年数を指標にして水準が決まるため、その点では基本給も職能給と同様の仕組みと言えます。

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職能給と職務給の違い

職能給と職務給は、賃金を決定する際の評価対象や賃金体系などが異なります。

評価対象 賃金体系
職能給 勤続年数や年齢のような属人的な指標 年功序列
職務給 従事する仕事内容の難易度や責任の大きさ 成果主義

上記の通り、職能給は勤続年数や年齢のような属人的な指標が評価対象であるのに対し、職務給は従事する仕事内容の難易度や責任の大きさによって決定されます。

さらに、職能給は年功序列であるのに対し、職務給は成果主義の賃金体系です。職能給は、勤続年数や年齢が上がるほど給料も上がっていくものの、職務給は仕事内容や立場、役職が変わらない限り給与は上がりません。

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3.職能給の特徴

近年は、ジョブ型雇用や同一労働同一賃金の影響で職務給を導入し始めている企業も増えているものの、それでも依然として職能給を採用している企業もまだまだ多い状況が続いています。

そんな職能給の特徴を以下4つの観点から詳しくみていきます。

  1. 決まり方
  2. 上がる場合
  3. 下がる場合
  4. ボーナスへの影響

①決まり方

職能給は、企業が独自に設定する「職能給表」をもとに決定します。基本的に、職能給表は「等級」と「号俸」で決まることが多くなっています。

なお、等級は役職や昇進、降格などが基準となっており、号俸は、勤続年数や査定の評価によって格付けされます。昇格の有無や勤続年数の長さに応じて、等級と号俸が上がっていくにつれ、職能給も上がる仕組みです。

一般的に、号俸は、等級よりも細かい基準が設けられており、職能給の決定および改定時期は企業によって異なりますが、多くは年度初めの4月に設定されています。

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②上がる場合

職能給は、等級と号俸をもとにして決定するため、役職を上げて等級を上げる、または、人事考課にて良い評価を得たり、勤続年数を重ねて号俸を上げたりすることで職能給が上がります。

等級と号俸のいずれかを上げた場合でも職能給は上がるものの、両方を上げた場合よりも上がり幅は小さくなることがほとんどです。

③下がる場合

職能給は、降格して等級が下がる、または、人事考課にて評価が悪くて号俸が下がる場合に、減少します。職能給は、上がる場合も下がる場合も基準が明確である点が特徴的です。

④ボーナスへの影響

職能給を基本給に含めるか、手当として基本給と別扱いにするかによって、ボーナスへの影響は異なります。

企業によって職能給の扱い方は異なり、基本給に含める場合は、ボーナスに影響を与えます。多くの企業ではボーナスを「基本給◯か月分」として設定しているためです。職能給が高ければその分ボーナスも高くなるという仕組みになっています。

対して、基本給と別扱いにしている場合は、ボーナスの算定に職能給は考慮されません。たとえば、ボーナスが勤続年数だけで決まったり業績連動型だったりする場合は、職能給の影響は受けません。

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4.職能給のメリット

職能給のメリットについて従業員側と企業側に分けて解説します。ポイントは以下の通りです。

従業員側 ・長く勤めれば給与が上がる
・業務内容が変わっても給与が下がらない
・ライフステージに合わせた人生設計がしやすい
企業側 ・長期的な人材雇用が見込める
・ジョブローテーションしやすい
・従業員のモチベーションを高められる

従業員側

まずは、従業員側のメリットについて解説します。

長く勤めれば給与が上がる

職能給は、経験年数の長さによって職務遂行能力を測る考えであることから、長く勤めるほど給与が上がっていく仕組みです。そのため、成果主義のように競争が起きにくく、安心して業務に臨めます。

業務内容が変わっても給与が下がらない

職能給の場合、ベースとなるのは勤続年数や年齢などの属人的な要素であるため、転勤や異動に伴い仕事内容が変わっても給与が大きく下がる心配がありません。

たとえ配置転換によって仕事の難易度が下がった場合でも、それが理由で給与が下がることはないでしょう。

ライフステージに合わせた人生設計がしやすい

職能給は、年齢に応じて段階的に給与が上がるため、ライフステージに合わせた人生設計がしやすく、将来への安心度が高いといえます。

たとえば、30代で給与ベースが上がることや、将来の給与がいくらかおおよそ想像できることから、マイホーム購入に向けて20代後半で動くといった、先を見据えた計画を練ることができます。

企業側

次に、企業側のメリットについて解説します。

長期的な人材雇用が見込める

職能給は、長期雇用に有効です。勤続年数の長さよって待遇がよくなることが確実であれば、従業員は長く勤めようという意識になりやすいでしょう。

少子高齢化によって労働人口が減少している現代では、いかに従業員を定着させるかが重要です。その点で、職務給は有効だとされています。

ジョブローテーションしやすい

仕事内容に給与が影響しないため、ジョブローテーションしやすいメリットもあります。その結果、長期的な人材育成計画を立てやすく、必要な人材を定義し、将来に備えた育成がしやすくなります。

さらに、年齢が上がれば給与が上がるため、勤続年数を重ねるほど離職の可能性が低くなることが期待でき、これまでの育成コストが無駄になりにくいでしょう。

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従業員のモチベーションを高められる

職能給は、長く勤めている従業員の貢献度を給与に反映している仕組みです。

一般的に、勤続年数を重ねることで帰属意識や愛着が醸成されます。企業への愛着があると、エンゲージメントが高まりやすく、モチベーションを持って仕事に取り組みやすいでしょう。

モチベーションは生産性にも影響する重要な要素ですので、職能給のメリットのひとつだと言えます。

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5.職能給のデメリット

職能給には当然のことながら、デメリットもあります。続いては、職能給のデメリットについて従業員側と企業側に分けて解説します。

従業員側 ・仕事へのモチベーションを高めにくい
・成長しにくい
企業側 ・人件費負担が大きくなりやすい
・若手のモチベーションを上げにくい
・スペシャリストを育成しにくい

従業員側

まずは、従業員側のデメリットについて解説します。

仕事へのモチベーションを高めにくい

職能給は、仕事の成果や難易度は反映されにくいため、仕事へのモチベーションを高めにくい傾向があります。

とりわけ、若い従業員は勤続年数や年齢が低いため、給与が上がりにくく、仕事量と給与が見合わないと感じることもあるでしょう。このように、職能給は、属人的な要素が大きく、本人の努力ではどうにもならない点で不満が生じやすいやすくなっています。

成長しにくい

職能給では、成果を出さなくても勤続年数が上がるにつれて給与も上がっていくため、自発的に成長しようと思わなくなる人もいます。

その結果、いざ転職しようとしたときに自分の市場価値を高めるスキルや経験が身についておらず、転職がうまくいいかない可能性も潜んでいます。

企業側

続いて、企業側のデメリットについて解説します。

人件費負担が大きくなりやすい

少子高齢化により今後は中高年層の割合が多くなりやすいため、全体として人件費が高騰しやすい仕組みだと言えます。

企業によっては整理解雇や早期退職者を募るなど、対策が必要になるケースもあるでしょう。そのため、中高年層の人件費が経営リスクとならないよう、給与水準を定期的に見直すことが必要です。

若手のモチベーションを上げにくい

職能給は、若手のモチベーションを上げにくく、不満を解消できないと離職につながるリスクがあります。

その結果、後継者が育たない、または、イノベーションを創出できないなど、企業力の低下につながることもあるでしょう。

労働人口が減少しているなか、若手人材は重要な存在ですので、若手の不満を解消できるよう、属人的な要素のウェイトを高くしすぎないといった工夫が必要です。

スペシャリストを育成しにくい

特定の職務に特化したスペシャリストを育成しにくい点もデメリットとして挙げられます。

職能給は終身雇用を前提とした仕組みであり、さまざまな職種や業務を経験させることでゼネラリストを育成しやすい環境が整っているといえます。

しかし、今後はスペシャリストの重要性がより高まるため、職能給の仕組みを工夫する、または、必要に応じて職務給も適用するといった臨機応変な対応が必要です。

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6.職能給制度の導入手順

職能給制度の導入手順は、以下の通りです。

  1. 職能給表の作成:等級と号俸表に対応する要件とそれぞれの昇格要件を決める
  2. 昇格要件の決定:勤続年数何年または何歳で等級を上げるか、人事考課においてどの評価で号俸を上げるかなどの評価基準を明確にする
  3. 具体的な職能給の設計:具体的な職能給を設計する(総務省が公開している「賃金表」も参考にする)
  4. 従業員に説明:職能給制度が完成したら、導入前に従業員に対して導入の目的や制度の仕組みなどを説明する
  5. 職能給制度の導入および運用:従業員の納得を得てから職能給制度を導入し、運用しながら改善点があれば、適宜反映させつつ、確立していく

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7.職能給制度の導入のポイント

続いて、職能給制度の導入ポイントを2つ解説します。そのポイントとは以下の通りです。

  1. 適切な評価を行う
  2. 状況に応じて職務給制度も導入する

①適切な評価を行う

職能給制度は、属人的な要素が優先されやすく、公平かつ適正な評価がしにくくなる恐れがあります。そのような職能給への不満を解消するためにも、適切な評価が必要不可欠です。

たとえば、号俸では人事考課の結果が反映されるため、この点を重視して適切に評価することで、給与にも反映されて、従業員の納得感を得やすいでしょう。

そのためには、誰がどの部署でどのような仕事を、どれだけの分量と責任を持って行っているかを詳しく把握したうえで、見合う評価と職能給表への割り当てが必要です。

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②状況に応じて職務給制度も導入する

近年は、働き方の多様化が進んでおり、職能給制度から職務給制度への移行が進んでいます。

ただし、企業によっては職能給を適用したほうが良いケースもあるため、一概に職務給が望ましいとはいえません。

企業風土や従業員の働き方など、企業の現状を踏まえて、適切な制度を組み込むことが大切です。ひとつの制度に捉われすぎることなく、柔軟に適用していく姿勢が求められるでしょう。